異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編

  靴を鳴らすためには歩かねばならない2

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 イスタ火山の源泉の復旧方法は、意外と簡単だった。
 まずどうするかと言うと、ブラックが見つけた秘密の管理室に入る。んで、そこに隠してある小さなダストシュートの集まりのような部分にそれぞれ曜気をそそぐだけ。

 なんというか、アレだ。給油口が五個ぐらい並んだ変な車に、それぞれ違う種類の油を入れているみたいな感じ……。いや給油口が有るのは車じゃなく普通の壁なんだけども、それでも注いでいると何だか妙な気分になってくるワケで……まあ、それはともかくとして。

 御親切に横についている目盛りが満タンになるまで、それぞれ十分ぐらいかかっただろうか。それで千年以上というのだが、俺としては体感が「酷く疲れて眠い」くらいの感じしかなかったので、そこまでご大層な年月のエネルギーを注いだ実感が無かった。まあ、今日は何度も何度も術を発動したんだもんな……。

 疲れてどうしようもなくなり、結局ブラックにおぶって貰って“施設”に戻って来たのだが、どうやら途中で俺は寝ていたらしく気が付いたらベッドの上だった。
 ブラックが連れて来て寝かせてくれたらしい。当の本人は俺の顔のすぐ横に居て、俺の寝顔をニタニタと笑って眺めていた。そりゃもう、スケベな顔で。

 一瞬ブラックが何かして来ないだろうかと警戒してしまったけれど、ブラックから少し離れてアドニスとラスターが居たので、そう言う事は無さそうだった。
 ……いや、まあ、恋人にそう言う反応ってどうかとは思うが……病み上がりなのにお構いなしにえっちしてこようとするからな……。

 さすがに今はマジでキツいので、アドニス達がそばにいてくれてよかった。
 ブラックの補助を借りて起き上がると、ラスターとアドニスが上から目線でいたわりの言葉になっていないような事を言ってくれたが、それでもそれが彼らなりの優しさだと知っているので、悪い気分はしない。何だかんだで結構な時間を一緒過ごしてるし、これも気心の知れた仲間って奴だからかな。そういうのはちょっと嬉しい。

 ここにクロウが居てくれたら、まさにいつものメンバーって感じなんだけどなと思っていると――部屋に角が生えたクマさんとクロウが入って来た。

「クロウ! 爺ちゃん!」

 二三時間くらいしか話してなかったようだけど、それで満足なんだろうか。
 しかし二人は俺達が見た事も無いような穏やかな顔をしていて、話し合いは充分だったのだと一目で分からせてくれた。
 何を話したのかとても気になったが……まあ、親子だけの話もあるだろうからな。

 好きな奴だから全部を知りたい、なんて思うのはちょっと傲慢ごうまんかも知れない。
 でも、そう思ってしまうほどクロウが気になるんだなと思うと、自分でもちょっと恥ずかしくなってしまった。

「ツカサ君……?」
「な、なんでもない。えっと……もういいのか?」

 めざといブラックの声を避けて問うと、ドービエル爺ちゃんが頷いた。

「ああ、もういい。息子と話す機会を与えてくれてありがとうツカサ」
「それは良かった……んだけど……あのさ、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「どうしてクロウは最初ドービエル爺ちゃんの名前を知らなかったの?」

 そう言うと、ブラックも目を瞬かせてそういえばと空を見上げた。

「確かに言われてみれば……。そんなに疎遠そえんだったのかお前ら」

 お前が言うなという感じだが、しかしその通りでもある。
 クロウは父親……つまりドービエル爺ちゃんとあまり会った事が無かったと言っていたけど、それでも父親なんだから名前くらいは覚えているはずだ。
 なのに知らなかったなんて、やっぱりどうも納得がいかない。

 しかしその問題は親子にとっては大した秘密では無かったようで、クロウは無表情でちょっと照れ照れしながら頭を掻いた。

「実は……オレは家での父上しか知らなかったから、対外的な名前を知らなかったのだ。家では母上が“あなた”としか呼んでなかったし、基本的に、お……ゴホン、おさの立場の者は名を呼ばれる事が少ない。それに、オレの家の氏名はメイガナーダで、アーカディアではなかったし……」
「クロウの家の名前ってメイガナーダって言うんだ……」

 その情報も初めて聞いたんだけども。
 もしかして何かワケがあって隠してたのだろうか。もしくは、ブラック達が知っている家名だったりするのかな。三人の反応を窺って見るが、やはりブラック達も知らないみたいだ。うーん、ただ単に必要なかったから言わなかっただけなのか?
 にしては、色々きっちりしてるクロウが何も言わなかったのも、なんか“えて”感がある気がするんだけどなぁ……。

「父親と氏族名が違うのは獣人族では良く有る事なのか?」

 鋭いツッコミを入れるラスターに、クロウはドービエル爺ちゃんを見る。
 爺ちゃんは息子の視線に気づいたのか、いやぁまいったとでも言わんばかりに片手で頭を器用にポンポンと叩きながら笑った。

「いやぁ、ハハハ……。わしらの種族は少し特殊でしてな。長だけは特別な名をいただく決まりになっておるんですじゃ」
「そういえば……爺ちゃんが俺に名前を教えてくれる時に、なんか凄い意味が籠った由来を教えてくれてたよな」
「うむ。我らディオケロス・アルクーダはそのような感じなのだ。……まあ、それはそれとして……ツカサ、お主に少し話がある。……出来れば、皆様は退席して下さるとありがたいのだが……」

 なんだか上手くはぐらかされたような気もするが、話があると言うのなら聞かない訳には行くまい。ブラックも流石にお爺ちゃんに対しては強く出られないのか、渋々と言った様子で部屋から退出して行った。
 後に残ったのは、爺ちゃんとクロウと俺だけだ。それを確認して、爺ちゃんは俺の目をじいっと見ながら話しだした。

「さて、ツカサ……お主には一つ聞いておきたい事が有る」
「は、はい」

 何だか神妙にしている爺ちゃんに、こっちまで緊張して来てしまう。
 思わず居住まいを正して見返すと、爺ちゃんはチラリとクロウを見てから、俺の方に再び向き直った。

「ツカサは、その……随分と、息子に優しくしてくれているようで、わしとしては、とてもありがたいのだが……本当に、良いのか?」
「良いって……?」
「その……言いづらいのだが、わしらは味見をして気に入った人族を手放さない程には傲慢な所があるし、お主に隠している事も多々ある。それに……クロウクルワッハは、ブラックさんという恋人がおる人族のお主をめとりたいとも言うておる。人族は一夫一妻を美徳とする地域もあるらしいが、こういう事は……お主にとっては、辛い事ではないのだろうか」

 心配そうに俺を見る爺ちゃんの目は、なんだか父さんに似ている。
 大人って、他人に話す時はこういう風に子供の事を妙に卑下ひげするんだよな。でも、俺はそんな今更な事を深刻ぶる気は無かった。

「……わがままかも知れないけど……俺は、クロウが許してくれるなら、今の状態でクロウと一緒にいたいと思ってます。先の事は判らないし……そもそも、娶るとか、そういう話は……正直俺には……決めきれない、です。……でも、俺はクロウと離れたくないし、クロウにしてやれる事はしてやりたい。隠し事はそりゃ、誰だってあるし……別に気にない、です。だから俺は……クロウと離れる気はありません」

 何だか改まって敬語で話してしまったが、他意はない。これが俺の本意だ。
 自分でも随分と都合のいいことを言っていると思うけど、クロウが俺を再び信じてくれて、前よりも素直に自分の気持ちを出してくれるようになったのは事実だ。
 だから、俺もそれに応えたい。

 誰にだって隠したい過去が有るように、誰にでもすぐには決めきれない事はある。何でもすぐに決められたって、その決断が必ず正しいなんて保証はないんだ。
 だからこそ、クロウだって散々悩んであんな事になったんだしな。
 それなら俺だって、最後の最後まで足掻いて考えたたってバチは当たらないよな。
 先の事は誰にも判らないんだから。

 ……もし、未来に起こる出来事が解っていたら、俺はきっとブラックと出会う事も無かっただろうし、こうして恋人になって、ブラック以外にも大事な人達がたくさんできる事も無かったと思う。

 そうなってたら、俺は……どうなってたかは解らないけど、でも、こんな風にドキドキする事だって無かっただろうし、俺が今まで出会って来た人達とも出会えなかったかも知れない。そんなの、考えただけで悲しくなる。クロウとも出会えなかったと思うと、その……泣きたくなるような気も……。

 と、とにかく、未来の事なんて解らないんだ。俺には予定表を立てるのもムリ。
 だからこそ、今ハッキリ決める事は出来なかった。

 でも、それで良いんだ。クロウも、そんな俺を嬉しそうに見ていてくれるから。
 クロウがそれで良いと言ってくれるのなら、俺もそれを貫きたい。

「……そうか……。それほど、この愚息の事を受け入れておるとは……」
「クロウは愚息じゃないよ。真面目だし頼りになるし、優しいし……それに、俺達のパーティーの大事な切り込み隊長なんだよ? クロウがいなけりゃ始まらないって」

 だから、そういう言い方はちょっとヤダ。
 ドービエル爺ちゃんにそう言うと、相手は破顔してハッハッハと大きく笑った。

「そうかそうか! そこまでわしの息子を買ってくれるとは嬉しいのう……。いや、本当の所を言うと色々と心配だったのだが……お主のような嫁なら安心だ」
「よ゛め゛っ」

 ついに言われてしまった言葉に思わず声が濁る。
 が、クロウは俺に構わずドービエル爺ちゃんにどこか嬉しそうに目を向けた。

「父上、認めて下さるのですか」
「認めるも何も、器量も旨味も文句なしなら反対する理由も無かろう。話を聞いた時から反対なぞ考えてもおらんかったよ。しかしまあ、娶るまでには大分かかりそうだのう。……わしは一足先に戻るが……いつか必ず、連れて来るのだぞ」
「はい、必ず」

 ちょいちょいちょい、なにしれっと親公認の仲扱いされてんの!
 やめてそうやって周囲から固めて行くの本当やめて!

 クロウこの野郎お前甘えて良いって言ったら早速強硬手段に出やがって。
 ここはさすがに怒った方が良いのか、いやしかし甘えろと言ったのは俺であって、そもそもクロウは最初から俺を嫁にする気マンマンだったし……。

 ああもうなんちゅうか、凄くとんでもない事になってしまったぞ。
 思わず頭を抱えた俺に、ドービエル爺ちゃんは苦笑していたが……急に真面目な顔になると、再び語りかけて来た。

「さて、ツカサ。わしはこれから帰ろうと思うが……一つ謝らねばならぬ事がある」
「え……それは……なに?」
「わしも色々やる事が有ってな、これからは召喚されてもほとんど応えられぬ。故に助ける事が出来なくなる。……そんな身で何をと思うかもしれぬが、なにとぞ、息子の事をよろしく頼む。この子には、お主しかおらんのだ」
「そ、それはまあ……むしろこっちの方がクロウに頼むくらい依存してるから大丈夫ですけど……でも、色々やるって?」
「獣人の国は今少々揉めておっての……その揉め事は、わしにとっては放っておけぬ事なのだ。その問題の解決にに専念するため、呼び出しに答えられないかもしれん。すまぬ……」

 獣人の国の揉め事……それって、ラッタディアに逃げて来た獣人達が言っていた、内乱がどうのって話だったよな。
 そっか、クロウや爺ちゃんの種族はいかにも重鎮っぽい感じだから、故郷が荒れてしまうのが我慢ならないんだろうな。

 そう言う事なら仕方がない。というか、召喚獣……じゃなくて守護獣の方の都合で出て来れないなんて場合があるなんて初めて知ったが、まあそんな事もあるよな。
 今回はドービエル爺ちゃんにたくさん助けて貰ったんだ。もう会えないってことでも無いんだから、縁が有ったらまたどこか再会できるだろう。

 爺ちゃんからのお言葉に素直に頷くと、相手は安堵あんどしたように微笑んだ。

「本当に、良い子に巡り合えて……この幸運に感謝するぞ」
「い、いやぁそれほどでも……」

 へへへ、そんな、良い子だなんて照れるなあ。
 やっぱり年上に認められたらうれしいものだ。思わずエヘエヘと締まらない顔で笑ってしまうが、ここは我慢だ我慢。
 一旦お別れするってのに、ニヤついてたら駄目だ。クロウだって普通の顔をして話を聞いているってのに、俺一人だけ変な顔ではないか。

 顔を引き締めた俺に、ドービエル爺ちゃんは続けた。

「それと……一つ、忠告をしたい」
「ん?」
「あのギアルギンという者が、人ならざる者の臭いをしているといったが……その他にもう一つ、思い出した事が有るのだ」

 そ、そうか。
 ドービエル爺ちゃんはギアルギンに運び屋をやらされてたんだっけ。
 もしかして何か気付いた事でもあるんだろうか。

「その思い出した事って……?」

 ドキドキしながら訊くと、爺ちゃんは少し目を細めて呟いた。

「あやつは……ギアルギンは、恐らく銀髪……もしくは体毛の一部が銀色である者のはずだ。それは間違いない」
「銀髪……?」
「うむ。あやつと何度か会った事が有るのだが、その時偶然にあの男の外套から銀に光る何かが落ちた事が有ってな。拾ってみると、それは銀色の毛だったのだ。すぐニオイを嗅いだら、ちゃんと抜けたての油のにおいがしたから、糸などではなく人毛か体毛で間違いはないぞ」

 あ、そうか、人間には皮脂っていうアブラがあるんだもんな。クロウと爺ちゃんは、そのも知っているのか……ううん……なんかちょっと、これからゴハンをあげるのを躊躇ためらってしまう事実だが、まあ仕方ない。人間なんてそんなもんだ。
 とにかく、人毛の類で間違いないとすれば、ギアルギンは銀髪って事だよな。

「じゃあ、銀髪の奴を気にしておけばいいってことか」
「うむ。相手はあの通り、外套で姿を隠しておる。ということは、己の髪色が何色かも悟られておらんと思うておるはずだ。あやつはわしら獣人族の鼻を甘くみておったに違いない。……しかし、だからこそ、あのような隙が出来たのだろう。銀髪の男を警戒しろ……というのは範囲が広すぎるが、しかし気にしておいたほうがいい」
「うん……ありがとう、爺ちゃん」

 今は何とも言えないけど、ドービエル爺ちゃんが間違った事を言っているとは思えない。というか、これ凄い情報じゃん。
 誰も正体を掴めなかったアイツの一部分でも明かす事が出来たんだぞ。
 これを足掛かりにして、なんとか正体を掴めるかも知れない。

「だがツカサよ、決して立ち向かうではないぞ。……あやつは、妙なニオイがするのは確かだが……それ以上に、底知れぬ何かを感じる。あやつ自体に何かを感じる事は無いと思うのに、纏う雰囲気が普通では無く誰もが圧倒されてしまうのだ。くれぐれも、一人で戦おうと思うではないぞ」

 その言葉に、俺は強く頷いてクロウの方を見た。

「大丈夫です。俺にはブラックとクロウが付いてますから。……でも、それだけじゃあ、やっぱ男として情けないから……色々と勉強頑張るけどね」

 そう言うと、ドービエル爺ちゃんはまた笑った。

「本当に、お主がクロウクルワッハの選んだ相手で良かった」
















※まためちゃんこ遅れて申し訳ない…
あとちょっとで終わります…
あと、イスタ火山編が終わったらリクエストしていただいた
リク小説を新しくうpしたいと思ってますので
続報を御待ち頂けると嬉しいです
 
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