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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編
5.俺氏、薬の調合に才アリ
しおりを挟む帰宅して事情を話した後、俺は早速回復薬を作ってみることにした。
別に素人が失敗してもただのしょうもないペーストになるだけだし、毒にはならない。薬効が弱いなりに湿布として使えるそうだから気楽にやらせて貰う。
何故かまだオッサンがついて来てるけど、もう面倒だから気にしない。
というか、役立ってもらおう。
「回復薬って、どんな味やにおいがする?」
「え? あー……こんな感じかなあ」
言いながら、あろうことかブラックはいつに間にか取り出していた回復薬の瓶を開けやがった。そりゃもう、何のてらいもなくきゅぽんと。
「ヴァ――――ッ! なにやってんのアンタ貴重な回復薬を!!」
「い、いやだって、口で説明するの面倒だし」
「俺のが失敗したらしょうがないから頭下げて売って貰おうとおもってたのに!」
「えっ、そんな事しなくてもあげるよ。僕は回復薬なくてもいいし。でも、回復薬は多分これからも品薄が続くだろうから……効能が薄くても作り方を覚えておいて損はない。だから、はい」
いっちょ前に大人みたいなことを言う。
でもそれは俺も考えていたので、無言で回復薬を受け取った。
こんな遠方の街(女将さん談)にまで影響が出てるんだから、王都での暴動というのはそれは酷いものだったんだろう。多分数日は混乱が続くはず。
王都が安定しない限り、回復薬の供給もストップ間違いなし。その間にヘタな怪我をして寝込んだら打つ手がない。
色々と思う事はあったが、俺はブラックから開封された小瓶を受け取ると、少しだけ小皿に零した。あとは件の娼姫さんに持って行ってもらう。
「どれどれ?」
回復薬の色はコバルトブルー。
匂いは……なんだこれ、アレに似てるぞ。薬臭いコーラ。
ちろりと舐めてみると、匂いそのままの味がした。うわあ、みんなこれを飲んでヒットポイント回復してるの? どう考えても辛くない?
覚悟を決めて残りを飲むが、若干トロっとしていてまたこれが辛かった。
微かに甘いけど完全に薬ですがな。
「うええ……」
「まあ、美味しいわけではないよね。うん」
でも体はというと、ぽっと暖かくなってやる気に満ち溢れてくるような気がする。そういや俺、寝込んだ時に薬を飲んだ記憶があるんだけど、あれは回復薬だったんだろうか。あれのお蔭で体が楽になったんだ。
なんか微妙に体が発光してる気がしないでもないが、もしかしてこれ、小瓶全部飲んだらゲームみたいに体がびかびか光るってことかい。勘弁してほしい。
「自己治癒力を高める効果があるんだ。怪我や麻痺毒なんかを治療する術と同じだよ。効果は術よりは数段劣るけどね」
「うーんだから光るのか……いや……光るのって普通……?」
気にするだけ損かなあ。
まあ味は覚えたし、次は材料の味をみてみよう。
モギは安定のヨモギそのまんま。ロエルは良く解らないので、余分に一本取って来た分のそとっかわを剥いでみたら、なんかゼリー状の半透明な物体が出て来た。これ、アロエかな?
洗ってちょっと食べてみると、まんまヨーグルトとかに入ってるアロエだった。
上から下まで食べ比べた結果、上は固すぎてすり潰すのに適さなそうだ。ということは、土に近い下部を使うんだろう。
ちなみに、ロコンはトウモロコシによく似た食べ物だが、ヒゲの位置が上下逆。形からして、これも木に成るのかな……。後で聞いてみよう。
聖水は微かに甘い。同時になにかハーブの香りがする。もしかしてこれ、匂い付きの水って奴? 日本でも流行ってたぞ。ただの水じゃダメな理由はこれか。いや、他にも効能があるのかもしれないけど。
とにかく大体どんな感じにすればいいのかは解った。
「ねえ、ツカサ君。どうして食べてみたりするんだい」
俺のやっている事が奇行に見えたのか、ブラックが心配そうに聞いてくる。
「だって、味とか風味を知らなきゃそれっぽいモンも作れないだろ? 本に載ってた作り方はテキトーだったし、詳しく書かれてないんだったら実物と比較して判断しなきゃどうしようもない」
「なるほど……」
俺の言葉に、ブラックは感に堪えないという感じで頷いていた。
うんまあこれ、えっちなビデオのパッケージに書かれた内容が本編と全然違うっていう悲しみに基づいた考え方なんですけどね! 煽り文と中身が全然違った時ってあれ本当がっかりするよね!
……あんまり関係ないかな。俺関係あると思ったんだけどな。
あっ、あと俺別に借りてません。先輩に見せて貰っただけです本当です。
「えーっとじゃあまずモギの葉のスジをとって……」
野草に関しては、婆ちゃんに教えて貰ったように処理をする。野菜の皮を剥くのと同じように、野草もちゃんと下処理をしないと本来の美味しさを感じられないものが多い。今回はすり潰すんだから、余計に邪魔なものは取らないとな。
ロエルは皮の部分も使う。一応皮がないバージョンも作るつもりだ。
ロコンのヒゲは焦げない程度、良い匂いがするくらいでやめる。焦げって、普通に考えて体に悪いよな……? でも薬効が出なかったら試してみよう。
それらを加えて、すりこぎでゴリゴリ練っていく。どうでもいいけどこの世界すりこぎあるんだ。すっげー。お婆ちゃんがゴマすってたの思い出すわ。
俺すげーお婆ちゃんっ子なのよ。
なんてことを考えている間に、すり鉢の中で材料が混ざってきた。
ペースト状になったのをしっかり確認して、一応味見。この時点だとモギの風味が勝ってるな。悪い味ではない。ではいよいよ聖水を投入だ。
いいものが出来ますように。効果のある薬が作れますように。
丹精込めて丁寧に混ぜていく。気分は調合士だ。
そうして、ゆっくりと混ぜていると。
「おおっ!!」
ブラックの声が聞こえるのと同時、すり鉢の中の材料がほんのり輝き始める。
な、なんだこれ、でも混ぜなきゃ。美味しくな~れ、萌え萌えきゅん。
ぐるぐると掻き回すと、輝く材料があるとき急に手ごたえが無くなった。
すり鉢の中には、コバルトブルーの液体。僅かなとろみも市販の回復薬まんまだ。味は……。
「うげー……そのまんま」
「どれどれ……うむ。ちゃんとした回復薬だ……凄いねツカサ君、きみもしかして、木の曜術師の素質があるのかもしれないよ」
「え、マジ?」
回復薬を何度も使っているブラックが言うんだから、間違いないだろう。初めてでこんなにうまくいくとは思ってなかったからびっくりだ。
でも俺、普通に作っただけなんだけどなあ。
「普通に作ったらこうなるもんじゃないの?」
「いや、術の素質がない者が作ると、こうもうまくは行かないんだ。でもよかった、これで回復薬がなくても大丈夫だね」
「お、おう。材料はいくらでもあるしな!」
相手が嫌な奴でも、褒められるとやっぱ嬉しい。
腕まくりしてどんなもんよとドヤ顔してると、ブラックが近付いてきた。
「これで、傷を気にしないで君を抱っうごっ」
「うっさい変態!!」
抱き着こうとしてきたので、腹に思いっきり蹴りを入れてやった。
本当この中年、どうしようもない。
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