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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
39.イスタ火山―発見―
しおりを挟む※すみません寝落ちしてて更新遅れました…申し訳ない…_| ̄|○
「中は……外とは変わらないな」
「だが綺麗だし、明りの色が少し青い。天井から冷たい風も吹いているな」
クロウの言葉につられて上を見ると、格子状の部分からゴオオとかいう音と共に風が吹き込んでくるのを感じた。これってもしかしてクーラーか。
青い光で視覚からも涼しく……って、それ本当に涼しくなるのかな。
俺にはよく解らないが、クーラーの風に当たってると熱を持った体が冷えて来て、俺の愚息も少し収まって来たぞ。よしよし、冷房サマサマだ。俺の体もナイス!
やっと煩わしい熱から解放されて、気分良く道を直進していると、先の方に三叉路が見えた。あのマグマの道と同じでちょっと構えてしまったが、考えて見ればここは俺みたいな奴じゃないと入れない所なんだから、危ない仕掛けは無いだろう。
という事で、またペコリアちゃん達に調べて貰うと、正面と右側の通路には普通の部屋や生活するための設備がいくつかあり、左の通路に開かない扉があると教えてくれた。今度は安全そうだからペコリア達と一緒に左の道へと向かう。
久しぶりに召喚されたのが嬉しいのか、ペコリア達もくぅくぅ言いながら俺の肩や頭に飛び乗って来て頬ずりをして来た。今回は五匹のペコリアに手伝って貰っていたんだけど、任務が終わるとみんな甘えたかったのか、俺の頭や肩や腕の中に収まって来てフヘヘ可愛いモフモフして気持ち良い。
ペコリアはわたあめにウサギの耳と顔が付いたみたいな生物だから、当然毛並みは毛並みが長い猫のようにふわふわしていて、それでいて羊の毛のように弾力もあり、尚且つしっとりして柔らかくてとても気持ちがいい。
そんな可愛い上に気持ち良いペコちゃん達にしがみ付かれてたら、そりゃもう顔がニヤけない訳にはいかなくてな。ああもうたまらん、癒されてしまう……!
俺に運ばれて楽しそうにキャッキャしているペコリアちゃんズをみていると、性欲も何もかもが浄化されていく……ああ、生き物って本当にいいなぁ……。
「クゥッ!」
「ム、あそこだな」
ちょっと不機嫌そうなクロウの声で我に返って前を見ると、そこには入り口と同じようなドアノブのない扉が立ちはだかっていた。
ペコリア達のジェスチャーによると、入れなかった部屋はここしか無いようだったから、俺達の知りたい事が有るとすれば、きっとこの部屋だろう。
手を触れると、再び『認証しました』という謎の女性の声が聞こえて扉が開いた。
うーん、なんかすんなり行き過ぎてて凄く不安……。
でもさっきセキュリティを解除って言ってたから、罠なんかはない……はず。
何だか不安になって来てしまったが、俺はその不安を首を振って振り払うと部屋の中へと足を踏み入れた。
「ここは……」
「なんだ、この部屋は……」
わずか八畳ほどの部屋。鈍い青に光る黒の壁に囲まれた中心には、中央にSの字に湾曲した溝が彫ってある球体があり、それをワイングラスの足のような台座が支えている。中央の球体と台座はメタリックに光る青に染まっていて、他の色は無い。
青と黒、あるのは二つの色だけだ。
外は火山だというのに、ここだけはまるで別の場所にあるかのようだった。
「この玉……なんだかプレインのあの村の遺跡にあった物と似ているな」
クロウの言葉に、すぐに似たような物を思い出す。
そういえば、これと似た機械があったな。
「フォキス村の巨岩の中にあった遺跡だよな。確かあそこのは地図だっけ?」
「うむ。それに、アレは罠があったが……」
「クゥッ!?」
罠と言う単語が解ったのか、ペコリア達がびっくりしている。
緊張したのか一斉にモコモコが膨らんだが、大丈夫だよと宥めて俺はペコリア達を降ろした。そうそう、あの時はブラウンさんが俺達を守ってくれたんだよな。完全に油断してたから、彼が庇ってくれなかったら大変な事になってたよ。
今はブラウンさんは居ないけど……大丈夫、だよな?
いや、今回は大丈夫。だって、仮に罠が有っても俺が受ければいいんだから。
でもそんな事をすればまたクロウが気に病むよな。俺としてはクロウが怪我をする方が万倍も嫌なんだけど、でもこればっかりはなあ……。ううむ、ここは万が一の事を考えて、あえて「セキュリティは解除されてるから大丈夫」と馬鹿正直に信じてる風に振る舞うしかないよな。クロウの命には代えられないし。
よし、その手で行こう。俺はぷるぷる震えて俺の足にしがみ付くペコリア達を撫でながら、大丈夫だよと優しく声をかけてやった。
「セキュリティ……えーと、罠とかは解除されたって言ってたし多分大丈夫だよ」
「そうは言っても、あの声自体が罠かも知れないだろう。触るのは危険だ」
「ここが異世界人に向けて作られた物なら、そんな事しないんじゃないかな。だって、クロウはセキュリティって言葉しらないだろ? それに、あの扉は俺に反応して開いたんだ。ここも簡単に開いたんだからきっと平気だよ。なっ」
「ムゥ……」
イマイチ納得が行っていないようだが、しかし納得して貰わねば。
俺は異世界人という最大のステータスを利用して、言葉を畳みかけた。
「それに、あの玉だって俺が触れないと動かないのかも知れないし……。それなら、罠を仕掛ける必要なんてないだろ?」
「……そう言われるとそうだが……」
「とにかくやってみるからさ、クロウはペコリア達を守っててくれよ」
「……解った」
ペコリア達が居てくれたおかげで、クロウも渋々了承してくれた。
よし、これでクロウが罠にかからずに済む。安心して玉に触れられるぞ。
満を持して、恐る恐る手を触れてみると……。
『認証しました。展開します』
また謎の女性の声が聞こえたと思ったと、同時。
触れていた球体がS字の溝の所からパカッと割れて、中から青く光る半透明の玉が出現する。と、視界の上の方に横長の透明な画面が現れた。
「な、なんだこの文字は……!?」
クロウが驚いている。ってことは、俺だけに見えている物じゃないんだな。
しかし文字に驚いてるってどういうことだろう。改めて画面を確認すると、そこには俺が良く知っている文字がずらずらと並んでいた。
「これ……日本語だ……」
しかもちゃんと漢字とひらがなとカタカナが並んでいる。
うわ、日本語を見たのっていつぶりだろ。もう数ヶ月見てないよな……この世界は独特の文字を使ってるから、すっかりそっちに染まっちゃってたけど、こうしてみると日本語って暗号より暗号っぽいな。そりゃナンダコレてなるわ。
日本語使わなさすぎて、俺も一瞬だけ象形文字か何かかと思っちゃったし……。い、いかんいかん、純日本人としていかんぞこれは。
故郷の文字なんだし忘れないようにしなくては……ええと、何が書いてあるんだ。
「えーと…………火山監視施設、簡易操作システム?」
「読めるのか、ツカサ」
「うん。あの文字、俺の故郷の文字だから……」
そう言うと、クロウは目を丸くして感心したように軽く頷いていた。
納得してくれたのかな? まあとにかく何が出来るか確認してみよう。
横に広がるスクリーンを一通り見てみると、どうやらこれはパソコンのように項目を一覧で表示してくれているようで、この施設の見取り図やセキュリティ設定、それに、火山の監視システムなどが並べられていた。
この中で俺達が一番欲しているのは見取り図だが……他の物も気になるな。
「見取り図……っと」
中の球体に手を翳しながら呟くと、その項目が光って新たに画面が展開する。
直線で形作られた地図が描き出されて、その中に赤い点がポンと浮かんだ。これは現在地かな。ということは……だいぶ広いなこの施設。
「オレの記憶と照らし合わせると、ここが支度室だな」
ペコリア達にモサモサと乗られたクロウが近付いて来て、地図の端の方を指さす。一部屋だけ奥の方に隔離されている部屋があるが、そこが支度室のようだ。
マグマが流れる予定の通路に降りる部屋だから、隔離されてる感じだったのかな。なんにせよ、奥の方にあると解れば戻るのは簡単そうだ。
クロウが覚えていてくれたお蔭で助かった。という事は、ここは……ちょうど中間地点にある場所みたいだな。という事はここから更に進めば、出口に辿り着けるってことかな。だけど、出口と言ってもどこに出るんだろう。
その不安はクロウも同じだったようで、顎を擦りながら唸った。
「これは出口がどこに出るかは解らないのか?」
「うーん……ちょっとまって、調べてみる」
全部日本語だから結構解りやすいけど、それでもこういう物をあまり扱わない俺にとっては理解が難しい。これを作った人間……多分キュウマだと思うけど、アイツは頭が良かったから、たぶん自分と同じレベルの人間に向けて作ってるだろう。
だとすると、日本語が解っても俺がコレを操作するのって難しいんじゃ……。
「ツカサ、大丈夫か」
文字の羅列に思わずごくりと唾を飲み込む俺に、クロウが心配そうに言う。
そうだ、今ここでこの文字を解読できるのは俺しかいないんだ。
「大丈夫……かは、やってみなきゃ分かんないけど、とにかく頑張ってみるよ」
ブラックみたいにスラスラ読めるとは限らないけど、俺だってパソコンは持ってるんだ。エロ画像ばっかり収集してるわけじゃないって所を見せないとな。
「よしっ、やるぞ!」
気合を入れて、俺は改めて画面を注視した。
◆
「…………なんだ、ここは」
ほの赤い光に照らされた、黒い岩の洞窟。
手掘りの坑道にも似た狭い道だが、不思議と圧迫感は無い。それは恐らくこの洞窟が「綺麗に整い過ぎているから」だろう。
この通路の岩壁はごつごつと起伏が有り、いかにも「人の手で掘った」と言う感じだが、しかし手掘りというにはあまりにも整い過ぎている。これは何らかの曜具で掘ったか、それとも曜術でも使ったのだろう。
手掘りであるかのようにわざと荒く削られているが、見る者が見れば判る。ここは天然の洞窟ではあり得ないし、ただの坑道でもない。
そんなことはあの扉を見つけた時点で解っていた物の、しかし改めて確認すると、このダンジョンの異常性を振り返らずにはいられなかった。
「まあ、最初からおかしいっちゃあおかしかったけど、本当、何が目的なんだろうな……このダンジョン……」
黒曜の使者しか入れないようなダンジョンなのに、こんな面倒な仕掛けを用意し、人を遠ざけるだなんて。
そうまでして黒曜の使者以外の者を排除したかったのだろうか。それとも、ここを作った存在はかなりの臆病者だったとでもいうのか。
考えるが、結局答えの出ない問いだ。
無駄な事を考えるのはやめにして、ブラックはひとまず歩く事にした。
今はダンジョンの主の事よりもツカサの事だ。早く探索して、彼と再会する方法を探さなければならない。この火山を壊す事が叶わない以上、どうにかして正攻法で彼を助け出さなければ。
「それにしてもあの熊……ツカサ君に変な事してないだろうな……」
ツカサに聞かされた話では、あの熊はツカサを心配するがあまり激昂してツカサと喧嘩をしたらしいが、そんな程度であの熊が収まる訳が無い。
なにせ、ツカサが約束を破った時には、彼を野外で裸に剥いて羞恥による折檻を行ったぐらいの変質者であり偏執者なのだ。ツカサへの執着と性欲は、人一倍あると言っても良い。そんなケダモノがツカサと二人っきりなのだ。
下手をすれば襲い掛かって犯している事も有り得た。
(そんなの考えたくもないけど、あのクズ熊ならやりそうだもんな……)
なにせ、あの男は約束を破る事に関してだけは非常に過敏になる性質だ。今回だって、その「約束」や、ツカサに対する献身を裏切られたことで、守るべき対象に牙を剥いたのだ。今回ばかりはちっとやそっとじゃ機嫌は治らないだろう。
自暴自棄になってツカサを犯すという事も十分あり得た。
そう、あの駄熊は、そういう危うさを持っている。
ブラックに殺されると知っていても、そう決めれば犯してしまうだろう。あのケダモノは、そういう奴だ。ブラックとツカサの関係を認めていると言っても、結局あの男もツカサの事しか見えてはいない。
一度壊れてしまえば、あの熊もツカサから全てを奪い尽くすだろう。
ブラックがどう思うか、なんてことなど考えず、ただ己の欲望のままに。
「…………胸糞悪い」
似たような闇を持つからこそ、嫌でも分かるのだ。
だからこそ、ブラックも焦っていた。
(別に、ツカサ君が誰に犯されようが、もうツカサ君は僕の物だから彼を責める事はしないけど……でも、強姦したクズが僕のツカサ君を征服して奪い取ってやろうって言うのなら、話は別だ。そういうのは、早めに殺さなくっちゃ。ツカサ君を愛せるのも、ツカサ君が受け入れるのも、僕だけなんだから)
ツカサは他人の死を悲しむほどの優しい心を持っているが、自分達を裏切って強姦したゴミを殺すのなら、ブラックの行為に納得してくれるだろう。
壊れた心に贖う行為が有るとすれば、それは死しかない。
仲間だろうがなんだろうが、ブラックの唯一無二の存在を奪う事は罪だ。彼を犯し一刻でも恐怖でその存在の事しかツカサが考えられなくなるのなら、それはブラックから彼を奪ったのと一緒なのだから、殺しても問題は無いだろう。
なにせ、死でしか償えない禁忌を犯したのだから。
「ああ、面倒臭い。こんなこと考えたくないなぁ。早くツカサ君と再会して抱き締めたいよ……なんで僕があいつの事なんか考えなくちゃいけないんだろ」
仲間だ友情だとは言え、それもまた自分の恋人の存在には遠く及ばない。
本当はこの温泉郷もどうでもいいのだが、ツカサが救う事を望んでいるのだから、手伝わなければならないのだ。
まったく、何もかもがままならないなと思いつつ道を歩いていると――前方に道の終わりを示すように、何かの入口のような門が立ちはだかっていた。
「……なんだあれ」
門とは言うが扉は無い。街に入る時に見る外門のように開け放たれており、向こう側は白い光に満ちていた。やっとこの赤い光の通路ともおさらばのようだ。
さして覚悟もせず、小さな門をくぐると。
「ここは……制御室、か……?」
さほど広くない部屋にぎっしりと詰め込まれた、何かの古い装置。かつてプレインの遺跡で見た、古代の入力装置のようなものが壁にくっついて並んでいる。
もしやここもあの遺跡のように半透明の文字盤が出るのだろうか。
となると、あの“源泉”についての詳しい事が分かるかも知れない。
さっそく装置に触れようとしたところで――ブラックは、装置の上に置かれた石板に気付いた。
「これは……」
今しがた置かれたかのように、真新しい。砂も埃もついていないが、もしかしたらこの部屋全体に何らかの術が掛かっているのかも知れない。
これもまたダンジョンを作った物の物だろうか。何が書いてあるのかと思い、石板に刻まれた文章の一文を読む。と……。
「…………は?」
思わず、声が出た。
しかしそれも仕方のない事だろう。
現在は使われていない、古い言語。
その言語を刻まれた石板の一行目には、こんな言葉が記されていたのだから。
『ここに辿り着いた貴方は、我らが主である“黒曜の使者”でしょうか。それとも、私と同じ【紅炎のグリモア】でしょうか? 何にせよ、この部屋を見つけて下さって、本当にありがとうございます。貴方をお待ちしておりました』
――――そんな、思いもよらぬ言葉が。
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