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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
16.人形とは異なる存在だからこそ
しおりを挟む昨日の夜、俺はレッドと「恋人がする事」をした。
そう、あの「準備」よりも先の事を行ったのだ。
行った、んだが……。
「まだ体がおかしい気がする……」
今日こそは美味しいジャムを作ろうと思い、昨日と同じようにガタガタと調理器具を用意しながら、俺はボンヤリした声で呟く。体の妙な感覚をとにかく言葉にしたかったんだけど、ピンと来る表現が出来なくて、俺は朝から困ってしまっていた。
……と言うのも、昨日の夜、俺はレッドに変な事をされたからだ。
いや、変な事じゃない。なんか恋人がするって言ってた奴だ。
でも俺は「変なこと」だって妙に考えてしまって……うーん……だけど、本当に変だったんだからそう思っても仕方ないよな?
だって、おしっこ出す所だとしか思ってなかった所を触り合いっこするとか、何かおかしくない? それに、そこから変なモノも出たし……。
「……思わず『いや』とか口走っちゃったけど、アレがイヤって気持ちなんだな」
レッドに初めて股間を弄られた時、なんだか体が勝手にもじもじしだして、自然と息が上がっちゃって、口に手を当てて抑えようとしたんだけど、あそこを触られると変な声が出そうになっちゃうから、軽く混乱してつい「イヤ」という言葉が出ちゃったんだよな……。
でも、自分でも訳の分からない事になったら、そりゃ拒否するよな?
体が熱くなって、そんなつもりないのに高くて変な声が出るし……しかも、えっと……股間のモノが、レッドに触られるとなんか凄い事になって……。
そ、そんなの、絶対変じゃないか。そんなの本に載ってなかったぞ。
しかも厠に行きたくなる感覚があったから「やめて」と言ったんだけど、レッドは俺以上にハァハァ言ってて、薄暗い中でも青い目がぎらぎらしてて……とにかくよく解らない間に色々されて、俺のアレからは、なんかどろどろしたのが出てて……。
「う……うぅう……」
薄暗くてよく解らなかったし、レッドも「気持ち良くなると出るもの」ってくらいしか教えてくれなかったけど、本当に俺の股間のモノは大丈夫だったんだろうか。
そういえば俺のこの股間のモノは何て言う名前なんだ。本に載ってないんだけど。
つーかその、レッドとしたことって、どういう行為なんだ。恋人同士でする行為だって言うから、俺もレッドのを……その……手で触ったけど……。
あんな感触初めてで、ソコが立ち上がるなんて知らなくて、なんか、その、おしっこじゃない物が出てくるのが、もう本当に理解出来なくて。
「なんか、顔が熱い……なんかもうやだ……」
思い出しただけで顔が目一杯熱くなって、何故だか解らないけど自然と「いやだ」と言ってしまう。レッドに対してじゃなくて、その……あの……。
「ああもうなんか良く分かんないよ! あれ本当に恋人でする事なのか!?」
自分でもよく解らない感じになって、かまどの穴に鍋を勢いよくかけてしまう。
これがヤケってヤツなんだろうか。何もかも初めて過ぎて、もう付いてけないよ。
だって、あ、あんな風に触られるなんて初めてだったし、レッドだってなんか変な風になってたし……恋人ならあんな風にやるって言ってたけど、今まで知らなかったレッドだったし……。
「夜にアレをすると、みんなあんな風になるのかな……」
薄暗くてレッドの顔はよく解らなかったけど……あの夜のレッドを見ていた俺は、何故か体が震えて来て逃げ出したいような気持ちになって。
だからなのか、お互いのアレを触って変な物を出した後に強引に押し倒された時、俺は体が硬直してしまった。そんな俺を見てか、レッドはいつもの状態に戻ってくれて「怖かったんだな、すまない」と謝ってくれたんだっけ。
あれが怖いという感情だったのかと驚いたけど、でも、それだってレッド自身の事が怖いんじゃなくて、その……レッドがいつものレッドじゃないみたいで、そんな人にこれからもっと知らない事をされるんだと思うと凄く……怖くなって……。
………………。
レッド、物凄く俺に謝ってくれたけど……気を悪くしてないかな。
本当なら、もっとその先が有って、それが目的だったのかも知れない。
だとしたら、俺が怖がったせいでレッドは“それ”を行えなくなってしまったんだ。
レッドが「夜にやろう」と言った事を了承したのは俺なのに、今までにない初めての事だったから嫌がってしまったなんて、恋人としても奴隷として最悪じゃないか。
これじゃ、レッドが悪い人みたいだ。
違う。レッドは俺を助けてくれた人で、優しい恋人で、俺のご主人様なんだ。
悪い所なんて有るはずがないじゃないか。なのに、あんな事して。
「……レッド……怒ってないと良いけど……」
昨晩の事を引き摺っているのか、レッドは朝起きてからずっと、いつも以上に俺に優しくしてくれて、どこか焦ってるみたいに接して来て、俺の方が申し訳なくなってしまうくらい必死だった。
イヤって言ったり怖がったりした俺の方が悪いはずなのに、拒否されて悲しかっただろうレッドに謝らせてしまうなんて、本当に自分が「イヤ」になる。
また自分の体を抓りたいくらいの気持ちになって、これが「自分を責めている」という気持ちなのだと改めて自覚した。
そうだ、俺は自分が許せないんだ。
こんなの、奴隷としても、恋人としても、男としても失格だ。
物語の人達はお互いを信頼していたし、相手を心底想っていた。
だったら、あの夜の「恋人同士のこと」だって、全部受け入れられたはずなんだ。
レッドは「初めてだし戸惑って当然だ」と笑って許してくれたけど……恋人と言うのなら、これでいいはずない。だって……恐らく記憶を失う前の俺なら、レッドとの夜の事をすんなり受け入れられていたはずなんだから。
「こ……これじゃいけないんだよな……」
俺は、記憶を失くしてからずっと迷惑をかけっぱなしなんだ。
それに、レッドはきっと「記憶を失う前の俺」に戻って欲しがってる。俺にはそんな事なんて言わないけど、前の俺の事を教えてくれるのはそういう事だろう。
俺だって、今の違和感ばかりの状態から元に戻りたいと思う。不慮の事故でこうなったんなら、記憶を失う前の俺だって元に戻りたいと思ったはずだ。
……やっぱり、このままじゃ駄目だ。
これから毎日こういう事をするかも知れないし、レッドの期待に応えられないままでアレも出来ないコレも出来ないってんじゃ、さすがに情けなさすぎる。
「よし……とにかく今はジャム作りだ……」
夜の事は、その……まだちょっと考えが纏まらないから保留するけど、とりあえず今は奴隷として出来る事をちゃんと頑張る事にしよう。
レッドはジャム好きだって村長さんが言ってたし、今度こそ上手に作らなきゃ。
「よし……とにかく今日から、もっと頑張らなきゃな……!」
――――と、言う訳で。
そこから、俺の「レッドに喜んで貰えるような恋人になる大作戦」が始まった。
……と言っても何も凄い事はしてないんだけど、それから三日ほど俺は今までの俺以上に家事や読書を頑張った。家事はいつもの事だが、ここで重要なのは読書だ。
やっぱり自分から何が出たのか解らず「怖い」という感覚が抜けなかったし、そんな状態じゃレッドを喜ばせる事も出来ないと思ったからな。レッドに許可をとって、アレが説明されているような本を選んで読ませて貰った。……んだけど、俺の頭には難しい本でよく解らず、結局「男なら普通に出る」という事しか解らなかった。
なんか精液って言うらしいけど、子供を作るのに必要なんだって。
…………他に出てくる場所なかったんだろうか?
おしっこと一緒の所から赤ちゃんの材料が出て来るって汚くないか?
よく解んないんだけど、レッドが言うにはおしっこは「体がいらなくなった物」の液体らしいけど、出した直後は全然汚なくないらしいので、俺の想像はちょっと違うらしいが。変なにおいがつく理由は、目に見えない「魔素」というものに蝕まれてしまうかららしい。うーむ、よくわかんない。まあでも、アレは変な物じゃないって事だな。それは解って良かった。少し心が軽くなったぞ。
なので、俺は夜の事も精力的に頑張った。
とは言えまだ三日なので怖いものは怖いし、つい「イヤ」と言ってしまうので、レッドには迷惑をかけっぱなしでやっぱり触りっこしか出来なかったけど……レッドはと言うと、そんな俺でも嬉しそうにしてくれていた。
どうも、この「イヤ」は普通の「イヤ」とは違うらしい。
……じゃあ、拒否してるって事じゃ無かったのかな。イヤにも種類があるのか。
これもこれでよく解らないんだけど……まあ、レッドが喜んでるならいいか。
――――とまあ、そんな訳で、学習に積極的になった俺にレッドも徐々に気が楽になっていったのか、以前よりも俺と恋人として触れ合う時間が多くなった。
それに、俺が元気に動いてる事に安心したのか、今では庭や街を少しだけ歩かせて貰えるようになったんだ。今日だって村長さんの家に二人で行ったんだぜ。
村長さんの女将さんは良い人で、料理も教えて貰って俺は一杯お礼を言った。
そうしたら、女将さんは俺の事を「幼い頃の息子みたいだ」って言ってくれて、ぎゅっと抱きしめてくれて……またもや俺はホンワカしてしまった。あと、なんだかドキドキして、レッドと夜の事をしてる時みたいな感じでモヤモヤしてしまったが、これは内緒だ。
アレって恥ずかしいから……ちょっと人には言えないもんな……。
少しだけレッドに秘密が出来てしまったが、これはすぐ治まったから良いだろう。
そんなこんなで、俺は新たな「他人」に出会う事が出来て更に意欲が高まり、今度は女将さんに教えて貰った「ノザクラブドウ」のジャムを作ってみたくなった。
女将さんがこっそり教えてくれたんだけど、それがレッドの大好物らしいのだ。
だから、俺もこっそり作ってレッドを喜ばせてあげたいんだよな。
作るのは難しいらしいけど、ノザクラブドウは街の外の森にたくさんあるらしいし、レッドに頼んだらきっと連れて行ってくれるよな。
あっ、でも、物語で読んだ「こっそり作って驚かせる」というのをやりたいから、何を採りに行きたいかは内緒だけどな。
と言う訳で、人気のない夕方の街の道を帰りながら、レッドに街の外の森に連れて行ってくれるように頼んだのだが。
「……ツカサ、それはダメだ」
「ダメ?」
「ああ。……森の中には、恐ろしいモンスターが居て、とても危ないんだ。ツカサは俺よりも小さくて華奢だから、そんな奴に会えば食われてしまう」
だから駄目だ、と歩きながら言うレッドに、俺は首を傾げた。
「でも……女将さんは穏やかな森だって言ってたよ」
そう。女将さんは「この村の人達は、朝の森に野草を取りに出かけるの」と言ってたんだ。街の人達は見た事が無いけど、その人達が行けるならいいじゃないか。
子供だって行ってるみたいな事を女将さんが言ってたんだぞ。だから、俺にだってブドウの話をしてくれたんだろうし……。
ちょっと違和感があってレッドに反論すると、レッドは急に足を止めた。
何事かと思って俺も少々つんのめりながら止まると、急に肩を掴まれて、強引にレッドの方を向かされた。そのレッドの表情は、夕方の日差しで影が掛かった、真剣な表情で。思わず息を飲むと、相手は眉根をぐっと寄せた。
「女将は昔の事を話しているんだ。今は安全ではない事を知らない。だから、お前に当たり前のように話してしまったんだ」
「間違った情報ってこと……?」
「そうだ。今まで俺が間違った事を言った事が有ったか? なかっただろう?」
「う……うん……」
そう言えば、そうだったかな……。
うん……レッドは俺に色々教えてくれたし、間違った事は無かった……はず。
「……さ、帰るぞ。今日は色々と教わって疲れただろう? ゆっくり眠ろう」
手を差し出されて、俺は戸惑う事も無くその手を握る。
俺の手とは違う、ごつごつした手。俺の事を引っ張ってくれる、レッドの手だ。
その手に包まれると、俺は安心する。だけど……今の俺は、先程のレッドの言葉で今更な事に気付き、ぐるぐると考えてしまっていた。
レッドの言う事は、間違ってない。
でも俺、そう判断できるほどの情報すらも持ってないんじゃないのかな。
物語や本の中のお話しか知らないし、村長さんを紹介されるまではレッドの言う事しか聞いてなかったから、他の人の話と比べる事なんてなかったんだ。
今日初めて、それに気付いたんだよ。
だったら俺……今までそんな事、考えた事も無かったんじゃないのかな。
何が正しくて何が間違ってるのかなんて事すら、解らないんじゃないのか?
「…………」
レッドの言った事と、女将さんの言った事。
どっちが正しいんだろう。
片方が間違った事を言っているなんて思いたくない。
だって、俺にとってはレッドも女将さんも「好きな人」だから。
でも、じゃあ、どうしたら良いんだろう。どっちか片方が間違ってて、どっちかが正しいって答えしかないのかな。両方正解じゃ駄目なの?
だけどレッドは違うと言うし、女将さんの所に戻って聞く訳にも行かないし。
じゃあ……どうすれば、いいのかな。
……俺、考えた事も無かった。
「誰かのため」じゃなくて、自分がどう行動すればいいかなんて、一度も……。
「…………」
こういう時、本の中の人達はどうしてたかな。
俺に出来る事は、何かあるのだろうか。
知りたい。
今はただ、この妙な感覚の意味を知りたかった。
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