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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
50.遥か空の上の声も、ここには届かない
しおりを挟む「はぁ……。一つ落ち着いたと思ったら、また一つ問題が……。どうしてこう、次々に問題が押し寄せて来るのかしら……」
自室の机で必死にペンを走らせながら、シアンは深い溜息を吐く。
その姿は他の物が見れば「憂いを秘めたる美しさだ」と称賛されただろうが、当の本人であるシアンには、ただただ眉間に皺が残りそうだとしか考えられず、気苦労に息を吐いて指でその皺を伸ばすばかりであった。
だが、そんなシアンを見てクスクスと笑う者がいる。
執務机から少し離れた楕円形のテーブルに一人座り、シアンと同じように書類に目を通していたエメロードであった。
エメロードは己の部屋が破壊されてしまったため、再建されるまでシアンの私室で生活するようになったのだ。しかし、今の二人の間には悪感情など欠片も無い。それどころか、数百年の不仲で離れ離れになった期間を取り戻すかのように、仲睦まじくベッドを共にし、食事の間も幼い頃のように姦しい会話で盛り上がっていた。
あれだけシアンに辛辣だったエメロードも、今は妹を思いやる優しい姉だ。
その変化を見ていた神族達は、ラセットも含め皆一様に喜んでいた。
「思えば、シアンはいつも難しい顔で仕事をしていたわね」
そんな温かい関係を表すかのように、エメロードは笑いながら揶揄する。
シアンは怜悧で美しい美貌を苦笑に緩めて、姉の言葉に肩を竦めた。
「姉様にまで知られていたなんて、恥ずかしいわ」
「あら、恥ずかしい事ではないのよ。書類を見て顔が険しくなるのは、それだけ仕事に真剣に向き合っているからでしょう? シアンは昔から一生懸命だもの。今なら、わたくしもよく判るわ」
「姉様……」
不仲とは言え、互いに相手を気にしていた。
その事に今更思い至り、シアンは心がむず痒くなった。
(姉様とこんな会話を出来るようになるなんて……)
――――今まで、何もかもを諦めていた。
諦め受け入れる事こそが、最も傷付かない方法だと思っていたのだ。
だが、その間違った認識を根底から覆してくれる人がいた。そんな“彼”の事を思うと、シアンは感謝と共に懸念が湧き上がって来て、また溜息が出そうになる。
彼……ツカサがこの神族の島から落ちて、もう何日も経つと言うのに、自分達は一向に居場所を突きとめる事が出来ないでいた。
「シアン、ツカサさんやブラック様が心配な気持ちは分かるけれど、根を詰めるのは駄目よ。みな貴方を頼っているからこそ、休んでほしいと思っている。無理だけは、しないで頂戴ね。約束よ」
こちらの焦りを見抜いているのか、エメロードはシアンを心配する。
それもまた心がむず痒い思いがしたが、シアンは笑顔になり切れていない微笑みを浮かべて、小さく頷いた。
「分かった。姉様の言う通り、明日は昼まで休むわ」
「そうよ、後はわたくしとバリーウッドがやっておくから、安心してお休みなさい。ねえ、ラセット」
「はい。恙なく」
エメロードの傍にはラセットと言う従者が控えているが、二人が纏う空気は甘い。
これもまた、ツカサが齎してくれた変化だった。
(ほんとうに、ツカサ君が私達にくれたものは計り知れないわね……)
彼がいなければ、この世界に堕ちて来てくれなければ、こんな風に穏やかな時間が流れる事は無かっただろう。ラセットは未だに実らぬ恋に苦悩し、エメロードは憎む苦しみにもがき、シアンも全てを諦めきったまま死を待っていたに違いない。
その事を思えば、一層ツカサの安否が気になってくるのだが……。
「シアン様、シアン様! 報告が来ております」
扉を叩く音と共に、唐突にそんな声が飛び込んでくる。
慌てた声音にシアンとエメロードは顔を見合わせたが、とにかく「入りなさい」と答えて件の人物を部屋に招いた。
と、勢いよく一人の若いエルフが飛び込んできて、彼はエメロードに深々と敬礼をすると、滑稽なほどの早足でシアンに近付き丸まった紙を見せて来た。
「し、シアン様の私兵のものどもからの物でしたので、最優先に持って参りました」
若い男の文官は、息を切らせ顔を真っ赤にしながら机の前で膝を付く。
そうして、恭しくシアンにそれを差し出した。その様は思い人に恋文を渡すかのようだったが、シアンは意にも解さず巻物を受け取る。
「ありがとう。よく持って来てくれました」
ゆっくり休みなさいね、と言うと、兵士は赤らんだ顔を更に染めて首を垂れる。
その様子にエメロードはクスリと穏やかに苦笑したが、シアンは若い兵士の事などまったく気にせず、そのまま部屋から出してしまった。
姉妹の美貌は神族の中でも抜きんでていたが、今のシアンにとっては、それも別段気にするような事ではない。ただ、今は、消えた息子と孫が心配だった。
(さて、どんな報告なのかしらね……)
厳重に巻き付いている紐は、この書類を託された者以外が開くと、毒が滲むようになっている。半年ほど体がマヒする猛毒であり、文書すらも腐蝕してしまうほどの物だったが、美しい状態のまま運ばれてきたのは、ひとえに持って来た物達が不届き者では無かったからだろう。
見る分には美しい組紐を解き、安全の為に術で出した水球に閉じ込めると、紙をゆっくりと開いて文鎮を乗せる。
一目見た限りでは、何かを詳細に報告しているような文面だが、さて。
最初の一文に目を通そうとすると、またもやドアを叩かれた。
「水麗候、女王陛下。クロウクルワッハです。お伺いしたい事が有るのですが、入室の許可を頂けますか」
その低い声は、間違いなく今名乗った者だ。
読み終われば呼びに行こうと思っていたので、来訪は寧ろありがたい。
シアンは声をかけてクロウクルワッハを部屋に通すと、傍に来いと手招いた。
「ちょうど良かった。今、呼びに行こうと思っていて……」
「オレも動きが有ったように感じたので、ここに来ました。……それで、その手紙が“動き”とやらなのでしょうか」
「ええ……何が書いてあるかはまだ判らないけれど……」
とにかく読んでみると言い、シアンはその報告にざっと目を通した。
その間に、エメロードとラセットが机に近寄ってくる。
一通り読み終えて――――シアンは、深い深い溜息を吐いた。
「ど、どうしたのシアン」
何かよっぽど悪い事が書かれていたのかと心配するエメロードに、シアンは頭痛を抑えるかのように額に手を当てて、暫し沈黙してしまった。
その様子に、クロウクルワッハ達は大いに焦ったが……シアンが次に発した言葉は、思っても見ない事だった。
「ブラックが、ツカサ君を連れ去ったと」
「え?」
「は?」
「は、はい?」
三者三様だが似通った返答に、シアンはさもありなんと小さく何度も頷く。
だが余程頭痛がするのか、机に肘をつき組んだ手に頭を預けたまま、シアンは暫く動こうとしなかった。それだけ、頭も気持ちも重かったのだ。
けれども伝えなければ話は進まない。シアンは気力を振り絞るようにして、やっと口を開いた。
「……導きの鍵の一族に入り込んだ“影”とレッド様が接触して、彼から『三日ほど前に、ブラックはツカサを連れて準飛竜で飛び去った』と報告が……。何が有ったかは詳しく話してくれなかったけれど、それだけは確かです」
「じゃあ……何故、帰ってこないのかしら……」
エメロードが少し口の端をひくりとさせて、微妙な顔つきで問う。彼女はもう答えが薄ら思い浮かんでいるらしいが、それでも自分で言いたくないようだった。
その気持ちはシアンとて充分に理解出来る。
だが、クロウクルワッハはそんな雰囲気を打ち破るように机に手を置いて、ずいっと身を乗り出した。
「場所は。どこへ行ったかは判らないのですか」
「北東方面に飛び去った……と、レッド様は仰ったようです。どうして彼とブラック達が接触していて、レッド様がその情報を下さったのかは解りませんが……クロッコと同行しておらず、身を隠すようにしていたとの事なので、きっと二人と色々あったのでしょう。とにかく、嘘は言っていないようだったと」
「…………では……ブラックは、ツカサを見つけたにも関わらず……オレ達になんの報告もせずに……ツカサをどこかへ拉致した、と……?」
……まずい、と、シアンは思った。
報告をかみ砕く度に、クロウクルワッハの声が低く、唸るような音になって行く。
それは獣人特有の怒りを覚えた時の声だ。明らかに獣耳の毛が膨れ上がって、顔は最早、陰が掛かってどんな表情か解らなくなっている。
何より、その雰囲気が、いつもとは違う。
思わず息を呑んだシアンたちに構わず、クロウクルワッハは置いていただけの手で、机に指の腹をぐっと押し付けた。それだけのはずなのに、みしり、と音が鳴る。
どう見ても機嫌が悪い相手を前にして、耐性のないラセットは青ざめていた。
「オレ達が、どれだけ必死になって、心配して探したと思ってるんだ……。それなのに、あの男と来たらァ……!!」
ばき、と、音が鳴る。
何事かと目を見開いた三人の目の前で――――
凄まじい音を立てて机にクロウクルワッハの指が食い込み、瞬間。
頑丈なはずの机が、真っ二つに裂けて目の前で地面に崩れ落ちた。
「――――!!」
あまりにも信じがたい剛力。通常、朽ちる事が無いように加工される事が多い神族の家具ですら、この特別な獣たる男の前ではただの安価な机と同等になる。
その恐ろしい事実を目の当たりにして、ラセットだけではなく豪胆なエメロードですら青ざめて、ただただ言葉を失っていた。
(ま……まさか……クロウクルワッハさんの力がここまでとは……)
これには流石のシアンも言葉を失わざるを得ない。
だが、クロウクルワッハは怒りが収まらないのか、先程までは見えなかった鋭い爪が伸びた手を動かして、見開いた目を爛々と光らせていた。
「…………水麗候……」
「はっ、はい!? なにかしら!?」
「我々は、決死の思いで捜索を行った……ならば、その代価として……人一人、思いきり殴る程度は……許されますよね…………?」
狂気を孕んだ獣の目が、ぎろりとシアンの方を見やる。
「そ……そうね……仕方ないわね……」
思わず敬語も忘れて頷いてしまうが、それも仕方のない事だった。
「ではライクネス王国に向かいましょう。セレーネ大森林に帰って来たロクショウに聞けば、居場所などすぐに分かるだろう。……門を使う許可を頂けますね?」
「え、ええ……す、すぐにでも……」
そんな事を自分一人で決めて良い物かと理性が訴えたが、その場の最高責任者であるシアンとエメロードは、最早彼を抑えられないのを痛感していた。
今まで目立たずにその剛力を抑えていたクロウクルワッハは、とても立派だった。もしこの状態で最初から立ち会っていたら、恐らくほとんどの神族達は震えあがって仕事にならなかっただろう。
それほど、彼の力は凄まじかったのだ。
…………そんな強大な物の一端を見せられて、誰が拒否など出来ようか。
(ああ……ごめんなさいツカサ君……。また面倒な事になりそうよ……)
最近のブラックの行動は目に余るので、一度しっかり叱らねばと思っていた。なので、クロウクルワッハが鉄拳制裁するのは別に良い。しかし、その光景を見てしまうだろうツカサを思うと、どうにも哀れに思わずにはいられなかった。
心優しい彼の事だ、確実に数週間は魘されてしまうだろう。
だが、仕方がない。これは仕方がない事なのだ。
何故なら……。
(こんな彼らを受け入れるって、貴方が言っちゃったのだものね……)
もちろん、シアンとてその一人である自覚はあるが……孫のようにかわいい彼の前途を思うと、どうにも可哀想に思わずにはいられなかった。
◆
「ありがとーロクショウ君っ」
「グオォオッ!」
上機嫌なブラックに手を振られながら、ロクショウは一気に空に飛び上がって、光と共に一瞬で消える。その素晴らしく美しい光景を見て、俺は「さすがは俺の世界一可愛い準飛竜ちゃんだ……」と思わず惚れ惚れしてしまったが、しかし別れてしまうと今まで考えないようにして来た事が妙に気になって来て、俺は隣にいるブラックを見上げて問いかけた。
「ところでブラック……ここ、どこ?」
そう。ここ。ここはどこなのだろう。
青い山の連なりが遠くに見える、新緑の草原。
空は高く空気は清々しいが、ここがどのあたりなのかまったく判らない。
国境の山を越えてきたから、ベランデルン帝国でない事は確かなんだけど……ここからどうやってクロウ達の所に帰るんだろう。
小さな馬車道が一つだけの草原をキョロキョロと見回していると、ブラックが俺の問いにご機嫌な笑顔で答えてくれた。
「どことか、そういうの関係ないから知らなくていいよ!」
…………ん?
関係ないから、知らなくて良い……?
えっと……それって、どういう……。
「知らなくて良いって……」
「さあ、こっちこっち」
「あっ……」
手を掴まれて、俺はブラックに強引に歩かされる。
何だか妙な感じだけど、今の俺は「嫌がっても好きにされる」立場なのだ。それを考えると、ブラックの行動を拒否する事など出来なかった。
だけど、どこに行くんだろう。行先にシアンさんと連絡を取れる物が有るのかな。
でも目の前はずっと草原だし、街も見えてこないし……。
一体どこに行くんだろうかと思っていると、道の先には脇に逸れる小道が有って、その小道は森に囲まれた建物の群れへと繋がっているのが見えた。
「あれって……街……?」
呟くと、ブラックは「んーん」と声を漏らす。
「あそこはティブルって別荘地さ。……まあ、今はもう誰も居ないだろうけど」
「……?」
別荘地なのに誰も居ないって、どういう事だろう。
何だかよく判らないながらもブラックに手を引かれて小道に入り、その【ティブル】という場所を真正面から見てみると、確かにその意味が解った。
ティブルは一見、森に囲まれた集落のように見えるが、しかしそこに入るための門は朽ち果てており、人を迎えるためにある門の上のアーチもボロボロに錆びて、寧ろ人を拒絶しているような感じだった。
だけど、どうしてこんな事に。訳が解らず首をひねる俺に、ブラックが答える。
「ここは昔、モンスターの大氾濫が起きた時に打ち捨てられたんだ。今はもう街道も別の所に新しく作られちゃってて、こっちの道なんてもう誰も使わない。まあ、道の先は滝ぐらいしかないから、誰も用なんて無かったんだろうけどね」
そう言えば、小道に曲がる前に馬車道の先を見たら、わりと距離が近い小山が有ったな。あそこに滝があるんだろうか。草原に近くて生きやすい滝って珍しいな。機会が有ったら行って見たいものだが……などと思っていると、俺はあれよあれよと言う間にティブルの門をくぐらされて、森に囲まれた集落の中に入ってしまった。
並木道の道を緩やかに曲がると、まるでキャンプ場のコテージのように道を挟んで等間隔に並べられた家々が行き止まりまで広がっていた。
この左右に並ぶ家が別荘なのだろうか。なんか……住宅展示場みたい。
あ……でも、どこも朽ちかけた廃墟になってる……。こうなると、もう人が住めたもんじゃないぞ。こんな所に来てどうするんだろうと思った俺を余所に、ブラックは何かに導かれるようにして廃墟の目抜き通りを直進していく。
お、おい、俺は肝試しなんて御免だぞ。
ここにきてどうしよってんだよ……なんて震え……いや、武者震いをしていると。
「ああ、やっぱり普通に残ってた。ほら見て、ツカサ君」
「え?」
何事かと思って、廃墟の先にある「見て」と言われた場所を見てみると……左の方に、何故か一つだけ新築かと見紛うほどに美しい建物が残されていた。
他の家よりも少し小さいけれど、そんな事なんて気にならないほど新築だ。
でも周囲が廃墟だらけなので、なんかめっちゃ幻覚っぽい。
アレって現実なのかな。俺ってば怖すぎて見えない物を見ちゃってるんじゃ。
「あの、ブラック……あの家って本物……?」
「もちろんだよ。……あ、そっか。不思議だよね。あのねツカサ君、あの家には腐食防止の術が駆けられているんだよ。だからあの建物だけ綺麗なワケ」
へー……ってことは、あの別荘も、エメロードさん達の王宮と同じなのかな。
一件だけしか掛かってないのは、あそこが特別裕福な家だからだろうか。そもそも別荘が裕福な証拠なんだけど、ああいう事が出来るのは一握りのお金持ちだけなんだろうなあ……でも、なんでそんな所を俺に紹介するんだ。
「ブラック、どうしてあの家の事を知ってるんだ?」
問うと、相手は足を止めて俺に微笑んだ。
「やだなあツカサ君たら。決まってるじゃないか。アレは僕の別荘だからだよ」
「えっ」
べっ、別荘、ブラックの別荘?!
あ、でも、コイツ良く考えたら恐ろしいほどの金持ちなんだし、有り得るっちゃあ有り得るのか……いや、そうだとしても何故ここに来る。何の意味があるんだ。
訳が解らなくてじっとブラックを見つめた俺に、相手はニッコリと微笑んだまま――低い声で、ぼそりと言葉を零した。
「ツカサ君は今から、あの家で僕と飽きるまでセックスするんだよ」
………………え……。
……え?
「大丈夫だよ。家の中も無事だし、綺麗にしてあると思うから。今日からあそこで誰にも邪魔されずに、一日中愛し合おうね」
「ぶ、ブラック」
「言ったよね? 僕、何するか知らないよって。言ったのにツカサ君はあのクソガキを助けに行ったよね。約束だって拒まなかったよねえ」
「う……ぁ……」
……ちょ……ちょっと、これ、ヤバくない?
明らかにブラック怒ってるよね。笑ってるけど絶対怒ってるよね。
あああ顔に何か影が掛かってる、絶対怒ってる、なんで今再燃してるの!?
「怒ってないと思った? 我慢してただけだよ。……でもまあ、許してくれるよね? 余計な面倒も起こさなかったし、あのクソガキにも危害は加えなかったんだから」
それは、そう……だけど……。
やっぱりブラック怒ってたんだ。許そうとは思ってなかったんだ。
ええいチクショウッ、このネチネチおじさんめ。どうしてお前はそう他人に対して超絶心が狭いんだよ。何でそう悪い方向に思い切りが良いんだよ!
ここで俺を一日中犯すって、お前どう考えてもレッドより酷いんだけど!?
ああでも約束しちゃったし、俺に拒否権ないしぃい……。
でも怖すぎる。思わず涙目になってしまった俺に、ブラックは薄く笑った。
「まあまあ、そう不安がらないでよぉ。……もしかしたら、ここでツカサ君が僕の為に頑張ってくれることで……僕の腕も治るかも知れないんだからさ」
「え……!? そ、それ……ほんと……!?」
思わず食いつくと、ブラックは少し笑みを和らげて頷いた。
「ツカサ君が頑張ってくれさえすれば、ね。まあ、やってみないと分からないけど」
「う……」
そ、そうか……ここでブラックに従うと、ブラックの腕が治るかもしれないのか。
何をするのか全く分からなかったけど……でも、それなら……。
「……してくれるよね? ツカサ君」
――だって僕達、恋人で婚約までしちゃったんだもんね。
そう、言われて。誰も居ない通りで、耳に軽く噛み付かれる。
柔らかく触れる歯の感触に思わず体を震わせてしまったが……。
「っ……わ、わかっ、た……」
ブラックの腕が治る可能性があるなら、拒否する理由なんてない。
何をされるか分からないし、そもそも一日中……あ、あい……あの……されたら、事後どんな事になるか考えるだけでも恐ろしかったけど、それでも構う物か。
今はブラックの腕を治すのが最優先だ。何よりも大事なのだ。
クロウやシアンさんには、後でちゃんと連絡を取って謝ろう。
とにかく今はその方法を試さなくては。
「ツカサ君、頷いてくれるよね?」
「あ、ああ。俺に出来る事だったらなんだってするよ!」
アンタの腕が治る以上に嬉しい事なんて、今は無い。
そう言うように力強く頷いた俺に、ブラックは猫のように目を細めた。
「じゃあ、行こうか」
その低くて重い声が、ぞわりと背筋を撫でる。
妙に感じる不安感を振り払って、俺はブラックと一緒に別荘へと向かった。
→
※次から新しい章です\\└('ω')┘//
初っ端からスケベばっかりでブラックが酷いしクロウも怒るしで
下手すると本筋全く進んでない章になるかも知れませんが
何卒宜しくお願い致します…(こんな章で年越すのか…
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