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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
31.例え世界が最悪なものだとしても1
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なんだかよく分からなくなってきた。
この世界の神……少なくとも文明の神アスカーと慈愛の神ナトラは、俺と同じ世界から来た人間だった。それはバリーウッドさんも認めているし、恐らくどちらも日本人なのだろう。
んで、神を殺すために送り込まれた存在である“黒曜の使者”も、日本人。アスカーが戦った時の相手も同じだったのかは解らないけど、確実に俺を含めた三人が同郷の人間であることは確認出来た。
イナドウラ・ハルカ、イオウジ・キュウマ、そして俺――潜祇 司。
三人もの人間が日本から送り込まれている。
まあ、それは良い。そんな異世界も有るだろう。海外の物語だって海外の人ばっか異世界に連れて行かれてるんだから、日本ならそうなるのかもしれない。
真相はよく分からないけど、そこはツッコミを入れない方が良いだろう。
しかし……そもそもの話、なぜ異世界人をこの世界の神サマにして、そいつを同じ異世界人に殺させる必要があるんだ?
“神殺し”をこの世界の意思のようなモノが望んでいるのなら、この世界で生まれた人間にグリモアみたいな超常的な力を持たせた方が良いんじゃないのか。
いくら神様だって言っても、元々は人間なんだから隙は有るんだし、あの胸糞悪い日記を見る限りでは、本当の意味での全知全能じゃないんだ。この世界が神の排除を望むのであれば、当然対抗できる存在を作り上げてもおかしくないはず。
まあ、この“世界”自体に意志が有るのかは、まだ判らないけど……だけど、確実に“異世界人を神様に据えようと考えた存在”と“その神を殺す役目を持つ異世界人を召喚する存在”はどこかに存在しているワケで、そうなるとその大元は神じゃないのかとか創世神や他の神はどうなんだとか……ああもう、頭がこんがらがってきた。いっくら冷静になろうが、こんなの俺の頭じゃ追いつかない。
「あ゛~~~……疲れた……」
もう何て言うか、考えるのに疲れた。この二日で色々起こり過ぎ。
そうは言いながらも、もう少しで完成する特製バンダナ作りは続けてしまう。もう少しで出来上がるし、こうしてると心が少し凪ぐからやめられなかった。
しかし針仕事は全然良いんだが、今日に限っては頭の中で色んなことがグルグルと展開しすぎて、何度も針を指に刺してしまうな。
こうなると、心が凪ぐ……とも言っていられない。一度休むべきかと考えて、俺は眉間をぎゅうぎゅうと指で揉みながら天井を見上げた。
「はぁ……すぐに治るから良いけど、こう気分が変な感じになるとキツいなあ」
でも、そういうワリに夜はぐっすり眠れたんですけどね!
……まあ、その……ブラックと一緒に寝たからだけど……。
「ぐ……ぐぬぬ……」
なんかもう、恥ずかしい。たったそれだけで安眠とか凄く恥ずかしかった。
だって、昨日は本当に色々な事が有って疲れてまた悪夢でも見るのかと思ったのに、ブラックと一緒に寝ただけで爽やかな目覚めを迎えただなんてどうなのこれ。
男としてどうなの。どういうことなの。
俺そんな簡単な奴だったっけ!?
なんかもうそのお蔭で朝食の時は凄く居た堪れなかったし、ブラックは機嫌良いしクロウは不満げだったしエーリカさんが不思議そうに俺を見るしぃいい!
そのせいで食堂にいるのが辛くなり、俺は自室に引っ込んでチクチクとバンダナを縫いながら色々と考えている訳だが……結果オーライと思ってもやっぱ納得いかん。
いや、別に、恋人なんだしそう言うのは良いと思うよ?
普通ならそれでいいと思う。
でもさ、自分一人で考えて覚悟を決めなきゃ行けない事を抱えてるのに、結局それを大事な奴に微妙に勘付かれた上に「一緒に寝よう」なんて誘われるのなんて、情けないじゃないか。そのうえ、情けないと思ってるくせに安心して眠っちまって……。
……たくさんの迷惑かけてるのに、隠し事だってたくさんしてるのに、自分の感情も焦りも抑えられないで出しちゃうなんて格好悪いよ。
本当なら、いつも通りに振る舞いつつ自分一人で覚悟を決めて、ブラックとクロウが納得できるように話を纏めてから、真実を話さなきゃ行けないのに。
その苦労を誰にも見せずに格好良くキメるのが大人の男ってヤツなのに。
なのに、どうして俺はいつもこうなんだろう。
ブラックにもクロウにも、これ以上迷惑かけたくない。
せめて巻き込んでしまうのなら、二人が少しでも楽になるようにしたかった。
でも、結局それも出来てなくて。
「…………俺、本当に駄目だなあ……いつまで経っても……」
自分では隠してるはずなのに、どうしてブラックには解ってしまうんだろう。
やっぱり俺が判り易いからなのかな……。それにしたって、昨日ブラックがやけに強引に「一緒に寝よう」と言って来たのが気になる。
もしかしたら、俺の様子がおかしいって事で全部バレるかもしれないと思ったんだが、そもそも悪夢を見た次の日だったからか、ブラックも俺の様子については「僕が隣に居るからもう大丈夫だよ」と言うばかりで、どうやら俺が嫌な真実を知った事に関しては勘付いていないようだった。
となると、やっぱ俺が判り易いのが原因なんだろうな……。
はぁ……どうやったらポーカーフェイスが出来るんだろう。
これが怪我の功名って奴だろうか。まあ、バレなかったんだからいいのか。
俺もまだちゃんと纏めて話をできる精神状態じゃないし、そんな事を二人に話して解決できない事で悩ませるなんて事させたくないしな……。
でも黙ってることが後ろめたい事に変わりないんだが。
「……そろそろバリーウッドさんの所に行こうかな?」
昨日、途中で話を切り上げて俺は帰して貰ったから、かわりに今日はじっくりと腰を据えて話し合おうってことになってるんだが、バリーウッドさんは午前中は執務を行わなければならないらしく、終わるのは早くても昼頃だろうと言っていた。
体調が悪いなら次の日でも良いと言ってくれたけど……こういうのは、早めに終わらせて、自分の中で決着を付けたい。まだ色々と疑問もあるしな。
「もし終わって無かったら、あの部屋を散歩して待ってりゃいいだろう」
なにせ、枢候院のエルフ達の仕事場は植物園のような場所なのだ。
そこで隠れてバンダナ作りの続きでもしていればいい。
こっちも完成するまでは二人にナイショだもんな。
「ん~……っ。よし! 気分を切り替えて用意だ用意! 質問もまとめなくちゃな」
大きく伸びをして一息つくと、俺は一旦針を止めてバンダナで包んだ。
今はグダグダ言ってても仕方がない。とにかく前向きに考えなくっちゃな。
とりあえず……質問をまとめるべきか。
「えーと……昨日の話をまとめて考えると……」
質問は、こんな感じか。
その一。
どうして異世界の人間を神に据えたのか。そして、その神が不適当な存在になった時に、何故この世界の人間ではなく異世界人が黒曜の使者として召喚されるのか。
これは、基本の質問だな。前提が決まらなければ質問も決まらない。
相手が判らないと答えても、話を続ければある程度の目星はつくはずだ。
その二。
全ての神様が同様の存在なのか。バリーウッドさんは四柱すべての神と出会ったと言っていたが、その時どう感じたのか。やはり全員が異世界人だったのか。
もしかしたら、また別の世界とか、この世界の人から神様が生まれた事だってあるのかも知れない。だとしたら、色々イレギュラーな事も有るかも知れないからな。
また情報を集めなきゃ行けないのかを知るためにもこの質問は必要だ。
その三。
アスカーと戦った黒曜の使者の事を何か知らないか。キュウマの事も、出来るだけ詳しく知りたい。それに……あの本に挟んであったメモはキュウマの物なのかって所もだな。他にも、書庫の一番奥にあった本の事も聞きたい。アレはアスカーが集めた物か、それとも書いた物なのか。
とにかくこの世界に来た日本人や異世界人に関係する事を話して貰いたい。
もしかしたら、あの読めるけど読めない本を解読する事が出来れば、俺が知りたいと思っていたこと全てが分かるかも知れない。だから、書庫の事も調べなきゃな。
そして……その、四。
この世界の神様は、今どこにいるのか。アスカーはどうなったのか。仮に、黒曜の使者が神を殺したとして……世界は、黒曜の使者はどうなるのか。
……これは、正直な話……聞いてどうすればいいのか、俺にも解らない。
でも、聞かなきゃ行けないんだ。この事は。この事だけは、絶対に。
「…………」
今のこの世界には、黒曜の使者は俺一人しかない状態だ。でも過去の黒曜の使者の末路はどこにも記されていなかった。だとしたら、最悪の場合……俺は神様と一緒に消える定めだったりするかも知れないのだ。
もしその“最悪の場合”が予想される答えが来たら……俺は、ブラックに全ての事を話せないかも知れない。
でもその答えを知らなければ、俺はどこへも進めないだろう。
神が存在すると知っても、自分が最終的にどうなるかが解らなければ、一歩すらも踏み出せないかも知れない。そうなるのだけは、もう嫌だった。
だから、どうしても……俺の行く先が、知りたかったんだ。
…………こんな所だろうか。
まだ何かあるような気もするが、今パッと思いつくのはこのくらいかな。
なんだかまた気が滅入りそうな事ばっかり並んじまったけど、そもそも先延ばしになっていた重い問題なんだから、こうなるのも仕方ないか。
「はー……。とりあえずコレが完成するまでは頑張らないと……」
「えーなになにー? ツカサ君何か作ってたのー?」
「ん゛お゛おお!?」
なにっ、なっ、なっ、ぶ、ブラック、ブラックなんで!
あっ、お前まさかまた鍵をイケナイ方法で開けて入って来たな!?
「ツカサ君、今なに隠したの? ねーねー」
「なんでもない!!」
あ、危ない、咄嗟に隠したおかげでバンダナは見られていないようだ。
そのままバッグに押し込むと、ブラックは不満そうに口を尖らせた。
「ケチーっ。見せてくれたって良いじゃないかあ」
「た、ただの針仕事だし……その、そ、そうだ、下着がなくなったからそれで」
しどろもどろでそう言うと、何故かブラックは片眉をぴくりと動かした。
……やっぱり、下着の在庫がゼロになった事に関係が有るのかお前は。
今度は俺が胡乱な目で不法侵入者なブラックを見やると、相手はごまかすように「あはは~」なんて気楽に笑って俺に抱き着いて来た。
「それはともかくさ、ツカサ君気分はどう? 落ちこんでない?」
「話を切り替えたな」
「ほ、ほら、昨日から元気無かっただろ? だから、昼間も僕が慰めてあげようかと思って……どう? 元気出た?」
取り繕うような事を言いつつ俺を抱き締めて、ニコニコと笑うブラック。
俺を元気付けるって言うより、自分がそうしたいから抱き着いているように見えるんだが……でも、元気付けようって言うのは本当だろう。たぶん。
それを思うと、引け目も有ってか邪険に出来ない。
どうしたものかと迷っていると、ブラックが不意にほっぺたにキスをして来た。
「っん……」
「ツカサ君、スキだよ」
「……っ! なっ、なに、いきなりっ」
ばばばバカやろっ、なんでそんなコトを今急に言い出すんだっ。
不意打ちなんて卑怯だ。恥ずかしくて熱が上がって来たじゃないか。
思わず睨むが、ブラックは目を細めて笑ったままで眉を軽く上げて見せた。
「ね、ちょっとだけイチャイチャしない?」
「ぅ……」
「僕もさ、今さっきまでチマチマ作業してたから疲れたんだよ。だからさ、ツカサ君とイチャイチャして癒されたいんだよ~! ……ね?」
お願い、と俺の頬に無精髭の頬を寄せてざりざりと頬ずりして来るブラック。
髭がチクチクして、ああいつも通りの感触だなと思ったが……今は、何故だか嫌だなんて言えなかった。
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