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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編
3.友達にはイイ顔をしてやりたいもので1
しおりを挟む「うおお……これが曜力艦・アフェランドラ……!!」
今俺が立っているのは、海に停泊する船の上だ。
さっきまでは梯子を登ってヒイヒイ言っていたが、あの大きな戦艦に乗っていると思うとにわかに心が浮き立って来る。
正直な話、俺は船と言ったらフェリーや短距離の連絡船くらいしか乗った事が無いが、それでもこの船は俺の世界の船とは少し違うのが解る。……と言っても、実際の戦艦は同じような事かも知れないが……とにかく、記憶と違うのだ。
まず、甲板の床が木製だ。
それに、外側は金属だったけど、中を見ると船の縁も木製だな。マストの柱は金属だけど、あれも鉄板を巻いてあったりするんだろうか?
一見してみると木造帆船に鉄を張り付けたみたいな感じかな……。おかしな感じもするけど、異世界だしこの方が効果的な何かがあるのかもしれない。
そもそも突貫工事って言ってたから、本来はもっと金属と木材が溶けあった感じの違和感がない船になってたのかもな。うーむ、そう思うと今乗ってしまったのが実に悔やまれる。でも、突貫工事の船ってのも初めてだし、それを考えるとある意味この光景も貴重なのかな?
「すまんな、色々と不格好で」
一番最初に船に乗り込んだマグナが、俺に言う。
少し申し訳なさそうな顔をしているけど、そんな顔をされてもイケメンなだけだ。
ったくもう、何やっても格好良い顔だから美形って得だよな……。
クセ一つない綺麗な銀髪と真紅の瞳なんて、中二病が大好きな要素のギフトセットじゃないか。しかも顔は男らしさはあるけど中性的な顔立ちだし……なんで人間ってのは生まれながらに顔までガチャ運に支配されてるんだろうなぁ……。
「どうしたツカサ」
「いや、何でもない……。でも、不格好って言うほど? 俺にはそこまで不格好って感じには思えないけど……」
そういうと、マグナは俺の顔を少し時間をかけて見て、軽く笑う。
「……そうか。お前、さては船の事は何も知らないんだな」
「うぐっ……」
「そう顔を歪めるな。海のない地域で暮らしていれば知らなくても無理はない。お前は特に、植物か動物にばかり興味が行きそうだしな」
「むっ……お前、俺のことバカにしてんのかよ」
なんか今の言葉にはイヤミを感じたぞ。
眉根を寄せると、マグナは俺をおちょくるようにポンポンと肩を叩く。
「そう取るな。バカにしてるんじゃなくて、お前にしては知らない事もあるんだなと思っているだけだ」
「ううん? それ褒めて……褒めてる……?」
「ああ、褒めてる褒めてる。それはともかく、本当にこの船は“不格好”なんだ。建造途中の帆船を無理矢理アフェランドラの形に歪めたから、そこかしこに木造船の部分が出ていて……クッ、あと半月時間が有れば、完璧に仕上げていた物の……」
なんだかよく判らないが、マグナにとってはかなり我慢できない出来らしい。
まあ確かに不思議な感じだけど、別に俺はおかしいとは思わないんだけどなあ。
そう思うのは、訳が解らない魔改造が出来るゲームとかを知ってるからだろうか。いやでも、魔法の世界なら多少の無茶だって出来そうだと思うし……。
うーむ、そういう世界でも不格好とか「おかしい」ってのはあるんだな。
でも俺は別に忖度する必要もないし、普通に感想を言えばいいか。ここで変に気を使って「そうだね不格好だね」なんて言うのは違うしな。
マグナだって、意見をコロコロ変える奴は嫌だろう。
「俺には問題ないように見えるけどなー。だって、このアフェランドラってマグナが今できる精一杯で仕上げた船なんだろ? そりゃ後からボロが出て来るかも知れないけどさ、それはマグナが補ってやれば良い事だし……それに、作り主であるマグナが一番可愛がってやらなきゃ。このアフェランドラだってヘソを曲げるぞ?」
「…………俺が……。そうか、そうだな……」
俺の言葉に、マグナは悔しそうな表情を掻き消した。
次に見せた顔は、自信満々な顔で。……良かった、納得してくれたんだな。
まあ、せっかくこの世に生まれたからには可愛がられて欲しいもんな。
有機物だろうが無機物だろうが、求められて作り出された物なんだから。
そうじゃないと、生み出されたモノが可哀想過ぎる。
アフェランドラだって、不格好だと言われ続けて嘆かれていたら気分が悪くなるに決まっている。植物だって手間を掛けたらそのぶん美味しくなるんだから、この船もたくさん愛してあげたらより良い働きをしてくれるかもしれないじゃないか。
だから、このアフェランドラも親のマグナが大切にしてあげなきゃダメだ。
そんな俺の思いに、マグナは頬を掻いて俺を不思議そうな目で見やった。
「それにしても……物にそんな事を思うなんて、お前は不思議な奴だな」
「えっ、そう? 俺の国ではモノにも心が宿るって考え方が普通なんだけども」
物に心があると考えるのは日本人特有の思考だって言われるけど、樹木の精霊とか、石が動いて喋るとか、世界中にそういう考えはあるんだよな。
ただ、そう考える習慣が無いから不思議に思う人もいるワケで……この世界でも、それは変わらないと思うんだけどなあ。
しかしマグナは後者の人だったようで、ひたすら目をパチクリさせていた。
あーもー本当なにやっても顔が崩れねえなムカツク。
何だか見るのも嫌になってしまって、俺はブラックが早くのぼってこないかと船の縁から下を見やった。おお、やっぱり高い。高所恐怖症には毒だなこれ。
でも、ここから見ても海の色はとっても綺麗で透明度も高い。
時々魚の群れが泳ぎ去るのも見えて、なんだか波止場から海を見るよりも楽しかった。しかし、そんな俺を梯子に齧りついている赤いオッサンが怒ってくる。
「わっ! ツカサ君、危ないってばもうっ、乗り出さないで!」
「えー? 大丈夫だって!」
実際そんなに乗り出してないし、と返すと、ブラックは梯子を上るペースをにわかに速めながら、俺に手を振って「ダメだ」と返してくる。
「いいからっ、僕がいくまで戻って!」
「わーったよもう……。アイツあんなに心配性だったっけ……?」
怒らせると後が怖いので、渋々戻る。
しかし、なんであんなに慌ててダメって言ったんだろう。そう言えばまだ船の上に居たクロウもダメダメと両手でバッテンしてたし、なんつうか二人とも過保護になってない? 俺がロクに泳げないから心配してんのか?
いやでも停泊してるんだから心配ないよな。
うーん、久しぶりに戦うかも知れないし、その時には俺を船に押し込まなきゃいけないから、今から過敏になってるんだろうか。
でもそれなら、先に登って俺と一緒に居れば良かったのにな。
……なのにアイツら「ツカサ君はどんくさいから船から落ちたら困るでしょ」とか言って、俺を先にのぼらせやがって……俺をどんだけ運動音痴だと思ってんだ。
しまいにゃ泣くぞ。
…………まあそれはともかく。
クロウが登り切って艀が船から離れると、ようやくマグナが「よし」と発した。
「では、艀が充分に距離を取ったら出港しよう」
そう言って、マグナは周囲を確認するように船員に告げると、近くにあった伝声管のフタを開けて何事かをどこかへ伝えたようだった。
そういう所は俺の世界と一緒なんだな。いや、目に見えない所で違うのかも。
うーむ、色々気になるが、説明を聞いても俺には解らなさそう……。
そんな事を思っていると、何やらゆっくりと視界が動き始めた。それと同時に、体が少しだけ後ろへと持って行かれるような感覚がする。
ブラックに厳しい目で見られつつも下を覗くと、確かに船は海面を波立たせながら動いていた。おおっ、本当に動いてる!
でもエンジン音も何も無いな。聞こえるのは船員の掛け声と波の音だけだ。
そういえば、マストに掲げられた帆は今も纏められたままだが……あれっ、この船ってどうやって動いてるんだ……?
「ん……? なんで帆が畳まれたままなんだ?」
「……そうだな、そう言われると確かに妙だ」
俺が気付く事はブラックとクロウも気付くワケで、三人で上空を見上げながら首を傾げてしまった。でも仕方ないよな、普通は帆を張って進むもんだし……。
「……よし、異常は無いな。ツカサ、中に入ろ……どうした」
三人でアホ面をかましながら空を見上げていたせいか、マグナが何かを疑うような声音で問いかけて来る。あらやだお恥ずかしい。
顔を戻しながら、俺は言葉を返した。
「いやその……なんで帆を張らないままなのかなって」
「ああ、そう言えばそうだな。しかし、ここは強い風が吹かないから風を動力として使う事が出来ないんだ。もう少し沖に出れば帆を張ってそちらに切り替える」
「では、別の動力が有るのだな」
クロウの言葉に、マグナは素直に頷いた。
「その通りだ。……ふむ、そうだな、目標地点に到着するまでは時間が掛かるから、船の中を案内してやろうか。そうすれば疑問も解けるぞ」
「えっマジ!? いいの!?」
動力部って、いわば船の心臓だよな。そんな場所に一般人の俺達が入っちゃっても大丈夫なんですか! うおお嬉しい!
にわかに興奮してしまったが、背後のオッサンはと言うと。
「えぇ~……僕、船苦手なんだけどなぁ~……」
これまた意外な事を言いながら、いつものようにブラックが渋って来る。
ブラックが船嫌いとは知らなかったけど……まあ、ごねるのは通常運転だな。
「じゃあ、どっかの部屋で待ってる?」
苦手だと言うのなら、どこか自分に心地いい場所に居る方が良いだろう。
船酔いしたら余計に機嫌が悪くなりそうだし……なんて思っていると、ブラックは不機嫌そうに顔を顰めながら背後から俺に抱き着いてきやがった。
「ヤダよ。僕が休んでたって、ツカサ君は船の中を探索に行くんだろう? そんなの絶対ヤだからね。ツカサ君が行くなら僕も行く!」
だからお前は人前で抱き着くなと……いやもう今更だけどさあもう!
しかし、これがオッサンの言う事だろうか。字面だけ見たら俺より年下の奴が言う台詞じゃないかなこれって。そう思ってゲンナリするが、こんな濃い衆のしょうもないやりとりを見ていたマグナは、もっとゲンナリしているワケで……。
「…………ツカサ、お前は本当に大変だな……」
「……言わんといてください……」
マグナには、バカにされたりするより同情される方が辛いぞ……。
ああもう、友達になに見せてんだろうな俺は。
こんなの俺の世界じゃ絶対やれないよ。つーかブラックを会わせるのも無理だよ。
所かまわず抱き着くオッサンを連れて来て友達と行動するなんて、いくら自尊心が縮み切った俺だって憤死してしまう。あいつらだって、普通の友達だと思っていた俺がオッサンと乳繰り合っている場面なんぞ死んでも見たくないだろう。
友達が恋人連れでイチャイチャしてんのも最悪だと思うのに、こんなの地獄だ。
しかし、そんな地獄をマグナに毎回見せつけてしまっているんだなと思うと、俺は恥ずかしくて仕方が無かった。
ああ、穴が有ったら入りたい……。
「と、とにかく、船室に入ろう。兵士達にはもう話を通してある。……いくぞ」
「うん……」
マグナと一緒に居る時は、出来るだけブラックを抑えよう。頑張ろう。
ああ、友達に関してこんな事で悩む事になるなんて思わなかったよ。
出来ればこれ以上、心が苦しくなるような事が起こりませんように……。
…………とか思ってたら、フラグが立っちゃう事になるのかも知れないけど、この居た堪れなさを感じると、切実にそう願わずにはいられなかった。
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