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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
今までずっと離れていたから2
しおりを挟む「むむ……眠くなってきた……」
耳掃除が終わって布を畳んでいると、クロウは低く唸るような声で呟く。
まあ、そうだよな。今まで俺達の事をずっと探して歩いてたんだし、辿り着いた家でも喧嘩したりやらしい事したりしてたんだから、そりゃ眠り足りないだろう。
やらしい事は勘弁して欲しかったが、クロウの頑張りを思うと無碍には出来まい。
俺達の事を心配してくれていたんだから、これくらい良いよな。
……問題は、俺の両足がクロウが満足するまで持つかって所だが……まあ、痺れる程度で済むなら別に良いよな。
「眠いなら、寝て良いよ」
クロウの額を撫でて前髪を後ろへ撫ぜ付けてやると、気持ちよさそうな顔をした。
普段のクロウは前髪もボサボサで、時々隠れちゃったりするくらい長いんだけど、今はハッキリと顔が見えるから何だかどきりとしてしまう。
…………憎らしいんだけど、ほんとクロウも顔が良いんだよなぁ……。
ブラックは濃い顔立ちな昭和俳優って感じだけど、クロウは何と言うか……南の島に住んでる野性的美男というか、よくよく考えたらイケメンってツラじゃねえよな。
イケメンってシュッとした奴のイメージだしな。
うーん、二人ともオッサンだからそう思っちゃうんだろうか。
もしブラックとクロウが俺と同じ年だったとしたら、マグナを見た時みたいに普通に「イケメンだなぁ」って納得しちゃうのかな。
そう考えると、何だか不思議な感じだった。
ま、今となってはタラレバな話だし、オッサンじゃない昔の若い二人なんて俺には想像も出来ないんだが。
「…………」
そっか。俺、二人が俺ぐらいの歳にどんな姿だったかも知らないんだな。
……考えてみれば、誰だって近しい存在の昔の姿なんて知らないんだろうけど……何か、ちょっとモヤモヤするかも……。
なんでそう思うのかは、俺にも解んないんだけどさ。
「ツカサ、どうした」
「あ……いや、なんでもないよ」
「そんな事は無いだろう。話してみろ」
そう言いながら、クロウは手を伸ばして俺の髪の毛先を摘まんで遊ぶ。
ちょっと猫みたいで和みそうになったが、ぐっと堪える。しかし、ここで口籠ったとて最終的に言わされるんだから、素直に伝えたほうが良いんだろうか。
ううむ……でも、こういう事言うの恥ずかしいんだけどなあ……。
だってなんか……格好悪いし……けど仕方ないか。
「うーんと……なんかさ、ふと、クロウやブラックが俺くらいの歳の時って、どんな感じだったんだろうなって思って……」
でも、こんな事を言えば、ブラックだってクロウだって言うのを渋るだろう?
解ってるから言わないようにしてたんだよ。
二人にとって嫌な思い出があるかも知れないって解ってるから。
……ほんとは、知りたいけど……。
「オレが、ツカサぐらいの時か」
「は、話したくないなら別に良いよ。ほら、もう良いから寝て」
「いや待て、そう悲しそうな顔をするな。そう言えば話してなかったな」
「……話したくない事が有るから話さなかったんじゃなくて?」
そう言うとクロウは目をぱちくりさせて、それから何かに思い至ったのか「ああ」と声を漏らした。
「ブラックはそうかも知れんが、オレは別に構わんぞ。言いたくない事もそれは有るが、特段記憶の底に葬るような事をしたい記憶ばかりでも無いしな」
「そ、そうなの?」
「うむ。ただ、話してもつまらん事ばかりだし……出来るなら、ツカサを嫁に迎えた時に全てをベッドの上で話してやりたいのだがな」
「…………」
それは……ちょっと……。
つーか、そういえば獣人のえっちって半日ぐらいぶっ続けなんだっけ……?
と言う事は、ピロートークと言う名のガチの短い休憩時間に過去を話すって事?
…………いやー、えーっと……堪忍して下さい。
「イヤか」
「ち、違うけど、その……そういうモンなの……?」
「うむ。獣人族は共に初めての閨に入る時、相手と真の番になれるように、生涯誰にも言わぬようにと封じていた弱点を語るのだ。今はそのしきたりが変化して、己の事をただ語るだけという事になっているのだがな」
「へ~……獣人の初えっちってなんか儀式っぽいんだなぁ」
人族と違って群れを結束させるとか色々理由があるから、結婚とか初夜も儀式的になるんだろうか。でもまあ、それはそれで何かファンタジーらしいよな。
「へぇじゃないぞツカサ。オレとお前もいずれは初夜の儀式を行うんだからな」
「そ……それはともかく、眠らなくていいのか?」
「話をそらすな」
「むぐ」
大きな手で顎の下から両頬をむにっと掴まれて、無理矢理顔を向けさせられる。
やめろ、余計にブサイクになるだろうがっ!!
思わず睨むと、クロウも何だか不機嫌そうに目を細めやがった。
「ツカサ。お前はオレの番になるメスだ。ちゃんと聞け」
「んおっ、おえはっ」
「ブラックの恋人だと言いたいんだろう。だが、お前は二番目の雄であるオレのメスでもあるんだ。前にそれは話しただろう」
「う……」
思わず口籠る俺に、クロウは橙色に輝く目を細めた。
「ツカサが良いと言ったんだ。オレは死ぬまでお前に付き纏うぞ。ブラックが寿命で亡くなるまで絶対にお前の傍にいる。オレの種族は脆弱な人族と違って数百年生きるから、いつまでだって待ってやれるぞ。……まあ、それまで我慢する気は無いが」
「んむ……!」
頬を掴まれたまま強い力で下に引っ張られて、変顔のままキスをされる。
当たり前のように口付けられてしまった事に、思わず体が熱くなった。けど、それは恥ずかしいからで、その、そういうんじゃなくて……っ。
「……ツカサは、いつも美味いな」
やっと手を離して貰えたが、どっちにしろ膝の上にクロウが乗っかっているから、逃げることも出来ない。今更ながらに現在の状態がヤバい事に気付いたが、時すでに遅しだった。
「く、クロウ……」
「そういえば、約束を果たして貰っていないな」
「はぇ」
「精液を一回呑ませてくれる約束だ。今がその絶好の時だな」
「ちょっ……ちょぉお……!? まっ、待って待って! 昨日の今日だし、俺今日は薬飲んでないんだって、スッカスカなんだってば! なんなら痛いんだってば!」
俺の尿道に炎症を起こす気かと必死で食い下がるが、その度にクロウは不機嫌そうな雰囲気をじりじり醸し出してくる。
表情は全くの無表情なのに、頬を膨らませ始めた。おい、なんだその顔は。
無表情でむくれるのはやめろ、なんか凄いシュールだからお願いやめて。
「オレは腹が減ったぞ。もうツカサじゃないと満足出来ない体になってしまった」
「言い方!!」
「甘やかしてくれるのではなかったのか。オレは精液が飲みたいぞ。ツカサを羞恥に悶えさせながら美味い精液を吸いたいんだ」
「お前本当に真面目にそれ言ってる!?」
毎回思うけど、その言い方って俺の事をおちょくってるんじゃないの!?
どう考えても良い年したオッサンがサラッと言う事じゃないよねえ!
まさか、クロウはブラックの真似してこんな事言ってるのでは。
いやでも、獣人だからなのか、クロウもなんか、その……に……にくぼうとか……言ってたし……。獣人からしてみれば、普通の言い方なのかな……。
……待て待て、やっぱりおかしい。絶対この言い方はおかしいってば!
むくれてるのだってワザとじゃないのか。
「オレは真面目にツカサを食べたいから言ってるんだ。戯れでこんなこと言えるか」
「ぬぐぐ……そりゃそうだけど……でも、俺本当に今日はちょっと……」
「出ないか」
「……でないです……」
なんかヤダこの会話。
そりゃ真実なんだけど、出ないってなんだよ。何で報告せにゃいかんのだ。
自分で言った事が恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じながら俯くと、クロウはフームと声を漏らして己の顎に手をあてた。
「じゃあ……何か、他の物で間に合わせる。涙か小便で手を打とう」
「絶対やだー!!」
涙はいいけど小便ってお前やめろ本当に! 変なプレイしようとすんな!!
いやそりゃそれも人の体から出る液体だけど精液以上にヤバいだろ、飲尿療法とかどう考えても普通の人がやることじゃないんですけど!!
頼むから俺をヤバい奴にしないでくれと叫ぶと、クロウはこの期に及んで不満げな声でぶーぶー言い出す。
「だが涙は量が足らんのだ。毎日涙を吸っても、やはり精液の満腹感に足りん」
「うーっ、うううーっ」
思わず声が出なくなってしまう。だけど、とんでもない提案をされたんだからそりゃ仕方がないだろう。だって、だっておしっことか無理、絶対無理い!!
ああでも何か食べさせないとクロウは納得しなさそうだし、でも涙だと満足しないみたいだし……ええと、それじゃあ、ええと……。
「そっ、そうだ、血! 血液とかどう!?」
確か、ガストンさんがそんな事を言ってたような気がしないでもない。
あの時は記憶を失ってて、ガストンさんもちょっとからかうみたいに言ってた感じだったけど、俺を連れて来た時に俺の血を飲んで渇きを癒したって言ってたもん。
まあ、それだって少量だろうけど、血液なら獣人だって満足なはずだ。
そんな俺の提案に、クロウは目を丸くしたが……考えるように視線を泳がせた。
「ムゥ……確かに、血液も美味いし、涙より遥かに腹は膨れるが……」
「どうせ後から治るしさ、少量なら大丈夫だって」
「そうか? だが……やはり不安だな。ツカサ、回復薬はあるのか」
「あ、いや……用意してないけど」
「なら、下手な所から血を吸わないほうが良いな」
クロウは起き上がり、俺の体を矯めつ眇めつで見やる。
どこから血を貰ったらいいかと見定めているようだが、なんだか値踏みされているような感じがして居た堪れない。
そういや、ガストンさんはどっから血を飲んだんだろう。
もしかしてあれって本当に冗談だったのかな。
やべえ、また俺変な事を言っちゃった?
「……ふむ……そうだな。やはり首から取ろう。手から取るとツカサが作業できなくなってしまうし、足は出血しすぎるからな」
「あ、やっぱり」
そこは獣人でも同じなんだな。
ぼんやりそんな事を思いながらクロウを見ていると、相手は口を軽く開き、今まで見えなかった牙を少しのぞかせた。
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