異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編

13.あまいあまいあなた1

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   ◆



「なるほど、薬風呂というわけだな」

 隣で俺と同じようにゴシゴシと体を洗うクロウが、納得したようにうなずく。
 相変わらず筋骨隆々な体だが、今更なので何も言うまい。
 俺も頭からお湯をかぶって泡を流し、顔をぬぐった。

「ふーっ。そうそう。マグナが作ってくれたご褒美……つっても多分、試作機を試しに使って貰おうってハラだと思うけど、まあ、そんなワケでこの風呂って話」
「とはいえ、これは今のところ男風呂だけなのだろう? オレには充分にツカサへの主張に感じるがな……」
「え? 酋長しゅうちょう?」

 なんでいま未開の地のボスの話に。じゃなくて主張か。
 主張ってなんの。俺はデキる男だぞアピール?

「主張って……今更俺は優秀だぞってドヤ顔されても、イラッとくるだけなんだけどなあ。まあ、マグナは友達だから良いけどさ」
「フム……そうか。ならいい」
「……?」

 なんだかよく分からないが、クロウは急に何かに満足したようだ。
 何、クロウもちょっとイラッとしたの。お前そんな、フィジカル最強なのに技術力まで欲しいってのか。そんなのズルいぞ、マッチョ研究者とか無敵じゃんやめろよ。

「クロウは無理して研究とかしなくていいからな!」
「う、ウム? 解った……?」

 なにその疑問形の口調……と思ったが、研究しないなら別に良い。
 それより、今の俺が気になっているのはクロウの髪の毛だ。

 ……今更だけど……本当、ナゾなヘアースタイルしてるよなあ、クロウって。

 クロウは、ポニーテールにしたのに髪がボサボサしすぎて、正面からみたら肩までボサボサの髪が乗っかっているモッサリした髪型なんだが、今はそんなボサボサ髪を解き、髪を全部降ろしている。
 そのため、普段は肩口までもっさりと伸びている不可思議な色の髪が、肩甲骨の所まで伸びて流れていた。

 いつも(普通に野生人レベルでボサボサ伸びてるんだから、申し訳程度にポニテにしなくても良いのでは……?)などと思っていたが、この姿を見ると髪を縛る理由も少し理解出来た。鬱陶うっとうしくて背中に掛かる髪だけを結んでたんだな。

 そんな事をするなら切ればいいと思うのだが、きっと獣人ならではの理由があるのだろう。この世界の獣人族は毛皮を体毛を変化させてるみたいだから、クロウの髪も無暗に切ったり纏めたりって出来ないのかも。
 ほんと、頭にプロペラのついた赤い雪男レベルにもっさりした髪型だし、爽やかなクロウも見てみたいかも……なんてことも思わんでないんだが、本人が望んでいないのなら俺にはとやかく言う権利は無い。

 まあ、今のままのクロウが一番な気もするからな。
 ……でも、いつまで経っても頭洗うの上手にならんなあ、クロウ……。

「クロウ、適当に頭洗っちゃだめだぞ。ちゃんと丁寧にしなきゃ。ハゲるぞ?」
「だが目をつぶるし耳に泡や水が入るのが嫌だし、一人じゃ出来んのだ。こういうのは獣の姿の時に水浴びをすれば済むというのに……」

 ああそうか、熊耳が頭に付いてるから、余計に水が入り込んじゃうのか。
 一応熊耳を伏せてフタをしてるみたいだけど、それでもやっぱ難しいよなあ。
 でも、三十も越えてるだろうこの歳になってシャンプー下手ってそれはどうなの。

 さすがに獣人でも頭を洗うのは一般常識なのでは……いや、お湯で流すだけの地域もあるし、そういう奴なのかな。それとも一人でシャンプーした事無いとか?
 今更ながらに気になって来てしまったけど、なんか聞けないよな……。

「……髪を洗うの、手伝う?」

 思わずそう聞くと、クロウはぷるぷると頭を振って水を飛ばすと、コクコクと子供のように頷いて来た。ああもう、ブラックと言いこの良いトシしたオッサンどもは。
 ……でも俺が提案したんだし、悪態をつくわけには行かない。
 俺は風呂椅子から立ち上がってクロウの背後につくと、体を後ろへ傾けさせて湯をかけ流しながら洗ってやろうと思ったのだが……この体勢だと辛いな。

「クロウ、先にお風呂に入って。小桶こおけにお湯をんで流してやるから」
「ム……だが、一番風呂はツカサのものではないのか?」
「目の前で泡だらけの頭をした奴に凝視ぎょうしされつつお風呂に入るなら、俺は二番風呂を喜んで選ぶよ」

 クロウだけ頭に泡を残してるなんて、俺だけ身綺麗にしてるみたいで嫌じゃん。
 そんな事になるなら、クロウをちゃんと綺麗にしてあげて一緒に風呂に入りたい。
 俺のそんな気持ちを知ったのか、クロウはピンと熊耳を立てて、素直に風呂の中に体を沈めた。そうして、頭をごろんと風呂のふちに転がす。

「これでいいのか?」
「こらこら、地面に触れるもんじゃないぞ」

 ったくもう、野性味あふれるオッサンってのは、色々気にしないんだから。
 俺はクロウの頭のそばひざを付くと、湯桶を持って来てクロウの頭を少し浮かせた。
 素直に頭を上げたクロウの髪をすくい、それから俺は髪を小桶に入れてお湯で掛け流すように何度も桶のお湯を掛けて髪をく。

「グゥ……」

 クロウは気持ちよさそうに目を閉じて、少しだけグルグルとのどを鳴らしている。
 これは気持ちが良い時の音だな。猫みたいで可愛いやつだ。
 オッサンから聞こえるのはアレだが、まあクロウは獣人だから許されるよな。

 熊耳に入らないように側面からお湯を流したり、クロウにうつ伏せになって貰って前髪を流したりして、やっとクロウの髪が大人しくなった。
 綺麗に洗うと、ボサボサしてた野性味あふれる髪も少しだけ落ち着く。そんな時のクロウは、なんだかアラブっぽい系知的なキャラに見えなくもない。浅黒い肌って、やっぱり熱い国のイメージなんだよなあ。

 軽く髪を絞ってやり「おしまい」と言うと、クロウはとろんと蕩けた顔をしながら口をムニャムニャと動かした。

「もう終わりなのか……ツカサに洗髪して貰うのは気持ちが良いぞ」
「そう? ふふ、そう言われると照れるな」

 好きでも無い奴の髪を洗うのは嫌だけど……ブラックやクロウの髪を洗ってやるのは、むしろ楽しい。友達だとそうは思わないから、やっぱり二人は俺の中で特別なんだろうな。そう考えると何だか凄く恥ずかしかったが……まあいい。
 さっさと風呂に入ろう。そう言えば俺は全裸なんだ。

 クロウはブラックみたいに常にハァハァしないから、すっかりいつもの感じで世話を焼いてしまったが、良く考えたら全裸は危険だった。
 こんなのほほんとしているが、この熊中年も俺にハァハァする人なんだ。
 さっさと風呂に入って体を隠してしまわねば。

 俺はもう一度体を流すと、クロウより少し離れた所から浴槽に足を入れた。
 おお、泡が柔らかくてぱちんと弾ける。シュワシュワする感じかと思ったら、意外と粘着力が有って肌に付着する感じだなあ。
 でも、不快な感じじゃない。体を沈め肩まで浸かってみると、しゃわしゃわとした軽い感触が体にまとわりついて来て、じっとりと溶けて行くようだった。

「ふぁー……なんかこれ……クセになりそう……」

 体に張り付いた泡が溶ける時に、内部にじわじわと温かさが染みる感じがする。
 これが、泡状になった回復薬の効能と言う奴だろうか。なんだかいつもより体力が回復するような感じだぞ。大地の気の量はよく分からんけど、これは売り物にしても期待できるんじゃないか?

 あまりの爽快感に思わず口笛を吹いて、頭にタオルを乗せてしまう。
 タオルを乗せる意味は実はよく分かってないんだけど、父さんとかがよくそうしてるから、何か自然と真似ちゃうんだよな。はーそれにしても極楽極楽。

 これは早く上がってブラックとシアンさんにも良さを教えてあげないと……。
 疲れた二人にも、ゆっくりお湯に浸かって疲れを取って貰おうじゃないか。
 こんな素晴らしい風呂なら、きっと喜んでくれるぞ。

「ふふ……」

 ブラックやシアンさんが気持ちよさそうにお湯に浸かっている姿を想像して、何故か自分が嬉しくなって思わず笑ってしまう。
 すると、横からちゃぷんと音がした。

「ツカサ」
「ん? どしたクロウ」

 名前を呼ばれてそちらの方を見ると、クロウは何だか不機嫌そうな顔をして、ゆるゆると俺の方に近付いてきた。

「どうして離れた所にいる。オレと一緒に風呂に入るのはイヤなのか?」
「えっ、い、いや、そんな訳じゃないんだけど……」
「なら、どうして近付かない。こうしたって良いだろう」
「っ!」

 クロウはいつになく強引に肩をくっつけて来て、ずいっと顔を近付けて来る。
 当然、オッサンでもクロウも顔が良いもんだから、そんな事をされたら俺だって思わずドキリとしてしまうワケで……。

「ツカサ……お前はオレを甘やかしてくれると約束しただろう。なのに、そんな風に離れられると悲しいぞ……」

 至近距離で熊耳をちょっとへたれさせて、橙色だいだいいろの目を潤ませるクロウ。
 顔は相変わらず無表情なのに、もう雰囲気が俺に「悲しい」と訴えている。
 ああもう、このオッサンはどうしてこんな自分の武器をフルに使うんだあ!

 待って、本当もう近付いちゃだめっ。
 あ、あの、肩つかまないで引き寄せたら駄目だって、ああ、ああああ。

「くっ、クロウ、まって、あのっ」
「ツカサ……せっかく二人きりになれたのに、甘やかしてくれないのか……?」
「う……あ、甘やかすって……」

 まさか、えっちな事……いや、甘やかすんだから健全な方向も有るはず。
 咄嗟とっさに「お湯が汚れちゃうだろ!」とツッコミを入れようとしてしまったが、俺の方がそんな事を思っているだなんて勘付かれたくない。

 そう、俺は「甘やかす」ことを考えて照れているんだ、絶対にえっちな事なんて、かっ、考えてないし期待してもないんだからな!!
 むしろブラックにバレたらヤバいとか、お湯を汚したらマグナに申し訳ないと思って、想像して困っちゃってるんだ! それだけなんだ!

 だから、クロウから「甘やかして」と言われても、あせらずに聞いてやるんだ。
 でも……なんか、その……目の前のクロウの雰囲気が……なんというか……。

「ツカサ……」
「あの……でも、甘やかすって……どうすりゃ、いいの……」

 まあ、そりゃあ、約束したし。
 それなのにこの状態なんだから、クロウが不満を言っても仕方がないだろう。
 だけど……甘やかすってのも種類がある訳で……。

 「どう甘やかして欲しいのか」と目と鼻の先にある眠そうな顔を見返すと、クロウは少しだけ表情を緩めて……俺の口に、キスをして来た。

「ん……っ!?」

 なっ、ちょっ、ちょっと、キスって……!
 ああでも、ブラックは許してくれたんだっけ。違ったかな。でも、その、い、いきなりキスって絶対にブラックが怒るんじゃ……。

「ツカサ……今までずっと触れられなかったぶん、オレに沢山触れてくれ……」
「っ、ぇ……」
「甘やかして、くれるんだろう?」

 風呂場が汚れるような事はしないから、と、またキスをされる。

 ブラックとのキスとは全く違うその感触に何故か硬直して、カッと体が熱くなってしまう。だけど、クロウは切なげな様子で熊の耳を震わせて、俺の意識すら離すまいとするようにあごを掴み自分の顔しか見れないように固定して来て。

「く、ろう……」
「オレも……二番目の雄の、オレも……ツカサの体で、気持ち良くなりたい……」

 そんな、切なそうに言われて……キスされたら……
 もう、拒否する事も出来なかった。














※ちょっと次風俗っぽいかも(´・ω・`)ご注意を

 
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