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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
9.好きも嫌いも貴方次第1
しおりを挟む※珍しく短め(´・ω・`)
◆
種……は手に入らなかったので、俺はとりあえず野菜の根の部分に近い所や、曜気が集中している部分を切り取って畑に植えてみる事にした。
婆ちゃんがよく野菜の切れ端を育ててたし、豆苗も根っこが有れば生えてたから、同じように出来ないかと思って昨日の内に埋めておいたんだが……。
「…………芽が出てるどころの話じゃないな」
そう。そんなささやかな話では無かった。
俺の小さな家庭菜園は、なんと……びっくりするほどの大豊作になっていたのだ。
畝からは色鮮やかな野菜が飛び出し、ロコンを植えた所には背の高い植物が群れて生えている。額の所が膨らんでいて、その先に不思議な色の花が咲いているって言う変な形だけど、これは間違いなくあのトウモロコシモドキだろう。
とにかく、大豊作だ。植えて一日置いただけでこんな事になるとは……。
いや、ナトラ教の教会でも同じような事をしたけどさ、でもあの時はクロウの力を借りたワケだし、自分一人でこうなるとは俺も思っていなかったというか。
「うわお。ツカサ君の黒曜の使者の力って本当すごいね」
これには朝食を終えてダラダラしていたブラックも驚き顔だ。
さもありなん、俺だって、能力で成長が早まったとしても一日二日は絶対に掛かるだろうなと思ってたんだから。いやしかしすげえ。
カンランの果樹園(のような畑)を作った時も思った事だが、本当にこの力は俺の想像の範疇を越えている。畑でこれなら、恐らく、俺が望んだ事は大抵叶ってしまうだろう。それこそキューマが作り上げたあの不可解な機械なんかも……。
……でもまあ、俺には黒曜の使者の力を最大限活用できる知識も知恵もないので、想像しなくても曜気を与えれば成長する植物を育てたり、傷を治したりする事ぐらいしか出来ないんだけどな……ハハハ……。
良いんだか悪いんだか判らないけど、この世界からすれば良い事かもしれない。
にしても、どこででもこうやって簡単に育つとはなぁ……。
「ツカサ君、土壌改善以外でなんか術使った?」
「え、術? いや……特には……。あっ、もしかして切れ端を埋める時に『おーきくなあれ、おーきくなあれ』とか応援したからかな!?」
某アニメ映画のように、早く目を出せ柿の種……じゃなかった、早く大きくなあれと祈りを込めて植えていたから、俺の願いが届いたのだろうか。
この世界でなら願いが届いてもおかしくないよな。育ち過ぎではあるが。
しかしこの俺の予測にブラックは納得が行っていないようで、ウッドデッキの柵に体を預けながらだれたポーズで片眉を上げていた。
「ええ~? そんな非現実的なんじゃなくて、やっぱ曜気の関係だと思うけどなあ。ツカサ君が自然界の平均以上の曜気を注いだから植物が急成長した、って説のが、よっぽど理にかなってると思うんだけど」
「まあ確かに理屈から言ってそれもありそうだけど……」
えーと確か、この世界の植物は、基本的に土の曜気を木の曜気に変換して成長してるんだったっけ。それを促進させるのが大地の気って事だったけど……俺はどっちもたっぷり注いだから、栄養過多で劇的に成長しちゃったんだろうか?
でもなあ、俺の世界だと栄養も有り過ぎると枯れちゃうって聞いたけどなあ。
「栄養が有り過ぎて枯れたりとかってないの?」
「うーん、特殊な条件下でしか成長しない植物ならあり得るけど、普通は迷惑になるくらいに大きくなるよ。多数の学者が記録を残してるから、そこは間違いないと思う。ただ、そこまで濃縮された曜気が湧いてくる場所なんて限られてるから、一般的な地域では滅多に見ないけどね」
この大陸の国々の中では一番曜気が豊富であるライクネス王国ですら、今回のようにすぐ成長するほどの気は出てこないらしい。
その植物の成長を阻害する要素は「魔」……つまり、この世界で言う腐蝕の原因になったり魔族達の糧になっている「魔素」が原因だと考えられているが、確定した訳ではなく、数えきれないほどの学者によってそれを証明する研究が今なお続けられているんだとか。微生物の働きとか酸化とかそう言うのではないようだ。
まあ確かに、この世界じゃ微生物なんて聞いた事無いし、ハチですらデカいからなぁ……。それに、腐食も土壌の富栄養化もその原因は「生物」じゃなくて「力」になるワケだし、俺の世界とは色々勝手が違うのだろう。しかもその魔法的な力自体が多岐に渡る上に、検証するにも色んな曜術師を連れて来なきゃ行けないだろうから、検証するための労力はこっちのが多大なのかも……。
しかし、本当にこの世界って微生物とかいないんだろうか?
今までそう言う感じの事に出会った事が無いけど……知られていないだけなのか、それとも本当に存在しないのかどっちなのか。
しかし、この世界では顕微鏡なんかも無いだろうしなあ。
「うーん……」
「とりあえず収穫してみたら? ロコンは明日まで待った方が良さそうだけど、他は大体収穫してよさそ……」
と、言いながらブラックは何かを見つけて一瞬声が消えた。
何だか驚いたように目を丸くしているが、何を見たのだろう。その視線を辿ると。
「……あ」
そこには、調子に乗って植え過ぎた異世界ニンジンことルベルボーフが!
……なるほど、嫌いな食べ物は妙に目についてしまうと言うが、ブラックの今のこの態度がまさしくソレなのか。いや、畑の四分の一ぐらいルベルボーフで占められているから、注目度が段違いだったのかも知れないが……まあ些細な事だな。
「つ、ツカサ君……それぬかないでね。絶対に抜かないでよね……」
「抜かないと腐って土壌が悪くなるかもしんないだろ」
「そんなペニスみたいな!」
「最低な例えをすんなや!!」
抜かないと腐るってなんだ、オナ禁誓いウォーカーに謝れ。
ていうかこの世界だと俺の世界より腐り方が激しそうだし、それに折角育った物を食べてあげないなんて、野菜が可哀想じゃないか。
ブラックに制止されたがとにかく収穫はしなければと動く。と、オッサンは「あーっ!」と判り易く抗議の叫び声を俺にぶつけて来た。
「ツカサ君っ。抜かないでって言ってるのになんで収穫しようとすんのさ!」
「だって収穫しないと勿体ないだろ!」
「燃やして肥料にすればいいじゃん! 僕が直々にも燃やして……」
「こらっ! そんな事言うとメシ食わせねえぞ!!」
「に゛ゃー!!」
本当に嫌なのか、オッサンとは思えない声を出してブラックが毛を逆立てる。
しかし、そんな声を聴くと……ちょっと、面白くなってしまって。
その反応が後押ししたのか、俺はブラックがぎゃんぎゃん騒ぐのを余所に、ルベルボーフを引き抜いて収穫してしまった。
「あぁああ……ツカサ君のばかぁ、鬼畜ぅう……」
「まあまあ落ち着けよ。でも、何でお前コレが嫌いなの? 味?」
そう言うと、ブラックは少し考えて視線を空へ彷徨わせた。
「えー……だってさ、なんかそれ、妙にカスッカスして硬いし、味も染み込まないんだもん。それに味が何か変だし……」
なるほど、俺の世界の子供でも言いそうな理由だ。
……と言う事は、食感と味が気に入らないって事だよな。
「だったら、俺がコイツを美味しく食べられるように料理してやるよ」
「え……なんか手間でもかけて……?」
疑わしげな目つきで俺を見るブラックに、俺は「まかせろ」と言わんばかりに親指を立てて見せた。
「手間……ではあるかもしれんが、簡単な方法だよ。ルベルボーフその物を好きにって訳には行かないかも知れないけど、食べられるようにはしてやるからさ」
「ほんとぉ?」
「まあ見てなって」
そう言うと、ブラックは渋々ながらも頷いた。
……なんだかんだで俺の料理の腕は認めてくれてるんだな。
いやまあ、大した腕じゃないけど、でもそう思ってくれているのは嬉しい。
まあ意地悪しちゃった自覚はあるから、今はブラックが食べやすいように料理してやろうじゃないか。幸い、ここには材料が揃ってるからな。
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