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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編
18.思わぬところで繋がっている
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いやあそれにしても、会議ってのは堅苦しい。
俺はディベートの特別授業とか、朝や帰りにやる○○の会ぐらいしか参加した事が無いし、この世界でも怪しい容疑者として召喚される事は有れども、話し合いを目的とした純粋な会議に呼ばれた事なんて一度も無かった。
話し合いは有ったけど、あれは小規模だしほとんど身内みたいな人達との対話的なモンだったしなあ。トランクルでの町興しの会議だって学級会みたいだったし。
だから、目的は同じなのに完全に派閥が違うって人と意見をぶつけ合うのは、何気にこの会議が初めてだったのである。
……なので、ぶっちゃけた話、俺もブラックの事を悪くは言えない。
本音を言えば物凄く帰りたかった。面倒くさくて。
…………だって、会議ってなんか独特な雰囲気ない?
私語厳禁だし質問は最後まで溜めておかなきゃ行けないし、質問したらしたで違う派閥の人に何だか知らないが睨まれるし……。
会議ってのはあんな重苦しくて真面目じゃ無きゃいけないのか。しかもプレイン側からの出席者は難しい顔ばっかりしていて、俺達の話も眉間に皺を寄せながら無言で聞いてたし、とにかく怖い雰囲気だったし……。
大人になったらこんなビキビキした雰囲気の会議をしなきゃいけないのか。
ヤバい、俺は耐え切れる気がしない。何でみんな耐えられるの。
学校の特別授業のディベートですらも、俺はボケーっとしながら「みんな何か凄い話をしている気がするなあー」と9割話を聞き流していたと言うのに、こんな凄まじく緊迫した空間は耐えられないよ。ていうか耐えられなかったよ。
だって、プレイン側の人達が怖い顔しすぎるんだもの……。
俺達に厳しい態度の、勇まし髭で鼻から下をモッサリと覆った海の男・ジェラード艦長は、相も変わらず俺達に厳しい視線を向けて来るし、俺達が見た物を説明する時や、ガーランド達の目撃情報を話す時も、眉間に皺を寄せていたし……。
しかも、あのカミナリオヤジみたいな凄く低くてしゃがれた声で、不機嫌そうに質問して来るもんだから、もう俺的には怖くて仕方がない。
俺、ああいうオッサン苦手なんだよお。
婆ちゃんの家が有る集落にもあんな爺様が居て、家の前を通っただけなのに、毎回すんごい怖い顔して鉄砲握って立ち上がって来てたんだよ。アレがトラウマになってて、どうにも話を聞いてくれなさそうな強面のオッサンには委縮しちまうんだ。
まあブラックも話を聞いてくれない系オッサンだけど、基本的には会話が出来るし愛想が良いからまだマシだな。中身は多分あの艦長の方がマトモなんだろうけども。
……ゴホン、話が逸れた。
それで、物凄く嫌な雰囲気ながらも俺達は会議をなんとか進めて、海賊ギルド側とプレイン兵士側が一触即発の状態になりつつも閉会したのだが……。
なんというか、まとまった話はこれまた微妙なものだった。
かいつまんで説明すると、謎の影の正体は「黒籠石の性質を持つモンスター」か「討伐済みの【邪龍王】というモンスターと同じ属性の可能性が高い」らしく、それらを討伐するための方法は、現時点では皆無。
謎の影の攻撃方法については、ガーランド達を襲って来た時の記憶と、俺達が目撃したあいつらの行動が一致したことで、相手は「ドレインしか出来ない」と確定した。また、あいつらは海上を移動し沈まず、接触した人々の話ではスライムと非常に似た感触だったらしい。
――――謎の影の性質は、こうだ。
物理攻撃・曜術をダメージゼロで吸収し、打撃切り裂き爆発も無効化する。攻撃を受けても飛び散ると言う事が無く、切っても剣が通った後からすぐにくっつくらしい。動きもそこそこ素早く、先述の通り海上のみならず、垂直になった壁や様々な場所を縦横無尽に移動できる。攻撃してこないが、攻撃を受ける事も無いのだ。
そんな謎の影の目的も行動も、ただ一つだけ。
人間から“大地の気”を奪う事。これを達成した時、あいつらは消える。
そして、奪った人間に、俺みたいな特殊な人間じゃないと見えない「黒い竜巻」を植え付けて、延々と気を奪い続ける呪いをかけて行くのだ。
これは、一度目も二度目も同じ。
そのため、あいつらの目的もほぼ特定されたと言っていい。
だけど……不可解なのは、二回目だけ“靄”を纏って姿を隠してきたって所だ。
ガーランド達が言うには、最初の時は接触したポイントに来るまで、影達も姿など隠さずに前進して来ていたらしい。
海賊ギルドには遠見……かなり遠方を監視できる人がいるみたいで、その人の視界ギリギリで見えた光景は、接触ポイントよりはるか向こうからあいつらが海上を滑って来る光景だったそうだ。それを考えると……二度目は、俺達の事を考えて、対策を講じて来たと考えて良いだろう。
だけど、疾風の術【ゲイル】で看破されても動揺もしなかった。それを考えると……あの影達は、もしかしたら自分達で対策を考えたのではないのかも知れない。
つまり、あいつらを動かす黒幕がいるのかもって事だ。
まあ、その方が色々しっくりくるよな。俺達も当初そう考えてたし。
仮にその黒幕が俺達の予想通りクロッコだとしたら、全ての辻褄が合う。
だってそれならあの靄はイスタ火山でアイツが使った“白い霧”で説明が付くし、影も魔物の生成装置で作った物だって更なる確信が得られるからな。
影が大地の気を奪うのも……俺を【機械】に乗せたがった理由を考えれば、とても納得が行く話だった。やっぱり、背後にはクロッコが居るんだよ。
……まあ、やっぱりと言うならそれを先に言えと言われそうだけど、シアンさんが言うには「それを納得しうる材料」が無いとプレインの兵士は納得しなかったらしいので、結局こうして会議で確定させなきゃいけなかったみたいなんだけど……。
うーん、なんか遠回りした感じが否めない。
そう思うのは、俺達がアイツと直接関わったから言える事なんだろうけど。
――――また話が逸れた。
とにかく、クロッコの名前までは出さなかったけど、兵士達もガーランド達も、「影の背後に何者かが居て、そいつが操っている」と言う事には納得したようだ。
しかしそうなると、ますますあいつらの拠点か本拠地か……なんにせよ、出撃して来る所の発見が重要になって来るワケで。
相手が対策してきた以上、悠長にしているヒマはないだろう。あっちも気を奪おうと躍起になっているのだ。今度別の対策をしてこられたら、被害が拡大する。それに……いつ影がここに上陸して来るかも解らないんだ。
こちらの戦力が削れていて、対抗策がいまだに見つからない以上、なんとかして影がやってくる場所を突き止め、黒幕が居るのなら直接叩くしかない。
そう、まずは索敵。相手の本拠地を探る方法が必要なのだ。
そこで……――――俺に、白羽の矢が立った。……のだが。
「はー……なっがい会議だった……」
今までの事を思い返し終わって、俺は深々と溜息を吐く。
正直会議中もういっぱいいっぱいだったので、抜けている所も有るかも知れないが、しかし重要な事はこれぐらいだろう。
あとはガーランドが俺を崇拝して来たりプレイン兵と喧嘩したり、そのいらん喧嘩にオッサン達も参加して喧々囂々になったりした記憶しかない。それは覚えてなくて良いヤツだ。忘れよう。
とにかく、今の俺にはやる事が有る。
体を動かしてポキポキと骨を鳴らすと、気合を入れて真正面をキリッと睨んだ。
俺の凛々しいまなざしの先には、沖合に浮かぶ曜力艦・アフェランドラが浮かんでいる。今は眠ったように静かだが、あの船にもいずれ動いて貰わねばならない。
シアンさんは時が来るまでクロッコの事は内緒だと言っていたが、いずれはあの怖い艦長に話して、プレインの怨敵である奴が相手だと知れる事になるだろう。
そうなれば、絶対にあの戦艦が動くはずだ。
だけど、それは俺達が望んだ手段で動くとは限らない。それに、思わぬところから情報が漏れて、勝手にプレインが動く事も考えられるのだ。あの怖い艦長って結構ゴーマンな所ありそうだったしな。
まあこれは最悪の場合の話だけど、そうなってもいいように、俺は一刻も早く仰せつかった任務を遂行しなくては。何せ、シアンさんが「頼むわね……ツカサ君……。貴方だけが頼りなの、格好いいわツカサ君」とか言ってくれたからな!
……格好いいわとは言ってなかったかも知れないけどまあ良いか!
「ツカサくぅん、もう仕事するのー? 明日でいいんじゃないー?」
「腹が減った……ツカサ帰ろう……」
せっかくやる気になっていたと言うのに、背後でやる気なさげに座っている中年達は、俺を萎えさせるような声音を漏らしてくる。
しかしその声に負ける訳には行かない。なんとかして影達の本拠地を突き止めなきゃ行けないんだけど……。
「ロクショウ君、今呼べないんでしょー? だったらもう無理だってー。あの蜜蜂も海の上は流石に長時間跳べないだろうし、飛行系は全滅でしょー?」
「うぐ……」
ブラックの間延びしたムカつく声が、俺の背中にザクザクと突き刺さる。
……そう。そうなのだ。
俺は当初、シアンさんに頼まれた時にロクショウに手伝って貰おうと思っていた。
ロクなら長距離を飛行できるし、なんてったって最強で可愛い準飛竜なのだ。俺も早く会いたかったし、一緒に空デートと洒落こみたかった。
……だが、いざ呼ぼうと思ったら、シアンさんに釘を刺されてしまったのだ。
――シアンさん曰く、俺達が二人で廃虚の別荘に籠っている間に、ロクの修行を手伝ってくれている魔族のアンナさんから手紙が来たらしい。
その内容はと言うと……修行が完了してもいないのに、敵と戦わせるとは何事だと言うお叱りの言葉と、今後はこちらから出向くまで、よほどの緊急事態でない限りは呼び出すなと言う警告だった。どうやら、レッドと対決させた事がバレたらしい。
そんな訳で、俺達はロクショウNGをくらってしまい、今こうしてどうしたものかと途方に暮れながら海を見つめているのである。
はあ……ロクぅ……会いたかったよぉ……。やっぱし危ない場所に呼び出すんじゃなかったなあ……。後で改めてお手紙を出して謝らなければ……はあ……。
「なんでそうツカサ君はロクショウ君にだけ露骨に態度を変えるのかなぁ」
「ムゥ……羨ましいぞ……」
「ロクは俺の相棒なんだから当然だろ! しかも今は会える回数も少ないんだから、落ちこむのは当たり前じゃないか……」
ロク……はぁ、ロクぅ……あの黒光りする鎧みたいなツヤツヤの体を撫でたい。
どこまで修行が進んだのかとか、色々話しながらお空デートしたかったよお。
愛しのロクの事を考えると深く深く落ち込んでしまうが、これは全て俺が招いた事なので仕方がない。気を取り直して、何とか他の方法を考えなければ。
そんな事を思いながらも、どうすれば良いのやらと悩んでいると……――
「クィー」
「……この声は……」
丁度いいタイミングと言うかなんというか、なんと、さっきの可愛いイカちゃんが戻って来てくれたらしく、海から飛び上がって来てくれたのだ。
ああこのどんぐりみたいなずんぐりした楕円形のフォルムと、小さな足!
ふああもう可愛くて癒されるぅう……!
「あーまたツカサ君が……」
「まあ今日は我慢しよう。ツカサはロクショウの事で落ちこんでいるからな」
ありがとうクロウ。お前は本当に話が分かる奴だなあ。
心の中でホロリと泣きつつ、イカちゃんを手に載せて挨拶すると、相手はカエルのような独特の横長の瞳孔をした瞳で俺をじっと見つめる。
表情が無いように見えるけど、こうしてみるとなんか何を考えてるのか解るな。
これは俺を見つめているんだ。でも、どうして戻って来てくれたのかな。
不思議に思っていると、小さなイカちゃんはお手手の役割をしている足をピョイと上げて、何やら主張するようにソレをばたばたさせ始めた。
んー、んんー?
なんだろ、よく分かんないけどアピールしてるのは解るぞ。
もしかして……手伝ってくれたりとか、するのかな……?
頼んだらどうにかなったりして……いや、ダメもとで言ってみるか。
「イカちゃん、頼みたい事が有るんだけど……聞いてくれるかな」
そう言うと、相手はバタバタさせていた両足、いや両手をいっそう伸ばして「イカちゃんに任せなさい」と言わんばかりにクィーと鳴いた。
ううん可愛い、百点満点! ……じゃなくて。
「あのね、俺達、実は海の上を走って来る黒い影を探してて……どこからやって来るのか知りたいと思ってるんだ。キミは、アイツらの居場所を知らないかな」
知らなかったら知らなかったで良い。可愛いは正義なのだ。
でももし知っていてくれたら、これは大きな進歩になる。
そんな俺の期待を、イカちゃんは暫し体を横に揺らしながら吟味していたようだが、急に何かを納得したかのように「クィー!」と元気に啼くと、俺の手の上から再びピョンと降りて、海に飛び込んだ。あー、また帰っちゃったー!
「イカちゃーん!」
海を覗き込むと、イカちゃんは俺に手を振っている。
そうして、何をするかと思ったら……透き通る海の中で一生懸命にスミを吐き出しながら、その場でちょこまかと移動し始めた。
何をしているのかと、いつの間にか横に来ていたオッサン達と見守っていると。
「あ……」
イカちゃんは、なんと……海面に、スミで大きな「○」を描いたのだ。
「うそぉ……」
「これは、ツカサの言う事が解ったと言う事なのか?」
さすがにこれにはブラック達も驚いたようで、信じられないと言わんばかりの顔で目を丸くしている。だが、これは現実だ。確かにイカちゃんは理解してくれたのだ。
「じゃっ、じゃあ、頼んでもいいんだね?!」
「クィイッ!」
そうだよと言わんばかりに手をバタバタさせる可愛いイカちゃん!
あーっ俺が人魚か半漁人だったら今すぐ飛び込んで抱き締めるのにぃいい!
「ありがとう! でも、無理しないでね!?」
そう伝えると、イカちゃんはすいすいとその場で踊るように海中を泳ぎ、身軽に沖の方へと泳いで行ってしまった。
「…………ツカサ君、まさかイカとも意思疎通できるなんてね……」
「ツカサの世界ではイカ話術みたいな物が有るのか?」
「いや、そう言うのは無いと思うけど……」
しかし、なんでイカちゃんは俺に協力しようとしてくれたんだろう。
イカに恨まれることは有っても、こうやって親切にして貰えるような事なんて何もしてないんだけどな……このランティナでは、特に。
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