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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
46.友達の家族構成すら知らないのはよくあること
しおりを挟むとにかく服を整えて、例の場所を確認しよう。
シャツは真ん中から綺麗に破かれてしまっているが、乳首は隠れてるのでギリギリセーフと言った所だろう。もし戦闘とかになって乳首がもげたら大変だからな。
というか、俺の自己治癒能力は乳首も再生するのだろうか。何らかの方法で乳首が飛んで行って帰ってこなかった場合、俺は人として違和感のある姿になってしまうのでは……い、いや、さすがに乳首はそこまで用のない存在ではないはず。きっと俺の自己治癒能力も頑張って乳首を生やしてく……何を悩んでるんだ俺は。
乳首は手術で外せるとか簡単にもげるって話を聞いた事が有るから怖い本当に。
まあなんだ、とにかく大丈夫だろう。ここにはモンスターもいないしな!
という訳で、俺達は指を絡めてガッチリホールド状態で手を繋いで目的の場所へと歩き出したのだが……。
「ツカサの手は小さいな。ふふ」
「ぐ……クロウの手が大きすぎるんだって……」
上機嫌で俺の手を握るクロウは、嬉しそうな笑みを満面に湛えながら耳をぴるぴると動かしている。とは言え、髪も降ろしたままで角も手も牙も出しっぱなしだ。
いつもと違う姿だからかなんか不思議な感じがするなあ。というか、クロウはこのままで大丈夫なのかな。
「なあクロウ、その本当の姿のままでいて大丈夫なの? なんか力が削られたりとか具合悪くなったりしない?」
重そうなガラスの扉を片手で軽々と開けてしまう凄まじい腕力にビビリながら問うが、クロウは笑顔のままで首を振る。
「むしろ、今は色々と解放されて清々しい気分だぞ。それに、ツカサと二人っきりでたくさんイチャイチャできて嬉しい」
「うぐ……ま、まあ、何とも無かったらいいんだけど……」
「ツカサ」
「わーもーっ歩くたびにキスしてくんのやめー!」
横からほっぺにちゅっちゅちゅっちゅしやがってまったくもうお前は!
これじゃ歩けないだろと怒る俺に、クロウは何を思ったのか、少し考えてから俺の体を軽々と片腕でだっこしまった。
大きな手で尻を持ち上げられて、太い首に腕を回せと言われてそうしているので、そこそこ安定感はあるが……いや、なにしてんのクロウさん。
「これならツカサは歩かなくていいし、オレはキスできる」
「んっ……そ、そんなにしなくたって……」
「嬉しいんだ。オレもツカサをたくさん触っていい、オレの思うがままに愛して良いのだと解って、今凄くツカサとイチャイチャしたい。甘えたいんだ。……ダメか?」
「ぐぬぬ……」
そ、そんな事を言われると、何も言えないじゃないか……。
顔がまた熱くなって言い淀んだ俺に、クロウは目を笑ませてまた頬にキスをする。
さっきより距離が近くなった分、顔がすぐ離れなくて、そのまま少しざらついた舌で頬を舐められて変な所がきゅうっとなってしまう。
なんかもう俺の方が発情してるみたいで恥ずかしくて仕方なくて、ついクロウから目を逸らしてしまった。だけど、相手は笑うだけで。
「ツカサは可愛いな」
「も、もうそれいいからっ! 早くいこ……」
「む。わかった」
とは言っても、俺を降ろしてはくれない訳ね……。まあいいけども。
クロウが今まで我慢していた事をしてやれるのは俺としては嬉しいことだし、このくらいならまあ……い、いつものことだから、いいよな。
でもやっぱし口でするキスはマズいよなあ……クロウは今の所してこないし、そう言うのはちゃんと話し合ってからって解ってくれてるっぽいから、今はやらないけど、俺の知る一般的感覚からすればもうキスからして浮気の範疇になる訳で。
外国じゃ別に構わない所もあるみたいだけど、現代日本人の感覚ではアウトでしかないよなあ。いや、まあ、それ以上の事やってて今更って感じはするんだが。むしろキス解禁してなかったのが驚きなのか。あれ、俺達の関係って酷くない?
……うーん、俺の体を触ったり舐めたりする事に対してはブラックもオッケーって言ってくれてるんだから、キスは別に構わないと思ってくれるのかな。
でもあいつ、結構細かいとこに拘るネチネチした部分もあるからなあ。
クロウの事は嫌いじゃないだろうけど、ブラックにとってのキスってどういう行為なんだろう……外国人風の容姿だし、やっぱそこも伊達男感覚なのかな。
だったら許してくれそうではあるけど。
俺は、まあ……ぶっちゃけ、ブラックが他の奴とキスしたりえっちしたりするのは嫌だけど、アイツは元々色情狂なんだし仕方ないかなって思う所の方が大きい。
俺だって、風俗行っていいよって言われたら行くもん。なのに相手にばっかり我慢させたらおかしいじゃん。それにクロウの事を受け入れてる時点で、浮気をされても何か言う資格はないし……だから、俺のことを見放さないでいてくれるのなら、別に他の奴とえっちしたっていいさ。仕方ない! と俺は思っているわけで。
本当は……まあ、ちょっとだけ、ヤだけどな。
……だ、だっていっくら心が通じ合ってても、他の奴の方が具合がいいぞなんて事たくさんあるじゃん、じゃなかったら不倫とか浮気とかないじゃん!!
俺はブラックしか知らないから、浮気ってどういう感覚なのかよく解んないけど……今の所、滅茶苦茶するなオイと思うのはブラックだけだし、いつも一番に思い浮かぶのはブラックとのアレコレだから、……ブラックよりも忘れられない事をして来る女子によろめいちゃう感じなんだよな?
…………でもそんな女子やだな……いや女子だと嬉しいものなのか?
肉食系女子にグイグイ来られるのは凄い憧れるけど、女の子と付き合った事が無いからやっぱりよく分からない。
とにかく、惹かれちゃうってのには変わりないはずだ。
自分より他の人の方が魅力的に見える事が有るから、フラフラと浮気しちゃうんだよな多分。……でもそしたら、俺ってだいぶ不利なんじゃないか……?
魅力もエロさもテクニックもランクEな気しかしないんだが。
俺、されるがままだし、やっぱそっちの方とか勉強した方が良いのかな……。
どうしてもブラックかクロウに我慢させることになるんだから、愛想尽かされないように俺もえっちなこと頑張らなくちゃだめなのかな……で、でもさすがにそれは俺のキャラ的にどうなのよ。ドンビキされたりしない……?
「ツカサ、周りが変だぞ」
「えっ、え!?」
やっべ考えすぎてて周りが見えてなかったわ。
慌てて周囲を見渡すと、そこは妙に広い空間になっていた。
「……これ……やっぱ洞窟、だよな。普通の」
「ムゥ……」
俺達が居るのは、学校の体育館程度の広い洞窟だ。
遠くに二つか三つくらいの小さなトンネルが有るので、ここが分岐のための場所だと言うのは解るんだが……ここって一体なんなんだろう。
まさかトルベールが持って来てくれた情報の通りに、歩いて行ったら国境の山って事は無いよな……?
そんな事を思いながらふと背後を見て、俺は更にギョッとしてしまった。
「くっ、クロウみて、無いっ、扉ないんだけど!」
「なに? ……む……ほ、本当だ。ガラスの扉が消えている……!」
そう、俺達はガラスの扉を越えてこの場所に来たはずなのに、何故か背後にはその扉が無く、ただただ岩壁が広がっていたのだから。
「ごめんクロウ、ちょっと降ろして」
「降ろすのか……?」
「代わりに手ぇ繋ごう! なっ!」
そう言うとクロウは渋々降ろしてくれた。が、再びガッチリ手を掴まれる。
今は何も言うまい。とりあえず、右手で何かの施設だっただろう場所のガラス戸を探すために手で触れてみると――――
「えっ!?」
「ウヌッ!? と、扉が現れたぞツカサ!」
先程までは確かに岩肌だったのに、気が付いたら手の向こう側には強引に開かれたガラス戸と殺風景なエントランスホールが広がっていた。
背後を振り向いてみたが、そちらは変わりない。
クロウと一緒にちょっと離れてみると、やっぱり岩壁に戻ってしまった。
二人で何度か近付いたり離れたりしてみたが、どうもこれ、離れたらガラスの扉が見えなくなる仕様らしいな。壁も一緒に岩壁に変化しちゃうから、施設全体が隠蔽されていると見るべきかもしれない。
ちなみに、クロウだけで近付いた時は普通に岩壁だったらしい。
と、いうことは……これって何かの術か何かで、俺以外の人間には正体が解らなくなってるって事だよな。いや、もしかしたら黒曜の使者とグリモア以外は見えないのかも……。じゃあ、この施設はやっぱり黒曜の使者と関係が有るのか。
ブラック達が居たら確かめられたんだろうけど……今は仕方ないな。
とにかく、お目当ての場所を探そう。
この感じだと、多分その場所も隠されているかも知れない。試しに壁をぺたぺたと触って調べてみると、これがドンピシャ! 俺達の目の前には、細いトンネルのような洞窟が現れたのである!
「おお……こんな風に通路が隠れているなんて、なんだか不思議だ……。異世界人の関わるものはみんなちょっとヘンな感じだな」
「ま、まあな……幻惑の罠とか結構好きだからな……」
だってゲームとかで良く有るんだもんなあ、見えないけど道が有るって罠。
ゲームじゃ使い古されてるけど、現実をファンタジーで生きる人的にはやっぱり変に見えるんだろうな……良く考えたらこんな術ってすげー高度技術だろうし。
「ツカサの世界はそんなに酷い罠が沢山あるのか……?」
「あっ、いや、えっと、そういう物語? が沢山あるんだよ、うん」
「そんなにか。オレも物語は好きだぞ。軍記や英雄譚は何冊も読んだな」
とりあえず入ってみようと二人で手を繋いでトンネルに入ると、クロウがそんな事を言う。そっか、クロウって結構インテリだもんな。ブラックとは知識の方向性が違って、クロウは戦士に相応しい感じの知識が多いのか。
にしても獣人が本を読むとは……なんだかイメージが湧かないな……。いや、人類であるなら等しく記録って物を持ってるもんだけどさ。
「クロウの国には英雄譚が多いの?」
「そう言う訳ではないが、オレの一族は嗜みとして読まされるのだ。兄上と弟は書物など所詮過去の遺物と言って嫌っていたがな」
えっ。
兄上と弟!?
「クロウって兄弟いたの!?」
「ン? ……そう言えば言ってなかったか?」
「聞いてないよ!」
思わずヤーとか言って芸人みたいなポーズをとりそうになったが、クロウは目を瞬かせて首を傾げる。ええいトンネルが薄暗くて相手が良く見えん。
俺が創作した曜術【ライト】で明かりを点けると、クロウは顎に手を添えた。
「そうか……そうだな。考えて見れば、これから伴侶にしようとしているのに、自分の事を何も話していないというのもおかしかったな」
「は、はんりょ。いや、えっと……種族名は聞いてたし……あと、お母さんが好きな花とか露天風呂の話は知ってるけど……」
「覚えていてくれたのか」
うぐっ、ライト点けなきゃよかった……クロウが嬉しそうに笑うのが、モロに見えちまうじゃないか。いかんぞこれは。
目を泳がせながら頷くと、クロウは途中で止まって俺を抱き締めて来た。
「く……クロウ……」
「嬉しい……オレの話を聞いて、覚えていてくれるのはお前だけだ……」
「え……」
どういうことだろう。
見上げると、クロウは微笑みを少しだけ寂しそうに歪めた。
「……オレは、兄弟の中で一番劣っていた。兄上は統率力が有り、良い決断をする。弟は頭が良く、謀術に長けた。だが、オレは力しか無く愛想も無く……オレのことを慮ってくれるのは、母上と……父上だけだった」
三人兄弟だったのか……。
でも、お父さんとお母さんがちゃんと気遣ってくれるなら、そんな風に悲しい顔をしなくても良いような。
どうしてそんな顔をするんだろうとクロウの頬に手をやると、相手は懐くように俺の手に自ら顔を擦りよせた。
「……色々とあってな。母上が大地に還った後は、父と疎遠になった。……思えば、その頃からオレは一人だったのかもしれない」
「…………色々、大変だったんだな」
何が起こったのかは、聞かない。
でも、俺に対してあれほど取り乱したクロウを見ていれば、悲しい過去が有る事は大体予想が付いた。話したくなければ、話さなくていい。だけど、その寂しさを理解しているということだけは解って欲しくて、俺は手をぎゅっと握り返した。
「ありがとう、ツカサ……」
抱き締めた俺を、クロウは熱っぽい目で見つめて来る。
それが恥ずかしかったけど、目を逸らせなくて、俺はぎこちなく笑って返した。
「今は、寂しくない?」
「ああ……ツカサがいてくれるから、平気だ」
そう言いながら、クロウは俺の額や頬に何度もキスをして来る。
くすぐったくて、時々牙が当たって不思議な感じだったけど、それでもやっぱり嫌じゃなかった。……クロウが、することだから。
そんな俺に、クロウはどこか遠い目をしながら話し始めた。
「子供の頃の話だが、オレは一人になって命を失いかけたことが有る。恐らく、それが……オレをこんな風な、どうしようもない男にしてしまったのだろう。オレの一族は覇道の央に坐する誇り高い一族だ。どれほど寂しいと思っても他人に寄りかかれず、誰も落ちこぼれのオレの心の中にまで入ろうとしない。求めても、手に入れられなかった。だから、オレはもう……母上のように、愛してくれる存在など現れないと思っていた」
「クロウ……」
「でも、今は違う。オレのこの姿や力を知っても、受け入れてくれるツカサがいる」
クロウのこの姿って、そんなに忌避されるものなのか……?
俺には、魔王っぽくて格好いいなズルいなって感想ぐらいしかないんだけど。でも今よりもうちょっと若かったらギラギラしてる感じで怖かったのかなあ。
今はほんわか無表情おじさんだし怖いっていうよか、ギャップ萌えっていうか……いやそういう話では無く。とにかく、別に平気なんだけども。
だって、クロウは普通の状態なら絶対人を傷つけたりしないもんあ。
……さっきのはまあ、追い詰められていたからナシとして。
クロウはホントに凄いよ。あの腕力なら俺の手なんて簡単に握り潰せただろうに、そんなこともしなかったし……それに、今はいつもみたいに優しく手を握ってくれている。つまり、自分の力をちゃんとコントロール出来てるんだ。それに加えて強いし優しいのに、何がダメだったんだろう。
クロウは慕ってくれている部下っぽい人達も居たんだから、昔からこういう真面目で優しい性格ってのは知れ渡ってるはずだろうけどなあ。
高貴な一族っぽかったから、おいそれと近付けなかったのか?
まあよく分かんないけど、クロウが愛されてないなんて事は無いと思うぞ。
「クロウのこと良い奴だって知ってる人は、俺以外にもたくさんいるよ」
部下っぽかったお猿のスクリープ達がまさにそうじゃないか。
そう言うと、クロウは嬉しそうに目を弧に歪ませた。
「お前がそう思ってくれるなら、オレは満足だ……」
「ぁ……ぅ、ま、また……」
よっぽど嬉しかったのか、クロウはまたキスして来る。
その唇が顔から首筋にまで行って、軽く甘噛みし出した。クロウの歯は今ちょっと鋭いらしくて、いつもより刺激があるのが辛い。
簡単に反応してしまう自分に恥ずかしくなってしまうが、クロウは構わずに首筋をペロペロとわんこのごとく舐めた。
「ツカサ……お前が誘うからまたえっちな事がしたくなってきたぞ……」
「まっ、まってまって、今されたら【ライト】消えちゃう!」
「オレは夜目も効くから大丈夫だ」
「そういう問題じゃなくてえ!」
さっき落ち着いたと思ったらまたこんな事言い出すんだからもおお!
このままだとまた拒み切れない状況になっちまうじゃないか、勘弁してくれ!
だがどう落ち着かせたものかと思っていると、クロウがふと前を見た。
「ん……? 前方から何か感じる」
「えっ……も、もしかしてモンスターとか?」
思わず緊張してしまうと、クロウは耳と鼻を動かして小さく首を動かした。
「いや、これは……感じた事が有る感覚だ」
俺を抱えたままクロウはスタスタと歩いて行き、ある程度進んだ所で止まった。
「ツカサ、ライトというのを上に向けてくれ」
「う、うん」
ゴルフボール程度の大きさの白く光る球体を下からポンと触れて上へと移動させると、天井が明るく照らされる。
するとそこには――光を透過せずに鈍く反射する欠片が、土から露出しているのが見えた。いや……むしろ……天井にびっしり……。
「こ、これはもしや……黒籠石……?」
「みたいだな」
にしても、あの……量が多すぎない?
なんかトンネルの壁全部に埋まっててチョコチップの壁みたいになってんだけど!
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