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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編
15.気付かぬお前は罪な奴
しおりを挟むマグナの部屋は、俺達の部屋がある階より一階上だ。
どうも、俺が泊まらせて貰った部屋がある階は客室も兼ねているらしく、それより上の階は兵士が使っているらしい。
よくわからないけど、そこの階から上に行くほど階級が上がるのかな?
しかしこの兵舎は元々プレインの兵士達の物じゃないしなあ……。海賊ギルドに併設されてるっぽかったから、海賊が使う施設だと思うんだけどよく解らん。
まあ、上の階の方が寝心地が悪いって訳でもないだろう。
むしろ眠れていない方が何だか心配だな……。
昨日はマグナも船の機関室に籠りきりで、その後も風呂を用意してくれてたり会議に出たりと色々大変だったんだ。きっと心身ともに疲れていたに違いない。
だとしたら、むしろ寝坊なんてして欲しいくらいだ。
睡眠ってのは人の三大欲求だ。性欲よりも強い欲望なのだ。
俺的には性欲だけでいっぱいいっぱいなのに、睡眠欲ってのは時にその性欲すら凌駕して俺を襲ってきやがるんだ。マラソン大会から帰って来た夜にちんちん握ったまんまで寝そうになった俺が言うんだから間違いない。
脳みそが「寝坊するほど休め」と言っているのなら、俺達は従うしかないだろう。
俺も寝坊したり遅刻ギリギリまで寝てるから、気持ちはよく分かるぜ!
……というわけで、俺としては出来るだけ寝かせてあげたいのだが……今の状況では、それも叶わないんだよなぁ。
せめて頭が痛くならないように起こしてやろうなどと思いながら、俺はシアンさんに教えて貰った部屋のドアをノックした。
「…………ふむ?」
何回かノックしたけど、全然返事が返ってこない。
ちょっと心配になって来て、ドアノブを捻ると……なんと、開いたではないか。
おいおい、鍵も掛けてなかったのか。マジで大丈夫かよ。
余計に心配になってドアを開けると、俺はちょっと大きな声でマグナを呼んだ。
「おーい! マグナ、起きてるかー!?」
そこまで煩くはない程度の声だが、聞こえただろうか。
しかし、薄暗い部屋の中から返答は無い。この部屋も、ホテルの一室みたいに短い廊下が有って、出っ張った洗面所にベッドが置かれた部分が隠されている。
真正面に見えた部屋の一部には、何だかよく判らないけど……とにかく金属の何かとか色々なサイズの紙が散っていて、一言で言うと非常に乱雑だった。
うーむ、相も変わらず凄まじい感じだ……色々作り始めるとマグナはすぐに部屋を散らかしてしまうみたいだが、今回は一日でこうなったっぽい。
かなり頑張ってたみたいだけど、まさか徹夜なんてしてないよな。
ますます心配になって、俺は早足で廊下を突っ切りベッドの方を見やると。
「っ、ま、マグナ……」
そこには、胡坐を途中で解いたかのように片膝を立て、そのまま横になった状態で寝ているマグナの姿があった。
しかも、手には何か持っていたのか指が緩く曲がっていて、周囲に工具っぽい道具がゴロゴロと転がっている。このまま寝転がったら絶対ダメージ喰らうな。
思わず片付けようと手が出そうになったが、良く考えたら他人にモノを動かされるのは結構カチンと来るもんだ。寝起きからイライラさせたらいかん。
仕方なく、俺はモノを踏まないように慎重にマグナに近付き、その肩をゆすった。
「まーぐーなー、起きろって」
「ぅう゛……」
起きる気配がない。それどころか、起きないぞと言う頑固な意志を感じる。
しかしここは心を鬼にして起こさねば。俺は再度マグナを揺さぶった。
「マーグナってばー。朝だぞー? みんなもうご飯食べちゃったぞー?」
あくまで優しく語りかけつつ、肩をゆっくり揺する。
本当は起こしたくないんだけど、こんな格好で寝てたら風邪を引くかもしれないし何より体がガチガチになって硬くなっちまうよ。
しかし、これまた全く起きる気配も無い。
……うーん……仕方ない……とにかく、この体勢だけでも崩してやらねば。
背後のモノをとりあえず端に寄せて、俺はマグナの体を仰向けにしてやった。
「…………本当、ムカツクくらいイケメンだなぁ」
何度目の感想だよって感じだけど、見たらそう思っちゃうんだから仕方ない。
銀髪紅瞳の、見た目はクールなライバルキャラっぽい青年。
この時点で最早美形キャラである事は決まったようなもんだが、実際にそんな奴を見ると、張り合うのも馬鹿らしくなる。だって、俺から根本的に違うんだもん。
睫毛長いし、髪の毛もちょっと遊ばせてるけどサラサラだし、顎も男らしく適度にしっかりしてるのに美少年だからか、男寄りの中性的な顔って感じで万人に「カッコ良い」って言われそうな顔立ちだし……こんだけ負けてりゃ、もう嫉妬心も湧かん。
それに、マグナの野郎はそんだけモテる容姿なのに、まあそのクール美形ライバルキャラそのままで「女にもメスにも興味は無い」と言う態度なんだもんなあ。
そこは殴りたいぐらいムカっとするが、まあ本人がメカ一筋なんだから仕方ない。
しかし……本当、もったいないよなあ。
「俺がお前の顔だったら、ホント、人生イージーモードなんだろうけどなあ」
クール系俺様キャラかと思ったら、メカオタクの変人なんだもんな。
なにそれ。あえてのズラしで好感度余計にアップってか。ちくしょうイケメンてのは本当に何から何まで上手く出来てんなこの。
なんか段々ムカついて来たぞ。スヤスヤ寝やがって、このやろっ。
「えいえいっ。起きろこのっ」
ムカムカしたので、理不尽だとは解っていつつも頬を指でつついてしまう。
くそっ、イケメンは肌までイケメンなのか。悪い所一個ぐらい有れよ。
こんちくしょー、耳まで個性的で一体いくつ属性追加すれば気が……。
「…………そう言えば、マグナの耳って何でちょっと尖ってるんだろ?」
今まで「そういうモンか」と思って気にしてなかったけど……良く考えたら、今まで会ってきた人の中では、耳の先端がこんな風にほんの少しだけ尖っている人なんてマグナしか居なかったぞ。
もしかして、そういう人種なのかなあ。でも、こんな耳の種族なんているかな?
魔族とかにしても、こんなちょっと人間っぽい感じの耳じゃなくて短いエルフ耳的な感じだろうし……うーん、首長族的な地域的特徴ってヤツなのかね。
「神童だから、特別な感じなんだ! と言われたらまあ納得するしかないんだけど、本当この世界って微妙な違いが多くて困るなあ」
俺が知ってるファンタジーな事象ばっかりならドヤ顔で冒険も出来たのに、ここは予想外の事ばっかりだ。そもそもステータスウィンドウもないし。
恐らく、アスカー神の他にも日本人の神サマや黒曜の使者が数人居たんだろうに、どうしてそういう便利機能を付けてくれなかったんだろうか。
まあ、なくてよかったって思った所も有るから、結果的には良かったんだけど……ここに来た日本人の奴らは、ステータスウィンドウについては何も考えなかったのかなぁ。……まあ、査術っていう相手の能力をある程度把握する術もあるんだけども、俺は使えないし。全然使い方解らんし。
ああもうなんかクサクサして来た。
これもマグナが早く起きないから悪いんだからな!
「ったくもう綺麗な顔して寝やがって……」
鼻毛でも出てないもんだろうかと、目を凝らしながら顔を近付ける。
もう少しで鼻の穴が見えそうだなと思って、ふと、マグナの顔を見やると。
「あっ」
マグナの目が薄ら開いている。やべっ粗探ししたのがバレちゃう。
慌てて離れようとした俺に、薄く目を開いたマグナは、何をするかと思ったら。
「……ぁ、さ」
「はえっ?」
何だか名前を呼ばれたような気がして、そして……何故か、マグナにぎゅっと抱きしめられていた。
…………あれ……。
あれぇえ……?
「ま、マグナ?」
呼びかけるけど、相手は答えない。
それどころか、俺が声を発したと同時に自分の側へ引き倒そうとして来る。
当然、マグナにすら負ける腕力の俺は、思いっきりその胸にダイブしてしまって。
「ちょっ、お、おい、マグナっ」
うわっコイツ汗臭いけどイイ匂いする。なんか香水つけてます?
じゃなくてバカっ、何やってんだ!
「マグナっ、おいマグナ! 寝惚けてるんじゃないってば!」
「つ、カサ……」
俺の事は解るらしいが、夢からまだ醒めてないようだ。
こ、困ったな……これじゃ寝かせてやるとか起こすとかそれ以前の問題だ。
どうにかしてマグナに起きて貰わないと……。
「マグナってば! おいっ、男なんて抱きかかえてんじゃねーぞ!!」
「う゛う……」
マグナの腕の中でもぞもぞと動き、なんとか状態を起こした俺は、目の前の夢現な相手の顔に今度こそ大きな声をぶつけてやる。
すると、ぼけっとした顔をしていたマグナは、ゆっくりと瞬きをして――――急に、目を見開いたと思った瞬間、俺を放り投げた。
「んぎゃっ!?」
あまりに突然の事で受け身が出来ず、俺はそのまま横に飛ばされて壁に強く頭を打ってしまった。い、イデデ。
「アッ……す、すまんツカサ!! 大丈夫か!?」
「い、いや……まあ、とにかく目が覚めて良かった……」
そりゃあ、起きて目の前に男のツラ……っていうか友達のツラがあったら、驚いて退けようとするだろうさ。俺だってそうする。だって額に肉とか書かれそうだし。
でも、もうちょっと加減して欲しかったなぁ……この世界の奴らってマジで見た目よりずっと力が強いから困っちまうよ。
「本当にすまない……ついうとうとして、その……夢を……」
「夢? 何の夢? あっ、もしかして悪夢?」
直感で問いかけると、相手は薄ら困ったような表情になったが、すぐにいつもの心が読みにくいキリッとした表情になると首を振った。
どうやら悪夢のせいではなく、純粋に俺の顔に驚いたらしい。怒るぞこら。
「悪夢じゃねーってか。じゃあ、俺の顔がバケモンにでも見えたっての?」
「そ、そうは言ってないだろう! 違うぞ、そのっ俺は、と、突然で驚いて……」
「何焦ってんの、冗談だって。……それより、マグナちゃんと寝たのか? 徹夜とかしてないよな?」
問いかけると、マグナは先程とは打って変わって弱ったような顔になる。
これは……明らかに「しました」と言う顔じゃないか。
思わず呆れ顔になった俺に、マグナはバツが悪そうに目を逸らした。
「その……お前の言っていた“影が纏っていた靄”が気になって、それだけでも探知が可能な曜具が作り出せないかと……色々、思案していたんだが……」
「え……俺が言ってた、アレ?」
問い返すと、マグナは何故かちょっと赤面しつつ、目を逸らしたまま頷いた。
「会議では軽く流されたが……俺は、お前の報告が気になってな。以前まであの影の出現は全くの突然とされていたが……もしその“靄”を遠方から探知できる曜具を作り出す事が出来たら、あいつらの本拠地も解るのではと思ったんだ」
「マグナ……」
俺が報告した事、そんなに重要視して考えてくれてたんだ。
何だか胸がじぃんと熱くなって、思わず名前を呼ぶと……マグナは、赤らんだ頬を照れ隠しのように指で掻いて、俺の事をチラリと見て来た。
「……お前が見つけた事を、俺が昇華させて“凄い発見だ”と言わせたかったんだ」
そんな。
お前、それで徹夜してたってのか。
お……お前……お前、なんて……なんて友達思いの男なんだ……っ!!
さっきまで嫉妬していた自分が恥ずかしい、鼻毛とか探そうとしてごめんよお!
「マグナ……お前はマジで良い奴だなぁ……っ!!」
思わず涙がちょちょぎれてしまい、鼻を啜りながらそう言うと、マグナは何故だか少し戸惑ったような、嬉しそうな……何だかよく解らない顔をして、ただ頷いた。
それがどう言う表情だったのか俺には解らないけど、でも、何だって良い。
俺が見つけた事を無駄にしたくないなんて言ってくれるなんて、本当にお前って奴は友達思いの良い奴だよ。もう心の中までオール満点のイケメンだよ!
「ツカサ、その……迷惑かけて、すまんな……」
「良いよお! つーか、俺こそゴメン。お前がそんなに頑張ってくれてるなんて思わなかったから、風呂入って満足して寝ちゃって……。あ、でも、今度からは徹夜とか禁止だからな。そう言う事するなら、俺が見に来て怒るからな! 俺は、お前がフラフラになりながら作った曜具とか使いたくないからな絶対!!」
俺の事を考えてくれる大事な友達だからこそ、無茶して欲しくないんだ。
頑張ってくれるのは嬉しいけど、体力を削るような事はしてほしくない。
だから、真剣に詰め寄ったのだが……何故か、マグナは更に顔を赤くして、俺から離れるように勢いよく後退りやがった。
「う……わ、わかった……」
「おいっ、なんで逃げるんだよ!」
「い……いや……その……と、とにかく、なんだ。下か。下に行けばいいんだな!」
「えっ?! あっ、おいっ、ちょっと待てよ!」
マグナらしくない破れかぶれな声を出したかと思ったら、相手は急に勢いよく立ち上がって、さっさと部屋から出て行ってしまった。
ったくもう、何だってんだよ。
「…………ホントに大丈夫かなあ……」
さっきからずっと顔が赤かったんだけど、熱でも有るんじゃないか?
……まさか……至近距離に慣れてなくて照れちゃったとか……?
でも、有り得ることかも。だって相手は神童としてずっと研究一筋だった奴だし、あまり人との接触が無かったってタイプなのかもしれない。
だとしたら、こんな風に近くに人がいたら、動揺しちゃって仕方なくなるのかも。
なら、あんまり近付かない方が良かったかな。
自分から近寄るのは平気でも、他人に急に近寄られると固まっちゃう人もいるって聞いた事あるし……マグナもそのタイプだったら、悪い事しちゃったかも。
「うーん……新しく出来た友達との距離感って、マジで難しいなぁ……」
俺の世界の気安い友達とマグナは違うんだから、出来るだけマグナを尊重しながら付き合わなきゃな。とにかく今後は近付き過ぎないようにしよう。
でも、どんだけ離れてたらいいのかな。
「1メートル? いや、2メートルから始めた方が良いのか……?」
今更ながらに友達の距離に悩みつつも、俺もマグナを追うべく部屋を後にした。
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