異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編

56.幸せな時間というものは1

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「……ていうかちょっと待って。なんでクロウは驚いてないの。知った風なの」

 別荘に連行されながらもクロウに問いかけると、相手は熊耳をもさもさと動かして空を見上げる。既に庭園へと出て来たので星空が見えるが、まだ【星降りの祭り】は続いているようで鮮やかな光の雨が依然として降り注いでいた。

 そんな空から顔をおろし、クロウは俺をじっと見やる。
 で、何を言うかと思ったら。

「知っていたからだが」
「はっ……」
「ああ、これは言わない方が良かったか」

 クロウがブラックを見やるが、くだんのオッサンは話を聞いているんだかいないんだか、デレデレと顔を緩めて浮かれた声を漏らす。

「でへへ……まあ良いさ。プロポーズだけは上手く行ったんだし……」

 指輪がどうのこうのという問題は有ったけど、まあ確かにつつがなく終わった。
 だがちょっと待て。言わない方が良かったかって事は、やっぱりクロウも知ってたと言う事か。そんで、お膳立ての為にわざとそっけなく…………。

 つーか、ぷっ、ぷ、プロポーズって……っ!

「あ~ツカサ君たら顔が赤くなってるよぉ~! 何々、プロポーズ? プロポーズって言葉に赤くなっちゃったの~?」
「ううううるさい! 知るかそんにゃのっつーか何でクロウは知ってるんだよ!」
「群れのおさを補助するのは二番目の雄の役目だからな。それに、ブラックが早く子を作ってくれなければ、オレがツカサをはらませられない。だから、その準備のためならオレは喜んで協力するぞ」

 また孕ませるって言ってる! 勘弁して下さい!
 婚約はまあ、その、俺の世界でも同性婚とかあるらしいし、百合結婚とか漫画では見た事有るし、何よりこの世界は同性同士で結婚は全然変な事じゃないって知ってたからすんなり受けちゃったけど……よくよく考えてみたらこれってす、凄く重大な事をしちゃってるのでは……。

 だ、だ、だって、婚約ってけ、結婚の前の段階だし……そうしたらその、お、俺って、ブラックの事をお嫁さん……いや俺がお嫁さん……? よくわからんが、とにかく俺はこのオッサンと結婚しますって約束しちゃった訳で…………。
 う、うううう、今更だけど俺、とんでもない約束しちゃったんじゃ……。

「ツカサ、子供はいつだ」
「子供なんて作るわけないだろ駄熊。ツカサ君は僕が独占するんだから」
「ム、それは困るぞ。お前がツカサとの間に子供を作らなければ、オレがツカサとの子供を作れないだろうが。良いから早く種を植えて犯せ」
「は? 何でお前に指図されなきゃいけないんだよ。ぶっ殺すぞ」
「なにを。ツカサを孕ませるためならオレも負けんぞ」
「だー!! お前ら勝手に話を進めてんじゃねええええ!」

 ていうか星空の下でとんでもない話し合いをするんじゃねえ!
 せっかくさっきは良い雰囲気……じゃなくて!

 エネさんの事も有るんだし、クロッコがレッドと一緒にまだこの島に潜伏しているかも知れないんだから、こういう事を考えている暇はないだろうが。
 それよりも、エネさんも解放されて真実が明らかになった今、シアンさんの潔白が証明されたことを喜ぶべきではないのか。ていうかそっちのがメインだっただろうが俺達の今回の目的はあああ。

「お前らなあ、そんな事よりシアンさんの……」
「そんなこと? ツカサ、それはさすがに酷いぞ」
「ツカサ君酷い! 婚約したばっかりなのに僕の事ないがしろにしたー!!」
「ええぇ……でもお前ら、俺達がここに来た目的は、シアンさんを助ける為ってのが大前提だっただろ!? まず先にそっちを考えろよ!」

 こ、こんにゃくの話とか後でも出来るし、その……ゆ、指輪はもう貰ったんだし……とにかく今は身の回りの安全を確認して、レッド達が襲ってこないかどうかを考えてから、そんで改めて諸々の事を考えるのが一番いいんのではと俺は思う訳で。

 しかしそう提案しても、オッサン達は不満げな顔をするばかりだ。

「折角の婚約初夜なのに、なんで胸糞悪い連中の事を考えなきゃ行けないの」
「そうだぞツカサ。こういう時は本格的に子作りの話をだな」
「頼むから身の回りのこと以外も考えて」

 レッドがこの浮島に居るってことは、アイツはまだ復讐を諦めてないかも知れないんだぞ。虎視眈々とブラックの命を狙っているかも知れないんだぞ。
 舞い上がるのは解るけど、俺はそっちのが気になってどうしようもないよ。

 だってさ。ブラックは基本的に他人の事は考えない奴だけど、それと同時に自分の事もあんま考えないんだもん。だから、心配なんだよ俺は。
 舞い上がってる最中にグサーってやられたらもう目も当てられないじゃん。
 万が一にもないだろうけど、俺だって指輪を遺品にゃしたくないんだってば。

 真面目に聞いて、と二人を自分の方へ注目させると、俺は真剣に訴えた。

「あのな、レッドが居るって事はブラックが危険なんだぞ? 相手はヤバい移動手段を持ってていつ襲ってくるかも判らないし、そうなると一番危ないのはブラックなんだからな。いくら気を付けてたって、不意打ちじゃどうしようもないだろ」
「まあそりゃそうだけど……」
「クロウだって、ブラックが大変な事になったら、子作りどころじゃなくなるぞ? だからさ、今はレッド達が襲撃してこないように気を付けるべきじゃないかなあ」
「ムゥ……」

 何で俺はオッサン相手に子供に言い聞かせるような事を言っているのだろう。
 しかしこうでも言わないと、二人は解ってくれないしな……。
 星降る空の下で大人相手に言い聞かせなんて、なんだかもうよく解らない事をしているなあと思うが、ブラックやシアンさんの安全には代えられない。
 つーか俺も危ないかも知れないし、相手がどう打って出るか解らない以上は、より警戒して身を守っておかねばならないだろう。

 そんな俺の思いをみ取ってくれたのか、ブラックとクロウは不承不承と言う感じで頷くと、とりあえず言い合いはやめてくれた。
 うんうん、二人とも話せば解ってくれるもんな。そういう所は大人だもんな。
 俺は信じていたよ二人がすぐに理解してくれるって。

「じゃあさ、今日はとにかく部屋に籠ってゆっくり……」

 休もうか、と話を打ち切ろうとした俺をさえぎって、ブラックは俺を抱え直した。

「そうだね、じゃあ守りを万全にするために……ひとつの部屋に集まって、ツカサ君は僕と一緒のベッドで寝ることにしよう!」
「だな。オレも二人を守るために寝ずの番をするぞ」
「いや、あの、なんでそうなる」

 俺を抱えたままずんずんと歩くブラック達に慌ててツッコミを入れるが、しかしオッサン達は歩みを止めず館の中に入ってしまう。
 待てと言っているのに、ブラックはそのまま俺の部屋へと入り込んでしまった。

「おいっ! なんでそうなるんだってば!」
「え~。だってさあ、一つの場所に固まってた方がツカサ君を守りやすいし、僕達だってすぐにやられることはなくなるでしょ?」
「あの赤い髪の若造が来ても、オレもすぐに二人を守れるからな。一人ずつ部屋にこもっているよりは、ずっとマシなはずだ」
「まあ、そりゃそうだけど……」

 でもブラック達と一緒に部屋に居ると、大概セクハラされるからなあ……いや、俺が警戒しろって言ったんだから、そんなこと事言っちゃいられないんだけどさあ。
 そもそもの話、俺が一番弱いワケだから、二人と一緒に居る方が良いってのは充分解るし、クロウが言うようにお互いを守るためにも良いとは思うんだけど。
 しかしなあ、前科がなあ……。

「それで、ツカサはどんな指輪を貰ったんだ」
「はいっ!?」

 俺が色々深く考えている内に、もうクロウはくつろいでいたらしく椅子に座っている。
 何時の間にと思ったが、今問われた言葉を思い出して、俺はどこか楽しげに聞いて来るクロウをまじまじと見てしまった。
 指輪の話って……な、何で急に。

「え、なに? 聞きたい? 指輪の話ききたい~?」

 俺を抱えたブラックは、何がそんなに嬉しいのか得意げな声でクロウに返す。
 そうしてそのままベッドに座り、いつものように俺を抱え上げた。ああ、言いたくないがいつもの体勢だ……。

「ねえねえツカサ君見せちゃいなよ、僕との婚約指輪見せちゃいなよぉ」
「なっ、なんで……」
「熊公が見たいって言ってるんだもん。見せてやらないと! ほらほら早くぅ」

 こ、婚約指輪ってそんな風に人にホイホイ見せるもんなのか……?
 よく解んないけど、でもまあ、クロウになら……。

「…………こ……これだけど……」

 ずっと握り締めてたら失くしそうで怖かったので、すぐズボンのポケットに入れておいたんだっけ。早くひもか何か付けて首から下げておかないと。
 そんな事を考えながら、俺は指輪を取り出してクロウに見せてやった。













※またもや遅れて申し訳ないです……
 少し短いし話が進んでないですが許して下さい(;´Д`)
 
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