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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
58.大事なものを守るために
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ここはどこだ。森の中という事は俺達が最初に到着した森なのか?
いや、ここは浮島と言っても狭い訳ではない。他の森に移送された可能性がある。
だとしたら、俺が走っている方向は出口ではないかも知れない。でも、止まる訳には行かなかった。
「はぁっ、はっ、はぁっ」
草に足が取られそうになる。流星の光があるから木の根や地面が浮き上がった所は解るけど、それでも薄暗い事に変わりは無くてとても危ない。
しっかりと地面を見ていないと、すぐにでも転びそうだった。
「ビィッ、ビビィッ!」
「ど、どうしたザクロ、そっちなのか?」
走る最中に、バッグを持ってくれている柘榴が何か別の方向を指さす。
どこへ連れて行こうとしているのかは解らなかったが、今はどこへ逃げればいいかと言う指針もない。だったら、柘榴を信頼した方が万倍マシだ。
なんたって柘榴は俺より夜目が利くだろうし、なんかこう……蜜蜂パワーというか龍の眷属パワーで道を探ったりできるのかも知れないし!
とにかく迷っている暇はない。柘榴の指す方向へと走り、脱出を目指す。
すると柘榴はアンテナのような触覚をあらゆる方向へと動かしながら、時折道筋を修正するかのように異なる方向を指してくる。
もしかして、リアルタイムで道を調べてくれてるのかな……物凄く助かるけれど、でもなんか能力を使ってたりしないのか。大丈夫かな。
「ザクロ、大丈夫か?」
「ビィッ」
息を切らせながらも心配になって問いかけるが、ザクロは大丈夫だと言わんばかりに応えて、ポンと己の胸らしき部分を叩く。
何かの能力を使ってる訳じゃないって事なんだろうか。
そういえば昆虫って物凄い方向感覚を持ってるっていうよな。蜂なんかは磁石より鋭い感覚で、磁気を感じ取って完璧に方向を認識できるって言うし……柘榴もその力を標準で持っていたりするのかも知れない。
いや、この世界に磁気があるのかは謎だけども。
「な、なんにしろっ、ざくろがっいっ居てくれれば、ひゃくにんりきっだなっ」
ああ、息が辛くなってきた。
ヤバい、ちょっとしか走ってないのにこんな事になるなんて。
ラピッドでも掛ければ楽勝なのにとは思うけど、今の俺はと言うと、何故だか曜術だけじゃなくて気の付加術まで使える気がしない。ここにだって大地の気は存在するはずなのに、何故か今の俺はどうやっても力が出せなくなっていて……つーか、ただの運動不足なだけだコレは!
チクショウ、王宮でだらだらしてたからまた体が鈍っちまったんだ。
だけど、まだレッドは追って来てない。まだ逃げられる。一刻も早くあの小屋から離れてブラック達と合流するんだ。
自分を鼓舞して、俺を導いてくれる柘榴に一生懸命付いて行く。
早く、戻りたい。戻らなきゃ。
ブラックとクロウが居る、暖かい場所に戻るんだ。
「はぁっ、は……はっ、げほっ、っ、はっ……はぁっ、は……!」
自分の吐息が煩い。耳に心臓が移動したのかと思うくらい鼓膜がどくどく言って、周囲の音が聞こえなくなってくる。
肺が忙しなく動いて、気管が詰まるようで苦しくて、とんでもなく辛い。
足が疲れて縺れそうになる。だけど、止まる訳には行かない。
帰るんだ。絶対に、ぜっ
「ツカサァアア!!」
「ッあ゛っ!?」
痛い。
……え。なに、何が起こったんだ?
体が痛い。倒れた。いや、背中から肩に何か当たって、地面に押し倒されたんだ。
だけど何が起こっているのか解らない。変な音が聞こえたような気がしたけど、俺の耳は心臓の音で煩くて、なんの音か判断できなかった。
とにかく、逃げなきゃ。転んでいる暇なんてない。
動くと植物の青臭い香りが立ち上り、大きく吸い込んだ空気で咽させようとする。
だが、そのにおいを意識する前に、俺は肩を掴まれ俯せから仰向けに返された。
「ッ、はぁっ、はっ゛、あ゛っ」
喉が、肺が、締め付けられるようだ。呼吸が苦しい。
森の暗い木々の隙間から、色とりどりの光の雨が降ってくる。眩しくて思わず目を細めようとすると、乱暴に体を揺さぶられた。
「何故だ、何故逃げた!!」
「ぅっ、ぐっ、はぁっ、は……ッ」
「ツカサ、何故俺を置いて逃げたんだ……!!」
「あ゛がっ」
揺さぶられ、喉に流れた唾液が声に絡んで変な音を出す。
なすがままになって頭を動かす俺に業を煮やしたのか、相手は俺の頭を大きな手で掴んで、無理矢理に顔を合わせて来る。
顔……そう、だ。俺、レッドから逃げて、この声、レッドの……。
「あ……っ、あ゛……!」
目の前に、怒りに歪んだ顔のレッドがいる。
青い瞳をぎらぎらと光らせて、俺の事を凝視していた。
――――やばい、捕まった。
走り疲れてしまった俺の体は、一度止まってしまえばもういう事を聞かない。
息を切らしながら、レッドを見つめているしかなかった。
「ビィイ!!」
柘榴が威嚇するような鳴き声を発して、羽音を強くする。
だが、その音に苛立ったレッドは俺の頭を捕まえたまま、片手で炎を作り出した。
「小賢しい虫が……!」
炎が、手の内で圧縮されてぐるぐると回っている。
柘榴を打ち落とすつもりだ。そんな事させてたまるか、柘榴はまだ幼いんだぞ!
「や、めろ……ッ」
「少し黙っていろツカサ、お前は後で罰を与える。話の途中で勝手にいなくなるのは、相手に対する礼儀を欠くとても失敬な好意だからな……。これから俺の家に匿うのなら、今から徹底的に教え込まねばならん」
「ば、かっ、やめろっ、ザクロはまだちっちゃいのに……!」
「モンスターに小さいも何もない。首輪を付けて守護獣と呼ばれていようが、結局は悪しき存在……それなら、始末して来世でも祈ってやった方がいいだろう」
炎が強くなる。詠唱もしていないのに、どうしてこんな……いや、そんな事を考えている場合じゃない。こんなものを柘榴に当てられたら、どうなるか解らない。
嫌だ、柘榴が怪我するなんて!
「ザクロ、を攻撃、したら……っ、ゆる、さない……お前を絶対に許さない!」
「ッ……!」
「逃げるんだザクロ!!」
今発せる精一杯の大声で、柘榴に言う。
すると、羽音が一瞬戸惑うようにと舞ったが、しかし柘榴は俺の必死の言葉を受け止めてくれたのか、一声鳴いて羽音と共に逃げてくれたようだった。
音が、遠ざかって行く。
良かった、攻撃される事も無く無事に逃げられたんだな。
そう思ったら、急に力が抜けて体が仰け反る。頭を掴まれているために倒れる事は出来なかったが、しかし柘榴が無事だったことに俺は強く安堵してしまっていた。
俺は、どうにでもなる。だけど幼い柘榴はどうなるか解らない。怪我をしても治るとは限らないんだよ。だから、逃げてくれて良かった。
自分が傷付くより、仲間が傷付く方が何倍も辛いから。
「……ツカサ……何故あの虫を逃がした?」
「うぐっ」
頭を掴む手に力が入って、また無理矢理レッドの方を向かされる。
顔に青筋が走っている。またこいつは怒ってるんだ。俺には理解出来ない身勝手な怒りを、俺にぶつけようとしてる。
でもそれがなんだってんだ。蹴られようが殴られようが、俺は辛くなんてないぞ。
痛いとは思うかも知れないけど、でも、屈したりしない。俺には絶対に助けに来てくれる仲間がいる。もしかしたら、柘榴が連れて来てくれるかもしれない。だから、耐えられる。絶対に、諦めたりしない。
「…………なんだ。何を握っている」
「え……?」
握ってる?
何を言ってるんだと思って、ふと自分を顧みる。
すると俺は……無意識に、胸元の指輪を握り締めていた。
「あ……」
手が、震えている。これは走った後に起こる症状とかじゃない。
俺は……怖がっているのか。レッドに頭を掴まれて、体も動かない状況で一人になって、何をされるのかと怖がっているってのか。
だから助けを求めるように指輪を握ったりなんかして…………
「何を握っていると訊いている!!」
「うあ゛……ッ!」
レッドの手が離れて、両手で俺の手を開こうとして来る。
俺も必死で抵抗したが、しかしレッドと俺の力の差なんて語る必要など無いほどで、両手で掴まれては簡単に引き剥がされるしか無かった。
「この服の中か……この……っ!」
「ひっ、ぅ、あぁ!?」
詰めた襟の部分から思いきり手を差し込まれて、喉を圧迫される。
何が起こったのか解らず瞠目する俺の前で、レッドはそのまま手を下へ思いっきり降ろして……――俺の服を、乱暴に破った。
……う、嘘……嘘だ……なんで服を手で破けるんだ。
この服、神族の国のもので薄いとは言え、しっかりした素材だったのに。
思わず青ざめる俺の胸元に、冷えた空気が襲ってくる。
その冷たさに、急速に指輪が冷えて熱を持った体に触れる。
ブラックの瞳の色と同じ綺麗な菫色の宝石は、それ以上に自分の存在を主張するかのように、流星の光にキラキラと輝いていて……――
「なん、だ……それは……」
レッドの声が、震えている。
だけど、顔を見られない。いや、俺は、見たくないんだ。
気配だけでもレッドの動揺が解る。だから、見たくなかったんだ。
「何だと聞いている……言え、ツカサ……」
「うあっ」
馬乗りになったレッドが、また俺の顔を捕えて自分の方へと向けて来る。
その表情は、怒りに歪み戦慄いていた。
「この指輪はなんだ……なんの指輪なんだ……?」
解ってる。きっとレッドはこの指輪の意味を解ってるんだ。
けれど、その自分の予想を認めたくなくて、俺の口から言わせようとしている。
そんな相手に真実を言えばどうなるかなんて、俺でも解ることだ。きっと、ロクな事にならない。だけどレッドは俺に言わせようとして、俺の肩を強く掴んだ。
「いたッ」
「言え、ツカサ。それとも、有無を言わさず指輪を燃やされたいか?」
「っ!!」
燃やされるはずがない。そうは思うけど、レッドは【紅炎のグリモア】だ。
その攻撃力の高さはブラックも認めている。普通では出来ない事でも、グリモアのレッドなら出来てしまうかも知れない。
そんなの嫌だ。貰って一日で灰になるなんて、絶対に嫌だ。
ブラックから貰った初めての恋人としてのプレゼントなのに、ブラックが一生懸命に作ってくれた、大事な指輪なのに……!
「言えないのか?」
「う……う、ぅ……」
言っちゃいけない。そんな事は解ってる。
言っても言わなくてもレッドは激昂するんだ、黙っていても喋っても、ロクなことにはならない。それは解ってる。だけど……燃やされるなんて、嫌だ。
絶対に嫌だ……!!
「ツカサ」
「わ、解った……! 言う、言うから!」
せめて少しでも守りたくて、指輪を手の中に隠す。
無駄な事とは解っていたけど、取り返しのつかない大切な物を炎で焼かれるくらいなら、いくらでも治る自分の手が焼かれた方が何百倍もマシだった。
「なら、もう一度聞く。……その指輪はなんだ?」
レッドの声が、怖い。
今まで聞いて来たレッドの声とは違う、低く沈んだような声だ。
だけどその声が一番怖いのだと俺はもう知っている。ブラックもクロウも、心の糸が切れる前の声はそんな風な堪えたような声だったから。
……やっぱり、俺も燃やされてしまうんだろうか。
考えて、涙が出そうになる。本当は、自分が焼かれてしまうかも知れないと考えるのは怖い。指輪は守りたいけど、痛いのはやっぱり怖くてどうしようもなかった。
でも、言わなきゃ。
ブラックとクロウはきっと今も俺を探してくれている。だから、二人が俺を見つけてくれるまで、それまでディルムを離れる事が無いように時間を作るんだ。
そう強く自分に言い聞かせて、俺は震えそうになる喉を抑えながら……答えた。
「この、指輪は……
ブラックとの…………婚約、指輪……だ」
そう告げた、瞬間。
目の前に居たレッドが、流星の光を掻き消すほどの禍々しい赤い光を放ち――
獣のように、狂った叫び声をあげた。
→
※次ちょっと痛い…というか暴力描写大目なので注意して下さい
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