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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編
友達にはイイ顔をしてやりたいもので2
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ブラックもクロウも見た事が無い船ということで、内部はどんな感じなのだろうかと俺も思っていたのだが、実際は以前乗った海賊船とあまり変わらなかった。
内部は木造が基本だし、ガーランドの船よりはしっかりしていて広く、さすがは国が所有する船って感じだけど、フェリーとかそんな感じではない。まあ、通路の天井には水琅石のランプが等間隔に下がっていて、その横を色々な配管が通っているから、そこは俺の世界の船とちょっと似てるけどね。
壁にもガラス管の燭台があるので、普通の船よりは灯りが多いなって感じではあるけど……普段は水琅石を節約して蝋燭の明かりにしてるのかな?
それとも、水琅石は水を使用するから基本的には使わないようにしようって思っているんだろうか。そういや、この世界では「電力」ってないもんな。
だとするとこの船の動力って何なんだろう……と思っていたが、マグナが案内してくれた船の最下層でやっと謎が解けた。
なにせそこには、巨大な歯車と細かな部品が複雑に組み合わさった、時計の内部のような不可解な光景が広がっていたのだから。
しかし驚くのはこればかりではない。動力なんて、俺が想像していたモノとは全く違う、普通じゃ有り得ない物だったんだから。
「……まさか、動力が“動金”なんてなあ……」
二段ベッドが左右に取り付けられた、ちょっと狭い感じの船室。
そこで三人仲良くリンゴっぽい赤い果実をシャクシャクと齧りながら、先ほど見た驚くべき光景を振り返っていた。あ、因みに今の発言はブラックな。
そう、アフェランドラの動力は、ブラックでも考えつかないものだったんだ。
恐らく誰だってアレには驚いただろう。だって動金だぞ。単語だけじゃどんな存在だか想像できないし、意味が解らないよ。
そもそもの話、『動金』なんて言葉は俺の世界では聞いた事も無いし、きっとこの世界ならではの造語なんだろう。だけど、動金ってモノは、実際に見てみると余計に想像が出来なくなりそうなシロモノだった。
「まさか、金属を術で鍛金する前の“流動体”の状態で固定して、そのまま動力にするなんてな……それは僕も思いつかなかったよ……」
何故か悔しげにそう言いながら、ブラックはリンゴっぽい果物をシャクっと齧る。
俺には詳しい原理は解らないけど、そうなのだ。
俺達が機関室で見た物は、緑透色の液体の中で激しく動く青銀色の金属と……その金属の一定の動きで上下するピストン。そして、それによって稼働する、巨大な歯車仕掛けのエンジンだったのである。
いや、エンジンと呼べるものなんだろうか、あれは。
でもあの機構で普通に動いてたし……なんかよく解らんけど、動力源には違いないよな……。そもそも俺、エンジンとか車やバイクのですらよく判ってないんだけど、とにかく動いてたんだから別に良いよな。エンジンはエンジンなのだ。
マグナが言うには、さっきブラックが言っていたように『特殊な処理を施して規則性のある動きをするようにした金属』を使い、あの謎の液体に浸して動かしているんだと言う。緑色の液体は、ガソリンと同じく燃料の役割をするとともに、金属の冷却機能を備えているんだそうだが……理系ではない俺にはサッパリ解らない。
とにかく、あのデカい歯車や無数の部品を一度に稼働させるほどのパワーを持っているって事だよな。それもそれで凄いんだけど……しかし、あの金属は爆発したりしないもんなんだろうか。何か凄い動いてたし、ちょっと怖いな……。
でも、マグナが作った物なら壊れる事は無いか。
まあ道具って使い方次第だし、もし壊れるとしたら扱い方が悪いんだな! うん!
「ツカサ君なに考えてるのかなー?」
「むぐっ!? あ、あんでもらいれふ」
やべえ、また深々と考えてた。
本当ブラックは毎回心を読むから困るんだよなあ……危ない危ない。
まあ隣に座ってるから、俺の顔の微妙な変化も解るのかも知れないけどな。
果物をしゃくしゃくしてごまかしつつ、俺は話を逸らす為に明るい声を出した。
「と、とにかくさ、あの動金機関ってやつでこの船の色々なモンを動かしてんだろ? 海中のヒレを動かしてるのもアレなんだよな」
「うん、まあ、そうだね。……でも、櫂は普通海面を掻く物だと思うんだけどなぁ……アレだと、海中からモンスターに襲われたら困るよ」
そういやそうだな。海のモンスターって海の中にいるんだし、そいつらが櫂を壊すほどの知能を持っていたらかなり危ない気がする。
でも、マグナの事だから何か対策は考えてそうだよな。
それはクロウも考えていたのか、真向いのベッドに座って芯ごとガリガリと果物を齧りながらペロリと口周りを舌で舐めて見せた。
「まあ、神童と言われるからには何か考えがあるのだろう。奴隷船とは違うのだし、帆も存在するのだから、対策は有るに違いない」
「うーん……そうかなぁ」
クロウの言葉にもブラックは納得しない。
口を尖らせてぶーぶー抗議するブラックは、果物の汁で口の周りがベッタベタだ。お前の不満よりそっちの方が気になるっつの。
ああもうなんで良いトシした大人のくせしてそうなるんだよお前は。
「あのなあ、辛気臭いことを考えてたら現実になっちゃうかも知れないだろ! もういいから、そういうのヤメヤメ!」
「でもさあ」
「デモもヘッタクレもないの! ほらもうこっち向いて!」
「あへ」
アヘじゃないよまったくもう。
バッグからハンカチを取り出して口の周りを乱暴に拭うが、ブラックは先ほどの不機嫌そうな顔はどこへやらって感じでニコニコと笑い出す。
お前……わざとやってんじゃないだろうな……。
オッサンの世話する俺に身にもなれや!
「ふへへぇ……ツカサ君もっとかまってぇ~」
「ちょっ……こらっ、抱き着くなって! 狭い部屋なんだぞ!」
「ムゥ……ブラックずるいぞ。ツカサ、オレも拭いてくれ」
「クロウは綺麗に食べてたでしょ!!」
なんでこういう事で張り合うのっ。
頼むから少しはオッサンらしくしてくれよぉ……。
「ツカサくぅ~ん」
「ばっ、ばかっ、ちょっとっもうっ狭いのに……ッ」
ああもう、キスして来るなっ逃げ場がないじゃないか!
抱き着いて来るブラックを引き剥がそうとするが、肘から上を纏めてぎゅっと腕で固定されてるもんだから、上手く腕が動かせない。それどころか、デカブツな図体で思いっきり体重を掛けられて、どんどん体が斜めっていく。
ぐ、ぐぐぐ……このままでは押し倒されてしまう……っ。
「んん~、ツカサ君のほっぺと唇、果物の甘い味がするよぉ」
「んぅっ、やっ、もうっダメだってば……!」
頬や口に軽いキスを何度もしながらベッドに俺の体を横たえようとするブラックに、俺は必死に抵抗する。……と言っても、ヒゲでちくちくした顔を手で遠ざけようとするくらいの事しか出来ないんだが、それでもそうするしかなかった。
だけど、ブラックは俺がその気にならないのが不満らしく、カワイコぶった感じで頬を膨らませながら顔を近付けて来る。
「なんでダメなのさ。この熊公は僕達の事を知ってるし、なにより僕達は恋人だよ? 婚約者でもあるんだよ? なのにイチャイチャもセックスもしちゃ駄目なの?」
「そ、そうじゃなくて……今は大事な役目の途中だろ! そうでなくても兵士の人達もマグナも頑張ってるのに、俺達だけここで、その……そんなこと、するのは……」
“そんなこと”を考えるとちょっと恥ずかしくなってしまって、俺は不覚にも顔に熱を覚えてしまう。でも、やらしい事なんだからそれは仕方ないだろう。
い、今はそんな場合じゃないんだから。そう言うコトは、その、余暇が充分な時にヤるのが一番っていうか……とにかく今はダメなんだよ!
そんな気持ちを込めたもじもじした言葉だったが、ブラックは怪訝そうな表情をして首を傾げやがるだけで。
「別に良いじゃん。僕達は船を動かす役目じゃないでしょ。じゃあ今が余暇って奴じゃないかと思うんだけどな~。今こそ愛を確かめ合う時間だと思うんだけどー」
「ブラック、オレもいるんだが」
「煩いな黙って指咥えて見てろ駄熊殺すぞ」
「言い過ぎ!! つーかお前な、ここにはマグナや知らない人も沢山居るんだぞ!? もし万が一、ヤッてる最中に訪ねて来たらどうすんだよ! 俺イヤだぞ、もう知らない人に見られる展開は嫌だからな!?」
ヤってる途中でマグナが訪ねて来たら、もうマグナと顔を合わせられない。
プレイン共和国に居た時も、マグナのすぐそばでイチャイチャさせられて凄く恥ずかしかったんだからな!?
もうあんな事はゴメンだ。絶対に二度目の気まずい雰囲気は味わいたくない。
「え~。知らない人に見られるから興奮するんじゃないかぁ」
「俺は興奮しないの!! 部屋で安心してヤる方がいいの!!」
「……そうか、ツカサは慎ましい交尾が好きなんだな」
「ツッ、っ!?」
「へぇ~、ツカサ君、僕と部屋で真面目なセックスするのがいいの?」
そっ、そういうワケじゃ……いや、そうなのかな……。
まあそら恥ずかしいよりはベッドの上で恙なく済ます方が良いんだけど……それは『真面目なえっち』と言えるのだろうか。男同士も真面目なのか。わからん。
でも、ここは普通に頷いておいた方が良さそうだ……。
ヘタに刺激して「じゃあ、アイツの前でも見せつけてやろうよ!」とかブラックが暴走した挙句にマグナの前で醜態をさらす事になったら嫌だしな。
さすがにもうあんな男らしくない姿は見られたくない……。
……そりゃ、俺はブラックと恋人だけど、こ、婚約者、だけど!
でも、それと男の自尊心は別だろうよ。外でイチャイチャするのが苦手な人もいるわけだし、スキって事をうまく伝えられない父親なんかも居るんだから、俺の考えも全然おかしくないはずだ。
俺は友達に、その、ふ、普段してるみたいな、こんな事を見られたくないんだよ。
だって俺がキスされたり、こっ、こんな……こんな風に、ぎゅってされて、まるでガキみたいに甘えてる姿を見られるのは、恥ずかしい事じゃないか。
俺十七歳よ。この世界ではもう成人扱いだよ!?
立派な大人の立派な男のはずなのに、そんなの見せらんないよ!!
美男美女ならイチャイチャしててもいいけど、俺は違うの! 俺はフツーの男で、普通の顔だから絶対にそういうのガラじゃないの似合わないの!!
だ、だから、それを見られてドンビキされるのは絶対に嫌なんだ。
なにより友達にそんな格好悪い感じに見られたくないー!!
「ツカサ君、真面目なセックスしたいの?」
「う……そ、そう、だよ。そうだよっ! ああもう、だから勘弁してくれってば!」
こんな安心できない場所でえっちするのは勘弁してくれ、と顔をカッカさせながら喚くと……意外にも、ブラックは上機嫌になってそのまま俺を引き起こしてくれた。
あれ。なんで。いつものブラックならそのまま押し倒してるのに。
「ふへ……ツカサ君、僕と真面目なセックスしたいんだぁ。そっか、そっかぁ~」
「ぐ……っ」
そうじゃない、と意地を張りたくなったが、今は我慢だ。堪えろ俺。
そう思っていてくれれば、今は安心じゃないか。
もうえっちするのは今更だし、べ……別、に、イヤとかじゃないし……。
こっ恋人なんだから当然の事だからな、それはもう、もういい!
だから、後はもう場所さえ弁えてくれたらそれで良いんだ。
ひとまず危機を脱出できたことにホッとして胸を撫で下ろすと、今度は真向いのベッドに座ったクロウが、こちらに体を傾けて来た。
「ツカサ、オレともか」
「えっ」
「オレとも安心できる場所で交尾したいのか」
「そ……えっと、まあ……」
橙色の綺麗な瞳に見つめられて、思わず答えてしまう。
でもまあ、そら、クロウの食事だって安心できる所でやりたいしな……。
「お前には関係ないだろ駄熊ッ! しっしっ!」
「ムッ、オレにも関係あるぞ。ツカサがどこで一番美味い精液を出せるかは、オレの満足度にも影響してくるんだからな」
「そういう問題……!?」
思わずブラックと声がハモッてしまったが、まあ、そういやそうだよな。
変な場所で求められるよりはベッドの上でのほうが良い。
ただ、ここではやって欲しくないけども……。
「ツカサ、食べ比べしてもいいか」
「い、今はだめけどな」
「ムゥ……解った……違う機会にする……」
ブラックと違ってクロウは素直だから助かるよ……。
はあ、これで、調査する間は安全に済めばいいんだけどな……。
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