異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラクシズ泊、うっかり調合出会い編

 お高い薬 頼まれて 2

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「他の薬屋さんもダメっすか」
「この地域どころか、交易都市は全滅だろうね。自分で作れる人間がいればいいが、木の曜術師ようじゅつしなんてそうそう居るもんじゃないし……彼らの薬じゃないと、効果は期待できないねえ……」

 なんだ、へんな単語が出て来たぞ。

「あのー……キのヨウジュツシってなんスか」
「ええっ、知らないのかい!?」

 いやそんなマスオさんみたいに言われても。
 ファンタジーっぽい単語がまた出て来たけど、俺は街の事を教えて貰っただけでそういうのは全く知らない。この際だから教えて貰おう。
 無知丸出しの俺の顔に店主は目を丸くしていたが、気前よく教えてくれた。

「その感じだと曜術師自体も知らなそうだな……お前相当田舎から来たんだなあ」

 店主が話してくれた事を俺に分かり易いように言うと、こうだ。
 この世界にはいわゆる魔術師みたいなものは存在せず、曜術師というものが存在するらしい。俺が何故ヨウの字が「曜」だと解ったかというと、店主が説明した曜術師の種類がまんま「月火水木金土日」だったからだ。まあ火は日と被るからか、炎になってたけどな。
 月と日は良く解らないが、光とか闇の属性かな。この世界に曜日の概念がないのが不思議だが、それは置いといて。

 この七種類の術師は、それぞれが一つの属性を極めている。
 木の曜術師は植物を操る事に長ける術師で、植物の性質などに深くに精通しており、強力な薬効を引き出せるのはこの人達だけらしい。だから、一般人はもとより冒険者ですら薬の調合は滅多にやらない。薬屋に並んでいる薬は全て木の曜術師が作っているのだ。

 薬剤師みたいなものなのだろうか。
 だけど術師は大抵王都に呼ばれたり冒険者になったりするので、薬品を作る人はその中でもほんのちょっと。変わり者しかいない。
 その為、術師の薬品は常に貴重で基本的に品薄なんだとか。
 冒険者や一般人が自作するのは可能だけど、効果は術師の作品より落ちてしまうし、狙った効果が出なかったりするようだ。職業補正でもついてるのかな。

「ってなわけで、ウチには今効果の期待できる回復薬が無いんだ。他の店もそうだろうよ。すまんな……」

 こっちこそ長々説明させてごめんねおじさん。
 礼を言って店を出ると、俺は一応ダメもとで街の薬屋を全部当たってみる事にした。けれど、どこも回復薬はやっぱり売り切れ。朝に娼館を出たのに、最後の薬屋から出た頃にはもうお昼になっていた。
 ああ、正午を告げる鐘の音が響いている。

「うーん、どうすっかなあ……」

 レンガ敷きの綺麗な街をとぼとぼ歩きながら、考える。
 冒険者が手持ちを高値で売りさばいていないだろうかと露店も覗いてみたが、転売野郎も回復薬が惜しいのか、出たと言う話はない。
 このままだと怪我した娼婦が可哀想だ。でもどうすればいいのか。
 街の地理が分かる程に歩き回っていたので、もうへとへとで考えも浮かばない。一休みするために街の中央にある広場に戻って、俺はベンチに腰を下ろした。

 中心に噴水を置いた円形の広場には、様々な人がいる。
 水色の髪のお婆ちゃんと緑の髪の孫、金の髪をしたマッチョな冒険者に、紫色の髪で魔法使いっぽい服装をしたお姉さん、物売りの青年も紺色の髪が煌めいている。
 こうしてみると、やっぱり俺の髪の色は地味だ。
 珍しいと言われるのは結構嬉しかったけど、よくよく考えたら俺ってばエリマキトカゲ的な珍獣として見られてるんじゃないか。だって、行きかう人達それなりに顔整ってるし。美形多いし。男女男男女男女でカップルばっかだし。一組だけ両手に花だし。リア充爆発しろ。殺すぞ。

「い、いかんいかん、そんな場合じゃないんだ。うーん、店で買えないとなると、冒険者の人に交渉して売ってもらうしかないけど……足りっかなあ」

 もし足りなかったら俺の金も使わなきゃいけないかな。
 驚いた事に、女将さんから渡されたお給金は金貨が小袋に一杯。
 よくあるファンタジーと同じように、この世界も最低価値が銅貨で、キングオブ貨幣が白金、つまりプラチナとなっている。金貨はその次に高価な貨幣だ。
 単位はケルブ。高価な鎮痛剤でも金貨二枚だから、冒険者に売ってもらうとすると、十枚くらい出せばいいんだろうか……。

「僕が売ってあげようか」

 不意に聞こえる、どこか弾んだ低くて渋い声。
 あああ誰かなんて考えたくない。後ろなんて振り向きたくない。逃げよう。
 俺ローブ被ってんのに何で解ったんだろう。いや、考えるな。相手の存在を消すんだ。頑張れ俺負けんな俺。よーし気を取り直して。

「さあ冒険者に聞きこみするぞーい」
「待て待て待て、折角会えたのに酷くないかいツカサ君」
「俺の名前を呼ぶな汚れる」

 絶対振り向かない、振り向かないぞ。

「怒ってるのかい? ごめんねあの時は抑えが利かなかったんだ、嬉しくてしょうがなくて……あの、機嫌直して。ほら、お菓子買ってあげるからこっちおいで」
「誘拐犯みてーなこというんじゃねーよっ!!」

 うぎぎぎ振り向いてしまった。俺のバカ。
 視線の先に居たのは、やっぱりどうして赤髪のゲスオヤジ、ブラック。
 あの時は格好いいかな~なんてうっかり思っちゃったけど、前言撤回! こいつはスケベ丸出しのオッサン顔してます! ハンサムじゃないです!!
 しゅんとした顔したってキモイだけだからな本当!

「まいったなあ」
「まいっとるのはこっちじゃ!! いーか、アンタが来ても俺は金輪際会わないからな! もうあんなもん三度もぶち込まれてたまるか!」
「えっ、二回目バレてたの」
「ばれね――ほーがおかしいよなあ~~~~!?」

 お前出した量解ってる!?
 それとも何なのこの世界の住人ってみんなあんな汁だく俳優なの!?

「も、もうしないから、あのじゃあ、回復薬……」
「おめーからは絶対貰わない!!」

 もうこうなったら意地だ。娼姫は相手を引っ叩いても当然。なら、俺だって多少は居丈高でいてもいいはずだ。
 オッサン、この前野獣だったわりには情けなくなってるし、こんな往来で変な事はしてこないだろう。だったら無視無視。後ろでもうしませんもうしませんと言ってる中年がいるみたいだけど、俺には何も聞こえません。
 さ、冒険者の人に交渉だ。
 後ろについて来てるのはもう背後霊だと思う事にしよう。





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