異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編

60.もし気持ちに区切りをつける事が出来たなら

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   ◆



 とてつもなく疲れた一日だった。

 ブラックと離れ離れになって、クロウと一悶着あって、ギアルギンとレッドに遭遇して、その後ドービエル爺ちゃんとクロウが親子だったと解り色々あって……。
 とにかく、本当にめまぐるしかったと言えよう。

 だけど、大変だった分、黒籠石こくろうせきをいくつか手に入れる事が出来たし、源泉も数千年は大丈夫なようになった。クロウも結果的にはお父さんに会えたし俺も仲直り出来たし、ヒルダさんも……落ち着いた……と、おもう。

 とにかく、こうして俺達はイスタ火山のダンジョンを後にした。
 名残惜しいけどいつまでも居る訳には行かないからな。

 あのダンジョンについては、ヒルダさんの要望で再び封鎖する事にした。内部にいたモンスターは、外に解放し減少していたモンスターの頭数を補填する方向へ持って行ったから安心だ。
 とはいえ、俺の能力が無いと誰も入れないと言うのは問題だったので、ヒルダさんの後継者のためにも彼女の身に付けている装飾品を鍵にすることで内部に入れる……という風に設定を変えた。

 肝心の“施設”や“源泉”の事も、俺達のように「知っているものだけが判る」ように巻物か何かを作る事で、温泉郷を継ぐ人間に全貌が解るようにするつもりだ。
 その辺りはヒルダさんと相談しながらになるけど、まあブラックやアドニスが協力してくれるというので、そこは大丈夫だろう。

 そんなことを相談しながら外に出ると、随分と長い時間潜っていたのか夜どころか夜明けの時間帯になっていたらしく、空は端の方から白み始めていた。
 もう長い時間ずっと潜っていたような気がしていたが、たった一日しか経過してなかったとは、ちょっと驚きだ。太陽のない世界だと本当に時間が解らなくなるなあ。

 でも、一日で解決できたと考えれば結構スピーディーだったよな。
 不安な要素も有るけど、なんにせよ問題がいくつか解決してよかったよ。

 そんなこんなでゴシキ温泉郷に戻ったのだが……これがまた、大変だった。
 まず、警備隊の人達がずらっと門の前で俺達を待ち構えており、こちらを認識すると同時に凄い勢いで出迎えてくれた。
 彼らいわく、夜明け前にはお湯が曜気を含んだ状態に戻ったのを確認したとの事で、俺達がやってくれたんだとみんな大喜びだったらしい。

 やった事はとてもシンプルなのに英雄のごとく祭り上げられてしまい、なんだか申し訳なくなってしまった。いやだって、ダンジョンに居た時間の半分以上は源泉なんて関係ない事ばっかりしてたわけだしね、俺達……。

 何をしてたんですかと言われたら困るのでそこは口を噤んだが、まあ……温泉郷が助かったのだから細かい事はいいっこなしだ。
 ついでにモンスターの頭数の増減についての話もして、ダンジョンを発見した事は言わずに、とりあえず色々あって増えた事を報告しておいた。

 イスタ火山はここ最近モンスターの頭数が減少していたので、そこは問題なかったようなのだが……そう言えば、モンスターが何故減っていたのかは判らなかったな。
 ダンジョンからモンスターが飛び出て来ていたのは、どうも源泉の装置が誤作動を起こして必要以上の炎の曜気が放出されていたかららしいし。

 そのせいでファイア・ホーネットが満腹の状態に耐え切れず、一時的に逃げ出していたようで、モンスターが減っている事とは直接の関係は無いらしかった。
 ただ、なんで誤作動を起こしていたのかはよく解らないけど……。

 ブラックも源泉の装置や施設の制御エリアで色々調べていたけど、結局どうして炎の曜気が必要以上に多くなったのかって事や、モンスターが何故減ったのかという事は解明できずじまいだったんだよなあ。

 まあ、源泉が止まったのはブラックのせいだってことは、こっそり聞いたけど……アレは永遠に黙っておいた方が良いよな……。
 説明したら余計に混乱しそうだし、ヘタしたらマッチポンプじゃないかって思われそうだし……嘘はついてない、ただ黙ってるだけだから、問題は無い。そう思おう。

 ……ゴホン。とにかく、まあ、全部スッキリとまでは行かなかったけど、主な問題は解決できたし良しとしよう。良しじゃない事も有るけども。

 そんなこんなで俺達は紫狼の宿へと戻り、風呂に入って朝食を取ってからそれぞれ仮眠しようという事になり、用意して貰った個室でヒルダさんを含む六人で食事を黙々と取っていたのだが――――食事が終わり一息ついた所で、ヒルダさんが覚悟を決めたかのような顔をして、ぽつりと話しだした。

「みなさん、今回は本当にありがとうございました。……そして……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 そう言いながら、ヒルダさんは俺達に向かって深々と頭を下げる。
 だけど、俺達はそんな事なんて気にしてはいなかった。その事を表現するように、アドニスが言葉を返す。

「ダンジョン絡みの依頼は大抵こんなものですし……まあ、そこの獣人に関しては、私達は関係ない話なので……謝る事はないかと」
「俺は騎士団だからな。国の繁栄と安寧あんねいを守り、民を守護するのが仕事なのだから、このくらいのことなど問題ない。あの程度の事で謝罪を要求するほど安くは無いぞ」
「まあ僕も……今回は何も言える立場じゃないんで……」

 ブラック、お前はそうだろうな……。
 擁護してやりたいが、こればっかりは何も言えない。まったくの事故とは言え、源泉の動力を停止させてしまったのは俺達なわけだしな、うん。

 俺も特に思うところは無い。だが、クロウはどうだろうか。
 ヒルダさんに刺されたし、父親の命も狙われたんだ。それを考えると……怒っても仕方がないようなきもする。
 心配になって隣を覗くと、クロウはゆっくりと瞬きをしてヒルダさんを見ていた。
 そんな橙色だいだいいろの瞳に、ヒルダさんは肩を縮めてうつむく。

「クロウクルワッハさんには……なんと謝罪をしたらいいのか……。己の私情を振りかざし貴方を襲い、その上貴方の父親にまで刃をむけようとするなんて……許される事ではないと解っていますが、まずは謝らせて頂けないでしょうか」

 ヒルダさんの瞳は揺れているが、けれど視線を逸らすことなくクロウを見つめている。心から償いたいと思っているそのまなざしに、クロウは考えるように少し視線を空に彷徨さまよわせると、ゆっくりとその瞳を見返した。

「……父上がやった事は、貴女が憎しみを抱いても仕方のない事だ。逆にオレが遺族であれば、かたきを討とうと思うかもしれない。悪しき策略があっても、直接相手に手を下した者の罪は変わらん。オレを殺そうとした事についても、別段思うところなどは無い。一族郎党皆殺しなどよくあることだからな」

 獣人の世界厳し過ぎませんか。
 でも、だからこそ、ヒルダさんのやった事を許せるのかな。
 価値観の違いって時々物凄いみぞを生むことが有るけど、反対に問題を物凄く簡単にしてしまうこともあるんだな。

 だけどまあ、人族の感覚で話していたヒルダさんにとっては、クロウの「仕方ない」と言う発現が理解出来ないのか、目を瞬かせ困惑していた。
 さもありなん。ナイフで刺した相手があっけらかんと「仕方ない」と言うなんて、普通は考えられない事なんだから。

「あの……でも……刺した事や、貴方のお父様を酷くののしったのは事実ですし、それに……今回私は何も出来ませんでした。その上、あの男の口車に乗せられて、ダンジョンに招き入れてしまうなんて……」
「え……ヒルダさん、ギアルギンの事を知ってたんですか?!」

 思わず身を乗り出すと、ヒルダさんは驚いたのかびくりと肩を震わせたが、申し訳なさそうに話してくれた。

 ――ヒルダさんとあいつが出会ったのは、つい先日の事だと言う。
 王都シミラルの商会に用が有って出向いた時に、そこで声を掛けられたそうだ。
 最初は他愛ない世間話や、温泉郷などの話題だったのだが、次第にその話題は深く広くなって行き、気が付けばヒルダさんはギアルギンに自分の身の上までもを話してしまっていたのだという。それで、ギアルギンはヒルダさんの夫が先代勇者だと知り今回の件を持ちかけて来たのだそうだ。

 ……正直、そこまで来ると出会いも偶然では無く、ギアルギンは最初から彼女の事を利用して、今回の事件を起こしたように思えるのだが……それは、ヒルダさんには話さないほうが良いだろう。
 復讐心を煽られて利用されたなんて、淑女には相当なショックに違いない。
 自分が入れ込んでいた相手ともなると尚更だろう。

 それを証拠に、ヒルダさんは何とも言えない夢現のような表情で、ギアルギンとの事を思い起こしていたのだから。

「不思議な感覚でした……。あの人は、私の全てを知っているかのように話すのです。言葉はまるで岩にみ入る水のようで……こんな事を言うのは、弁解と思われても仕方がない事ですが……気が付けば、言いようのない怒りに囚われ、復讐すべきと考え貴方達の事を酷い目で見ていました。復讐すべき相手で、その為に利用する者であると……」

 ヒルダさん、そんな事を思ってたのか。
 普段の穏やかで優しい彼女からすると考えられない事だが……あの男なら、彼女の情報を得て、それを元に復讐心を煽る事も簡単に出来たかもしれない。
 だって、国の重鎮達を丸ごと凶行に走らせた張本人なんだぞ。使用人にも分け隔てのない優しい人なんて、簡単に取り入られて洗脳されてしまうだろう。ブラック達もそれを解っていたのか、ヒルダさんの話を聞いて同情するような目を向けていた。

 そうだよな。だって結局、ヒルダさんは利用されていただけなんだから。

「今となってはお恥ずかしい限りです。結局、諸悪の根源はあの男だった。それなのに、夫の死の真相を知らせてくれたと言うだけで私は愚かにもあの男を信用し、何も悪くない貴方がたを大変な事に巻き込んでしまった……」
「ヒルダさん……」
「……この事についてのけじめは、自分なりの方法でつけるつもりです。私が我欲のためにご迷惑をかけたことは事実であり……私は結局、憎しみを捨てる事が出来なかった。そのせいで……ツカサさんにも迷惑をかけてしまいましたから」

 そう言って俺を見るヒルダさんの顔は、悲しそうな微笑みを浮かべていた。
 まるで、自分自身の事を憐れむような、悲しむような……そんな、微笑みを。

 …………そんな顔されたら……黙ってられないよ。

「俺、迷惑を掛けられたなんて思ってないです。寧ろ……今まで憎まないようにって思って、俺達の事を受け入れてくれた事に、俺達は感謝しなければならないと思ってます。だから、その事で心が疲れて爆発してしまっても、仕方ないと思うんです」
「ツカサさん……」
「俺が何を言っても説得力が無いかも知れないけど……でも、俺は……ヒルダさんの気持ちを否定したくはないし、ヒルダさんが俺を許せないと思うのなら、その感情にもちゃんと向き合いたいです。許してくれなくてもいい。だから俺は、何度でも話し合って、ヒルダさんが望む事を出来る限り叶えたいと思っています。……家族を失うのは、誰だって辛いから。それほど重いことだって、俺も解るから……」

 俺だって、父さんや母さんが連れていかれたり消えたりしたら、心細くて寂しくて何も考えられなくなって、理不尽に怒り出すかもしれない。
 ブラックが誰かに連れて行かれたらと思うと、心臓が不安に脈打って最悪止まってしまうかも知れない。なのに、もし殺されてしまったりしたら……この世界のセオリー通り、その殺した奴を捕まえて、どうにかしてしまう……なんて事も、否定できなかった。誰かを大事に想うのは、そういう事なんだ。

 だからこそ、俺はヒルダさんを責められなかった。

「貴方という人は…………本当に……」

 そんな俺に、ヒルダさんは空涙を拭って口元の笑みを深める。
 彼女の顔は、先程より少しだけ明るくなったような気がしていた。

「思えば、あなたはいつもそうでしたね……。自分より人を思いやり、人の気持ちに寄り添おうとする。私にも、そうして寄り添おうとしてくれた……。だからこそ、私は自分の憎しみが許せないのです。……純粋な気持ちで私を心配して下さったツカサさんにまで、憎しみを抱いてしまうなんて……。だからこそ、私は自分自身にけじめをつけなければならないのです」
「そこまで思い詰めなくても……」
「いえ……私は結局、決闘でも何でもない……途轍もなく卑怯な事をしてしまった。領主として、貴族として、人として……あるまじき行為をしてしまったのです。何度抑えても、私はそれを抑えられなかった。ツカサさんやクロウクルワッハさんのように、思いやりや理性を以って征する事が出来なかったのです。だから……自分を抑えられる内に、私は決断したいと思っています」

 そう言って、ヒルダさんは再び深々と頭を下げた。

「本当に、申し訳ありませんでした。……そして、本当にありがとうございました。私は今回許して頂いた事を忘れず、最善の道を選びたいと思います」

 報酬などは起床後にお支払いしますね、と付け加えたヒルダさんに、俺は何か言い知れぬ不安を感じ取ってしまい、思わず顔を歪めて彼女を見てしまった。
 なんというか……妙にすっきりした顔をしているヒルダさんを見ていると、どこかへ行ってしまうのではないかと不安になってしまったのだ。

 彼女はそんな俺に気付いたのか、今度は何の憂いも無い微笑みを見せた。

「ツカサさん、どうか気に病まないで下さい。私はやっと……自分の心を偽らずに素直に生きる事が出来る。ようやくこの決断できたからこそ、貴方の純粋な優しさを、心から受け入れられるのですから……」

 それは……どういう意味が込められた言葉なんだろう。
 読み取る事が出来たら、俺はもっとヒルダさんの力になれたんだろうか。
 だけどそんな思いはおごりでしかないのかも知れない。結局俺は、彼女にとって複雑な感情の相手でしかなかった。この段階まで来なければ、彼女は俺のやって来た事を素直に受け入れられなかったのだ。

 きっと、健康を気遣って出した食事も、ヒルダさんに向けた優しさも、彼女にとっては素直に喜べない物だったのだろう。領主として、大人として俺達を全面的に許さなければならなかった日々は、とても苦しかったに違いない。

 それを思うと、俺は……もう、何も言えなかった。
 これ以上、ヒルダさんに苦しんでほしくなかったから。

 そんな俺の感情を読み取ってしまったのか、ヒルダさんは笑みを深めた。

「ツカサさん……私が気に病まないでと言ったのは、本当の気持ちです。貴方の事を好ましく思っていたのも事実ですよ。だから……もう、貴方も気に病まないで下さい。私は……ツカサさんの事が、好きです。憎んでいても……純粋で優しい、貴方の事をどうしても憎み切れなかった。だから、もう、悲しまないで。貴方も……私への贖罪の気持ちから、自由になって良いんです」

 ヒルダさんの言葉が、ぎゅうっと痛くなった俺の胸にじわりと染みる。
 だけど何故だかその言葉が悲しくて、俺は泣きたくなってしまい、涙が出ないように目を擦って耐える事しか出来なかった。

 どうしてこんなに悲しくなるんだろう。
 考えても、分からない。ただ、何故か……このままヒルダさんと別れてしまうと、もう二度と彼女とこうして本音で話せないような気がしてならなかった。



   ◆



 仮眠を取った後、俺達はヒルダさんから報酬を頂き、その足でゴシキ温泉郷を後にした。長居をしてしまったが、俺達の目的は「エメロードさんの呪いを解く事」だ。その為にこのライクネスに戻って来て、ヒルダさんに協力を仰いだのである。

 だから、黒籠石を手に入れた今は一刻の猶予も無かった。
 早くアドニスがワープできる程度の距離まで移動して、カスタリアに帰らねば。

 ラスターは王都に戻って報告をしてくれるというので、一旦別れた。とはいえ、この事が終わったら俺達は陛下にも報告しなければいけないので、またすぐに会う事になるだろうから、そこまで名残惜しさは無かったのだが……まあなんというか、性格が真面目な人が一人減ってしまったという虚無感は拭えない。

 ブラックのセクハラを止める人が少なくなったと言うのは、俺にとっては凄い痛手なのだ。このうえアドニスも居なくなったら大変だぞ。
 五人パーティーに慣れていた俺が、これからこのオッサンのスケベなボケを一人で突っ込み切れるかどうか……。ああ怖い、ラスターなんで帰っちゃったの。

 もう馬車の中でも相変わらず俺はブラックの真横だし肩を抱かれているしで、早速調子に乗ってるんですけどこのオッサン。
 頼むから馬車に乗っている間はおとなしくしといてくれよ。

 しかし、当の本人はそんな事などお構いなしで、また余計な事を言い出した。

「ところでお前、目的がなくなったんなら故郷に帰ってもいいんだぞ」

 つまらなそうな目を向けながら、俺の逆隣にいるクロウに言葉を放り投げる。

 お前、それは今言う事じゃないだろう。
 クロウにだって色々と思う事はあるんだから、自分から結論を言い出すまで黙って置いてやるってのが優しさなんじゃないのかい。

 まったくこれだからこの中年は……などと思っていると、クロウはいつもの無表情で言葉を返した。

「確かにオレの旅の目的はなくなったが、しかしだからと言ってツカサの傍にいられない訳ではあるまい。第一、オレは“二番目の雄”だぞ。ツカサを二番目に孕ませて良いとお前に認められたオスなのだから、旅をする理由などなくなっても、ずっとそばにいるのだ。なあ、ツカサ」

 そう言いながら、クロウは俺を見て熊耳をぴこっと動かした。
 無表情だけど、その顔はどことなく自信が有って嬉しそうな感じがする。

 そう、クロウはこれからもずっとそばに居てくれるんだ。
 理由が無くたって、約束が無くたって、友達や家族みたいにずっとそばに。

「うん。クロウは、俺達の大事な仲間だからな」

 恋人じゃないけど、変な関係だけど、でも、ずっとそばにいて欲しいと思う気持ちは変わらない。クロウはクロウで、俺の中で唯一無二の大事な存在なのだ。
 だから、もう、遠慮なんてしないしさせない。

 思いっきり笑ってやって頷くと、クロウは嬉しそうに目を細めて、俺の手に浅黒くて大きな手を重ねてきた。

「ツカサ、大好きだぞ」
「ん。俺も」
「あ゛ーっ!? ツカサ君なんでそいつにはそんな事いうの!? 今の絶対仲間とか友達とかそう言うのじゃないよね!? 僕の嗅覚はごまかせないんだからね!!」
「うるさいですねえ、すこしは静かにして下さいよ……」

 呆れたようにアドニスが言うのに、ブラックは目を潤ませながら俺を抱き込む。

「ツカサ君僕にもっ、僕にも大好きって言ってよー、ねーっ」
「だーもー張り合うな!!」
「ブラックこそずるいぞ。オレにもツカサを抱かせろ」
「はぁ? 調子乗んなよ駄熊お前切り殺すからな」
「はー……ツカサ君、この二人の口、塞いで良いですか?」

 アドニスの物騒な問いかけに、俺は乾いた笑いで返す。

 いつもの関係に戻れたのは良かったけど、なんか悪化してるような気もする。
 実際、この関係を貫いて良かったんだろうか……などと考えてしまうが、良かったかどうかなんて最後に決まる物で、今は決められないものなのだ。
 きっと、なるようにしかならないだろう。

 我ながら楽観的な考えだなと呆れたが、しかしその考えを素直に「良い」と思う事が出来るのは、きっと俺がブラック達を信じていられるからだろう。
 そう思うと何だか嬉しくて、俺は気が付けば心から笑ってしまっていた。














 
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