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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
14.他人の幸せな家庭はひたすら羨ましい
しおりを挟む空中都市ディルムの街は、案外小さい。俺の世界で言う商店街が中心に二か所ほどあり、その周辺一キロの規模で民家があるかないかって感じだった。
店が並ぶ通りが二か所あるのは凄く良いなと思ったが、アイスローズさんの説明によると片方は日用品などを扱う場所で、もう片方は鍛冶師や細工師などがあつまる場所なのだという。元々は鍛冶師などが集まる通りの方だけだったのだが、人口が増えて自給自足だけでは追いつかなくなったために、街の中にもう一つ生鮮食品や日用品などを商う店が出来たらしい。
そもそも、空中都市といってもその規模はかなり広く、東京○ームが三個分くらいは確実にあるのではないかという面積だ。
いや、俺も○ームのことそんなに知らないんだけど、とにかく広いって事だな。
だから森も有るし湖も有るし、なんなら草原や丘とかもあったりするらしい。
さすがに山は無いとのことだったが、それにしたって凄い広さである。それなら、沢山の人が暮らすための畑とか色々作っても大丈夫だな。
……とはいえ、エルフ神族達も一般的なエルフと一緒で森を尊ぶ性質らしく、畑を作って自然を減らすというのはもっての外だったようで、基本的には採集生活や家の裏で畑を作って“特技”で育てるなどの行為の方が多いそうだ。
肉に関しては、エネさんが前に言った通りカエルとか鳥、あとは稀に兎などの四つ足でないものをたまに食べるらしく、俺達に出してくれた肉などはお客様用に特別に捕まえて来たものだったのだそうな。
モンスターはいないのかな? と思ったけど、ブラックが言うには気配はしないとのことで……うーん。だったら、この空に浮かぶ島にいる生物ってなんなんだろう。
この世界の生物って基本的にモンスターなんだけど……もしかして、純粋な動物だったりするんだろうか。……だとしたら……カエルもガチのカエル……?
…………しょ……食用だよな、多分……。
「人目を避けて行きましょう。さ、こちらです」
「なんで人を避ける必要があるんだ?」
王宮を出るなり人の気配がない方向へと歩き出すアイスローズさんに、ブラックが失礼な態度で疑問を投げかける。しかしその質問にはエーリカさんが答えた。
「御三方は人族と獣人族ですので、あまり人目につかない方がよろしいかと。それに、アイスローズ様は民に大変人気のある方ですので……」
「なるほど、人に見つかったらすぐに囲まれて歩けなくなると」
「仰る通りでございます。人が多くなると守りづらくなりますので」
俺の言葉に深々と頭を下げるエーリカさん。
先程聞いた話だが、エーリカさんは伝達係でもあるがかなり優秀な戦士でもあるのだそうだ。つまり、彼女はピンク髪そばかす眼鏡のカワイコちゃんだが、中身は筋骨隆々のコマンドーというわけで……なるほど、だから俺達のメイドさんに抜擢されたんだな……俺だけでも抑えてたら滅多な事なんてできないしね……。
改めて神族は油断ならない人達だと思いつつ、家々の隙間の路地のようなところを縫って進みながら、木の陰に隠れたり庭木の隙間に入りつつアイスローズさんの家を目指す。すると、街の端の方に二階建てのログハウスのような家が見えた。
芝生の庭に蔦が絡まったお洒落な木の柵……ううむ、こうしてみるとログハウスも立派に可愛らしいファンタジーな家ではないか。
他の家よりもちょっと広い感じだが、でも豪邸とは言えないな。
これが……王族の血が流れる人が住む屋敷なんだろうか……。
人族の王族とは全く違うじゃないの。庶民派にもほどがあるぞ。
ぽかんと見上げていると、アイスローズさんは苦笑した。
「私達神族は、王族の血が流れていようが街に降りればただの民です。それに私は街で妻と暮らす事を選んだので、王位継承権はありません。国一番の細工師として王宮に出入りしてはいますが、それ以外は普通の国民なのですよ。私に人気があるのは、民のために働くからでしょう」
神族の国ではそういうもんなのか……。地上では、王族の血を継いでいるとなれば危険も多いので、護衛やら豪邸やらでその人を守る必要があるが、そもそも同じ血を持つ人間だけの神族では、皆が平穏を望むから血で血を争う事件など起こらない。
だから、王族であり女王候補だったシアンさんの息子であるアイスローズさんも、こうして平穏に普通の家で暮らす事が出来るんだろうな。
…………っていうか、妻って……まさかアイスローズさんが「夫」だったとは。
い、いや、男だから当然なんだけどさ、でもこの世界って、メスっぽいお兄さんはメスだったりする事が多かったからつい……!
そ、そうだよな、普通はそうだよなあ!
「パパー!」
自分で勘違いした癖に焦っていると、家の扉を勢いよく開けて子供が走って来た。
その子はなんと、ナチュラルな巻き毛を持つ金髪碧眼の美少女で……えっ、天使っ天使なの……!? ちょっとまって俺には羽根が見えるんだけど……!?
「天使ですか!!」
「ツカサ君あたまおかしくなった?」
「ええ天使です!」
「アイスローズ様お戯れはおやめください」
ブラックうるさいエーリカさん今回は許して。
でもあの子は間違いなく天使に違いないでしょう。ああっ、彼女がもう十歳くらい年を取った姿だったら俺は確実に花束をプレゼントしていたのに!
「パパー、お客さんきたー?」
「ああロークァ……お前はいつも可愛くて賢いねえ。そうだよ、パパのお客さんだ」
今まで絵画の中の美青年のような優しい微笑を浮かべていたアイスローズさんは、駆け寄ってきたロークァと言う娘っ子を抱き上げると、でれでれと目を緩めた。
その緩めっぷりたるや、ブラックといい勝負である。
あの美青年が一瞬でオッサンと同等の顔になるなんて、本当に愛娘や愛息子と言う存在は親にとっては凄まじい破壊力を持つ存在なのだろう。
まあ確かに、俺もこんな可愛い子の親になったらデレデレせざるをえない。
むしろ今から「この子が年頃になって彼氏を連れて来たらどうしようッ」とか考えて、夜な夜な泣いてしまうかもしれない。それほどロークァちゃんは可愛かった。
ああ……ここまでとは言わないが、俺も妹欲しかったなあ……。まあ弟でもいいんだけど。俺より背が高くならない弟なら。
「お客さん、こんにちわ!」
あ~、ロークァちゃんご挨拶出来るね~偉いね可愛いねえええええ!
ハッ。いかんいかん、ブラックみたいになっては駄目だ。ここは好青年で返すぞ。
「こんにちは! ごあいさつ出来て偉いねえ、ロークァちゃん」
「えへへ……」
なんておしゃまな子なんだっ、こんなに可愛い子に長い耳が付いているなんて神様はどうしてこんな試練をお与えになったのか!
こんな天使を見て俺にどうしろっていうんだ。俺は涙を流して拝むしか出来んぞ。
「ツカサ君、ねえツカサ君、大丈夫? 鼻血出そうになってない?」
「だいじょうぶです」
正直興奮で出かかってたけど我慢しました。俺は幼女趣味はねえ。
でも可愛い物に鼻血が出るのは仕方がないと思うんだよ。なあブラック。お前も俺に鼻血出してただろ。いや、俺は可愛いとかじゃないけどね。お前の場合は、性欲で興奮して発熱したから鼻血が出ただけだけどね?
「お客さん、おうちにどーぞ!」
そう言いながら、ロークァちゃんは可愛いおリボンで結んだふわふわくるくるの髪を揺らしながら、天使の笑顔で手を家の中に向ける。
アッ、だめだ俺今から天に召されそう。
「ツカサさん解って下さいますか、私の娘の可愛さを……」
「勿論ですとも……こんな天使は他にはいない……」
「はいはい、かしこまってございますから早くおうちに入りましょうね」
ああっ、エーリカさん冷めた目で見つめないで!
俺の好みはエーリカさんなんですロークァちゃんは天使なだけなんですう!!
解ってくれるだろうか解ってくれたらいいな、などと思いつつ、俺はウンザリした顔のブラックとクロウに連行されて、アイスローズさんの家にお邪魔した。
長くなるから割愛するが、家の中にはこれまた美しすぎて跪かずにはいられないコーラルさんという奥様が居て、俺達は本当によくもてなして貰ってしまった。
薄い桃色を含んだ銀の長い髪を腰まで流したコーラルさんは、アイスローズさんと恋愛結婚なのだという。こんなはかなげな美女とどうやって出会うのか根掘り葉掘り聞きたい気分だったが、コーラルさんと出会った瞬間耐え切れずに鼻血を出した俺には発言権が無い。ブラックとクロウの野郎は何故かロークァちゃんにもコーラルさんにもピクリともしなかったので、何故かこいつらが話を進めて行った。
なんで反応しないんだお前ら。男としてどうなんだそれは。
男なら胸の谷間が見える服を着た美女には鼻血を出しても仕方ないだろうが。
「それにしても……家の中は随分と金属の彫刻が多いんだな」
敬語も使わずログハウスのリビングをキョロキョロと見やるブラックに、アイスローズさんは「よくぞ見てくれました」とばかりに嬉しそうに笑う。
「いやあそれが、仕事でもないのに暇だとつい作ってしまいましてね……。お気づきになられたという事は、ブラックさんも金の曜術師であるとお見受けしますが……」
「確かに僕は金の曜術も使えるけど……」
「ああ、これはこれは……! いえ実はですね、今人族の技術で細工を試してみようと思っているのですが、これがなかなか……」
……なんだか俺達には付いていけない話をしだしたぞ。
でも、自分の仕事は細工師だというアイスローズさんは、よっぽど金属で細工を作るのが好きなのか、キラキラと目を輝かせながらマシンガントークをしている。
その様子を不思議そうに見上げるロークァちゃんは可愛いが、コーラルさんはアラアラと言わんばかりに穏やかな顔で困っていた。
うむ、趣味人ってのはどこでもこうなんだな……。
「ツカサ、ついていけんぞ」
「うーん俺もちょっとよく分からん……」
俺達を余所に、ブラックとアイスローズさんは妙な所で意気投合したのか、細工の事をブツブツと喋りながら立ち上がり、二階へと行ってしまった。
それをただ見送った俺達に、エーリカさんは深い溜息を吐き己の額を手で覆う。
「申し訳ありません、ツカサ様、クロウ様……アイスローズ様はこういう事になると手におえなくて……。ブラック様にもご忠告差し上げるべきでした……」
「みなさん本当にごめんなさいね……。夫は本当に装飾細工や仕掛けを作るのが好きで、家の中までこんなにしてしまうくらいで……」
「奥様が謝る事ではございません! アイスローズ様が自由奔放過ぎるのがいけないのですわ! い、いえ、いけないという訳ではありませんが!」
エーリカさんも思う所があるようだが、強くは言えないらしい。
まあそうだよな……王宮の一員なのにメイドさんって役なんだから……ほんと人に仕える人って色々大変だなあ……。
「パパは、こうなるとおやつまで帰ってこないです」
美青年パパさんのオタクっぷりにはロークァちゃんもご立腹だ。
しかし頬を膨らませてプリプリしてても天使過ぎて可愛いだけで和むしかない。
あー俺も娘ほしぃいいい養わせて!!
「それにしても、みなさま王宮から滅多に出られないなんてさぞかし退屈でしょう? あの場所、遊ぶところが本当にありませんものね」
「確かに……ずっと庭にある別荘にいるので、退屈と言えば退屈かも……」
とは言え、俺達がここに来たのは昨日なので、まだ心底退屈とまでは行かないが。
しかしコーラルさんは余程俺達が退屈そうな顔をしていると見込んだのだろうか、手をポンと叩いて、そうだわと明るい声を出した。
「でしたら、展望台はいかがです? とても美しい場所ですよ」
「展望台?」
「ええ。私は王宮に上がった時に一度見せて頂いたのですが、それはもう見晴らしの良い場所で……そこならきっと退屈も吹き飛ぶはずです」
ほう……そんな場所が有ったのか……。
でも、エーリカさんは教えてはくれなかったよな。そう思って彼女を振り返ると、彼女は少し居た堪れないような顔をして、目を泳がせていた。
→
※ちょっと遅れました申し訳ない_| ̄|○
そしておしらせ!
以前頂いたリクエストを更新するための番外編枠作りました!
ただいま三篇ありますので、もし良かったら見てやってください(*´ω`*)
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