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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
23.子どもと大人のジレンマ
しおりを挟む「……締め出してごめんなさい……」
朝になって開口一番、目の前の二人に言う。
目覚めは最悪だし、昨日ドアにかなり細工をして寝たのにどうして両脇のベッドの上にオッサン達がそれぞれ寝ているのか疑問だし、なにより……目覚めた瞬間、その二人に上から見下ろされてる視線を感じるとか、意味が解らない。
正直に言うとめっちゃ怖い。なんで起きたら見下ろされてるの。怖い。これなんてホラー映画。実際にやられると肝とか色んな所が縮み上がる。
しかも顔に陰が掛かってるもんだから、いつもの万倍怖い。
けれども、締め出したのは俺なのだ。
この二人は恐ろしい事にどうにかして部屋に入って来たのだ。
その侵入方法は想像したくもないが、とにかく俺の所業に怒っている事は確かな事だろう。ならば俺がやる事と言ったら一つしかない。そう、謝罪しかなかった。
なので、起き抜けでふらふらする頭ながらも、咄嗟に正座をして、心からの謝罪の姿勢を見せたのだが……二人の反応は思うものと全く違った。
「ツカサくぅ~ん、安心してスヤスヤ寝てたけど、あれっぽっちで僕から逃げられると思ったぁ? んもー可愛いんだから~」
「まあ、ベッドに寝ていないから少し焦っていたがな」
「うるさいな、余計なこと言うなよクソ熊」
……あれ……おかしいな、俺が思ってた反応と違うぞ……。
何を言ってるんだろうと思わず呆気にとられてしまったが、ブラック達は俺をニヤニヤと見下ろしながら突いて来る。
「あはっ、ツカサ君その顔も可愛いなぁ~。起き抜けの顔を上から見るのもオツだねぇ……なんか、朝から興奮しちゃうよぉ……」
「ちょ、ちょっと。昨日のこと怒ってないの」
「え? なんのこと? そんなことよりツカサ君~、今からセックスしようよぉ」
「ム、それならオレも混ざるぞ。一日置いたからきっと回復しているだろうしな」
「~~~~~~~っ」
こっ……このオッサンども……もしかして、俺が怒った事なんかまったく気にしてもいないってのか。俺が怒った事なんて、お前らにとってはマジで小鳥の囀りレベルだったってのかー! がーっ、こんにゃろー!!
い、いや待て、落ちつけ俺。
二人が気にしてないって事は、水に流してくれるって事じゃないのか。謝ったのにこの態度なんだから、そもそも二人は俺がやらかしたことを「怒るべき案件」として見ていないのかも知れない。
それはそれで非常にムカつくし、俺のワガママなんてお前らにとっては怒るにも値しない事なのかと余計にイラついたが、しかしここで怒っては俺が余計に癇癪持ちのようになってしまう。
そもそも、ブラックもクロウも最初からこんな奴じゃないか。
好きだって言うくせに、俺の事ちょっと小馬鹿にする時も有るし、基本的に人の話なんて全然聞いてないし……。
……俺、なんでこいつら好きなんだろうな……。
「ああそうだ、いっそ大人の“馬盗り”でもやってみる? それともかくれんぼの方が良いかなあ。逃げたり隠れたりするツカサ君を追いかけてセックスするのって、何かすっごく興奮しそう……」
「は!?」
ちょっと、今なんていったの。
俺をかくれんぼとか何とかで追って犯すだって?
なんだそれ、なんのプレイだ。やめろお前は朝っぱらから!
「それは……良いな……逃げるツカサをお、追う……追って、喰うなんて……っ」
「クロウまで!!」
なにその猟奇的な趣味!
いや、そういう特殊なプレイも世の中には有るのかも知れんけど、お前らがやるとシャレになんねーだろうが! 特にクロウは「喰う」の意味が本来の使い方みたいになってて怖いんですけど!?
思わず飛び起きて逃げようとするが、ブラックが俺の手を掴みベッドへ引き倒す。
その流れるような動作に何も出来ず布の上で跳ねてしまった俺だが、ブラックはと言うと、俺をぬいぐるみのように抱き締めヒゲが伸びた顔で頬ずりしてきやがった。
まだ酒のにおいが残っていて、息が当たる度にもどかしくなる。
昨日の人間的に恥ずかしい自分が思い出されるみたいで、軽く拷問だった。
「ねぇ~ツカサ君~、今から追いかけっこするぅ? ツカサ君が捕まる度に一枚一枚服を剥いでいって、最後に全裸で捕まったらセックスだよ! 燃えるなぁ~」
「おっ、お前っ、なんつうとんでもない遊びを……っ」
「だって昨日ツカサ君が僕に意地悪したから悪いんだよ? 僕の腕、形だけは完全に治ったけど、まだ動かしづらいんだからちゃんと協力してくれないとさぁ」
そう言いながら、ブラックは妙にいやらしい声で俺の耳に息を吹きかける。
顔がすぐそばにあるからどんな表情をしているか見えないが、それでも、相手が物凄く笑っているって事は嫌と言うほど解った。
……くそ……結局、俺が怒ったって二人にはどこ吹く風って事なのかよ。
俺って、二人にとってはそんだけガキって事なのか?
ああちくしょう、考え始めたら何でも悪い方に考えちまう。どうせ二人は俺が考えているような事なんて思ってもいないのに。でも、それが今はヤケにムカつく。
そりゃ、最初から、俺はブラックと対等な立場じゃないさ。
助けるどころか助けられてるし、知らない事ばっかりで教えられてばっかりだ。
軽くあしらわれるのだって、大人とガキなんだから仕方がないって解ってる。それに、ブラックは俺とは比べ物にならないくらい……沢山の事を経験してるんだ。
俺みたいなのなんて、本当なら歯牙にもかけないんだろう。
こうやって抱き締められてるだけでも、ありがたいんだ。結局のところ、俺が好きだったとしても、ブラックが俺を嫌いになったら……俺なんて、簡単に捨てられちまうんだから……。
……でも、そう思えば思うほど、ブラックにムカついてしまう。
なんでだろう、こんな事……今まで、思ったとしてもすぐに忘れてたのに。
「ツカサくぅ~ん、朝から一走りして汗をかこうよぉ。ねっ」
「ムゥ、朝から汗を掻く……健康的だな……」
「………………」
なんか、弄ばれてるみたいで……。
でも、ここでもし拒んだら……嫌われてしまうんだろうか。
…………ああ、こんな事を思うなら……怒らなきゃよかった。
自分勝手に怒って独りよがりな感情を出して、そのせいで余計に二人から嫌われるんじゃないかって思って怖がるなんて、そんなの自業自得じゃないか。
いつもみたいに我慢してさっさと忘れりゃよかったのに、どうして爆発させちゃったんだろう。こんな風になるって、本当は自分でも解ってたはずなのに。
「ツカサ君?」
「ムゥ、どうしたツカサ」
「あ、う、ううん、なんでも……ない……」
なんでこう、二人には分かっちゃうんだろう。
怒っても解ってくれない癖に、どうして知られたくないことを考える時にだけ、俺が何を考えてるかすぐ見抜くんだろう。
知って欲しい事じゃなく、知られたくない事を……
「――――ム? 誰か来るぞ」
「……え?」
不意に聞こえた声にクロウの方を向くと、熊の耳をある方向へ傾けながら、クロウは片眉を少しだけ寄せた。
「…………この音は……走ってるな。すごく、早く。こっちに来るぞ」
「なにそれ……モンスターか何か?」
ブラックがウンザリしたような声を出すが、クロウは首を振る。
「いや、二足歩行……歩幅は、ほぼ人の足だ。ただ、物凄く早いし走法も違う。獣人でもないが……人族特有の何かの術じゃないのか」
あ、そうか。
すっかり忘れてたけど、クロウ以外の獣人は曜術を使えないんだっけ。
その代わりにモンスターみたいに特殊能力を使えるらしいけど……あれ、でも、だったらその「近付いて来ている何か」って、何なんだろう……。
それ、本当に人なのかな。う、うぐ……なんか怖くなってきた……。
「ム。この森の中に入って来た。もう家に来る」
「えぇえ!?」
「イデッ」
思わず顔を上げたらブラックの顎に当たった。い、いだい。
二人して顎と頭を抑えるが、そんな事をしている間にドンドンと家のドアを激しく叩く音が聞こえた。う、うおお、めっちゃ凄い音。
でもこの感じは確かにモンスターっぽくないな。規則的でいかにも人っぽい。
……しかしこれ……相当いらついてない……?
「……呼吸が乱れてるワケではないが、怒っているようだな。敵意があるかどうかは微妙なところか」
「まあ、この敷地内に入って来たって事は、僕達がここにいるって目星がついているという事でもあるけど……だとしたら、あの音って……」
ドカンドカンと凄い音になって来たノックの合間に、声が聞こえる。
「早く開けて下さいませんかね! 人族は耳すら魚に劣るのですか!?」
綺麗な声音だけに、物凄く恐ろしい怒鳴り声。
だけどその声が誰の物かもう俺達は察してしまって、三者三様に顔を歪めた。
「え……エネさん……」
そう、この家まで超人的な方法で走って来たのは……
毒舌金髪巨乳エルフの、エネさん……だった。
→
※馬盗りは鬼ごっこのことです。
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この世界では一般的にそう呼ばれています。
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