異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編

21.いざ、討伐へ

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 風雲急を告げる……なんて言葉があるが、今の状況はまさにソレだった。

 イカちゃんが人族の言葉を解する事はすぐにシアンさん達に伝えられ、俺が頼んだ事をやってのけた事についてイカちゃんが「クィッ」と肯定したのをみんなの目の前で見せつけると、その場にいた全員がわっと沸いた。

 そりゃあそうだろう。
 攻めあぐねていた相手の拠点を、ついに発見したかも知れないんだから。

 でも、当然それを信用出来ない人もいる。
 というか、そう思うのも当然だろう。だって、イカちゃんが俺達の味方だって言うのは完全に俺の主観だからな。認められない人もいるってのは仕方ないと思う。

 だけど、一度確かめなければ本当かどうかすら解らない。
 もし本当だとしたら、俺達は大幅な時間のロスを喰らう事になる。

 相手が俺達の狙いに気付いたとしたら、今この時からもう攻勢を仕掛けてくるかもしれない。そうなれば、ランティナでたむろっている方が危険だ。
 またもや俺達は戦力を減らし、回復する時間を作る事になる。

 そうなるくらいなら、一度船出してみるのも悪くないのではないか。
 木造帆船は、シアンさんが“神霊樹の実”を大盤振る舞いすることで、術師の疲労を軽減し余力を残すようにする。そして曜力艦・アフェランドラは、動金機関に入れる燃料の心配は不要だ。これマグナのお墨付きな。
 ともかく準備らしきものは一応整っていた。

 ――ならば、試しに一度船出をしてみようではないか。

 少し時間はかかったが、そう結論が出て俺達は出港する事になった。

 それでも、ランティナは本陣として守らないといけないと言う事で、ファランさんひきいる冒険者ギルド一同とリリーネさん達はランティナに残る事になり、出港するのはアフェランドラと、いち早く回復したガーランドの船団のみだ。
 今はこの編成で精一杯だった。

 まあでも、あいつの船団って実はかなり強いらしくて、しかも帆船の所有数もランティナ海賊イチだってんで、実はガーランドの船団だけでもう事足りるんだよな。
 でも、こうなるなんて意外だったよ。まさか鉄の戦艦を先頭に、木造帆船の大船団で出港する事になるなんて……なんか、何かこう……ロマンって感じだよな……。

 ……ま、まあ、それはともかく。
 今回はシアンさん達も同行する事になり、シアンさんとエネさんはガーランドの船に常駐する事になった。大地の気が必要なのは、木造帆船の方だからね。

 俺達はと言うと、もちろんジェラード艦長が指揮するアフェランドラだ。
 しかし、今回はちょっと様子が違う。俺達の横にはイカちゃんが付いているのだ。

 頑固がんこなジェラードのオッサンは「船にモンスターを乗せるなんて縁起でもない!」なんて反対してたんだけど、今回の水先案内人はイカちゃんである。
 イカちゃんがいないと、本拠地がどこか解らないのだ。
 言うワケで、しぶしぶ許可をしてくれた。

 物凄い怖いカミナリオヤジだけど、こういう時は意外と柔軟だよな。
 ナルラトさんが「ウチの艦長は顔が悪いだけなんだ」と冗談めかして言っていたが、あれは本当なんだろうか。だとしたら、艦長って実は優しかったりするとか? でも、その後ナルラトさんは艦長に凄まじいゲンコツを喰らって死んでいたので、ちょっと疑問なんだがな。
 まあとにかく、そんな訳で俺達は再び出港する事になった。

 今度はブラックが酔わないように、酔い止めの薬を薬師さんに調合して貰ったので、ブラックの船酔いも多分心配はいらないだろう。
 クロウは元々船もへっちゃらだし、マグナは今も機関室でエンジンを見ている。
 俺はと言うと、今朝は酷くやつれていたが今は問題ない。何でも来いって感じだ。

 あっでも、イカちゃんは長時間陸上に居る事は出来ないので、深めのバケツに海水をんで一緒にいることになったんだけどね。
 バケツから顔を覗かせて、興味深げに周囲を見ている姿は超絶可愛い。
 こうなると兵士達もイカちゃんの可愛さに気付いたかのようで、ちょっと緩んだ顔をしながら、イカちゃんをつんつん突いていた。

 まあ若干名食物を見ているような目で見ていたが、それはともかく。

 航海は順調そのもので、イカちゃんも進路は真っ直ぐ東の方だと指していた。

「……それにしても……東って、このまま進むとシンロンやチェンホンに行っちゃうけど、進路はこれで大丈夫なのかな」

 空は快晴風は追い風で順調な航海の中、甲板から進行方向を眺めつつ、ブラックが唐突に不安そうな声を出す。
 出港してからずっと俺達は船首の方で海の向こう側を見ていたのだが、不意にそう言われたもんだから、俺は面食らってしまった。

 うーむ、シンロンって聞いた事が有るような……。

「シンロン……えーと…………ファラン師匠のふるさとの?」

 確か師匠は「シンロンから来たアル!」みたいな事を言ってたよな。
 言ってなかったかもしれないが、多分そんな感じだ。

 そんな俺の曖昧あいまいな言葉に、隣にいるブラックはうなずいた。

「うん。僕達の世界は、僕達がいる大陸の他にもいくつか陸があってね。大陸ほどは大きくないけど、そこそこ広い陸地が点在しているらしいんだ。今確認されているのは、さっきも言った二ヶ国……シンロンとチェンホン。それから更に東に進んだ果てにあるヒノワ。それに魔族の国であるオリクトと……」
「俺の故郷のベーマスだ」

 そうそう、クロウの故郷である獣人の国はベーマスって言うんだっけ。
 しかしそう言われると何だか不思議だなあ……他の大陸には名前が付いてるけど、それは大陸全体が一つの国って事なんだろうか。

 だとしたら、結構大きいよな。
 俺達が旅をしている大陸も相当の大きさだけど、他の島国は少なくともアコール卿国きょうこくくらいの領土は有るって事なんだろうか。
 ちょっと行ってみたい気もするけど……そんな余裕は今は持てないよな。

「クィイ?」
「ん? どした?」
「クィー」

 俺達の会話が不思議だったのか、イカちゃんは体全体を傾けて、まるで人間が首をかしげたような仕草をする。バケツにつかまりながらやるもんだからもう本当可愛い。
 まったくもうこの子は! そうやってすぐ俺の心を惑わす!

「しかし、いくらなんでも東方諸国の海域までは向かわんのではないか。この小さなカトルセピアの泳ぎでは、さすがにそこまで行って戻って来る事は出来ないぞ」

 俺がキュンキュンしている間にクロウが大事な事を言う。
 そうか、東方諸国ってそんなに近くないんだな。
 だとしたら、その海域と大陸の海域の間にあいつらの本拠地があるんだろうか。

 そんなクロウの言葉に、ブラックも難しい顔で腕を組む。

「それはそうなんだけど……ここから先にある島って、そう数が無いような気がするんだけどな……。もしかして、拠点は海の底とか言わないよな」
「クィイーッ! クィーッ」
「イカちゃんが怒ってるから、そうじゃないみたい」
「なんで僕の言葉には怒るのさ。ムカつくなこのイカ焼いて喰うぞ」
「やめい!! とにかく……海の上って事は確かみたいだから、イカちゃんの指示に従うしかないよ。俺達にはそれ以外に探す術がないんだからさ」

 しかし、その事実にブラックは不満顔だ。
 何をそんなに不満に思っているのかと思ったら、口をとがらせて眉根を顰める。

「だって、海の上じゃ索敵も使えないし目で敵を探すしかないんだもん。海路も無い場所を探すなんて雲を掴むような話だし、そんな地道な作業、海賊か商人ぐらいしかやんないよ。どう考えても夜までかかりそうじゃないか」
「索敵使えないのか」

 ちょっと意外だったのでそう言うと、ブラックは潮風に赤い綺麗な髪を靡かせて前を見やった。

「前に言わなかったっけ? 海は水の曜気に溢れてるけど、不純物が沢山混ざってるから水の曜術も使えないって。その不純物の影響なのか、索敵も精度がかなり落ちて上手く使えないんだよ。だから、基本的には目測もくそくで全てを探すことになるのさ」
「なるほど……そっか、だからガーランド達も最初に影と出会った時に、うまく対処が出来なかったんだな」

 少し風が強くなって来たような気がする。
 後ろから髪をさらう風に少し気を取られていると、イカちゃんが不意に鳴いた。

「イカが進路を変えろと言っているな」

 ブラック達よりも低くてガラガラした声が聞こえて、思わず振り返る。
 と、そこにはパイプをふかしたガーランド艦長が……って、いつのまに。

「クィー」
「南東か……となると、少しまずい事になるな」
「え……南東に何かあるんですか?」

 問いかけると、ジェラード艦長はやなぎのような太い眉を顰めた。

「南東にあるのは神聖不可侵の島だ。本来ならば、何人たりとも入る事は許されん。もしそこが影の本拠地だとしたら……島自体に異変が起こっている事になる」
「その、島の名前って……」

 何か、嫌な予感がする。
 風がどんどん強くなってきて、俺達を急かすようだ。

 その肌寒さに震えた俺に、ジェラード艦長は島の名前を告げた。

「島の名は、ピルグリム。いにしえの神々をまつる聖なる島だ」













 
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