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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
異世界の畑の作り方2
しおりを挟む「んー……」
両手を伸ばして、畑全体に土の曜気と大地の気が降り注ぐイメージを頭の中に思い浮かべる。すると、左手からは橙色、右手からは金色の光の蔦が現れて、俺の肩口までしゅるしゅると巻き付いて来た。いつもながら不思議な光景だが、久しぶりだと思うと何だか懐かしくも有る。
何本もの蔓を両腕に絡ませて、俺は掌からシャワーのように気が降り注ぐ想像を保ちながら、曜気をたっぷりと土に降らせた。しかし、自分の意志で曜気を流すのは久しぶりだから、なんだか感覚が掴めないな。
もしかして掛け過ぎただろうか。でも、掛け過ぎてイクナイって事は無いよな。
「よし……こんくらいで良いかな?」
「じゃあ、後はちょっと水を掛けてから土を解そう」
「分かった……あ、でも、土の曜気って注いだそばから逃げたりしない?」
そう言えば、クロウが「土の曜気は一か所に留まらず対流している」みたいな事を言ってた気がするんだよな。だからそもそも土の曜気すらも少ないオーデル皇国では曜気が全く集まらず、ナトラ教会の畑を改良する事も出来ないとかそういう話をしたような気がするのだが……。
「ああ、大地の気があればそれは関係ないよ。大地の気ってのは土の曜気にとっても栄養みたいなモノだからね。大地の気が多い場所に土の曜気は集まって、小さく対流を繰り返すんだ。まあ、この場合は……栄養ってより吸着剤って言うべきなのかな」
「きゅうちゃくざい」
「うん。でもほら、土の中にある大地の気は夜には一度空気中に出るから、その時に土の曜気の流動が起きるんだ。大地の気の効果で活性化した土の曜気が他の場所へと流れて、この世界の全ての土はゆっくりと豊かになって行くんだよ」
まあ、夜の流動は微々たるものだから、広がるのにも時間が掛かるけどね。
そう言いながら笑うブラックは、悔しいけど普通に大人っぽかった。
……むう、こういう所がいけ好かないんだよな……。普通にしてれば、そこそこは格好いいのに、いつもデレデレしてんだもん。最初に会った時は、そんなにデレデレしてなかったような気がするんだけどな……。いや、別にどうでもいいけど。
えーとつまり……大地の気を注げば土の曜気は心配ないって事なのかな。
正直よく判んないけど、夜に大地の気が一旦離れて行くことで土の曜気は離れて行っちゃうけど、朝になればどっちも過半数戻って来るから問題ないんだよな。
じゃあ、少なくなったなと思えば、大地の気を注げばいいか。
……いや、待てよ。それなら、オーデルやプレインはどうなるんだ?
ちゃんと流動が起こってるなら、百年以上も不毛の地らしいこの二か国もそろそろ植物の楽園になってたっていいと思うんだけどな。
「なあ、ブラック。そんな風にちゃんとなってるなら、オーデルとかプレインも今頃は緑化しててもおかしくなかったんじゃないのか?」
曜気を流すのを止めて首を傾げた俺に、ブラックは「良い質問ですねぇ」とか言いそうな感じで頷いて人差し指を立てた。
「普通はツカサ君の言う通りになるんだけど、この世界は国境の山で国が区切られているからね。それで他国には豊かな曜気が流れにくいって事も有るし……そもそも、あの二国は元から大地の気も土の曜気も少ない土地柄だ。曜術師の基本概念で言うのなら、『無の場所から有は生まれない』から、豊かになりようがないんだよ」
じゃあ……あの二つの国は、一生荒野と雪の国なのか。
愕然としたが、ブラックはそんな俺を見て何故か嬉しそうに微笑むと、俺の頬に手を添えて優しく抓んだ。
「まあ、ツカサ君みたいな破天荒な存在が曜気を与えられれば、別だろうけどね」
「……っ」
綺麗に微笑んだ菫色の目が、陽の光にキラキラしてる。
普段は締まらない顔ばっかりしてるくせに、こういう時だけ普通のオッサンみたいな顔しやがって。そんな、普通の、格好いい顔とか、して……っ。
「あはっ。ツカサ君可愛い……顔真っ赤」
「んっ……」
からかうようにそう言われて、頬に軽くキスされる。
いつもの事なのに、何故だか妙にドキドキして来て、いつになく真面目な顔で笑うブラックを見ていると、体がカッと熱くなってしまって……ってオイ!
熱くなったら駄目だろ頑張れ俺!
「うぅううっ、とっとにかく曜気があれば問題ないんだな! よしっ畑を耕すぞ!」
「水を撒くのを忘れずにね」
「わーっとるわい!」
ああもうっ、薬の効果が無かったら体温が上がろうがどうだっていいのに!
ちくしょうめと思いながらも、俺は力強い力士のように水を撒き、鍬を装備して囲いの中に足を踏み入れた。と、踏んだだけでも土の感触が明らかに違う事が分かり、少しびっくりする。他の場所は踏んだ程度ではへこまなかったが、俺が大地の気と曜気を注いだ囲いの中は、明らかに土が柔らかくなっていたのだ。
ただ水を撒いただけではこうはなるまい。やっぱりファンタジーな世界なんだな。
少し楽しくなって、俺は土に鍬を入れた。
「おおっ! めっちゃ土を耕しやすい!!」
「土の曜気は下に向けて堆積するから、深い所の土を抉り出すようにすると良いよ」
「りょーっかい!」
うほほほ、なんだこれ超楽しくなってきたぞ。
鍬の扱いは任せとけ、俺は婆ちゃんの畑のお手伝いもした事が有るし、集落のにーちゃんの畑のお手伝いだってやったからな! お小遣い目当てで!!
「ツカサは腰の入れ方が違うなあ、上手いぞぉ」なーんて褒められた俺ならこんなちっちゃい畑なんぞちょちょいのちょいって奴よ!
「うわあツカサ君凄い顔して笑ってる……」
「ふははは何とでも言うが良い、耕し王に俺はなる!」
正直腰の入れ方とかは全くの意味不明だったが、とにかく和式トイレにも強い俺は足腰の鍛え方が違うと言う事なのだろう。田舎での経験が生きてるな。
しかし畝を作るとなると、そこそこ深い場所から掘ったり、他の所からも土を持ってきたりしないと行けないな……森に腐葉土などがあれば、草木灰と混ぜて更に良い感じに出来るんだけど……。
「それにしてもツカサ君、楽しそうだねえ」
俺の頑張りをしゃがんで見学しているブラックは、のほほんと俺の男らしい農作業を評する。まあ、確かに楽しい。久しぶりに俺の世界でやってたような事が出来たんだしな。それに、こんなにサクサク耕せるなんて思ってなかったし。
「ツカサ君、調合してる時とか、旅してる時みたい」
……そっか。そういや、そうだったな。いや、そうだったのかな。
夢中になってる時って自分の事なんてまったく気にしてないから、どっかで同じ顔をしてるなんて、考えもしなかった。でも、そうか。同じ感じなのか。
……俺がガキの頃に畑の手伝いした時も、こんな感じだったのかな。
ブラックと出会う前から、同じ顔してたのかな。
「…………」
俺は、ブラックが嬉しそうに見つめる今の顔を、昔から見せてたんだろうか。
……だったら、嬉しい。
ブラックが知らない昔の俺をブラックに見せる事が出来たような気がして、何故か俺はガラにもなく「嬉しい」なんて事を、思ってしまっていた。
なんでかな。何だかよく判んないけど……でも、良かった。
「ツカサ君」
「な、なに」
ちょっと変な事を考えてしまい、変にどもってしまった。
またからかわれるんだろうかとブラックを見ると。
「良い顔。……ホント、ツカサ君のそういう可愛い顔……僕、大好きだよ」
そう、言って。
心底嬉しそうな、緩み切った顔で……笑った。
「――――~~~……っ!」
なっ…………あ…………っ…………。
……ばっ……ばっかじゃ、ないの。
ば、ばか。ばかばかばかばかばか!
「そっ……ッ、っ、な、コト、おとこにっ、言うな……っ!!」
何遍も、何百回も言われた言葉のはずなのに。
なのにどうしてこんなに恥ずかしくなるんだろう。なんで頭の中には「ばか」って言葉しか浮かばなくて、混乱して来るんだろう。どうして、笑顔を向けられるだけでドキドキしてしまうのか。
恋人、だから? こ、婚約とか、したから?
いやまさかそんな、だって、好きとかいつも言われてるし……だからその……。
「あーっ、ツカサ君のズボンに可愛い畝はっけーん!」
「んごっ!?」
ドキドキしている最中に、唐突にスケベオヤジの風を感じて思わず変な声を出してしまった俺に、ブラックがずりずりと近寄る。
そうして、俺の腕を引いた。と、その拍子に足が縺れて、足を閉じてしまう。
「ゲッ」
瞬間、俺は気付いてしまった。
そう……俺の愚息が、確かにズボンを押し上げていたのだと言う事に……。
……いや、今の話で何に勃起する要素があった!?
薬のせいであってもおかしいだろ! なんだこれ!!
「んもー。ツカサ君、色気のない声じゃなくてもっと可愛い声を出してよぉ」
「アホかぁ!! ちょっ、はっ離せ」
「離さない~。ツカサ君から先にやる気になってくれたんだから、今日こそはちゃんとセックスさせてよね!」
そう言いながらグイグイ俺を引き寄せるブラックに、抵抗も出来ず土を混ぜ返しただけの囲いから連れ出されてしまう。
あまりにも強引に引っ張られるので尻餅をつきそうだったのだが、それすら許されず、俺は腕一本で釣り上げられブラックの傍に移動させられてしまった。
「あは……ツカサ君たら、僕に好きって言われただけで勃起しちゃったの? もうすっかりエッチな子になっちゃったんだねえ」
そう言いながら、ブラックは直球で俺の股間に手を伸ばしてくる。
「っ!? おいっ、やだって、ここ外……!」
「誰も居ないんだから良いじゃん。ここには僕とツカサ君の二人だけなんだよ?」
二人だけって、そうは言ってもこんな場所じゃあ何が見てるか解らないだろうが!
股間に潜り込もうとする手を掴もうとするが、ブラックは俺の牽制など物ともせずに、思いっきり太腿の間に手を突っ込んでしまった。
「うあぁあっ!」
「ん~、ツカサ君の大事なところ、やっぱりちょっと熱いねぇ。興奮してる証拠かなぁ~? んじゃ、こっちはどうかなー」
「ふあぁっ!? やっ、なっあっそこだめっ、撫でちゃやだ……!」
股間に潜り込んだ指が、膨らみの更に奥……会陰へと伸びて、ズボンの合わせ目を擦って来る。そこには何も無い場所なのに、ブラックに何度か責め立てられたせいか執拗に撫でられるうちに足がもじもじしてきてしまう。
合わせ目の盛り上がった布が会陰を順繰りに刺激するたびに下半身が震えて、腹の奥がきゅうっとして、声が出そうになってしまって。
そんな自分が恥ずかしくて、女みたいで情けなくて、俺はブラックの胸に頭を押し付けて縋りつくことしか出来なかった。
「あはっ……ツカサ君たら可愛いなぁ……はぁっ、ハァっ」
「んっ、ぅ……んんん……っ!」
「ほら見て、ほらぁっ、ツカサ君の女の子の部分を触ったら、おちんちんがどんどん膨らんで来るねぇえ……あはっ、あはぁあ……っ、つ、ツカサ君、たまらないんじゃない? もう僕のペニスが欲しくなってきちゃってるんじゃない?」
「ばっ、か……! ぁんた、が……したい、だけだろぉ……っ」
必死に頭を押し付けて、歯を食いしばる。
しかし、ブラックはそんな俺に荒い息を吹きかけるだけで、少しも「解放しよう」などとは思ってはくれなかった。それどころか、撫でる指の動きを加速させてきて。
「ぅっ、やっ、やぁあっ……! あっあぅぅう……っ」
「あはっ、ツカサ君たら薬のお蔭かいつも以上に気持ち良くなってるね! ……そうなったら、もうセックスでもしないと収まらないんじゃないかな~?」
「うぐっ、ぅ、うぅう……」
「ほらほら。ツカサ君、これは治療の一環なんだよ? ツカサ君がセックスしてくれなきゃ僕の腕はもっと治りが遅くなっちゃうかもしれないよぉ~」
ちくしょうめ、えっちなんかしなくたって、曜気は吸い取れるだろうに。
精液でも摂取できるとか、そんなのブラックの都合でしかない。そうに違いない。
なのに、セックスすれば全てが解決するみたいな事言いやがって。
「ぐぅう……っ」
「セックスしたら、ツカサ君も更に気持ち良くなれるし……この熱からも解放されるよ……? だからさ、ねっ」
「………………」
結局、こうなるんだ。
本当にもう、このオッサンが嫌になる。
笑うだけで簡単に俺の事を振り回して、力でも敵わなくて口でも負けて、結局……ブラックがしたいように、させられるんだから。
「ツカサ君」
どれだけ「いやだ」とダダをこねても、結局は無駄になる。
ブラックにこの声で名前を呼ばれたら、もう俺は何も言えなかった。
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