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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
52.繋がるために人は出会う
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「いや、確かに二人きりにはなれるけど……なんで森……?」
ブラックに拉致され意外と簡単に王宮から抜け出す事が出来た俺達は、何故か最初に到着した森に足を運んでいた。
……が、何故ここに来てしまったのだろう。
「えーと……一番近かったから?」
頬をポリポリと掻きながら言うブラックに、俺は腰に手を当てて首を傾げる。
一番近いからってお前、もしやノープランで飛び出したのか。どうも行き当たりばったり感が拭えないんだが。いやまあ、本当はこんな事するつもりじゃ無かったんなら仕方ないかもだけど……せめてもうちょっと隠せない物か。
「確かに、夕方までに帰れる場所って言ったらここしか無いけども……」
「と、とにかく! ここならゆっくり散歩出来るよね?」
「う……うん……」
ブラックの有無を言わさぬ言葉に思わず頷くと、ブラックは自分でも何度か小さく頷いて、それから俺の手を掴んで歩き始めた。
「…………?」
なんだかさっきからブラックの様子がおかしいが、本当にどうしたんだろう。
妙にソワソワしてるし、何なら顔も微妙に赤いような……いや、無精髭であんまし解らんけども。でも、妙なのには変わりないぞ。
手だって、いつもなら「デヘヘ」とか言いながら指の間にデカい指を挟んでえげつない握り方してくるのに、今日は手首掴むだけまだし。何かいつもより汗だくだし。
そういえば、俺が見ても見返してくることも無いな。
別に俺を無視してるワケじゃないみたいだけど、目が泳いでるから、俺の方をよく見る事が出来ないみたいな。お前はあれか、付き合いたての女子か。
でも、まあ、正直……そんなブラックは、可愛げがないでもないかも……。
………………いや、こんな事、絶対ブラックの前では言わないぞ。言わないけど、でもいつもとは違って恥ずかしがり屋みたいにモジモジしてるブラックを見てると、キュンとするっていうか、心がむず痒くて思わず俺も照れちゃうっていうか。
その…………こういうブラックって、ちょっと可愛いかもって……。
………………。
まっ、まあ、アレだ! 恋人だもんな、あばたもエクボだもんな!
普通の状態ならこんな事は絶対思わないって俺も解ってるから、こ、恋人って言う欲目が有るからだしそれは理解してるからこんな事思っても俺は正常だよな!
だから別に俺の倫理観がおかしくなったんじゃなくて、恋人だから可愛いかもとか思っちゃうわけで、オッサン相手にこんな……いや恋人ってことを許容してる時点でどう考えてもおかしいんじゃないかっていうかその……!
「つ、ツカサ君、森だよ、森。よ、喜ばないの?」
「はへっ!? もりっ、も、森だな! そうだな森だったな! めっちゃ緑だな!」
ああもう何言ってんの俺。森なんだから緑くらいあるだろ。
ブラックがおかしいから俺までおかしくなっちまってるじゃねーか!
ちくしょう、こんなの格好悪い。何今更ドキドキしてんだ、ブラックがいつになく照れてちょっとキュンとしたからって、俺まで恥ずかしがる事ないだろ!
こっ恋人なんだ、こういうのは当然なんだ、プレゼントだって渡すしそもそも俺達は付き合い始めの恋人じゃないし、えっちとか沢山しちゃってるし、え、えっちな事……。
「わあっ! ツカサ君、顔真っ赤だよ!?」
「ここここれは光の加減で赤くなってるだけだから!!」
ぎゃーバカバカこんな時ばっかこっち見るんじゃないよ!
何でアンタはこんな時ばっかりこっちを見るんだと離れようとするが、ブラックは照れ照れしてるくせに俺の手首を離そうとしない。
それどころか自分も顔を赤くして、焦って、あせって…………。
「……な……なんか……緊張してる……?」
おずおずと問いかけると、ブラックは少しはにかむようして唇を結び、頷いた。
「き、緊張してる」
「……なんで?」
「う……それは…………デートだから……」
そう言いながら、ブラックは判り易く目を泳がせ口を尖らせる。
これは絶対ウソをついてるな。他に何か思惑が有るに違いない。
だけど、その様子がなんだかおかしくって、俺は思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、あははっ」
「ちょっ……な、なんで笑うのさ!」
「だって、今日のブラック何かおかしいんだもん」
空涙を拭いながらそう言うと、ブラックは顔を真っ赤にして目を丸くする。
菫色の綺麗な瞳が光に煌めいて綺麗だったけど、本人はそんな場合じゃないのか、下顎をがくがくと震わせながら口を不格好にもごもご歪めた。
これも初めて見る顔だ。
……なんだか、今日は初めてばっかりだな。
こういう照れた顔って、本当は一番最初に見てる物だろうにな。
でも、今見れてるなら……良いかな。
何故そう思うのか自分でもよく解らなかったけど、それで良いと思えた。
だからなのか、俺は何だかブラックに良くしてやりたくなって。
「…………ブラック、手。ほら、ちゃんとして」
「あわぁっ?!」
手首を掴む手を優しく解いて、いつもブラックがしている“恋人繋ぎ”をしてやると、ブラックは変な声を出して耳までユデダコになった。
へへ、おかしーでやんの。
いつもは俺が慌てるのにあべこべじゃん。
だけど今は何だか面白くて、嬉しくて、俺はクスクス笑いながら、情けないくらい赤面しているブラックを見上げた。
「デートなんだろ? 手首じゃ格好つかないじゃん」
「あっ……う……ぉ……」
笑みが抑えきれずに目を細める俺に、ブラックは顔をあっちにやったりこっちにやったりして、マヌケな声を出して顔を更に赤くしている。
本当、どうしちゃったんだろう。今日のブラック、なんかヘン。
嫌いじゃないし面白いけど……でも、あんまりからかうのも悪いかな。
ブラックが落ち着くまで別の話をした方が良いかもしれないと思い直し、俺は何か話のタネになる物が無いか周囲を見回した。
しかし見えるのは青々とした木々の群れだけで、ブラックの気を紛らわせるような物は見当たらない。普段ならくだらない事も沢山思いつくのに、今は何も思い浮かばなかった。これはヤバいぞ。
このままだと、恋人繋ぎした俺の方が恥ずかしくなって来るじゃないか。
からかった俺の方が恥ずかしくなるなんて格好悪い。
どうにか話を纏められないかと視界を彷徨わせていると――ふと、木漏れ日に照らされた草叢が目に入った。
「あっ」
「ど、どしたの」
未だに本調子じゃないブラックから手を離して、俺は草叢の前にしゃがみこむ。
そして目当ての物を確認すると、ブラックにも見えるよう少し体をずらした。
「なあこれ見ろよ、モギだぜ。ディルムにも生えてたんだな!」
そう。草叢に生えていたのは、俺にとってはお馴染みの薬草・モギだ。
俺の世界のヨモギに非常に似ているが、その生え方は太い茎の上に葉を成す低木のような物になっており、俺の世界のヨモギとは性質がちょっと異なっている。
だけど味や効能は似てるから、俺にとってはなじみ深いものなんだよな。
なにより、回復薬の原料の一つはこの野草だし!
ウキウキで観察する俺にブラックも少し冷静さを取り戻したのか、軽く腰を屈めて俺の指さす所を見やる。
「ホントだ。ディルムは基本的に気候が安定してるから、それで生えたんだろうね」
「ここの人達は回復薬とか作らないのかな」
「うーん、病や怪我は“神霊樹”の実を食べると解決するらしいから、僕達人族みたいに薬を作ったりはしないんじゃないかなあ。それに、医療に関係する特技を持つ奴もいるだろうし」
「そっかぁ……万能薬があるってことかな。それはそれで羨ましいけど……調合する楽しさがないってのは少し寂しいなあ」
回復薬は、俺にとっては“初めて作った薬”で、初めてこの異世界でちゃんと生きて行けるかもって思えた、感慨深い薬なんだよな。
作るのだって本当に異世界らしい作り方なんだなって感動したし、なにより魔法の薬を自分の手で調合できるのがとても楽しくって………
「……そう言えば……僕達が話す切欠も回復薬だったよね」
隣に座って来たブラックにそう言われて、そう言えばと思い出す。
最初の出会いが強烈過ぎてあまり思い出す事は無かったけど、そういえばブラックと二度目に話したのは回復薬の事だったな。
でも、今考えると、あの時のブラックったら不審者丸出しだったよなあ。
「ふふっ、アンタあの時、すっげー不審者みたいに話しかけて来るんだもん。ホントに危ないヤツにしか思えなくって、俺もすげー辛辣だったよな」
思い返すとなんだかおかしくて、肩を震わせて笑ってしまうと、ブラックは子供っぽく頬を膨らませて肩でずんずんと小突いて来た。
「笑うなんて酷いよー! 僕あの時ほんとにツカサ君に好かれたくて『あげる』って言ったのに、ツカサ君たら僕のこと警戒しまくって全然薬を受け取ってくんないんだもん! 僕は、初めて会った時からずーっとツカサ君に本気だったのにぃ……」
「えっ……」
ほ、本気って……本気?
あの……え……そんな最初から……お、お前……。
「あっ、赤くなった! えへ、えへへ……ツカサ君、僕のこと意識してくれてるんだ? えへへ……嬉しいよぉ」
「ば……ちょっ、ちょっと、ブラック……」
抱き着いてくるブラックを、どうにも引き剥がせない。
そのうち段々と顔が熱くなってきて、今度は俺の方が目を泳がせてしまった。
だけどブラックはそのまま俺を膝の上に乗せ、一層懐深く抱きしめて来て。
し、心臓ばくばくする……っ。
「ツカサくぅん……」
「ぅ……うう……」
恥ずかしい。こんな雰囲気でこんな事されると、やっぱり心臓が痛くなる。
顔を隠したいのに、ブラックは俺の顎を取って上を向かせると、にこりと笑った。
「僕ね、ツカサ君と初めて出会った時……ツカサ君に救われたんだ」
「……?」
「僕は最初から、ツカサ君に救われてた。だから、運命だって思ったんだ。僕のこの望まない力も、今までの事もぜんぶ、全部が、ツカサ君と出逢う為だったんだって。そう思えたから……僕、ツカサ君の事を、好きになったんだよ」
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