異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神域島ピルグリム、最後に望む願いごと編

12.何もかも愛しいからこそ

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※すんませんちょっとお食事中の人は読まない方が良いかも…
 簡単に言うとおしっこ関係の話です(直接描写してはいません)
 ちんちんは描写してます。






 
 
「ツカサくぅーん!」

 両手を広げながら凄い速さで接近して来て、ぎゅっと抱き着いて来る。
 ぐ、ぐぐ、ちくしょうめ、ブラックの足が長いせいで逃げ遅れてしまった。なんでコイツ無駄に足長いんだよ、オッサンのくせにスケベのくせに!

 っていうかこんな場所でこんな事してたら、誰かに見られるだろうが!

「ぶ、ブラックちょっとっ」
「んん~? ツカサ君どしたの? 僕に会いたくてあのクソ小僧の所から抜け出して来ちゃったぁ!? えへへ、僕もちょうどツカサ君に会いたいと思ってたんだよ~! これって運命ってやつだね、やっぱり僕達は最高の恋人同士だねっ」
「ん゛ん゛ん゛……! そっ、そういうんじゃなくてトイレ……しょんべん! しょんべんに行きたかっただけだから! こんな所で抱き着くなってば……」

 大声で怒りたいんだけど、ここで騒ぐとマグナにも聞こえてしまう。
 そんな俺の焦りを知ってか知らずか、ブラックは上機嫌でニヤニヤ笑いながら俺を抱き締めたまま軽く持ち上げて来た。

「ちょっ……ぶ、ブラック!」
「おしっこ行きたいの? じゃあ僕も付き合ってあげる」

 そうじゃなくて、持ち上げられると下腹部がアンタに押し付けられて膀胱がヤバくなってるんだってば。やめろマジで、今はやめろ!
 しかしそうは言うけどやっぱり敵うはずも無く、俺は抱えられたままトイレに向かう為の通路へと引っ張り込まれてしまった。ヒィ……だ、誰とも遭わなかったから良かったけど、こんなの見られてたら絶対にあらぬ噂をされていたぞ……。

 いや、まあ、たぶんあらぬっていうかある噂なんだけども。

「ほらツカサ君、厠だよ」
「え? うおっなんだここは」

 ブラックにそう言われて思わず振り返ると、そこには実に想像しがたい特殊なトイレが雑に作り上げられていた。
 いや、だって、行き止まりの壁に適当に二つくらいの板が突き刺さってて、右の壁に突き刺さってる筒から出てくる水が地面を流れているだけなんだもの……。一応は「水洗トイレ」なんだろうけど、ちょっとこの荒々しさはその……。

「おー。思ってたより結構豪華だね」
「えっこれが!?」
「だって野外だと手も洗えないし勝手に流れて行かないよ? 自分の足跡を簡単に消せるんだから、豪華じゃない」
「あー……なるほど……」

 確かに、野宿の時って穴掘ってたもんな……。あんまり思い出したくないが。
 アレは川に汚物を流さないようにって配慮だと思ってたけど、そう言えばこういう物って動物が嗅ぎつけて臭いで追ってくるんだっけ。あ、猟師の人も同じような方法でシカやイノシシを追ってたな。そっか、そういうのも有るのか。

 それを考えたら、ノーリスクで水に流して良いこのトイレは画期的だ。
 外に出て外敵に発見される危険もないし、なにより手も洗えるからな。不満を言うとすれば、水や壁に跳ねてこっちに飛んでこないかと言う所だが……まあ、自分で気を付けるしかないか……。とにかくしょんべんしよう。

「……って、こっちみんなバカ!」
「え~、僕もツカサ君と一緒の囲いに入っておしっこしたいなぁ。つっ、ツカサ君と僕のおちんちんをひっつけ合わせて一緒に放にょっ、ふっ、ふへへ」
「バカ!! この超級おバカ! 変態!! いいからさっさとしちまえよ!」
「え~、ツカサ君は僕のペニスを何度も握ってるんだし、それくらい良いじゃないかぁ。ねぇねぇ仲良しっこしようよぉ」
「変な造語つくるなってば!!」

 ああもう付き合ってたら憤死しそうだ。さっさと用を済まそう。
 ブラックに入って来られないようにしようと板の真ん中のスペースに入り、そのまますぐにズボンの合せを開けて済まそうとするが、そうはさせじとブラックがデカい図体を捻じ込んで来やがる。そして。

「ッ!!」
「えへっ、今日はずっと一緒に居られなかったし、このくらいはしなくっちゃね」

 無理矢理体を捻じ込んできたと思ったら……俺の横から素面では見たくないブツを恥ずかしげも無く出してきやがった。

「~~~~~~っ!!」
「ツカサくぅん、そんなに照れないでよぉ……へへっ、えへへ……っ。これはぁ、いつもツカサ君が美味しそうにしゃぶってくれるモノだよ? 今更恥ずかしがるようなモノじゃないよね? ふっ、ふへっ、ふへへっ」
「だっ、だからってお前……!」

 こういう手が離せない最中に横から出してくる奴があるか!!
 慌てて動く事も出来ないし、軌道がぶれて大惨事になったらどうすんだお前は。
 思わず嘆きたくなるが、しかしブラックは口をゆるゆるに緩めて涎をたらしながら、俺の前にデカブツを持ち出して来て、支えて見せる。

 う……うぐ……相変わらず憎らしい……。
 っていうか目の前に出してくんじゃねーよバカ! やめろ、その状態でそのっ、あの、色々済ますなバカッ、ばかばかばかバカー!!

「あぁ~……ツカサ君に見られながら出すの気持ち良いなぁ~……そう言えば、街道で野宿した時にツカサ君に手伝って貰ったよねぇ~……」
「…………そ、そう言えば……」

 あの時はブラックが酔ってて困ってたから、恥を忍んでどうにか手伝ったけど、でも今回みたいな狂気の行動をした覚えはないぞ。
 なんでお前はそう毎回毎回俺の許容範囲を軽々と飛び越えて来るんだよ。
 俺本当いっぱいいっぱいなんだからな、いつもギリギリなんだからな!?

「ぐっ、ぐうう……はっ、はい終わり! 終わり終わり!」
「あー、ツカサ君逃げちゃだめだよぉ」

 うるさい俺はこんな連れションプレイスからは素早くおいとまさせて貰う!!
 さっさと手を洗って帰ろうと思い、俺はすぐさま服を整えて水が出てくる筒の所へと移動した。ええクソ本当、一々人にコンプレックス抱かせるようなモン見せやがって。

 ムカムカしながらも念入りに手を洗っていると、また背後から気配が近付いて来て、俺を覆って来た。……本当にもう、なんでこのオッサンは毎回おぶさって来るんだ。
 だがブラックはそのまま抱き締める事はせず、今回は大人しく手を洗っていた。

「……ちゃんと手ぇ洗うんだ」
「そりゃ毎回ツカサ君に口酸っぱく言われてるもん。それに……洗わないと、ツカサ君をギュッと抱き締めるの許して貰えないでしょ?」

 言いながら、ブラックは手の水を切って俺を抱き締めて来る。
 ぐ、ぐぬぬ、真面目に話を聞いていたせいで避けられなかった。

「ブラック、ちょっと……」
「やーだ。これくらいは許してよ……。僕、ツカサ君の邪魔しないように我慢してたんだよ……? ちょっとくらいは甘やかしてくれても良いでしょ……」

 そんな世迷言を嘯きながら、ブラックは俺を抱き締めて後退る。
 さっきまでド変態みたいな事を平気でやってたくせに、こんな風に甘えて来るなんてどんな神経をしてんだお前は。それに、昨日さんざん……え、えっちしたくせに、あれで満足したんじゃないのかよ。

「……き……昨日……したのに……」
「ん? ……ああ、セックス? そりゃあ昨日は楽しませて貰ったけどさ……ツカサ君、僕が毎日ツカサ君とセックスしたいって言ったの覚えてないの?」
「う……」

 そう言えば、確かにそんなこと言ってたような気がするけど。
 でも、その、今こうしてぎゅうぎゅう抱き合うのはその……。

「覚えてるでしょ……? なのに、僕はずぅううっと我慢してるんだよ……だったら、今くらいこうして甘えたって良いじゃないか。……ね?」
「っ……」

 耳のそばで声が聞こえて、息が頬に吹きかかってくる。
 その僅かな熱さが妙に強く肌を触ったような気がして、俺は思わず硬直した。
 だけど、ブラックはそんな俺を強く抱きしめて懐に押しこんでくる。

「ツカサ君……僕といちゃいちゃするの、イヤ……?」
「そ、そんなこと……ない、けど……」
「だよね、僕達恋人……ううん、婚約してるんだもんね……」
「う、うぅ……」

 そりゃ、まあ、ブラックからすれば不満だったかもしれないけど。……まあ、えっと、なんだ。……べ、別に、俺だって離れたいとか思ってないし、その……ブラックと恋人らしい事するのは……いっ、ぃ、嫌じゃ、ないけど……。

 で、でもさ、そうしなきゃ行けなかったんだから仕方ないじゃん。
 それに、ここには諸悪の根源がいるかもしれないワケで……。
 …………でも、そんなのブラックには関係ないんだよな。

 関係ないし、ここまでずっと付いて来てくれたのは……お……俺、を……大事に、思ってくれてる……からで……。

「ツカサ君……好き……僕ずっとこうしてたいよ……」
「ブラック……」
「ツカサ君もそうだよね? 僕と、ずっと一緒に居たいんだもんね」
「……ば、ばか……」

 そ、そういうの蒸し返すんじゃないよ。
 い……言ったけど。そんなこと言ったけどさ。それは否定できないけど。
 でも、それを真正面から言われたら恥ずかしさしか無いだろうが。つーか、今さっき変態みたいな事しといて、今それ言う!?

 どう考えてもそんな雰囲気じゃないじゃん、温度差有り過ぎて乗れないじゃんか!
 なんでアンタそんな急に……。

「ツカサ君……ね、キスして……」
「んん!?」
「そしたら僕明日も頑張るから……ね……?」
「…………」

 耳の横で、ねっとりしたブラックの声が囁いて来る。
 低くて、耳を震わせるような渋く掠れた大人の声。いつも聞いてるはずなのに、こうして耳に直接吹きこまれると、体の中が熱を持ってしまうムカつく声だ。

 だけど、俺は悔しい事に……その声に、抗えなくて。
 抱き締められて甘えるように言われると、無理をさせている今の状況も有ってか、どうにも拒否がし辛くて。そうやって考えて、気が付いたら俺は……。

「……キス、だけだぞ……」

 凄くぶっきらぼうな言葉で、そう言ってしまっていた。

「あはっ! ツカサ君大好きぃ!!」
「ぅうう声が大きいばか! ほ、ほら、さっさとするぞ! キスだけだからな!」
「えへへ、はぁーい」

 ああもう、間近でニコニコしているオッサンが憎らしい。
 この、無精髭ぐらい処理しろってんだ。だらしねえ顔しやがって。

「……む、向き変えろよ」
「ツカサ君……えへっ、ぅへへ……ちゅ~」
「…………本当お前……」

 口尖らせるな。オッサン丸出しで萎える。マジで萎えるんだってば。
 ……でも、萎えて拒否できるんなら、このどうしようもないワガママなオッサンを俺も好きになってないわけで……。はぁ……。

「……ばか」

 こんな格好良さの欠片も無いスケベ丸出しの顔に、キスする俺もどうかしてる。
 そんな事を考えたけど……ブラックがそれで喜ぶならと思うと、顔を近付けるのをやめようとは思えなかった。









 ――――翌日。

 体力回復した俺の朝食をみんなで仲良く食べた後、俺達は再び【白壁香】を纏い、今度こそ【神域】に向かうべく洞穴を出立した。

 上機嫌で聞き分けの良いブラックとクロウは、今日も最後尾付近だ。
 俺とマグナは昨日と変わらずしっかりと手を繋いで、白壁香を調整しながら先頭を進んでいた。最初はドキドキしたけど、まあ結局は仕事みたいな物だから、慣れたら意外と何事も無い。だけど、マグナは相変わらず手汗が凄かった。

 やっぱり【白壁香】はそれだけ集中力を使うんだな。
 昨日、俺の事を定期的に見て、頻繁に額を触って来たマグナの手は、別に湿ってなかったし……それを考えると、やっぱり大変な事を任せているんだなと思う。

 俺が役に立っているのかは分からないけど、でも役に立てるのなら出来るだけ協力したい。とは言っても、俺のやる事と言えば、金の曜気を流すイメージを保つ事しか出来ないわけだけどな……はぁ。

 なんというか、二日目になって更に俺の無力さが強く感じられるよ。
 だって、今日のマグナは何だか顔が険しかったし……よっぽど疲れているのか、元々仲が悪いブラックに対してとても辛辣な感じだったしな……。
 イライラしてると嫌いな物が余計に嫌いになるっていうから、マグナの状態は今まさに“ソレ”なのだろう。

 でも、俺に対してはいつも通りなのがよく解んないんだよなぁ……。
 昨晩は俺が戻って来た時も何か異様に心配してたし、白壁香の調整とかもそっちのけで、俺とずっと喋ってたし。アレはストレス発散のためだったのかな?
 だとしたら、かなり疲れてるって事だと思うけど……ああでもどうやってマグナを労ったらいいのか分かんないよ。

 大丈夫かって聞いても、マグナは「大丈夫」としか言わないし。
 きっと俺達を心配させまいとして我慢してるんだろうけど、疲れを正直に申告しないのはダメだってマグナも言ってたのになぁ。

「マグナ……本当に大丈夫……?」

 歩く途中で小さくそう問いかけると、マグナは俺の手を強く握り返してくる。
 ……昨日より、なんだか握力が強いような気がするけど、気のせいだろうか。
 変な所が気になった俺に、マグナは小さく返してきた。

「ああ、大丈夫だ。……ツカサ、そばを離れないようにしてくれ」
「う、うん……」

 そう言われると、もうどうしようも無くなっちゃうんだよな。
 でも、何て言えばいいんだろう。疲れてるから休めなんて今更言えないし、そもそもあと少しで【神域】に辿り着くんだ。引き返そうなんて言えないだろう。
 俺達は少しでも早く調査を行って帰らなければならないんだ。船の事も考えたら、悠長に進んでいる訳には行かなかった。

 ……せめて、マグナが倒れてしまった時に何か出来るように考えておこう。
 一人の不調をカバーするのも仲間の役目だ。マグナのためにも、すぐに対応できるように俺も常に気を張っておかなきゃな!

 そんな事を思いながら、体感で二時間ほど静かに歩いていると――――

「…………水……川の音……?」

 誰かが、霧の中でふと呟いた。
 耳を澄ませてみると、確かに流れる水音が聞こえる。

 その音に、マグナが呟いた。

「もう少しだ。……ほら、見えてきたぞ」
「え……?」

 その声が放られた方向――正面を見やると、霧の中に薄らと「木々ではない何か」が見えたような気がした。

「あれは……」

 何だろう。なにか、建物なのかな。
 目を凝らした俺に、マグナはぎゅっと手を握って一歩強く踏み出した。

「あと少しで霧を散らせる。……さあ、見て見ろツカサ」

 足が、土ではない場所を踏む。
 その人工的な硬さに思わず下を向いたと同時、俺達の周囲を取り囲んでいる霧が徐々に晴れて行った。ま、マグナ、まさか霧を解いたのか!?

 何でそんな事を、と、思って前を見て――――俺は、絶句した。

「なんだ、ここは……!?」

 ジェラード艦長の驚いたような声が聞こえる。
 その声に、俺はただただ目を見開いて硬直する事しか出来なかった。

 だって、俺達の目の前には……――――

 驚くべき光景が広がっていたのだから。













 
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