異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編

28.イスタ火山―休息―1

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※すんません前振りがめっちゃ長くなったので切ります…_| ̄|○
 次クロウがツカサを羞恥責めするんでご注意ください。








 
 
「よーっし! じゃあジャンジャンバリバリ探索しましょうかね!」
「む」

 ……う、うん。そうだった、俺とクロウはまだぎこちなかったんだった。
 返事が簡素なのは仕方がない。調子に乗り過ぎましたごめんなさい。

 でも、付いて来てくれるって事は……俺の事、嫌いにはなってないんだよな?
 ああでもクロウは面倒見が良いし、情には厚いから我慢してくれてる可能性も……しかし、その事で悩んでいたってどうしようもない。
 付いて来てくれると言うんだから、いつまでもクロウの態度にビクビクしてないで、とりあえず普通に接してどういう態度を取ればいいのか探らなければ。

 しかし、大人って本当分かりにくいよな。
 ダチみたいに直球で怒ってくれれば俺も直球で謝る事が出来るのに、大人はそうじゃない。ブラックみたいに解りやすく態度に出してくる奴もいるけど、本当はこう言う風に静かに平静を装う人ばっかりなんだよな。だけどそれは、俺からして見たらとても奇妙で。大人がどうして怒りを押し隠すのか解らなかった。

 大人になったら、怒るのを我慢しなきゃいけないんだろうか。
 でも、それって凄くつらいよな。俺も男だからってキツいのを我慢したりするけど、感情を押し殺すのって凄く苦しいんだ。怒ってる事を我慢するのも辛いはずだよ。
 なのに、それでも怒ってる相手に対して頑張って普通に接するなんて、俺にはちょっと考えが及ばない。俺だったら怒ってるのを隠しきれないと思う。

 大人だって、素直に怒ればいいのにな。そうしたら何をどうして欲しいかも相手に分かるのに、どうしてそう出来ないんだろう。
 冷静に対処するのが大人の仕事だとしたら、俺には耐えられそうにない。
 大人の人も、本当は我慢したくないんじゃないのかな。
 ブラックを見てたら、そう思えてくる。本能だだもれのアイツが我慢してる時の姿って、本当に辛そうだったからなあ……。

 …………まあ、今それをいている俺が心配してもって話なんだが。

「と……とりあえず、奥まで行ってみよっか」
「うむ」

 俺もクロウと付き合いが長いって訳じゃないけど、数ヶ月は確実に一緒にいたし、色々な事を一緒に乗り越えて来たから、ちょっとはクロウの無表情の違いも判る。
 判るつもりだけど……それだって、相手が感情を素直に出してきてくれるから解るんだよな。ケモミミだって、こらえてたら動かないもんだし。

 ……でも、ちょっとくやしいな。
 相手が我慢してるかどうかも判らないなんて、仲間として不甲斐ない。
 もしかしたらそう言う態度もクロウを怒らせている原因なのかも。反省しないとな。だけど、今そうやって落ち込んだって仕方がないんだけど。

 とにかく、こうなったらクロウと話し合おう。
 付いて来てくれるし冷静に会話に付き合ってくれるんだから、話し合う余地はあるはずだ。そうだな、宝探しをしながら、二人っきりになれる場所を探そう。

 幸いこの休憩所は泉を中心にしていくつかの通路が通っており、部屋もいくつかあるようだから、出来るだけ遠いところにいこう。奥だって簡単にしか見てないから、そこにまず誘導して……いや、俺は宝探しをしたかったはずなんだが。
 まあ、この状況でそんな浮かれた事を言ってる場合じゃないか。

 とにかく仲直りが先だよな。俺だってクロウとぎこちないの嫌だし。
 ていうか、クロウに嫌われたりとかしたくないし……面と向かっては、こんなこと言えないけどさ。

「それにしても、どこか懐かしいな。ここは」
「え?」

 悶々と考えながら歩いていると、クロウがふと言葉を零す。
 懐かしいとはどういう事だろうかと隣にいる相手を見上げると、気にせず続けた。

「オレの故郷の神殿がちょうどこんな感じの石材を使っていた」
「そうなんだ……神様の神殿?」
「ああ。供物を捧げる神殿がちょうどこのような感じだった。とは言え、オレ達の神は人族の言うような世界創世の神々などと言う曖昧あいまいな存在ではなく、過去に多大なる功績をあげた獣人を祀る物だがな」
「そっか、ご先祖様を敬うみたいなもんなんだ」

 日本でもそういうのがあるよな。確か祖霊信仰とかなんとかいう……。
 もしくは死んだ人が神様になるっていう神道の考え方とかそういう感じかな。神社には英雄が神様になったっていう由来の物もあるし……となると、獣人の国って意外と俺達みたいな神様の考え方をしてるのかな。

「俺の所でも、ご先祖様を大切にするよ。神様になって見守ってくれるんだよな」
「そうか……だからツカサは年上を敬うのだな。そう言う所もオレの国と同じだ」

 あ、少し笑ってくれた。
 出来ればこのままの状態で、なんとか持って行けない物か。
 そんな事を思いながら、少し狭い通路を歩いて行くと……行き止まりの左右に部屋が有るのが見えた。ラスターは何も無かったって言ってたけど、一応調べないとな。

「クロウはここで見てて」
「ウム」

 俺の言葉にこくりと頷いた相手を背にして、俺は部屋を調べる。
 どうやら突き当りの部屋は、寝室かもしくは客室のような物だったらしい。石の机に石の椅子と経年劣化を気にしてか全て石造りだったが、まさかベッドまでとは恐れ入った。昔の人ってこう言うベッド使ってるけど、本当にたくましかったんだなぁ。
 俺にはちょっと無理だわ……草の上で眠る方がまだ耐えられるよ。

「うーん……特に目ぼしい物はないな……」

 一応壁とか机とかペタペタ触ってみたんだけど、反応は無い。
 もう一つの部屋も一緒だった。

「当てが外れたかぁ」
「何もなかったのか?」
「うん……まあ、そりゃそうだよねって感じだけど」

 これぞまさに「徒労とろうに終わる」という奴だな。
 そんな事を思いながら、突き当りの壁にもたれかかって溜息を吐いた。
 突き当りの壁には、植物を模したような見事な紋様が彫り込まれている。その壁の中央には見事と言うほかない美しい女性の横顔が刻まれていた。

 宗教画とエジプト壁画の中間ぐらいの感じだけど、頬の丸みとか目の部分の緻密ちみつさが異様にひきつけられる。頭に帯のような細かい模様が入った物を巻いているのが、何だかどこかの民族のお姫様のようでドキドキしてしまう。
 もしかして、ライクネスには昔こういう民族の美少女がいたのかな……?

 そうだとしたら是非ともお近づきになりたかったな~。
 などと不埒ふらちな事を思いつつ、彼女の顔に手を触れた。と。

「ぬお!?」

 壁の感触を感じるはずだった手が、いきなりめり込んだ。
 うおおっ、またすり抜け壁かよぉおお!!
 美少女のほっぺがポイントだなんて、この場所を作った奴は俺の行動を読んでいるかのようでお目が高い!

 などと下らない事を考えながら、俺は思いっきり上半身から床に倒れ込んだ。

「うぎゃっ」

 二回目は流石に痛い。
 勘弁してくれと思いながら暫し動けないでいると、下半身の方……じゃなかった、外の方から声が聞こえてきた。

「お、おいツカサ、大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫……」

 そう言いながら、顔を上げると。

「……! うわっ、なんだこの部屋……」

 わずか二畳ほどの狭い空間には何もない。だが視界に広がる三方の壁には、紋様のような独特な文字らしきものが刻まれている。しかもそれらは薄らと青い光を帯びていて、明らかに普通には見えなかった。

「おい、ツカサ返事をしろ! 大丈夫か!」
「クロウちょっとこっち来て、凄いのがあるんだけど!」
「今引き出してやるからな……!」

 あれ。声聞こえてない?
 思わず体をねじって背後を見ると……なんと、壁の彫刻が彫ってある部分が透けていて、水面のようにゆらゆらと揺らめいているではないか。
 お、おお……これはなんというビックリな仕掛け……。

 驚いている俺を余所に、クロウが足を引っ張って俺を壁から引き抜く。
 特に抵抗も無く部屋の外に出た俺は、目を瞬かせながらクロウを見上げた。

「大丈夫かツカサ」
「う、うん……あの、クロウ、俺の声聞こえてた?」
「いや……」

 少し困惑した様子で首を振るクロウ。
 俺はクロウに受け答えをしていたつもりだったのだが、その声は完全に遮断されていたらしい。こっちからは聞こえてたんだけどな。

「そっか……じゃあ、あの部屋って防音なんだな。マジの隠し部屋なのか」
「ツカサ、どうした」
「一緒に来て。多分俺と手ぇ繋いでたら入れるから」

 立ち上がり手を伸ばすと、クロウは一瞬ためらったがすぐに手を握って来る。
 大きくてごつごつした男らしい手に包まれてちょっとむず痒くなってしまったが、俺は気にしないようにしてクロウを引き連れ部屋の中へと入った。

「……! な、なんだここは……!」
「よく分からないけど、たぶん重要っぽそうじゃない?」
「そうだな……古代文字か。だが青く光っているのはどういう事だろうな」

 クロウにもこの光は見えるのか。だったら、曜気の光じゃないな。
 やっぱり古代の機械とかそういう類の物なんだろうか。

「とにかくブラックを呼んで来よう。あいつなら何の文字か判るかも知れない」

 なんたってブラックはプレイン共和国でも古代文字を解析して使いこなしてたし、他にも色々と知ってるからな。もしかしたらあの彫刻の美少女を見てある程度の年代は判るかも知れないし、これはブラックを呼んでこない手はないだろう。

 お宝は見つからなかったけど、このダンジョンが何なのかはわかるかも!
 そう思って、スケスケの扉の方へと歩いて行こうと足を伸ばした。のだが。

「ッ!?」

 腕を思いきり引っ張られて、体が浮く。だがそれで終わる事も無く、俺は勢い余って背後の謎の文字壁に強かに体を打ち付けてしまった。
 思わず痛みにうめくと、目の前に影が掛かってくる。
 何事かとその影を見上げると……そこには、顔を暗く染めたクロウがいた。

「く、クロウ……?」

 呼びかけても、クロウは何も答えない。
 さっきまでどんな事を思っている無表情なのか何となく分かっていたのに、今は何も解らない。それどころか、俺を見つめる目が、なんだか怖いような気がして思わずごくりとつばを飲み込んでしまう。

 クロウが怖い事なんてする訳が無いけど、雰囲気ってのは本当に厄介だ。
 ははは、まったく俺って奴は警戒心が強いんだから。クロウも戯れただけだろう。何も心配はいらないと臆病な自分を押し込めて、俺はクロウの顔を見上げた。

「クロウ、あの……ブラックのとこに行こう?」

 そう言うと、クロウは……何故か、不機嫌そうに眉間にぎゅうっと皺を寄せた。

「ツカサ……忘れているのか」

 低い、怒ったような声音。
 思わず固まった俺に、クロウは不機嫌な顔のまま目を細めて顔を近付けて来る。
 高い鼻が、俺の鼻にくっつきそうになるくらい近い。息を呑んだ俺に、クロウは橙色だいだいいろの瞳を見せつけるかのように凝視して来た。

「オレは、お前にとって頼りない、忠告も聞けないような男か」
「え……」
「そんなにブラックの方が大切か?」

 な、なに、急に。何言って……。
 …………いや違う、これ、怒ってるんだ。やっぱりクロウも俺と同じであの時の事がくすぶってて、ずっと気にしてたんだな。だから、俺がブラックに頼ろうとした事で、怒りがぶり返してこんな事に……。

 こうなったのも、俺が早く謝らなかったからだ。
 クロウは我慢して俺と話してくれているのに、そのことに甘えて話し合いを後回しにしていた。クロウがまだわだかまりを解消しきれてないって解っていたのに。
 それなのに、俺って奴は。

「…………ごめん、クロウ……」

 素直に謝る。だけど、クロウの目は怒ったままで。
 少し顔を離すと、相手は冷ややかな目で俺を改めて見つめた。

「オレはそんなに頼りないか」
「そ、そんなことない! それは違うよ!」
「オレが“行くな”と言ったのにブラックの所に行くのは、オレの言葉をどうでもいいと思っているのとは違うのか?」
「どうでもいいって……そんな事ないよ。俺は……その……ごめん……。あの時は、クロウに行っちゃ駄目だって言われたけど、ブラックがあのまま落ち込んでたらって思ったらどうしても……放って置けなくて……」

 だって、あのままだったらブラックはずっと出て来なかったかも知れない。
 大人だから自分で踏ん切りをつけたかも知れないけど、でも、苦しむ時間はずっと多かったはずだ。それを思うと、じっとしているなんて出来なかった。

 だから、クロウに駄目だって言われたのに、出て行って……。
 でもそんなの、クロウからしてみれば約束を破った以外の何物でもない。

 それを考えると言い訳する事も欺瞞に思えて来て、声が小さくなってくる。
 尻すぼみになった言葉に、クロウは軽く息を吐いた。

「お前にとっては、オレの心配など関係ないと言うことか」
「そんな……」
「違うと言うのか? 自分を大事にしろと言ったのにブラックの所へ行って、病み上がりの体でブラックに奉仕しようとしたのは、ないがしろにしてないとでも?」
「う……」

 そう言われると、何も言えなくなる。

 クロウは俺の体が心配だから忠告してくれたのに、俺は結局ブラックにえっちな事をして元気を出して貰おうとした。もしブラックが思った以上にヤケになっていたら、俺は素股以上の事をしなければいけなかったかもしれない。
 そういう可能性もあったのに……あの時は、ブラックが泣かなければいいと思って俺は自分の体の事なんて何も考えてなかったんだ。

 つまり、クロウが言った事を無視したのと同じわけで。
 それなのに、弁解しようなんて……。

「…………ごめん、なさい……」

 どう謝ったらいいんだろう。
 俺の言動がクロウを傷付けたのに、クロウに謝れるだけの言葉が見つからない。
 誠意を持って謝ろうと考えていたはずなのに、口から出るのはいつもと何も変わらない「ごめんなさい」だけだった。

 こんなんじゃ、許して貰えない。
 クロウを傷つけた事に対しての謝罪になんてならない。
 解っているのに、俺はそれ以上の謝罪なんて知らなくて、言葉が出なかった。

 そんな俺を、クロウは見詰めていたが……冷たい声で、ぽつりと呟いた。

「ツカサは、オレの事など心底どうでも良いんだな」
「そっ……それは違う!! どうでも良くなんてない!」

 反射的に声を荒げてクロウを見上げると、相手は影のかかった表情で返した。

「そうか? お前はいつもブラックが一番で、オレのことなど二の次だろう。オレと一緒にいると約束しておきながら、自分の体を顧みずオレを置いて行く。結局、オレはツカサにとっては他人でしかない。それはどうでもいい存在とは違うとでも?」
「クロウ……!!」

 相手を呼ぶ声が、無意識に泣きそうに歪んでしまう。
 だって、そんなこと思ってないのに、クロウが酷い事を言うから……っ。

 俺はクロウを他人だなんて思ってない、大事な仲間だって、一緒にいてくれる大事な存在だって思ってる。なのに、どうしてそんな事言うんだよ。
 もう今更離れ離れるになるなんて嫌だよ、アンタも俺の大事な人なんだ。
 ブラックとは違っても、それでも、クロウも俺の大事な一部なんだよ……!!

「泣きそうだな。涙を流してごまかそうとしているのか」
「違うよ……! なんで、そんな事……っ」
「そんな事はない、か。……本気で、オレのことを“大事な存在”と思っていると?」

 感情のない声でそう言われたが、俺は必死で頷く。
 少しでも解って欲しい。冷静に返せない自分に腹が立つ。本当なら、大人だったら、こんな時はちゃんと自分の言葉でクロウに伝えられるのに。
 なのに俺は、辛くなる喉を必死に締めて頷く事しか出来ない。

 ガキだ。こんなの、情けない。同情を買っているのと同じじゃないか。
 悔しい。クロウにちゃんと伝えられない。大人みたいにちゃんとできない。
 クロウは冷静に心を抑え込んでいたのに、なのに、俺って奴は……!

「……っ」
「泣きそうになるほど、辛いか。……ツカサは、オレに許されたいのか?」

 冷静にそう言われて、俺はびくりと震える。
 だけど戸惑っている暇なんてない。クロウを見上げて、俺は必死に頷く。
 そんな俺に、クロウは目を細めて……低い声で、呟いた。

「だったら、今度こそオレとの約束を守れるな?」
「や……約束……?」

 どの約束だろう。
 思わず聞き返した俺に、相手は軽く息を吐いて、俺の肩を掴む。

「ここで服を脱いで、全裸になれ」

 …………え?
 な、なに、言って……。

「くろ……」
「オレも“大事”なら……言うことがきけるだろう? ツカサ」

 ――――ああ。そういう、ことか。

 クロウは、俺を試してるんだ。俺が本当に反省していて、クロウの事を大事に思っているのかを確かめるために、突拍子もない事を言い出したんだろう。
 普段の俺なら嫌がる命令をして、覚悟を見極めようとしているんだ。

 俺が、クロウの事をどうでもいい存在だと思っていない事を、確認するために。

「…………」
「出来ないか」

 黙り込んだ俺に、クロウは冷たく返す。
 だけど俺は限界まで息を吸うと、一気に吐き出して……クロウの顔を見返した。

「わかった。……服を、脱げばいいんだよな」

 それでクロウが許してくれるなら……自分の事を「どうでもいい存在」と思わなくなるのなら、従うよ。だって、これは俺が撒いた種なんだ。言う事を聞いて、クロウが俺をまた信用してくれると言うのなら、全裸にだってなるさ。

 人のいない場所で言ってくれただけ、慈悲が有る。
 だから恥ずかしくない。クロウのために頑張らなければ。

 そう思い、俺はまずベストを脱いだ。










 
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