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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
――――顛末
しおりを挟む――ゴシキ温泉郷の異変から半年後、パーティミル領を治める女領主、ヒルダ・パーティミルは自らの地位を王に返上し、己が数十年治めていた領地を去った。
それは彼女自身がそう望み、王に進言したがゆえである。
これによりパーティミルは断絶、家名は廃止となり、パーティミル領は名を変えた上で、他の新興貴族により統治される事となった。だが、ヒルダ・パーティミルは後継者たる新興貴族に己が知りうるすべてを授け、そしてまた立派に教育を施したがゆえ、領主や領地の名が変わる事となっても、領民は混乱もせずただ日々を暮していた。
それは決して彼女の統治が領民を不満にさせていたという事ではなく、領民が彼女の告知を受け入れ、統治に不満も無く穏やかに暮らして来たゆえの事だ。
数年間の彼女の統治は、確かにすばらしかった。
しかしその名誉を返上してまでして、彼女はこの地を去ったのである。
――彼女は去る前に、国王にこう話していた。
『私達は、それぞれに罪を犯しました。バルクートは浅慮によって国民を守ることも出来ずに命を失った罪。ゼターは国家転覆を企んだ罪。そして私は……――過去を忘れられず、人を恨み続けた罪を……犯したのです。……私どもは結局、領主として生きる事より、我欲を選びました。我欲によって……悪しきものを招き入れたのです。そんな者が領主として居座ることは、領民の不幸になるでしょう。……今は平穏安泰な暮らしでも、私はいかまた憎しみを燃やしてしまうかもしれない。大切な恩人の命を……今度こそ、奪ってしまうかも知れない……。だからこそ、もう、私が人の上に立つ訳にはいかないのです』……と。
結局彼女は、一度は謝罪をして憎しみを濯いだにも関わらず、“夫を殺した誰か”と“幸せな日々を壊した誰か”について考える事をやめられなかったのだという。
頭では分かっていても、深く愛していた気持ちの分だけ募った憎しみは、最早彼女自身でも抑えきれぬほどに根を張ってしまっていたらしい。だからこそ、再び領主の地位を使って悪しきことを成さぬようにと、自ら辞したのである。
唯一幸いな事は、彼女が領民たちに惜しまれつつ勇退した事だろう。
これで彼女は多くの人にとって「神に等しい存在」となった。
領民にとっての彼女は、気高く美しく優しい存在であり続ける事になったのだ。
賢明な判断であると、国王は呟いていた。
だが、彼女の行方は知れない。誰も、彼女がどこへ消えたのか判らなかった。
その更に半年後、先代の勇者が死んだと言う荒野で獣に食い荒らされた何者かの骨が見つかったという話が出た。しかし、その遺骸が彼女の物なのか、それとも全く関係のない行き倒れの骨なのか……結局、誰にも判別できなかった。
ただ、一つ。
その骨の傍には、非常に精巧な作りの美しい装飾品が落ちていたらしいが――
誰も、その装飾品の持ち主を言い当てる事は出来なかった。
どこにも似た物が無い飾りは、偶然にも勇者が死んだとされる場所に供えられたかのように、花束の残骸と共に放置されていたという。
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