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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
47.予測可能回避不可能1
しおりを挟むやばい美味しそう。壁の色がダークブラウンなせいでお腹が減って来た……あっ、そういや肉漬け込んでるの忘れてた!
お茶も着けっ放しじゃねーか絶対失敗してるあああ一包み無駄にしたああああ。
「ツカサ大丈夫か」
「大丈夫じゃないけど大丈夫! え、えっと……ちょっとまって。ここ本当に黒籠石の洞窟かな。なんか確かめる方法ないかな?」
「なにか術を仕掛けてみたらどうだ。反応が有るかもしれんぞ」
「そっか……やってみる」
クロウの言う通りだな。
確か黒籠石って加工前は石炭みたいで、加工すれば水晶と似たような鉱石になるんだっけ。んで、加工前の原石は微弱に周囲の曜気を吸い取ってるから、人族なんかは危なくてあまり近寄れないとかなんとか……。
でも、こんだけ原石が埋まってるってのに俺は特に変な感じはしないな。
俺の力は無限MPみたいなもんだし、減ろうが問題は無いってことなのかね。
よく分からないけど、とりあえずここは一番簡単な【フレイム】でやってみよう。
掌にぽっと小さな炎を灯して、壁に埋まっている黒光りする石炭に近付けてみる。すると、炎が揺らめき少し小さくなった。
他の原石にも近付けると、フレイムは段々と弱くなり、ついには消えてしまう。
黒籠石は曜気を吸い取ると言うけど、原石の時は本当に微弱なんだな。でも、微弱なものであっても、これだけ数が有れば普通の曜術師はひとたまりもないかも。
俺は黒曜の使者の力があるから平気だし、クロウも獣人の特性が作用しているのか黒籠石の影響は受けないので、二人とも大丈夫だが……しかし、クロウの体質は本当不思議だな。土の曜術が使えるのに曜術師じゃないし、種族的にも獣人の中では特別な存在みたいだもんな。
話を聞いていたら獣人の国ではかなりの地位にいた事が察せられるけど……そこの部分の質問をしたら、クロウの傷に触れちゃうかもしれないからなあ。
ま、クロウもいつか話したくなった時に話してくれるだろう。
ブラックだって時々ちょっとだけ話してくれるし、クロウも今さっきみたいに何かの拍子でぽんと話してくれるよな。急ぐことじゃないんだ、気長に待とう。
「これで黒籠石である事が証明できたな」
「う、うん。えーと……何個持って帰ったらいいんだっけ」
「とくに個数は聞いていないが……二三個あれば充分ではないか?」
「そうだね。じゃあ、下の方からちょっと拝借して……」
天井らへんの物を取ると崩落しそうなので、地面ギリギリにある黒籠石を二つ三つみつくろって盗る猫させていただく。
しかしこの洞窟、案外硬いのかまったく歯が立たない。
包丁代わりのナイフを突き立ててみたんだが、壁はびくともしないのだ。
もしかしたらこの壁……何か術が掛かっているのかも知れない。
それこそ、イスタ火山に掛けられている「ダンジョン自動修復」っていう術と同じようなものが……いやむしろ、ここはイスタ火山の一部なのかも知れない。
だとしたら、やっぱ強烈な攻撃でもないと欠けないのかな……。
「とれないのか」
「うん……。かなり強い術じゃないと無理かも」
「どれ、やってみよう」
後ろにいてくれと言われて素直に従うと、クロウは膝をついて壁を確かめる。
そうして、ぐっと拳を握ると――クロウは躊躇いも無くその拳を壁へとぶつけた。
「――――!」
どっこん、と物凄い音がして壁に弾丸が突き抜けた後のようなヒビが入る。
思わず息を飲んで面食らった俺の前で、壁のヒビはバキバキと音を立て……拳の入った場所の周囲の表面だけがガラガラと音を立て崩れ落ちた。
「ツカサ、早く拾おう」
「う、うん……あの、クロウ……拳大丈夫なのか……?」
あの壁すっごい硬かったんだけども。
恐る恐る訊くと、相手は目をぱちぱちさせて首を傾げた。
「ふむ? 特にどうという事は無いが……まあ、今のは普段の姿では出せない、あの姿の時よりも少しだけ上の腕力を使ったから、いつもの状態ならこの頑丈な壁も崩せなかっただろうな」
「普段よりちょっと上……」
でも普段のツノなしバージョンなクロウって、本気を出してなくてもそんじょそこらのモンスターより強かったよな……この姿のクロウってマジで限界どれくらいなんだろう。
それこそ、この世界で神と同等と言われるランク8のモンスターくらいはあるんじゃなかろうか。いや、もしかしたらそれ以上なのかも知れない。
……常々思うんだけど、俺の周囲の奴らって大体チート持ちばっかりで、俺の存在感が薄くなってないか。俺の存在意義とは……いや俺だってチート魔法が使えるんだから有能なはず。応用が効かないけど。あれ有能じゃなくね泣いていい?
なんだかもう悲しくなってしまったが、とにかく黒籠石を持って行こう。
念のためにクロウには取らないようにして貰い、俺が大きそうなのを取った。
大事に布に包んでバッグの中に入れようとした……が、ふと気になって、黒籠石を一旦ポケットにしまい、三つの召喚珠を取り出した。
一つは藍鉄、一つはペコリア、そしてもう一つは、ドービエル爺ちゃんの召喚珠だ。直接的に黒籠石の影響はないとは思うけど……もしかしたら何か弊害が有るかも知れない。こういうのは、気になったらとりあえず離しといた方が良いんだよな。虫の知らせって場合もあるし。
何か起こってぴーぴー泣くよりかは気にし過ぎって方が良いか。
とりあえずベストの胸ポケットに召喚珠を移動させて、それからやっと布で包んだ黒籠石をバッグにしまった。
柘榴の召喚珠も気にはなるけど、バッグの外にあるし出来るだけ離しておいたからこっちは平気だよな。蜂龍さんの作った珠だしそうそう壊れる事は無いだろう。
「ン? それは召喚珠か」
「うん。何かあったら嫌だから、黒籠石とは離しておこうと思ってさ」
「その群青と紅桃色のはなんとなく分かるが……そっちの青い珠はなんだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ」
「ムゥ……記憶が無いぞ」
そうだっけ。あーでも言う機会とか無かったから忘れてたかも。
ドービエル爺ちゃんは、この銀を散らした真っ青な珠を「まだ使えないかも知れないが、獣人の国に来た時にこれを見せれば、お爺ちゃんを訪ねやすくなる」と言ってたんだっけか。だから、召喚珠としてはまったく使ってないんだよな。
あの時の俺のレベルでは、あの大型トラックかよって体格のドービエル爺ちゃんを召喚できる力は無いみたいだったから、それからずっと仕舞い込んでたんだ。
ちょくちょく取り出してはいたけど、未だに使用できる気がしないんだよなあ。
まあ良い機会だしクロウにも教えとこう。親戚かも知れないんだからな。
「えーっとこれは……前にオーデル皇国で話したこと覚えてるか? ほらあの、教会で回復薬を作ってる時に、ドービエルというお爺ちゃん人を知らないかって話してたじゃん。その人がくれたんだ」
「ほう、召喚珠…………を? 獣人が……?」
「んん? ……もしかして、獣人って召喚珠つくれないの?」
「聞いた記憶が無いな。しかしまあ……モンスターに近い存在なら、何らかの技術で似たような物を造れるのかもしれないが……」
普通は作れないのか。じゃあますます謎だな。
俺は爺ちゃんを普通の獣人だとばかり思ってたけど……一体何者なんだろう。
悪い人じゃないのだけは解るけど、正体が気になるな。
クロウも、自分の種族に似た知らぬ名前の相手が気になるようで、眉間に皺を寄せしきりに首を傾げていた。
「疑う訳ではないが……そのドービエルと言う物は本当にオレと同じ種族なのか?」
「うーん、そこは判んない……もしかしたら、似たような別の種族だったのかな」
だけど、クロウみたいな種族が沢山いるなんてことないだろうしなあ。
二人で腕組みして悩んでみるが、やっぱり答えは出てこない。
「……ツカサ、そのドービエルと言う物は今どこにいるんだ」
「もう獣人の国に帰ってると思う」
「そうか……」
少し考えて、クロウは改めて俺を見た。
「ツカサ、そのドービエルという奴に会いたいか?」
「え? う、うん。元気にやってるかどうか知りたいし……何か不自由してたら送り返した身としては心苦しいから、何とかしてあげたいって言うか」
お爺ちゃんには複雑な事情が有るみたいだったから、故郷に帰っても苦労をしてるんじゃないかとちょっと不安だったんだよな。
行けるもんならそりゃ行きたいよ。というか、色々行きたい所ありすぎだよ。
アレクとヨアニス皇帝陛下のことも気になるし、ラフターシュカのナトラ教会の面々も凄く気になってるし、湖の馬亭の女将さん達の事も気になるし、リタリアさんとラーミンとかトランクルとか、もっと言うならベランデルンやアコールやラッタディアとか出会った人達が今どうなってるのかすっげー気になるし!!
でもおいそれと行けない距離だから、なんかもうこういう時はホントにアドニスの使うテレポート的な術が欲しくなってしまう。
基本的に旅は馬車や徒歩だろと思う保守派の俺でも、人に会うとなったらやっぱしすぐに相手の所に駆け付けられる能力が欲しくなるものなのだ。
はー、俺もさすがに妖精の特殊能力までは使えないだろうしなあ……。
「なら……ツカサ、もし全てが終わったら……」
「……?」
色々な事を思い出していた俺に、クロウが何かを言おうとする。
全てが終わったらなんだろうかと相手を見上げた。と。
背後から凄まじい音と衝撃が襲ってきて、俺はその風圧に思わずよろけた。
「――――!?」
「ツカサ!」
転げそうになる俺をクロウが受け止めてくれる。
何が起こったのかと二人で来た道を振り返ったと同時、トンネルの反響で耳を劈きそうなほどの大音量になった咆哮が飛び込んできた。
思わず耳を抑えたが、まだ体がビリビリしている。
なんだ。何が起こったんだ。
「ツカサ、ブラック達のニオイがするぞ」
「えっ、じゃあここに来られたんだ!?」
「だが……他の、妙なニオイもする」
真剣な顔になったクロウが、くんと鼻を動かす。
妙なニオイって、まさか……。
「戻ろう、クロウ」
とにかく、何が起こっているのかを確かめなければ。
そう言った俺に、クロウは迷う事無く頷いた。
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