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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
62.きっと、帰るから
しおりを挟む視界が白に塗りつぶされて、何も見えなくなる。
……どう、なったんだろう。
助かったのか。それとも、光に紛れたクロッコ達によって、知らない内にトドメを刺されてしまったんだろうか。
訳が解らなくて立ち竦んでいると、目の前がゆらゆらと揺れ始めた。
自分の目がおかしくなったのかと段々動かなくなってきた右腕で目を擦ると、その陽炎のような揺らめきは徐々に色付いて形を成していく。
何が起こっているのだろうかと見上げていると、それはやがて見覚えのある形になった。東洋の龍を思わせる細長い蛇のような体に、六つの足。そして尾の先は槍のように鋭く尖っていて……体は、生まれたばかりの真鍮のように美しい色だ。
背や足の曲がりにある瑞雲らしき輝く鰭も、ツノのような四つの触覚も、蜂の羽根のような二対の透けた耳も、間違えようがない。
この巨大な陽炎の正体は……――
「蜂龍、さん」
掠れた声で呟くと、相手は宝石のように美しい空色の巨大な複眼を閃かせた。
『ようやく我を呼んだか、ツカサ』
首を伸ばして立つ蜂龍さんは、ただただ美しい。
思わず息を呑んだ俺に、彼女は老いてなお凛とした声で軽く笑った。
『相変わらず色々と考えるな』
「あっ、す、すみません……」
『構わぬ。それよりも、時間が無い。今は神の力を借りて、ほんのわずかに時を止めているだけだ。すぐに時は動き出す。……出来る事は多くない。さあ、お前の望みを我に告げよ』
ああ、そうだった。世間話をしている暇はない。
時を止められるってどういう事だと質問したかったが、そんな事は後でいくらでも訊けるだろう。今はそうじゃない。俺が望んでいる事を、蜂龍さんに言うんだ。
ずきずきと痛む右腕から力を抜き、俺は美しいその姿を見上げた。
「ブラックを助けて下さい」
『……その、後ろに居る男だけか?』
言われて振り返ると、ブラックは跪いたまま力なく項垂れている。
一瞬意識が無くなったのかと焦ったが、どうもこれは止まっているだけのようだ。
そう言えば血も出てないし……とにかく良かった。
『お前は本当に自分の事はどうでも良いのだな』
「……俺は……治るから」
『それでも体は痛かろう。左腕は最早使い物になるまい。肉は爛れ、炭となり、後は腐るのみだ。いくら治るとはいえ、その傷は一月では治癒が追いつくまいよ』
「それでも治るから、良いんです。だけどブラックはそうじゃない。ブラックの腕は、もう二度と元に戻らないかも知れない……それ、どころか……っ」
その先は、どうしても言えない。
例え杞憂になったとしても、現実になりそうでどうしても言いたくなかった。
蜂龍さんはそんな俺の気持ちを読み取ったのか、テレパシーの中で軽く息を吐く。
『……愛する者への献身か。まったく、本当にツカサは見上げたうつけ者よ。その力が在れば、世界すら支配できると言うものを』
「買い被り、です……。俺二つの属性の術しか覚えてないし、馬鹿だし……ブラックとクロウ、それに……ロクやザクロ達がいなければ、何も出来ない。そのくらい弱いんです。今だって、ブラックに何も……なにも、して……やれない……っ」
泣くな、恥ずかしい。
蜂龍さんに泣いて見せたって、どうしようもないじゃないか。
それより願うんだ。ブラックを助ける為に何でもするって言うんだ。
でも、腕がもう動かない。鼻を啜って必死に感情を抑え込んだ。
そんな俺に、蜂龍さんは顔を近付けて来る。
大型車一つ分ほども有る大きな顔が目の前眼前に突き付けられて、大きな窓のような蜂龍さんの複眼が、綺麗な青い光をじわりと灯した。
『自分を弱く見せるな。それは最も恥ずべきことだ』
「蜂龍、さん」
『確かに、ツカサの武器は他人を制する力は無いかも知れない。だが、その代わりに我や、あの男のような者が、お前の周囲には両手で数え足りないほど存在している。それはお前の力……お前の意思が成す“内なる力”の顕れに他ならない』
内なる、力。
それは……どんなものなんだろう……。
黒曜の使者とは別の力なんだろうか。ブラックを助けられる力なのかな。
助けられるのなら、どんな力だって良い。弱くたっていいから。
だから、俺に力が在るのなら……
「蜂龍、さん」
『……今は意味が解らぬだろうが、きっと解る時が来る。……それよりも今は、あの男の命を助けるのだったな』
頷くと、相手は再び元の体勢に戻り、じっと俺を見下ろした。
『残念だが、我には傷を治す能力は無い。……だが、ツカサに必要な力は与える事が出来る』
「力……?」
問い返した俺に頷き、蜂龍さんは足……いや、手の一つを上げて、空間をちょんと突いた。すると、その場所に波紋が生まれ何かが浮き上がってくる。
何かと思っていたら、なんと波紋から柘榴が飛び出してきた。
「ビィ~!」
「ザクロ!」
鞄を持った柘榴が、嬉しそうに目をちかちか光らせながら俺の方へ飛んでくる。
ぶんぶんと何度も俺の方を周回して、それから何かにハッと気が付くと、バッグの中から一生懸命に手を動かして何かを掴みだした。それは。
「俺の作った、バンダナ……」
そう、それは俺が今まで心と曜気を籠めて縫い続けていたバンダナだった。
ブラックの赤髪が映えるように選んだ薄水色の綺麗な布は、光の空間の中でもキラキラと小さな光を反射している。普通の服を着てる時のブラックに似合えばいいなって思って、それで選んだ色だったけど……白い空間で見るその色は、なんだか空の色にも見えた。
『その布で傷口を覆え。さすればあの者の腕は腐らず血もこれ以上流れない』
「え……ほ、本当ですか!?」
『我らの糸だけでは、そのような力は出てこないが……お主が五曜全ての力を注ぎ、そのうえ“大地の気”まで籠めた物だからな……そこいらの神器よりも恐ろしい力を持っておる。その布を巻いている限り、腕は保たれるだろう』
「あっ、ありがとう、ございます……!」
良かった、ブラックの腕はこれ以上悪くならないんだ。
だったら腕を取り戻す方法なんて幾らでもある。そうに違いない。だってこの世界は奇跡を起こせる存在が無数に存在している異世界なんだ。きっと、ブラックの左腕を修復する方法だってあるはず。それを探せばいいんだ。
良かった。本当に、良かった……っ。
『まだ泣くのは早い。問題は敵をどう蹴散らすかだ。その男に布を巻きながら聞け』
「は、はい」
そうだな、時間を止めている間に早く処置しなくちゃ。
俺は慌ててガクガクと揺れるぎこちない足を叱咤して、ブラックの前に跪き、柘榴に手伝って貰ってブラックの腕になんとかバンダナを巻いた。
『この島は、我らが創造主の力が最も強き聖域だ。故に、ツカサの黒曜の使者の力は全て封じられる。曜術とて例外ではない。お主の存在自体がそうなるように、今のディルムには術がかけられておるのだ』
「じゃあ、どうやって……」
ブラックの腕を保護出来ても、あいつらが居たんじゃどうしようもない。
どうにかして、ブラックをどこかへ逃がさないと。
そう強く思い蜂龍さんを振り返ると……彼女は、目の奥の光を細めた。
『…………命を賭ける覚悟は、あるか』
言うまでもない。
例えどんな事になろうが、俺はブラックを守って見せる。
俺の化け物のような能力は、きっとそのために在るのだから。
「ツカサ、くん」
目の前で固まっていたブラックが、急に動き出す。
その声が先程よりも辛くなさそうな事に安堵して、俺は上手く動かない顔で必死に笑顔を作ると、未だに何が起こったのか解らず混乱している相手の顔を見た。
だらしなくて、無精髭だらけで格好悪くて、でも格好良くて……むかつく顔。
俺を真っ直ぐに見てくれる相手に、枯れたはずの喉が潤んで痛くなるような感覚を覚えたが、俺はその衝動を堪えて笑顔を続けた。
「腕は、もう、大丈夫だから」
「え……」
「……本当は、恋人としての……いや、婚約して初めての贈り物を、こんな時に渡したくなかったんだけど……そのバンダナ、大事にしてくれよ」
俺の言葉に、ブラックは「なぜそんな事を言うんだ」と言わんばかりに顔を歪める。だけどその表情に答えたらどうしようも無くなりそうで、俺は答えずに続けた。
「ごめんな。俺が弱いばっかりに、ブラックにばかり守ってもらって……」
「ツカサ君……」
「でも今は、俺が守らなきゃって思うんだ。……だから、俺……頑張るから」
「ツカサ、君、ちょっとまってよ」
「俺が、守るから」
「ツカサ君!!」
ブラックが、泣きそうな顔で叫ぶ。
だけど俺はそんな顔を見るのに耐え切れなくて。
だから、ブラックの顔に思い切り近付いて
「――――っ」
口を塞ぐように、キスをした。
「ッ……ぁ…………」
一度だけのキスに、ブラックは驚いたように目を見開いて俺を見ている。
その呆気にとられた表情は、俺の顔を自然に緩めてくれた。
「……ごめんな、ブラック」
俺がそう謝ると、ブラックは何か信じられないような物を見るような顔をして、俺をじっと凝視して来た。だけどもうその視線に応えてやる時間は無くて、俺はその場で立ち上がると、踵を返して背後を振り返った。
こちらを訝しげに見やり警戒しているクロッコと、何とも言えない表情をして剣に寄り掛かっているレッド……二人の敵を、しっかりと見据える為に。
「……今、何をしたんですか?」
「見れば判るだろ。イチャついてたんだよ」
「ほう、私には何かの術を使ったように見えましたけどね……。先程まで貴方はその体勢をして私達に立ちはだかっていたのに、一瞬であの男に跪いていた。何らかの術を使われたとしか思えないんですけどねえ」
――それに、何故か貴方は先程より元気になっている。
クロッコがそう指摘した事に、俺は皮肉めいた笑みで緩く笑った。
確かに、今の俺はさっきよりも元気だ。けれどそれは、術のお蔭じゃない。
「術じゃねえよ」
「ツカサ、君」
「俺が借りたのは――――龍の力だ」
その言葉に、明確にクロッコが動揺する。
ああそうだ。「龍」という存在を知っていればいるほど、その力は怖かろう。
龍と言う存在はこの世界では神の次に強大な力を持つ。時を止める事も出来るし、やる気になれば国の一つや二つ滅ぼす事が出来るんだ。
その力を、借りた。
こんな状況でなければ、満身創痍の俺がそんな事を言ってもただの戯言と取られただろう。しかしクロッコ達も「一瞬だけ謎の光が見えた」という違和感を感じているはずだ。そして、俺のミサンガが消えている事も気付いているだろう。
だがそれも好都合だ。誰もブラックに視線を移さない。俺の方を見ている。
それでいい、それで良いんだ。
俺は、やるべき事をやる。それだけだ。
息を吸って、それから――――俺は、静かに唱えた。
「我が盟友たる勇蜂の真祖の名を持って、ここにその力を顕現する……我が盟友の名は【蜂龍】!! 金色の力を持つ神龍なり!!」
そう叫んだ、瞬間。
体中から熱が一気に奪われ、俺の眼下には無数の白い光の穴が開いた。
「なっ、なんだ!?」
【蜂龍】という名によって表れた無数の光の穴は一気に増え、そうしてそこから――蜂龍さんと同じ真鍮の色を持つ機械のような蜂が何十匹と飛び出して来た。
「勇蜂種!? な、なぜこんなものを、こんなに召喚……ッ!!」
「よっ、寄るな!」
クロッコが明確に動揺している。ざまあみろ。そう思い笑ったが、無数の蜂を呼び出したせいで体は力を失い、倒れる寸前だ。
あの蜂達は、蜂龍さんの操り人形……つまり魂の無い機械のような物だ。
だから恐れもしないし、倒れても金属となって土に消えて行く。けれどクロッコ達は今までそんな存在を見た事が無かったのか、酷く狼狽していた。
この世界では、ゴーレムという存在は魔族には見られるが、人間が造る正しい意味でのゴーレムは存在していない。昔は居たけど、今は何故かいないらしい。
俺達が見た事が有るのは、地下水道の「空白の遺跡」でだけだ。
だから、レッドもクロッコも命のない存在に混乱しているのだろう。特にレッドは、何か蜂に嫌な思い出でもあるのか、炎を出して必死に焼き尽くそうとしていた。
それが俺達の思うつぼだ。
「みんな頼む!!」
俺がそう叫ぶと、数匹の機械の蜂達が一斉にブラックの方へと向かう。
「なっ、なにっ!?」
驚くブラックに蜂達はチカチカと目を光らせ、数匹がかりで抱え上げる。
体格が良いはずのブラックだったが、機械の蜂達にはそんな事は関係が無いようで、数匹だけでも上手く支えて空に飛び上がっていた。
「よし、そのまま王宮へ運んでくれ!」
「――!?」
そこでやっと状況に思考が追いついたのか、ブラックは瞠目する。
だけどもう遅い。
「つっ、ツカサ君待って!! 僕も戦う、駄目だツカサ君一人でなんて!」
「だ、誰も一人でなんて言ってないだろ!」
「はえっ!?」
アンタが持ち上がれば、それで良いんだよ。
だけど俺は一人で逃げろだなんて言ってない。誰がこんな奴らと戦うもんか。
俺は踵を返すと、ブラックを抱えて待っている蜂達に駆け寄った。
「ギギッ」
二匹の蜂が近寄って来て、俺が乗り易いように補助してくれる。
腕が使えなくなった俺は彼らの手を借りて、なんとか二匹の蜂に抱えて貰った。
そう、俺は最初からこうするつもりだった。
今の状況では、俺が何度体力を回復して貰ったってジリ貧だし、ブラックを動けるようにして貰っても手負いの俺が居たら状況は変わらない。
だから俺は、自分の体力と引き換えに蜂龍さんに機械の分身を操る「権限」を一時的に譲渡して貰ったんだ。と言っても、もう今はその権限も無いんだけどね。
これはあくまでも、二つの事を叶えて貰う為の譲渡だ。
「ブラックを助ける」という事と「不利にならないよう二人から逃げる」と言う俺の願いを、蜂龍さんは機械の分身に命令した。だから今、それが行使されている。
ある程度俺の言う事を聞いてくれるのは、逃げるという曖昧な願いを遂行する為の措置ってわけだ。
「な、なんだ、一緒に逃げてくれるなら言ってよぉ……僕てっきり、ツカサ君が一人で残っちゃうのかと……」
「俺が残ったら本末転倒だろうが!」
大体あいつらの目的の半分は俺の拉致なんだぞ。万が一敗北してしまったら、敵の思う壺じゃないか。そんな壺だれが進んで入るかっての。
「そ、そうだよね、僕達はずっと一緒だよね……!」
「とにかく逃げるぞ! 蜂くん達、頼む!」
「ギィッ」
「ギギッ」
俺の言葉に「了解した」と言わんばかりに機械音で返事をして、軽く飛び上がる。
だがそれを敵が許すはずもなく、レッドはいつの間に意気を取り戻したのか、再び怒りを含んだ声を上げて剣を掲げ振り上げていた。
「逃がさん……絶対に逃がさんぞツカサぁああ!!」
レッドの剣に、赤い光が灯る。
徐々に離れて行く光景のはずだったが、その燃える光を灯した剣の周囲には無数の火球が出現し――――次々にこちらへと向かって来た!
「うわぁあ!」
「ギギギッ」
驚く俺達を落とさないようにしながら、蜂達は必死に炎の玉を避ける。だが、様々な方向から飛び込んでくる炎の玉を避けるのは難しく、道から逸れてどんどん右方向へと追いやられていく。
蜂達も高度を上下させたり左右に避けて必死に回避しているが、ブラックを抱えて飛んでいる機械蜂達は無理をしているようで、挙動がおかしくなっていた。
このままでは、危ない。
「ブラック、今ここで貴様を葬ってやる!!」
足の痛みを克服したのか、それとも激昂したお蔭で痛みを感じないようになったのか、レッドは剣を天高く掲げて何事か呟きながら火球をいくつも放って来る。
最早俺にまで激突して来ようとするほどに、火球の数が増えて行く。
避けるのがやっとで、逃げる事が出来ない。レッド達を攻撃してくれていた機械の蜂達も大半が斃され、もう俺達を守る物は何も無くなってしまっていた。
ヤバい。このままじゃ……!
「死ね、ブラック……――――!!
「ッ!!」
火球が左から大きくカーブを描いて加速し、ブラックの方へ飛び込んでくる。
だめだ、今の蜂達では回避が間に合わない。これではブラックに当たってしまう。
火球が万が一でもバンダナに引火したら、もうどうにもならない。
いやだ。ブラックが今度こそ……!!
「ああぁああああ!!」
嫌だ。
ブラックが死ぬなんて、嫌だ……!!
そう、強く思ったと、同時。
俺はブラックの方へと飛び出し――――
火球に、横っ腹を打たれていた。
「ツカサ君!!」
半狂乱みたいなブラックの声が聞こえる。そんな声を出せるなら無事なんだな。
良かった。ブラックには当たらなかったんだ。それならいい。
反動で横に飛ばされながら、そう、思って。
「あ…………」
自分が落下しているのを感じ、俺は自分の視界がどこを見ているのか把握した。
――――なんだろう、全てがゆっくり動いているように見える。
右に物凄く驚いているブラックが居て、機械の蜂達が色んな所に散っていて、左端にレッドとクロッコがこっちを見ているのが見えて……あれ、なんであいつらまで俺を見ているんだろう。俺が吹っ飛ばされたのがそんなに驚く事だったのか。
いや、火球に当たってまた怪我をした事に驚いているのかも知れない。
ははは、ざまあみろ。レッド、お前の間違った復讐はまたもや失敗だったな。
でも当然だよな、ブラックは無実なんだから。何も悪い事はしてないんだから。
そう、思ったと同時。体が一気に落ちるのを感じた。
「ツカサ君!!」
「ああああああああ!!」
悲鳴が聞こえる。ブラックと、誰だ。まさかレッドか?
そう思って、落下し始めた体が地面より更に下に落ちているのを視界に捉え、俺は何故叫び声が聞こえたのかを理解した。
「あ…………」
落ち、てる。
俺……島の外に投げ出されたんだ。
「あ……あ、ぁ……」
凄い速度で目の前の岩肌のような地面が上へせり上がって行く。
だがそれも数秒の事で、すぐに俺は空の中へ放り出されてしまった。
「…………」
ああ、駄目だ。
落ちている。もうどうしようもない。
今更曜術が使えるようになったとしても、俺にはもう体力が無い。機械の蜂達も、実際そう速い速度で動ける訳ではないんだ。俺を助ける事は出来ないだろう。
もう、どうしようもない。
「ブラック……」
ちゃんと、逃げられたかな。
あのままならきっと、蜂達が連れて行ってくれたはずだ。
クロウだって、やられたワケじゃないだろう。きっとそうだ、だってクロウは凄く強いんだからな。絶対に、ブラックを助けてくれる。
だから何も心配はいらない。俺があいつらの手に落ちる最悪のシナリオも防げた。
バンダナも、ちゃんと……機能してた…………。
「…………好きって、言ってやったほうが良かったかな……」
そこまで言えば、別れの台詞のようになるから……どうしても、言えなかった。
だけど、こんな事になるなら……言っておけば、良かったなあ。
こんな状況でもないと、格好良く言えそうにも無かったから。
……もう、後悔したってどうしようもないけれど。
空の上で空気に揉まれ、ひたすら落下しながら、俺は冷たくなった体を広げる。
少しでも空気に抵抗するように。
そんな事をしても、この高さなら助かりはしないだろうけど。
「復活……出来ると、いいな…………」
生き返れるって、言ったよな。
だったら俺は何度だって、ブラックの所に帰れるんだよな?
もし本当にそうなら。本当に、死なないのなら――――
「ブラック……」
――ブラックの所に、帰りたい。
あんたのそばに。
一番、安心できる腕の中に……――――
涙が、上へと昇って行く。
だけどその雫を拭う事すら出来ず、俺はただ目を閉じた。
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※遅延すみません…
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