異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編

 神のいとし子が住まう場所2

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   ◆



 国が違えば常識も違うとは言うが、しかし俺達が乗る馬車はそんな風に構えていられるレベルじゃなく、明らかに人族の常識から逸脱していた。

 だって、馬車の外は木々が生い茂る森なのに、この馬車が突っ込もうとすると木々が凄い角度で曲がって道が出来て行くんだぞ。こんなの絶対おかしいよ。
 樹木ってこんなに曲がるもんでしたっけ。根っこも自在に動くものでしたっけ。

 後ろを振り向くとそこはもう普通の森だし、何の変哲もないし、本当にこれはどういう事なんだろう。魔法……じゃなくて曜術みたいなもんだってのは解っている。解ってはいるんだが、どうしても納得が出来ない。

 木の曜術の【レイン】を使っているのか?
 それとも何か別の術なんだろうか。何にせよ訳が解らない。
 レインは植物を操る術だけど、植物の形自体をここまで変える事なんて出来ない。そのを越える力を欲しがるなら、別途で【グロウ】を使わなければならないんだ。

 なのに、今この馬車を走らせている力はそれとは全く違う。木の形状をねんどでも捏ねるように変化させてしまっているんだ。これが曜術だとしたら【レイン】なんかじゃ有り得ないよ。それに、間髪入れずに周囲の木々を避けさせてるなんて、術師が居たとしてもかなりの手練てだれだ。このスピードでこの頻度ひんどって、どう考えても人間業じゃない……むしろ「何かの機械でやってます」と言われた方がまだ納得だ。

 うう、知りたい。なんでこんなメルヘンな事になるのか知りたい……!
 でも馬車の中の空気は重苦しくて何も聞けないぃい……っ。

 エメロードさんはシアンさんが一緒に馬車に乗っているからか、不機嫌そうな表情で一言も口を利かない。シアンさんもあえてエメロードさんを見ないようにしているのか、目を閉じてじっとしている。ブラックはブラックで、流石にこの狭い空間ではふざけられないと思ったのか、俺の隣で口をきゅっと結んで黙っていた。
 ……口を開いたらダメだという自覚はあるようだな。

 そんな周囲の空気は、禍根が無いラセットやクロウにも伝わっているので、二人も居心地悪そうに忙しなく視線を動かしながら、早く着かない物かと言わんばかりの顔で黙り込んでいるしかないようだった。
 ああ、こんなに胃が痛くなる馬車は初めてだ……。

 木々の他にもディオメデに似ているドラゴンっぽい緑の鱗の馬も気になるってのに、こんな状況じゃアレコレ質問できないよ。ああぁつらい、本当に辛い。
 大体……エメロードさんはなんで俺達まで連れて来たんだろうか。彼女が好きなのはブラックだけなんだから、普通ならブラックだけをさらって行くよな。
 なのに、どうしてお邪魔虫な俺や、エメロードさん的には興味が無いだろうクロウを連れてきたりしたんだろう。何か意図が有るんだろうけど……よく解んないなあ。

 まあ、こうなったらもうなるようにしかならないだろうけど……。

 ――そんな事を思っていると、前方が次第に明るくなってきた。
 あと少しで森を抜けるのだろうか。気になって思わず正面の覗き窓を凝視していると、最後の木々がぐにゃりと曲がって、馬車がついに森から抜け出た。

「っ、おぉ……」

 思わず大きく声を出しそうになって、慌ててのどを締める。
 この重苦しい雰囲気の中で感動して良いものかって感じだったが、しかし感動しちまったんだから仕方がない。シアンさん達の王宮に続く道は、それだけ他の土地とは違ったものがあったのだから。

 森を抜けたと思ったら、次はだだっ広い草原で、森からは黄土色の石を敷き詰めた綺麗な道がずっと先まで続いている。だけど、それだけじゃない。
 道の右や左に、なにかの壁が朽ちたような跡がたくさんあったのだ。まるでこの道は朽ちた古代の建物を観察する道のようで……もしこれがシアンさん達が生まれる前から存在していたものだとしたら、相当古いって事なんだよな。
 だけど、どんくらい古いのかなんて、俺には全く見当がつかないや。

 ああ、こんな状態じゃ無ければやっぱりシアンさんとかに色々根掘り葉掘り聞いていたんだけどなあ……。返す返すもタイミングが悪い時期に来てしまった。

 早く揉め事が解決すれば良いのにと他人事のように思いつつ、しばらく馬車が道を走る様をぼうっと見つめていると、前方に何やら見え始めた。
 明らかに人工物の群れだ。しかし、それは俺がいつも見ているような風景とは少々――いや、だいぶん違っていた。

「なんだか……明るい……?」

 そう。遠目から見ただけだが、恐らく町であろうその場所が、何故だか明るい感じに見えたのだ。周囲が暗い訳でも無いのに。
 そんな自分の呟きが不可解で首を傾げていると、ラセットがクスリと笑った。

「驚くのは仕方がない。下地げちでは神の加護を受けたものなど滅多に存在しないだろうからな。神都しんとに入れば何故明るく思えたのか解るぞ」
「しんと……。あそこがラセット達の住んでる所なのか」
「ああ。我々神族は限られた存在だからな。人族のように増えて土地を食い散らかすような事にはならん。常に都も住まう場所も一つきりなのだ」

 一々ビキビキくるような単語を選んでくれるのが実にエルフっぽい。
 それでも、ラセットには全く悪気は無くて、ただ純粋に人族を見下してるだけなんだよなあ……いや、悪気が無いのに見下してるってのもアレだけど。
 でも、明るい理由が「神都だから」ってどういう意味だろう。

 入れば分かるという言葉を反芻しながら町が近付くのを待っていると、神都が徐々にその姿を見せ始めた。
 街の外観は――人族の家とそう変わりは無い。ただ、民家は大体西洋風の木造建築で、木をふんだんに使っているのが見て取れた。森林が豊富という事だろうか。家壁は木の色そのままだが、屋根は白や薄黄色などの明るく薄い色で塗られていた。
 そして、神都にはいたる所に樹木が植えられているようで、街のそこかしこから緑が見えているのはなんだか不思議な感じだった。

 今までの人族の街は、緑とか少ない感じだったからなあ。それから考えるとかなり木が植えられている。さすがは森と共に生きるエルフだ。
 しかし、これが「明るい」って理由にはならないよな。
 街を守る壁がないから広く明るそうに見えるのか? それとも屋根の色が光を反射して明るい感じに見えているんだろうか。

 どっちも有り得そうだけど、なんか違うような気がする。
 そんな事を思っていたら、いつの間にか馬車は【神都】に入っていた。

「おぉ……」

 思わず窓から街を見ると、そこかしこに美男美女がたくさんいる。
 みんな活気にあふれていて、とても楽しそうだ。エルフ神族は「全員が全員の親戚である」という共通認識を持っていて、だから本来は他人であるはずの縁もゆかりもない人とも気軽に言い合える……という話は聞いていたが、みんな仲が良さそうなのは、それが当たり前と思っているからなんだろうか。

 ラセットとクロッコさんはお互い友達じゃないと言ってたけど、あんなにフランクな掛け合いをしていたんだから、それがエルフ神族にとっては普通なんだよな。
 個人的には色々と大変そうだとしか思えないが、上手く回っているのはそれは種族自体の性格がゆえかもしれない。

 俺はあんまり親戚と会いたくないんだけどなー。からかわれるから。
 それなのに一族皆親戚って言いきれちゃうのは凄いよ。

 本当に所変われば人変わるって奴なんだなーと思いつつ、ふと街路樹のように色々な場所に生えている広葉樹にも似た樹木を見ると。

「あっ……! なんか光ってる……!?」

 そう、光っている。木々の隙間に果実のような大きく丸い光がぽつぽつと結実していて、そのうえ樹木からは黄金の粒子がちらほらと湧き上がっているではないか。
 もしかして、俺が神都を明るいと思ったのってコレのせいか?

 そら確かに明るい訳だわ。だって、ザボンみたいな実が光ってんだもん。

 あ、ザボンってアレな。バレーボールくらいに大きくなる、ちょっと苦いグレープフルーツみたいな奴な。

「ラセット、木のあの光って……大地の気なのか?」
「ああ。この神都ではありふれたものだ。あの樹木は“神霊樹”といって、大地の気を吸い上げて固定化させあのように果実にも似た『大地の気の塊』を生やすんだ。それがこの信徒を明るく照らしていると言うわけでな」
「なるほど……」

 人族の大陸ではまったく大地の気が存在しない場所もあるってのに、景気の良い話だ。人族の人が聞いたら怒るだろうなあ……。

「それより正面を見てみろツカサ。宮殿につくぞ」
「宮殿? でも、そんなの遠くからは何も……」

 言いながら、正面の覗き窓を見てみる、と。

「えっ……!?」

 大通りを真っ直ぐ走っている馬車の先。
 終点とも言える場所には、いつのまにか……背後に超巨大な水晶のようなものを従えた、白亜の宮殿が出現していた。

「なっ、なんで!? 街の外からは在るように見えなかったよ!?」

 思わず驚いて振り返ると、シアンさんが答えてくれた。

「仕組みとかの説明はちょっと難しいけれど、あの場所はこの神都のかなめだから、遠くからは見えなくなる術が掛かっているのよ。空中から攻撃されでもしたら、都市機能が一気に失われてしまうから」
「はぇー……術……」

 これも術か。あ、でも、要するにアレか。
 オーデル皇国にあった【ホロロゲイオン】という黒い塔の逆バージョンみたいなもんだよな。アレは遠くからだと塔があるって解ったのに、近付いたら見えなくなっっちゃう術が掛かってたらしいし。でも、あっちよりはコッチの方が納得がいくな。

 近付かないと判らないって事は、少なくとも遠距離攻撃するなら対象を掴みにくいだろうし、どこにぶちこんだらいいかってのも迷っちゃうだろうしな。
 うーん……あの木々といい、なんだかよく理解出来ない術が多い国だなあ、エルフ神族の郷って……。

「到着したら、まずはお部屋に案内いたしますね」

 ぽけーっと宮殿が近付くのを見ていた俺達に、不意にエメロードさんが言う。
 ああ、そうだった。そう言えば俺達はエメロードさんに脅されてここにやって来たんだった。どうせなら、観光とかで来たかったなあ……そうしたらこの不思議な街を心から楽しめただろうに。













※もう朝やん…遅れまくって申し訳ない…_| ̄|○
ていうか章間違えてイスタ火山にうpしてました…
徹夜!!!だめ!!!絶対!!!!
 
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