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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
1.初めは優しくゆっくりと1
しおりを挟む飴色の柱や淡い色の壁が、見た事も無い北欧の温かい家を思わせる。
だけど、天井に下がる水琅石の明かりは小さなシャンデリアのように飾り立てられていて、ここは普通の家ではないのだと俺は改めて認識した。
でも、そんな家の事すら今はボンヤリして考えられない。
何故なら……俺の視界は、目の前の無駄にデカいオッサンに九割方ガッチリと塞がれていたのだから。
……まあでも、仕方ない、よな。
ブラックの左腕が治るかもしれないんだし。俺だって、治したいし……。
「そ、それで……どうやったらアンタの腕が治るんだ?」
やけに高級な弾力を感じるベッドの上で、俺は眼前のオッサンに問う。
ベッドの上で向かい合って座るとか何か妙な感じで照れ臭かったけど、ブラックは上機嫌でニコニコと笑いながら指を立てた。
「簡単に言えば、曜気が欲しいって感じかなあ。それで治るかもしれないんだ」
え……曜気が欲しいって……いつもみたいに渡すの?
いや、この状況からするとそうじゃないよな。これは多分……。
「……クロウみたいに食べるのか? でも、それって獣人だけじゃ……それに、そうしたって腕が再生する訳じゃないだろ?」
「うーん、それはどうかな」
もったいぶったように軽い声で言うブラックに、俺はムッと顔を顰める。
良いから早く説明しろと急かすと、ブラックはニィッと口を歪めて答えた。
「他の奴には出来ないかも知れないけど、僕はグリモアで、ツカサ君は黒曜の使者なんだよ? 神を恐れさせる敵対者だった存在が、腕一本早々治せないって事は無いんじゃないかな~」
「む……言われてみれば確かに……」
「でしょ? だからさ、今までは普通にセックスするだけだったけどぉ、今日からはツカサ君の曜気を吸い込みながらヤれば、腕も戻るんじゃないかなって!」
きゃぴっとでも効果音が出そうな程にクネクネするブラックに、俺は一瞬やめろと言いながら手刀をお見舞いしそうになったが……いや待てよと思い直す。
確かに、元々のグリモアの役割ってのは「黒曜の使者の兵士」だ。それが神様によって変質させられ、今では黒曜の使者を唯一殺せるという存在になってしまったが……もし大元の部分が改変されて無かったとしたら、俺の能力でブラックを治す事も可能なのかも知れない。グリモアは一人一人が一騎当千の強力な存在なのに「使い捨て」にされるなんて考え難い。だとしたら、メンテ方法だって残してるはずだ。
メンテ、というと何かメカみたいだが……とにかく、自分で生み出した存在なら、自分で治せるように先代の黒曜の使者もちゃんと設計してるだろう。
そんな力を受け継いだブラックなんだから、初代のグリモアでなくても充分にその恩恵に預かれるはずだ。それに、俺が再生する能力を持っているんだったら、その力をグリモア達が受け取れないはずもないだろうし……。
うーん、でも、どうすりゃいいんだろう?
治せる可能性が出て来たのは嬉しいが、その方法が思いつかない。
思わず顔を歪め首をかしげてしまうと、ブラックはンフフと声を漏らした。
「あとさ、僕ちょっと面白いこと聞いたんだよね」
「面白いこと?」
「ガストンって奴が居ただろ? そいつがさ、君を助けた時に血を飲んで三日間ほど生き延びたって言ってたんだ」
「血って……誰の」
「ツカサ君のだよ」
えっ。ガストンさんそんな事してたの。
あ、でも、記憶を取り戻す前のぼんやりとした記憶の中では、ガストンさんは俺に「あんだけ酷い怪我だったのに、よく生きてたもんだな」とか頻繁に言ってたから、もしかしたらその時に血を飲んだのかも知れない。
でも、なんで俺の血? そんなに食料無かったのかな。
「俺の血で腹って膨れるモン? それに鉄臭くてマズいんじゃ」
「それが、不思議な事に甘くて美味しい上に、どんな物よりも力がついたんだって。ヘタすりゃ、ツカサ君の血さえ飲んでれば充分に健康が保てたって状況だったみたいだよ。……多分、黒曜の使者として体を作り変えられた時に、そう言う風にされたんじゃないかな」
「う……」
あ……甘い……血が、甘い……?
何それ……。だって、俺……いや、でも、最初から俺の体はおかしかったんだし、今さら妙な設定が加わったって別に……。
……でも…………なんだか、怖い。
俺、本当に人間じゃ無くなってるんじゃないのかな。
あれだけの高さを落ちたのに全然平気で、怪我もすぐ治って、血だって、変で。
そんなの、普通の人間って言えるのか。甘い血なんて、ありえないじゃないか。俺の世界でも、この世界でも、血は鉄臭くて飲めたもんじゃないのに。
なのに、俺だけ。俺だけ、おかしい……――
「ああ……ツカサ君、怖がらないで……」
「っ……!」
ゆっくりと、ベッドに押し倒される。
柔らかい感触が背中を包み込み、見上げると陰のかかったブラックの顔が有った。緩やかにウェーブした鮮やかな赤髪と、緩く笑った男らしい顔。無精髭なんていつものままで、まるで格好良さなんて無かった。
だけど。だけど……額に、キスをされて……ちくちくして痛い頬を摺り寄せられると――――震えが、動揺が、収まってしまう。
俺が化物になった事は全く解決していないのに、目の前にはブラックしかいないんだと思うと、何故か目の奥が熱くなって……何もかも投げ出したくなってしまった。
「ツカサ君、大丈夫だよ……。別に血が美味しくたっていいじゃない。ツカサ君は、最初からツカサ君のままなんだよ? 何も変わらない。僕の、僕だけのツカサ君だ。それ以上に重要な事なんて、何も無いでしょ」
「ブラック……」
「それに、その血も体もさ、関係ない奴を一人救ってるんだから、僕の事を救えない訳がないよ。ツカサ君の全部は、僕のために、僕を救うためにあるんだ……その血だって、僕のための恩恵なんだよ。何も恐れる事なんてない。それにさ、どうせ飲むんなら美味しい方が嬉しいし。ねっ」
「お、お前なあ、自分の都合ばっかり……」
詰ると、ブラックは菫色の綺麗な瞳を煌めかせて、微笑みながら首をかしげた。
「僕の嬉しい都合ばっかりじゃ、いや?」
きらきらした紫色の綺麗な瞳が、俺を見つめている。
髭もまばらで、頬も緩み切ってて、だらしない顔なのに。
なのに……そうやって、自信満々に見つめられると……そんなの……。
「…………」
「ん?」
「…………ゃ……じゃ……ない……」
バカ。あほ、おたんこなす。
そんな風に……そんな風に、言われたら……違うって言えないじゃないか。
俺が、アンタに弱いこと知ってるくせに。そんな風に言われたら、何にも言えなくなるの知ってるくせに、そんなこと言うなんて酷いよ。
俺、これでもちょっとショックだったのに。
考えたかったのに、そんな風に言って「どうでも良い事」にしようとするなんて。
なのに、こんな至近距離でこんな風に言われたら……どうしようもないだろ。
馬鹿、ブラックの自分勝手オヤジ。
「あはっ、ツカサ君たら顔が真っ赤だよ」
「っ……ばか……っ」
「あぁ……可愛い……っ。こんなに可愛いのに、何もかもが美味しいなんて……僕、いつか本当にツカサ君を頭から全部食べちゃいそう……」
「んっ……」
わざとらしく時間をかけ、唇を柔く食んで離す。
相手の唇の感触がとても生々しく感じられて思わず顎を引くと、ブラックは少し顔を離して、見せつけるように服を脱ごうとして来た。
「ちょっと話がズレちゃったけどさ、まあ要するに、ツカサ君のその体が僕にとっては無限の可能性を生んでくれるんだよ。上手く行くかどうかは、ツカサ君の頑張りに掛かってるけど……試してみてもいいんじゃない?」
「えっ……お、俺の、頑張り?」
いきなり服を脱ぐもんだから驚いて面食らった俺に、ブラックは見せつけるようにして上着のボタンを片手でゆっくりと外していく。そう言えば、体を拭いてやる以外でブラックの裸を見たのは久しぶりのような気がする……。
思わず言葉を失くした俺に、ブラックは微笑んだ。
「ツカサ君の頑張り次第なんだよ? ツカサ君が僕にたくさん曜気をくれたら、僕だって腕が生えて来るかも知れない。ああ、血を飲むのを少しずつ試すのも良いね。ただの中年男であれほど効果が有ったんだから、ツカサ君と深く繋がっている僕なら凄い効果が出るかもしれない。他にもたくさん試すことが有るから、今からすっごく忙しくなるよ……」
「う……ぁ……」
ボタンが最後まで外されて、中のシャツが見える。
薄らと胸筋の段差が出来たシャツを見て思わず息を呑む俺に、ブラックはベッドをぎしりと鳴らしながら近付いて来て……耳元で、囁いた。
「頑張って、いろんな方法を試して……僕を救ってくれるよね……?」
ぞくり、と、耳から震えが全身に伝わる。
その震えがどんな物なのかは分からない。だけど、そんな事を言われたら、もう俺は……拒否をする事すら、出来なかった。
それどころか、目の前の片袖がひらひらと動く服を見て、手が伸びてしまう。
ブラックが何を求めているかを考えたら、無意識にそうしてしまっていた。
「んふふ……そうそう、ツカサ君……僕のこと脱がして……」
「ぅ……う……うん……」
言われるがまま、脱ぎにくい上着を恐る恐る剥ぎ取って傍らの椅子に掛ける。
だけどそれだけでは不十分で、俺はブラックのシャツを上にあげて引き抜いた。
こんな風にすると相手が子供のようにも思えるけど、シャツの中から出て来た体は間違いなく俺なんて比べ物にならないほどに育った、大人の男の体だった。
「っ……」
逞しい肩に、適度に筋肉の起伏がある腹や腕。俺を懐に入れてもまだ余るほどに広い胸板は、胸筋も申し分ない。大人の男の象徴がそこかしこに見られて、本当に男として嫉妬するくらいの体格だった。
だけど、そんな完全な体も……左腕だけを欠いている。
俺の目の前で掻き消えてしまった、左腕。
今は俺のプレゼントしたごく薄い空色のバンダナが守っているが、その中身の事を思うと、恥ずかしさや抵抗しようと思う気持ちも消えてしまった。
……ブラックの腕が治る可能性があるなら、俺もやってみたい。
それがなんでえっちでって事になるのかは甚だ不可解だが、ブラックが望んでいるんだから、俺には拒否なんて出来ようはずもない。
シャツを椅子に退避させると、ブラックは膝立ちになった。
「ツカサ君。先に全部脱いで、僕のズボンも脱がしてよ」
「え…………う……」
「約束、忘れちゃったかな?」
「わ、分かったよ……」
ぐぬぬ……い、いや、いつかはどうせ慣れなきゃ行けない事だ。
え、えっちってのは、二人とも裸になってベッドでヤるのが普通なんだから、それを当然と思えなければ俺の将来が危うい。
服を着てまごまごやってるってのは、やっぱおかしいのだ。
だから、お、俺だって、正しい保健体育を実践するんだからな。
相手が男だとかそう言うのは置いといて、健全なえっちを頑張るんだからな!
「あ、あんまし見ないで……」
「仕方ないなぁ。まあ初日だし、今日は許してあげるよ」
何様だこのスケベオヤジ!!
……ゴホン。落ち着け。落ち着け俺。服を脱ぐ事から始めるんだ。約束だからな。
ブラックには、散々迷惑かけたし……今度こそ……ちゃんと、するんだ。
俺も、恋人……こ、婚約者だって、胸張って言えるくらいにならないと……。
「…………」
だから、ブラックが顔を軽く背けてくれている間に、必死に服を脱いだ。
上着は別にすんなり脱げたけど、やっぱり問題はズボンと下着なんだよな。
ああ、どうしてズボンに取りかかると手の動きが鈍るんだろう。乳首は普通の男としてスルーしてしまう所から考えても、やっぱり俺は今も「メス」じゃなくて「男」なのだろう。それはまあ、仕方ない事なんだけど……。
そもそもメスって、乳首を見られるのを恥ずかしがる感じなのかな……ブラック的にはどうなんだろう……。けど意識したらそれも変だろうしなぁ。
「ツカサ君はやくぅ」
「う、わ、分かったよ……」
まったく、数秒考える事すら待てないのか。チクショウ、こうなりゃもうヤケだ。
俺は気合を入れて一気にズボンを降ろすと、すぐさま両足で股間を遮りながら体を起こした。ど、どうだ、俺だって進化しただろう。
裸になるのは我慢出来るようになったぞ。これで一歩前進だよな!
「次は僕のズボン、降ろして……。ほら、もう待ちきれなくて、僕のペニスがツカサ君に向かってズボンをぎゅうぎゅう押してるんだ……早く君に会いたいってさ……」
「っ、ば、ばか! だからそんな恥ずかしいコトを言うなって……!」
「だって、ツカサ君が焦らすから」
「わーったわーった! 今からします!!」
だーもーこの野郎ッ、なんで俺がこんな事までしなきゃなんないんだよ!
いっくら左腕が不自由でその上約束があるって言っても、どう考えてもコレは俺のキャパオーバーでしょうが! もう次は絶対やらねえからな!
心の中でバカ馬鹿と何度も罵倒しつつ、俺はブラックの膨れ上がった股間から目を反らし、ベルトを外す。だけど、他人を脱がせ慣れてないせいか、こんな時に限ってベルトがうまく外れない。ガチャガチャとみっともない音を立てて、その度に焦る俺の視界にテントを張った股間が何度も見えて、目の前が熱で真っ赤になって行く。
ベルトを何とか外す頃には、顔から汗がどっと噴き出ていて、頬はカンカンに熱くなってしまっていた。そんな俺を、ブラックはクスクス笑う。
何だかもう逃げ出したくなってしまったが、それではだめだと必死に堪えて、俺は震える指で恐る恐るブラックのズボンのボタンを外した。
う、うう、目の前でテントがちょっと動いた。アカン、これはアカン。
だけど降ろさなきゃ、いつまで経っても……ええいもう、な、何度もやってるんだし、今更なんだよ、頑張れ、頑張れ俺! こういう時は勢いだ!
男なら一気に行けと自分自身を奮い立たせて、俺は息を吸い込んで肺で止めると、ブラックのズボンの合わせ目を解き下着と一緒に一気にずり降ろした。
と、俺の目の前で、ぶるんとでも音を立てそうな程の、デッカイものが……。
「ひ……」
や、やっぱり……間近でみると、こわい……。
血管浮いてる、反り返ってる、ビクビクしてるぅう……。
「あぁ~……。散々焦らされたから、ちょっと先走りが出ちゃったよぉ。ツカサ君、ほら……せっかくの潤滑液がムダになっちゃった……」
そんな事を言いながら、ブラックは俺のほっぺたに熱くて赤黒いイツモツを、ぴたぴた押し付けてくる。独特の雄臭さに思わずまた息を止めてしまったが、ブラックは俺の情けない顔を見下ろしていたのか、先端で俺の頬をぐいぐい押しこんでくる。
「ん゛っ、うぅっ、やぇろっへ……!」
「はぁっ……ハァ……ツカサ君のほっぺたったら、本当気持ち良い……。ツカサ君の太腿やナカとはまた違って、擦り付けるの止まらなくなっちゃう……」
「こ、こういうのは曜気吸うのと違うだろ!? 次どうすんだよっ!」
どうするもこうするも、えっちするほか何も無いんだが、しかしそうでも言わねばこの恥ずかしい行為を延々続けさせられてしまう。
そんな俺の言葉にブラックは「えー」と不満タラタラだったが、渋々と言った様子で俺を寝かせて覆い被さった。
「じゃあ……まずは、普通に熱烈な恋人セックスしよっか」
「う……」
だ、だから、目の前でそんな事を言いながら笑うなって……。
ああもう、なんでこうお前って奴は、余計な時にばっかり顔面力を使うんだ。
頼むから自重してくれと口を噤んだ俺に、ブラックは軽く笑うとキスをして来た。
「ツカサ君……これからたくさんセックスして、治療頑張ろうね……」
そう言いながら、俺の唇を大きな舌で舐める。
たったそれだけの事で体が反応してしまう自分が情けなかったが……それもまた、相手がブラックだからなんだと思うと、体が熱くなるのを止められなかった。
→
※いちゃつかせすぎて思った以上に文字数多くなってしまたです…
いちゃえろは明日…(;´Д`)
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