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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
11.強くなるのか、慣れるのか1
しおりを挟む今、俺の目の前には、数歩進めばもう大通りに出るほどの小さな前庭と、その庭と家をぐるりと囲う古びた柵が見えている。
これだけなら普通の光景だけど、横一線に走る大通りの向こう側には朽ちかけた家があるし、周囲は森に囲まれているわけで……何と言うか、本当に異様な風景と言うほかなかった。だけど、そんな場所で、一人はしゃいでる奴がいる訳で。
「ツカサ君どうしたの~? 早くおいでよ~っ!」
「ぐぅう……」
先に外に出て、にこにこと笑っているブラックが憎い。
柵の向こう側で俺に向かって手を振っているが、それが俺に対する挑発以外の何物でもない事を俺は知ってしまっていた。
じゃなけりゃ、俺にあんな約束なんざさせる訳がないんだし……。
だが、散歩をしたいとお願いしたのは俺で、ブラックを出来るだけ怒らせたくないと思ったのも俺だ。つまり、これは俺が望んでいる事でもあった訳で……でも、でもさ、だからって、こうして欲しいっては俺は一言も言ってなかったんですけどね!
なんでこう、このオッサンは……っ。
「ほらー、早くしないと夕方になっちゃうよ?」
昨日は普通にえっちしたのに。ぜんぜん楽だったのにっ。
なんでコイツはこういう時ばっかり俺を虐めるような事をしてくるんだ!
「ツカサ君が散歩に出ようって言ったんじゃないかー。外にでないのー?」
「うぐぐぐ……っ」
そうは言うが、簡単に外には出られない。だが、この状況になるともう俺が意地を張って家の中に立てこもっていてもどうしようもないのだろう。
しかし、だからと言って今の状況は到底認められる物ではない。
だって。だって、散歩を望んだ俺に対して、ブラックが言い出してきた条件は……。
「んもー。野外で素っ裸になる事なんて、今まで何回もあったんだから、そのくらいの格好は平気なハズでしょー? 早く散歩しようよぉー」
「だっ、だからって……」
下半身すっぽんぽんでシャツ一枚なんて、どう考えても変態すぎるだろ。
こんな格好で外に出ろって、お前は俺をどうしたいってんだよ!!
思わずそう怒鳴りそうになるが、今の俺には堪える事しか出来ない。散歩をねだりブラックの交換条件を飲むと言ったのは俺だ。だから、今回の事は俺からやめろとは言い出せなかったのだ。
だから結局……俺も外に出るしかないのだが……でも、この格好で外を散歩って、さすがにただの変態でしかないだろ!?
そりゃ野外露出って言うプレイはありますよ、俺も知ってますよそういうのは。
何度も言うが、アレは女の子がやるからハァハァして見ていられる訳で、自分がやって興奮するとかそういうモンじゃねーんだよ。ご近所をノーパンで練り歩くとか、居心地の悪さは有っても気持ち良さなんぞ欠片も思わんわい!
解放感と言うのなら分からんでもないが、そんなのは誰も居ない前提でやるものであって、変態プレイとして全裸になるワケじゃない。そこは大きな違いがあるんだ、俺はヌーディストビーチで勃起するような粗忽者にはなりたくない。
だからこそ、こんな風に変態プレイで外に連れ出されるのが嫌な訳で……。
「早く出てこないと、もう一生その家から出さないかもよ?」
「うぐっ……」
そ、それは困る。
…………し……仕方ない……まあ、幸い俺がいつも着ているシャツは、股下くらいまで伸びてるタイプだし、尻もギリギリ隠れてるし……ゆっくり歩くなら、なんとか出来る……のかな……。
横にチャイナドレスみたいな切れ目が入ってるから少し不安だが、まあ、この程度ならなんとか乗り切れるだろう。こうなったらもう覚悟を決めるしかない。
俺はごくりと唾を飲み込むと、玄関からゆっくりと外に出た。
「あはっ! 覚悟決まった?」
「うっ、うるさい、せかすな!」
出来るだけ足を大きく動かさないよう慎重に歩く俺に、ブラックは調子のいい声を投げてきやがる。どう考えても楽しんでる……ちくしょう、何で俺はこう、いっつもいっつもブラックと理不尽な約束をしてしまうんだろう……。
このオッサンが普通の交換条件なんぞ持って来るワケがないのにぃいい!
「ツカサ君早く早くぅ」
「分かってるってば……!」
うぅ……やっぱり家の中と外は違う。
外の空気は素肌にすぐに触れて来て、風が足を撫でて来る。
それが嫌で足を擦り合わせると、冷たい内腿の感触がシャツの前部分で隠れた俺の愚息に触れて、思わず下半身全体が震えてしまう。
足が冷たいのもそうだけど、自分の体温がどれくらい温かかったのかって事にも気付いてしまって、何だか妙に恥ずかしかった。
ああもう、なんでそんなどうでも良い事に気を取られちまうんだ。
「うーんやっぱり靴下を残したのは正解だった……。ツカサ君の肌の色を良い感じに引き締めてるね!」
「変なコメントすんな!! っ、ああもう、散歩するって言ったのに……っ」
なんだかもう、外でこんな格好をしている自分が恥ずかしくて思わず立ち止まってしまうと、ブラックもさすがに虐めすぎたと思ったのか、俺にすぐに駆け寄って来て優しく肩を抱いてきやがった。
「ああツカサ君、そんな悲しい顔しないで……僕まで悲しくなっちゃうよ……」
「お前がさせてんだろうがっ!!」
「えへ。でもさあツカサ君、ここって僕達以外は誰も居ないんだよ? ほら、通りに出てみてよ」
まだ家の前庭から出ても居なかった俺を、ブラックは強引に前進させる。
家を囲う古びた柵の向こうは、もう大通りだ。思わず足が後退しようとしたけど、もうブラックは俺を離してはくれなかった。
「う、ぁ……!」
「ほーら、大通りだー」
そう言いながら、ブラックは俺を家の敷地内から押し出す。
「っ……」
ああ、柵を越えてしまった。ついに外に出てしまった。
そう思うと酷く体が緊張して、そのせいでカッと体温が上がった。外の気温と今の状況の異様さに体は冷めているはずなのに、異常な事をしているんだと思うと、俺の体は勝手に羞恥を覚えてどんどん「恐れに因る寒さ」を焼いてしまう。
それがまた、俺には怖くて仕方が無かった。
だけど、ブラックはそんな俺の変化など気にもせず、俺を連れて大通りの中央まで歩いて来ると、初めてここに来た時に歩いて来た方向へ強引に俺の体を向ける。
馬車が三台くらい並んで走れるんじゃないかってくらいに大きな通りは、森を突き当りにして左へ緩やかに曲がっていた。
……森に囲まれたこの集落は、外から覗く事もできない。この打ち捨てられた場所には、もう誰も来やしない。それは分かっている。ブラックがそう言ったんだから、そうなんだろう。だけど、その「この道は外へ続いている」という事実を目の当たりにするたびに、体は強張り、足は急所を守ろうと自然と内股になった。
だって、ここは外なんだ。家の中じゃないんだ。
誰も来ないと言っても、裸になるような場所ではない。それに、不快森の中の誰も来ないような所じゃ無く、こんな、人の手が加わっている場所で、一番恥ずかしい所が見えてしまいそうな格好をして立っているなんて……。
「あれ、ツカサ君震えてる……?」
「ぅ……」
「ふふっ、誰かがこの道を通って来るのでも想像しちゃった? 可愛い……」
「ぅや……っ」
耳元に唇を寄せられて、耳の穴にキスをされる。
生暖かい息と、チクチクとした無精ヒゲの感覚が酷くつらい。だけどそれ以上に、恥ずかしいリップ音をわざとらしく鳴らす少しカサついた唇が、耳の内側をゆるゆると触って来て、そのあまり感じた事のない感覚に体が動いてしまう。
こんな場所でこんな事をされているんだと思うと、もう、逃げ出したかった。
だけどブラックは、そんな俺を更に苛むように低い声で囁いて来て。
「ねえツカサ君、見てよ。大きな通りって言っても、周囲は森に囲まれてるし、左右に並んでる家も全部廃虚なんだよ? それに……後ろは行き止まりの森だ……。何もツカサ君を恥ずかしがらせる要素なんてないじゃない」
「で……でも……」
「そんなんじゃ、いつまで経っても散歩できないなぁ……。よしっ、わかった。僕が今からツカサ君の心を鍛えてあげるよ!」
「っ?!」
な、何を言ってるんだこのオッサン。
俺の心を鍛えるって、何を……。
そう、一瞬気が抜けた瞬間。
目の前に、今まで使っていなかった方の手が伸びていた。
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