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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
42.途切れた鎖を繋ぐ糸1
しおりを挟むしかし、エメロードさんがいないとは言え、この真宮にはまだ沢山のエルフ神族がいるんだ。俺達だけで自由に動く事は出来ないだろう。
エーリカさんが言うには「陛下がお帰りになられた時に、外へ出ることが許される」らしいのだが、人には心変わりと言うものがある。それよりも、エメロードさんが留守の間に、真宮で手に入れられる情報を手に入れた方が良いかも知れない。
今日も今日とてボリュームがある健康的薄味菜食料理を平らげた俺達は、早速一日目の行動として真宮を探索してみる事にした。
……と言っても、真宮には入れない部屋も多いし、エーリカさん以外の給仕の人や警備の人も居るから、大手を振ってって訳には行かないんだけどね。
「しかし……犯人を捜すっつったって、何をすればいいんだかね」
犯行現場でもないのにこんな所に来ても、と頭を掻くブラックに、クロウも頷く。
「手がかりがまるでない。何か少しでも情報が有ればいいのだが」
情報……情報か……。
そういえばエメロードさんは俺に「プレイン共和国での事を思い出せ」と言ってたよな。それって、あの場所での何かが関わっているって事なんだろうか。
でも、今のところ俺には何の事だかさっぱりわからない。
このまま思い出せないならブラックの隣にいる資格は無いと言われてしまったし、一生懸命考えなければならないんだが……うーん……。
「う゛うむ……」
「わっ、ツカサ君頭からケムリ出てるよ! 大丈夫!?」
「ふーっ。ふーっ」
うん、息を吹きかけて消そうとしてくれてありがとうクロウ。お味噌汁か俺は。
ていうか俺そんなに頭から煙だしてたの。ヤバくないそれ。
俺どんだけ考えるの嫌なんだよ。もっと頑張れよ俺。
「何にせよ、廊下で立ち止まっているのもなんですから……お茶室の方へ行きませんか? 私がお菓子を用意致しますので……。甘い物でもつまんで落ち着いたら、そのうち良い考えも浮かぶかもしれませんよ」
「そうですよね!! 行きましょうお茶室!」
「うわ急にツカサ君元気になった」
だってお菓子食えるんだぞお菓子。お菓子ってアレだよな、アレ。木の皮みたいな薄さのパリパリした美味しい不思議チョコレート!
アレを食べられるなら喜んで行きますともさ!
思わず浮かれてしまった俺にブラック達は「なんだコイツ」みたいな顔をしていたが、しかし今の俺にはお菓子が一番オヤジは二番だ。
三時にはなってないけど、おやつはいつ食べても美味しいのだ。
ニコニコしながら円形のサンルームに案内されて、エーリカさんにお茶を用意して貰う。こういう時は座っている間もとても楽しい。
花咲く蔦が絡んでいる英国庭園風のファンシーな空間にオッサン二人と座っているのは果てしなくシュールではあるが、まあお菓子に比べたら些細な問題だ。
よし、待っている間に改めて考えてみようではないか。
「ツカサ君にわかに元気になったね」
「食い物か。分かるぞツカサ」
「まあまあそれはともかく……あのさ、俺、ここらへん探し回ってる時にエメロードさんに聞いたんだけど……」
そう切り出し、俺は彼女に言われた事を角が立たないように伝えると、ブラック達は腕を組んでそれぞれ互い違いに首を傾げた。
「プレイン共和国での事を思い出せ? なにそのぼんやりした情報」
「ツカサに対しての事なのだから、ツカサが知っている事なのだろうが……しかし、何を思い出せばいいのかすらも判らんな」
「そうなんだよなぁ……」
考えて、机の上で腕を合わせそこに顎を乗せる。
そんな俺をじっと見ながら、ブラックは顎をぞりぞりと指で擦った。
「熊公のいう事が正しいんだとしたら、僕達の今までの行動も全部想定の範囲内って奴なんだよね? それも含めて考えろって事なのかなあ」
「全部含めて……」
ブラックの言う「全部」というのは、クロウが昨日言っていた「王宮の中で自分達が集めた情報」も含まれる。クロウが言うには、どうやらそれらがエメロードさんの事件の犯人に繋がるのではないか……との事だったが……。
まず、俺達が集めた情報は、エメロードさんとシアンさんがどうして仲違いしたのかって事と、ここが文明神アスカーが作り上げた島だって事。
そんで、エルフ神族達はアスカーの神兵として作られた、あのカミサマ曰く「どこのエルフよりも凄いエルフ」だってのも何かあったよな。
……で、そんな神の島には今まで神様が降臨していて、中には先代の黒曜の使者であるキュウマもおり、多大な貢献をして現人神に認定されていたっけ。
そのキュウマが残したメモで、俺は書庫を訪れたんだよな。もう消失してしまったけど、書庫には不可解な本があって、そこにはメモが有り、今さっきの“神兵”のことも全て記されたアスカーの日記を呼んで……。
…………そんくらい……だよな。
「うーん……」
この事から考えたら、プレイン共和国に関係が有る情報ってのは文明神・アスカー関連の情報の事だとは思うんだが……それがエメロードさんとどう関係が有るんだ。
まさか……ギアルギンとかと関係あるって言わないよね?
だって、カスタリアにはあんな奴の出入りするスキなんて微塵も無かったし、それに第一どうしてアイツがエメロードさんに呪いをかける必要があったのか解らない。
そもそも、ギアルギンが犯人だったとしたら犯人を捜させる意味も無いよな。悪い奴と考えて真っ先に思いつくのがアイツなんだから。
でも、考えれば考えるほど“プレイン共和国のこと”がギアルギンのことを言ってるんじゃないかと思えてしまって、頭が凝り固まってしまう。
仮にアイツが犯人だったとしても、犯人だと断定できる証拠もないしなあ。
ううむ、いかんいかん。悪い事が有るとアイツのせいにしがちなのは駄目だな。
じゃあ、別に犯人がいるとして、その犯人の情報がプレイン共和国のどこにあるんだろう。エメロードさんは俺達とシアンさんが喋ったこと以上の事は知らないはずだけど……もしかして、直接犯人を指し示すような情報じゃないんだろうか。
ブラックの隣にいる資格が無いってことは……ブラックに関係が有るのか、もしくはブラックと俺が一緒に体験した事がカギになっているのかも知れない。
だとしたら、だいぶん情報は絞れてくるけど……。
「ツカサ君またケムリ、けむり。あーもーどうしようもないなあ。……とにかくさ、まずはプレインとディルムの共通点でも考えてみたらどう?」
「共通点?」
なんだそりゃと顔を上げると、ブラックは指を立てた。
「こういうのはね、大分類……人で言えば輪郭から捉えて行くのが一番いいんだ。だってさ、細かい所からチマチマ考えてたら頭がこんがらがっちゃうでしょ? 無理に思い出そうとすると余計に記憶の引き出しが開かなかったりするしね。だからさ、少し遠い所から考え始めて、頭を休ませてみるのも一つの手だよ」
「なるほど……」
そういう風には考えた事無かったな。
確かに、考え続けてると頭がオーバーヒートしちまうし、そうなるよりかは徐々に思い出していく方が断然良いか。
「ディルムとプレインの共通点か……。どっちも文明神アスカーに関係あるよな」
「そうだね。可愛がられていた神兵と製造工場兼歩兵って違いはあるけど、あいつに服従して黒曜の使者と戦ってたってのは同じだ」
「うげえ……そう言われるとなんか……凄いヤな感じだな……」
「能力でなく、好みで兵の動きを決めるのは、将として恥ずべき行為だぞ」
そうだよなあ。要するに、自分が作った完璧なコ可愛い可愛いって事だもんな。
どんな不満が有ってそこに辿り着いたのかは解らないけど、あのアスカーの日記を見ている限りじゃ人間全般を見下してたみたいだし、それを考えると本当こんな神様の部下にはなりたくないなと思うわ。
平兵士になったとしても、せめて尊敬する人の為に死にたいよなあ、男としては。
戦争になったらそんな贅沢なことなんて言えないのは解ってるんだけどさ。
「ま、さすがは神族なんてイヤミな種族を作っただけは有るってことだ」
「その結論もどうかと思うが……。えーと、後なんか共通点あったっけ」
「すぐに人を閉じこめるぞ」
「それは確かにそうだけども」
クロウ、よっぽど動けないの不満だったんだな……よしよし可哀想に。
自然に頭を下げながらねだってくるクロウを撫でてやりつつ、他に共通点がなかったかと考える。そうして、少し頭痛を覚えながらも最初から考えていると、ふと思い当たる事が有って俺は顔を上げた。
「…………大地の気、とか?」
「大地の気って……ああ、確かにそうだね! プレインもディルムも、大地の気を使って色々やってたんだっけ」
「そうなのか?」
あ、そうか、クロウにはまだ話してなかったんだっけ、色々と……。
この際だから話してしまおうと思い、お茶とお菓子がやって来る前に改めて俺が知った一連の情報をクロウに伝えつつ、俺達も振り返ることにした。
この異世界を、俺の世界の人間が自分勝手に改変して来た事や、アスカーが残した日記の事も。
クロウはそれを静かに聞いていたが、やはり俺に関する事になると眉間に皺が寄りはじめ、威嚇する犬のように鼻の頭にまで皺を寄せきっていた。
「なんだその不快な事実の歪曲は。ますます人族の神が下劣に思えるぞ」
「ほんとだよ、まったく……。アスカーが事実を歪めさえしなければ、ツカサ君も“災厄”なんて呼ばれずにすんだのにさ」
二人とも「アスカー神が黒曜の使者の真実を捻じ曲げた」と思っているようで、目に見えてご立腹だ。でも、そこまで怒ってくれるのは正直ちょっと嬉しい。
自分の為に怒ってくれる仲間がいるってのはいいもんだなあ、本当。
「なんか……ありがとな、二人とも」
「当然だよ。だって僕はツカサ君の恋人だもん」
「ツカサはオレの大事な番だ。自分の嫁が貶されたら怒って当然だろう」
…………なんかこう、俺が思ってた返答と違……いや、まあいいか……。
怒ってくれるほど大事にされてる事には喜ぶべきなのだ。うん……。
「え、えっと……ああ、それで、ディルムとプレインの共通点なんだけど……」
「あー、そう言えばそういう話だったね」
「ムゥ。こっちの方が重要だったのですっかり忘れてたぞ」
頼みますから覚えてて下さい。ていうか、今の俺達がやらなきゃいけない最重要の事でしょうが。大人なんだから頼むから会話をリードしてくれよお。
思わずテーブルに突っ伏していると、ドアが開く音がした。
「お待たせいたしました。今日はちょうど蜜珠の新茶が届いたんですよ。受け取りに時間がかかってしまったお詫びに、たっぷりお淹れいたしますね。他に空睡蓮のお茶も用意してますから、甘味に飽きた時はどうぞ仰ってください」
嬉しそうに言いながら近付いて来るエーリカさんを見やると、彼女は銀のワゴンにティーセットとお菓子をたっぷり持って来てくれていた。
ああ、これこれ、待ってたんですよ!
さっそくチョコレート……じゃなくてレッヒートをパリパリサクサク食べながら、芳醇な甘い香りの蜜珠の新茶を頂いてホッと一息つく。
甘い物に甘い飲み物って口の中がくどくなりがちだけど、そこはやはりお茶だからか、後味はスッキリしていてこれはこれでウマいな。空睡蓮のお茶も好きだけど、こっちも良いかも。クロウなんか、蜜珠のお茶に更に砂糖を加えてレッヒートを貪り食ってるもんな。もー熊の耳が忙しなくぴこぴこ動いてるわ、周囲に嬉しそうなキラキラが舞ってそうなくらいに無表情で喜んでるわだもんな。
ブラックは甘い物は控えめだからやっぱり空睡蓮のお茶を飲んでいたけど、お菓子自体はそれなりに好きなのか、結構手が伸びていた。
ビターチョコレートだったらもっと好きなのかな。
変な所を気にしてしまって少し恥ずかしかったが、そんな事を考える程度には気が抜けと思えばいいかと考えて、俺はお茶を飲み干した。
「ええと……なんの話だったっけ」
「ディルムとプレインの共通点だよ。えーと、大地の気の話をしてて……」
ヤバい。俺も気が抜けすぎて記憶が曖昧だ。
そもそも間に重苦しい話を挟んでるので、そりゃ話がこんがらがるのも仕方ない。
しかしそうか、プレインもディルムも大地の気を燃料にしたモノが有ったんだな。
前者は【工場】で何かやってて、後者はこの浮遊島のエネルギーだっけか。だけど、プレインと似てるのはオーデル皇国のあの機械だよなあ。
オーデル皇国…………。
「………………ん……?」
ちょっとまてよ、何か引っかかる所が有るような気が……。
「わ゛ーっ!? ツカサ君このクソ熊が僕のぶん食いやがったんだけどおおお! てめっこの駄熊!! 殺すぞ!!」
「むぐぐがっ、んぐっ、ざくざくざくムムム」
「咀嚼音で喋んな!!」
……オッサン達の煩い声で全部消えてしまった。
あれえ、もうちょっとで何か関連する事を思い出しそうな気がしたんだけど……。
「ところで皆様、お話は進んでいらっしゃるのですか?」
「いや、全然……」
なんかよく考えたら全然進んでないや……。
どうしよう、この調子じゃ三日なんてあっという間に過ぎちまうぞ。
思わず頭を抱えていると――サンルームのガラスの天井から、不意に白いカラスがバサバサと降りて来た。これはエーリカさんの伝令ガラスだ。
「おかえり。……ふむ、ふむふむ」
長いエルフ耳を動かしつつカラスの報告を聞いていたエーリカさんは、パッと顔を明るくして俺達の方を向いた。
「外出の許可が出るそうです! ……とは言っても、王宮からは出られませんが……とりあえず、バリーウッド様が会いたいとの事でしたので、お連れしますね」
「バリーウッドさんが?」
「はい。なにやら、出来れば一番に会いに来て欲しいとのことで……。もしかしたら、皆様が悩んでいらっしゃる事に関しての情報かもしれませんよ!」
ニコニコと無邪気に微笑んでくれるエーリカさんが今の唯一に癒しだ。
エネさんも行方不明だし、以前としてシアンさんも鳥籠の中だし、俺達は全く犯人が解らない状態だけど、笑顔で接してくれる人がいるとそれだけで元気が出てくる。
さっき思いつきそうになった事は、落ち着いてからもう一回考えよう。
なにか重要な事だったような気がするし、思い出せることは出来るだけ思い出しておきたいからな。
→
※まただいぶ遅れてしまって申し訳ない_| ̄|○
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