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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
貴方が心を揺さぶる限り2
しおりを挟む「レッド」
崩れそうな階段を下りて、明かりが点いている部屋にそっと入る。
焦げた臭いが充満していて息を吸うのも躊躇われる部屋だったが、それでもレッドが一心不乱に本棚の本を調べているのが見えた。
さっきまで泣いて俺に縋りついていた姿が嘘のようだ。
それに……今のレッドは、さっきまでのレッドとは少し違ったように見えた。
……なんでだろ。別に、レッドの容姿は変わってないのにな。着ていた服とか髪の毛先とかが所々コゲてたから、変わったように見えるんだろうか。
でも、服は着替えて普通のワイシャツみたいなの着てるしなあ。
なんだかよく分からなくなってきたが、とにかく、今までずっと心の中で渦巻いていた「コイツから逃げたい」という気持ちは湧いてこない。
これがいわゆる“邪念が無くなった”って事なんだろうか。
よく解らなかったけど、俺はレッドに近付いてもう一度名前を呼んでみた。
「レッド」
「っ! あっ、ああ、ツカサか……。すまない、本に集中していた……」
そういうとこは、やっぱりブラックと似てるんだな。
……まあ、二人とも「アイツと比べるな」とか言いそうだけど、そんな風に真剣に本と向き合ってる姿は、俺からしてみればちょっと格好いいっていうか……。
なんつーか、アレだ。とにかく良い姿って奴だな。
だから、ちょっと微笑ましくなって思わずクスッと笑ってしまうと、レッドはちょっと眉を下げて、困惑したような照れたような顔をした。
その表情で、レッドが動揺していないのだと悟って、俺は横に並ぶ。
本をみやると、相手は少し照れつつも手を傾けて中身を見せてくれた。
「何か手がかりか証拠が無いかと思って、本を読んでいたんだが……中身は意外な事に、町民が好むような物語だったよ」
「町民が好むって……どんな?」
「超常的な力を手に入れたり、高貴な存在に見初められて、現在の低い地位から一気に高みへとのし上がる物語だ。……それか、そのような自由な立場の者が、不幸だとされている今の状況から連れ出してくれる物語だな」
それって……俺が良く読んでた異世界チート小説みたいなもんかな。
俺は別の世界で沢山の冒険をする話が好きだったけど、もしかしてレッドの母親であるマルーンさんも、そういうジャンルが好きだったんだろうか。
あ、でも、そう言えば、あの書庫にはそういうチート物っぽいのってなかったな。
全部、昔の童話とか昔のライトノベルみたいな正統派の冒険譚ばっかりで、チート物みたいな制約も何もなく自由に行動できる物語の本は置いてなかった。
レッドはこの本を町民の読み物だと言ってたけど、だから置いてないのかな。
でもそれってどういう事なのだろうと首を傾げると、レッドが軽く息を吐いた。
「……こういう本は低俗だと言われて……俺達は所有も閲覧も許されてはいない。市井の者が好む三文小説など残す価値は無いとされて、一族の間では忌避されて来たんだ。……勿論、所持していると知れたら、その者は嘲笑される。それくらい、こういう荒唐無稽な娯楽小説は下に見られていたんだよ」
「だから……この地下に、マルーンさんは隠してたの……?」
レッドを見上げると、彼は青い目を伏せて小さく首を動かした。
「…………母上は、逃げたかったのだろうな。ありとあらゆる一族の呪縛から……。そして、自由に生きたかったのだろう。真に好きな相手と契りを結び、自由に様々な国へと出かけ、己の望む主張を通せるような地位が欲しかった。……だから、一族の者に見つかれば恥となる娯楽小説を、ここに隠していたんだろう。物語の中だけでも望みを叶えたい……いや……自由に生きたいと、夢想して」
「…………そんな……」
レッドとブラウンさんが居たのに、今の場所から逃げたかったなんて。
息子を愛して居たんじゃないのか。心を傾ける相手を間違えたって、ブラウンさんには悪い思いを抱いて無かったんじゃなかったのか?
マルーンさんは、本当に「逃げたい」って思ってたのかな……。
問いかけたかったけど、そんな事を問えばレッドが傷付くかもしれないと思って、口には出せなかった。けれど、そんな俺の思いを読み取ってしまったのか、レッドは寂しそうに微笑んで、本を閉じた。
「隠すのも仕方がない。娯楽小説の全ては、俺の一族にとって『けしからん』物だったからな。恋愛結婚は生殖に偏った下民の浅ましい行為だとされて、この国の貴族の間では疎んじられたし……例え性的思考がオスだったとしても、女人は一歩下がって男を立てるものと言うのが一般的だ。何か言いたい事が有っても母上には口に出す事すら許されなかったのだろう。……だから、娯楽小説に救いを見出そうとしていたのかも知れない」
「……本の中に入れば……自由に、駆け回れるから……」
「……ああ。きっと……母上にとっては、この本棚の中の物語すべてが“自分の望んだ場所”だったのだろうな……」
うん……。そうだよな。本って逃げ場でもあるんだ。
どこへも行けない体でも、本の中に世界が広がってさえいれば、主人公達に自分の視界を重ねて様々な景色を見る事が出来る。
例えそれが一時の夢だったとしても、本の中で感じた事は本物だ。
読んで思い描いた全ては、その人にとっての宝物になる。そうして、そこで感じた思いが現実で良い方向へと芽吹く事だってあるんだ。
……だけど結局、マルーンさんは現実に押し潰されてしまった。
手に入らないブラックを求めて、発狂して…………。
「ここは……俺には、ひどい部屋にしか見えないけど……マルーンさんにとっては、救いの部屋だったのかな」
呟くと、レッドは目を閉じて眉間に皺を寄せた。
「……父や俺と過ごす事よりも……ここでの自由が、母上には至上の喜びになったんだろう。母上は、俺よりこの部屋での安寧を望んだというわけだ」
「レッド……」
思わず名を呼ぶが、レッドは目を瞑ったまま何も言わない。
何を考えているのか俺には分からなかったけど……その様子は、祈っているようにも、何かを悔いているようにも見えた。
…………本当に、違う。俺が見ていたレッドとは、全く違う。
これが本当のレッドなら、俺は訊かなければならない事が有る。レッドにとっても、きっと大事なことを。……それを問いかけるのには勇気が要ったが、俺は深呼吸をして心を整えると、レッドに問いかけた。
「なあ、レッド……。アンタ、本当に……俺の事が好きだったのか?」
その言葉に、レッドがゆっくりと目を開く。
横目でこちらを見た相手に、俺は続けた。
「お前は、今までグリモアの象徴である【嫉妬】に突き動かされてきた。ブラックを憎む事で、精神を安定させてきたんだ。……つまりそれって【ブラックへの嫉妬】が最優先の感情だったって事だろう? なら、俺に対する感情は、その延長でしかなくて……本当は、俺に対しては……何とも思ってなかったんじゃないかなって……」
「…………それは……」
「なにも、アンタの気持ちを否定してるんじゃないんだ。……だけど、一度ちゃんと考えて欲しくてさ……。レッドの気持ちは、レッドの物だ。誰かに指図されて良い物じゃない。けどもし俺への感情が、グリモアから漏れ出した力に因るものだったら……」
そこまで言って、俺は首を振った。
いや、違う。そう言う事を言いたいんじゃないんだ。
俺が言いたいのは、その先に在る言葉……レッドに約束した、こと。
……ちゃんと、言わなくては。
包帯だらけの拳を握って、俺は息を吸って口を開いた。
「いや……そうじゃない。俺は……アンタの、本心からの言葉を聞きたいんだ」
「……本心、からの……?」
「うん。……アンタは今までずっと誰かを憎むしか無くて、指図されて憎んで……ずっと、利用されてた。小さい頃からずっと抑圧されて、我慢してただろ? だから今もう一回考えて欲しいんだ。考えて、何が辛くて何が好きで……もし自由だったら――何を一番先に望んだのかって事を」
…………ずっと、考えていた。
レッドがブラックを憎んでいて、ブラックと一緒に居る俺に対して執着していると知った日から、レッドが本当に俺を好きなのか俺は疑っていたんだ。
確信があったワケじゃない。心の奥底で蠢いていただけで、俺自身はその事を深く考えた事は無かった。だけど、ずっと心の中で引っかかっていたんだと思う。
レッドは、ブラックを憎むための要素の一つとして、俺を好きだって錯覚していたんじゃないかって……。
だから俺は、問いかけて見たかった。
レッドが自分の心と向き合うきっかけは、そこからだと思ったから。
そうすればレッドは……嫉妬の感情から切り離されるんじゃないかって。
「俺、は……」
思っても見ない事を言われたのか、レッドは目を丸くして言葉を失っている。
だけど、俺は焦らせる事が無いようにレッドを気遣った。
「ゆっくりで良い。アンタが思った事を、正直に言って」
「だが……」
「俺は、否定しないよ。好きでも嫌いでも、否定しない。レッドが言いたいことを言って良いんだ。何を思って……何がしたかったのかってことも」
そう言うと、レッドはゆっくりと俺に振り返った。
どこか表情の薄い、驚いたような顔。
けれど、俺を強く見つめる目は揺らいでいる訳ではない。その事に安心して、俺は力強く顔を引き締めて頷いて見せた。さっきの言葉は真実だとでも言うように。
すると、レッドは俺を見つめたまま小さく息を吐いて……記憶を探るように視線をゆっくりと動かし始めた。
「……俺、は……。俺は…………一番、最初にお前を見た時…………不思議だと、思ったんだ」
「不思議……」
「冒険者みたいな恰好をしていて……だけど、十二三の子供のようで……それなのに、とても甘い、美味しいお菓子を持っていて……見た事も無い子だなと、思った。だけど、その時は……それだけだった……」
そう言えば、俺とレッドの出会いはそれが初めてだったな。
あの時のレッドは仮面で顔を隠していたからギョッとしたけど、仮面越しでも解るイケメンな感じにイラッとしてたっけ。
「…………だが、俺は……いつのまにか……いつの間にか、ツカサが欲しいと……そう、思うようになって……。それは、嫉妬の……?」
「…………」
「いや、そうじゃ……ない。違うんだ……」
前髪を掻き上げて、レッドは記憶を探るように瞳を惑わせる。
そうして、目の前に在る本棚を見つけると……レッドは、ハッとしたように瞠目して――――それから、もう一度俺を見た。
何か、とても驚くような物を発見したような顔をして。
「レッド……?」
「いや……そう……そうだ……俺は……俺は、違う……違うんだ、ツカサ……! 俺は、ずっと……そう……ずっと、理解者が……俺の事を、解ってくれる人が……欲しかったんだ……。だから、お前に『本が好きなんだな』と言われた時、その理解者を手に入れたような気がした。俺自身すら気付かなかった俺の気持ちを教えてくれた、お前に出会って……」
「あ……」
そう、だ。俺、そんな事をレッドに言ったんだ。
レッドは本の引用元すら気にするほど、本の事をよく見ていた。読み込まなければ絶対に判断できない事すら、俺に簡単に教えてくれたんだ。そうやって話してくれた時のレッドは……本当に……格好良く見えたんだ。
好きな事を心底好きでいる姿をしていたレッドは、生き生きしていた。
だから俺は、そんなに本の事を好きでいられるレッドをそのまま表現したんだ。
自分では気付かなかったとレッドは笑っていたけど……そっか……幼い頃から、ずっと厳しい教育を受けて来て、今でも顔が辛そうに歪むぐらいその事がトラウマになってたんだもんな……。否定されて支持され続ける内に、レッドは自分の事すらも解らなくなって行ってしまったんだろう。
だから、俺の一言で……。あ、でも、それなら……。
「レッドは……自分の意志で……」
「ああ、俺は……俺の意志で……お前が、欲しいと思った……。だけど、お前は既に、あの男の物で、俺の手が届かない所にあった。だから俺は嫉妬で……」
そこまで呟いて――――レッドは、青い目に光を孕ませた。
「そう、か。俺は…………俺は、最初から……乱れていたのか……」
「……?」
言っている言葉に意味がよく解らなくて、目を瞬かせる。
レッドはそんな俺に振り向いて、ぐっと眉根を寄せた。けれどその顔は怯えたような表情ではなく、何かの確信に満ちた顔だった。
「ツカサ。俺は……お前の中に、母上を見ていた」
「え……」
「ただ一人、俺を見捨てないでいてくれた母上に……唯一の理解者にお前を重ねて、俺は……あの男を更に憎むようになって行った……。お前と母上の両方を奪ったあの男に……俺は、嫉妬していたんだ。だから、今までこのグリモアを制御出来ていた。けれど、それは……違う。違ったんだ」
何を言ってるんだろう。
レッドは、何か答えを見つけたんだろうか。
よく、解らない。だけど、俺を見つめるレッドの青い瞳は、宝石のようにキラキラと輝き、生気に満ち溢れていた。
「ツカサ……俺は……本当に、お前が欲しかった。それだけは、本当だ。お前との事は、あの男を思っての事じゃない。お前しか見えていなかった。お前を思っている時だけは、俺は……心の中の憎悪も、母上の事も……忘れられたんだ……」
レッドは、俺に母親との共通点を見出していた。
けど、俺の事を考えていると……母親と憎しみを忘れられた……?
どういう事なんだろう。レッドにとって、俺は母親と似た物なんじゃないのか。
理解したいけど、言われている意味がまだよく解らない。理解したいと思って約束したのに、レッドが何を言いたいのか何もわからなかった。
けれど相手はそんな俺の様子を全て理解しているのか、少し寂しそうに微笑んで、俺の髪を優しく撫でた。
「……俺の【嫉妬】は……俺が心の底から願った【嫉妬】だった。……誰かに望まれ植え付けられたものじゃない……。俺は、自分で……こうなる事を、望んだんだ」
「…………レッドは……その事を……悔やんでない……?」
「悔やんでいる……お前を苦しめたんだからな……。だが、心のままに自由に感情を吐露する事を許して貰えるなら……嬉しいと、言いたい。そう、嬉しいんだ……。俺は、今まで“自由だった”という事を知れて……その事に、気付かせて貰えて……」
「…………」
「だが、俺の事を……お前は、許してくれないだろうな……」
レッドは、悲しそうに顔を歪める。
それが俺に対しての罪悪感から来る表情なのか、それとも理解して貰えないだろうと思っての悲哀の表情なのか俺には判らなかったけれど。
「……ううん。許すよ」
「ツカサ……」
「だけど俺は、まだアンタを『好きだ』とは言えない。その気持ちにも……応える事は、出来ない。許す事は、解き放つ事だと俺は思う。だから……お別れだ」
「ああ……」
レッドは、頷く。驚くほど、素直だった。
許してしまえば、俺はレッドの事を忘れてしまうかも知れない。別れると言う事は、レッドと二度と会わないと言っているのと同じなのかも知れない。
それを理解していて、それでも相手は頷いたのだ。
俺が今まで見ていたレッドとは違う……穏やかな、大人の顔で。
……その顔を見たら、何故か急に胸が痛くなって、泣きそうになった。
自分で「お別れだ」と言ったくせに、俺の心とは別の場所で“何か”が痛がって、涙を流しているような気がする。それが何かは、今の俺にはもう解らない。
けれど、その思いを抑えて、俺はレッドを見返した。
レッドの穏やかな表情に応えるように微笑んで。
「……俺の言葉をどう考えるかは……レッドの、自由だよ」
「ツカサ……」
「…………自分一人で……お母さんの事、受け止められる?」
問うと、レッドは目を閉じて微笑み、そして開いた目で俺をもう一度見た。
「長い時間が必要だと思う。俺もまだ……全てを受け止められた訳ではない。だが、一人で考えてみようと思う。お前達に迷惑を掛けずに、一人で。それが、俺にとって一番いいような気がするから。……だから、もし……母上の過去を全て受け入れて、本当にあの男に頭を下げたいと思えた時は…………会いに行っても、良いか」
その言葉に、俺はレッドがやっと歩き始めた事を理解した。
ああ、やっと。やっと……レッドは、嫉妬の呪縛から解き放たれたんだろう。
憎む以外の方法で、己の中の物を制御する方法を見つけたんだ。
だから。
「……うん。いつかきっと、ブラックに謝りに来てよ。その時は俺が仲立ちしてやるから。だから……」
「ああ。俺はもう二度と……誰かに利用されたりしない。クロッコが来ても、お前達を襲う事は無いと約束しよう。……これからは、己の力でグリモアを制御してみせる。俺を理解してくれた人がこの世に一人でもいるのなら……それだけで充分だ」
……ああ。この人は、もう大丈夫なんだ。
俺には最後までレッドの言葉が理解出来なかったけど、ロクに話も聞いてやれなかったけど、レッドは自分で見つけて自分で納得する事が出来た。
自分で歩いて行こうと決める事が出来たんだ。
それなら、俺はもう何も言う事は無い。嫌いって言ったけど……アンタはやっぱり俺よりも大人だよ。自分一人で立ち上がれるアンタが、羨ましい。
そんな事を言えば、「嫌い」という言葉が揺らいでしまいそうで言えなかったが、俺の中ではもう、レッドに対する嫌悪感は無くなっていた。
自分でも不思議だけど、相手から、俺に対する異常な執着が消えたからだろうか。
なんだか簡単だなと思わないでもないけど、まあ……別に良いか。
「ところで、ツカサ。その……別れる前に……ひとつ、聞きたいんだが……」
「ん?」
何かまだ気になる事が有るのかとレッドを見やると、相手は何故か少し顔を赤くしながら、小さな声で呟いた。
「俺の、その……あの、部屋の事なんだが……。気持ち……悪かったか……?」
…………。
あ、あの部屋……部屋って、あれか。あ、あ、あの、俺の裸の……ッ!
あああああ何で今思い出させるんだよ何でこの良い感じの雰囲気の時に!
出来ればずっと忘れていたかったのに、忘れてたかかったのにいいい!!
「俺は……その……お前の事を、絵の中に、残したくて……」
う、うん、まあ、そうだよな。そういうのってあるよな。
エロ写真とか裸婦画とかはそういう気持ちが有って描かれてる物もあるもんな!
俺だってその気持ちは分からないでもないぞ!
可愛い子の写真を撮るのと一緒なんだよな、そうだよな、理解出来るからもう勘弁してくれ考えさせないでくれ、またお前の事ドンビキしちまうだろうが!
俺は良い気分でアンタと別れたいんだよ、ブラックに謝りに来てくれる時に男らしく迎えてやりたいんだよ、こういう事を覚えていたくないんだよォオ!!
「え、えっと、あの、あれだ! その……まあ、男ならそういう趣味って有るからな! 俺は気にしないからあの時の事は忘れよう! なっ!」
「ツカサ……!」
レッドが何だか嬉しそうな声を出している。
心なしかキラキラ輝いているような気がするが、それどういう気持ちからなの。
ポカンとする俺に、輝く眩しいレッドは俺の手を取って何度も礼を言った。
「ありがとう、ツカサ……! 俺を理解してくれるだけじゃなく、思い悩んでいた俺の性癖まで受け入れてくれるなんて……! ああ、やはりお前は俺の理解者だ……」
えっ、あれっ。ちょっと待って、なんか変な方向に話が行ってない?
俺は別に受け入れたとかじゃなくてだな、その、性癖は人それぞれなので無暗に嫌っちゃ駄目だよねと思って「分かる」と言っただけで、受け入れたとかは……。
「あ、あの、レッド……」
「必ず謝りに行くと誓おう。母上の事にケリを付けたら、必ずお前達に会いに行く。だから……それまで待っていてくれ……!」
うん、それはお待ちしてますけど、あの、俺も一つ聞いていい?
レッド……あの絵、処分してくれるよね……?
…………そう聞きたかったけど、立ち直ったばかりのレッドにそうとも言えず。
再び会う時まで、俺の絵は飾られ続けるんだろうか。いや、まともになったレッドがそんな事をするとは思いたくない。というかそう信じたい。
他人から散々利用されていた【嫉妬】の呪縛が解けて、やっと自由になったんだ。アレダメコレダメと言うのは、流石に可哀想だし……ああ、でも気になる。どう考えても俺の全裸の絵が大量に存在するってヤバイって!
ブラックを恨まなくなってくれただけありがたいのは解ってるけど、俺の全裸の絵は頼むから全部燃やしてくれ。そう言いたくて仕方が無かったが、自分の趣味を否定されずに喜んでいるレッドに、そんな事が言えるはずも無かった。
……ああもう、本当に心底嫌えていたら、こんなに悩む事も無かったのに……。
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