異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編

  裸の付き合いにも限度がある2

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※すみません遅れた上に2分割で終わらせる予定が筆が乗り過ぎました…
 次が間違いなく総受けで*な展開です、本当すみません…_| ̄|○







 
 
 普段は色々狙ってやってくるくせに、こう言う時だけ無意識なのが困るよ。

 そ、そりゃ、普段はあんなんだけど……ブラックは見た目だけは凄く格好良いし、雄臭いっていうか、昭和の俳優みたいな感じのシブい格好良さもあるオッサンだし、それが髪を降ろして半裸でワイルドになったら、そりゃ俺だってドキッとする訳で。

 ……き、嫌いなワケじゃないし、そもそも俺とブラックは付き合ってるんだから、ドキドキするのは仕方ないってのは解ってるけど……でもなんか、恥ずかしい。
 つーか俺がそういうアレでドキドキしてるっていう事象がなんか許せない。

 違うんだよ、こう言うのは普通逆なんだよ。
 俺がドキドキさせる方で、ドキドキするのは美少女奴隷とかなんだよ。
 格好良い物には誰だってときめくのは解ってるし、恋人ならこうなるのも当然なんだろうけど、でも俺は生憎普通の男でしてええええ……。

「ツカサ君?」
「な、なんでもない!」

 もういい、とにかく入ろう。お湯に入ればこんなことすぐに忘れるさ。
 そう思いながら半ばやけくそで風呂に足を踏み入れると。

「おお……!」

 そこに広がっていたのは、前に大浴場で見たのと同じような風景だ。

 広い内風呂の真正面の壁を取っ払った先にあるのは、広い露天風呂。何故かお湯の出口は角が生えたライオンみたいなのの口から出ているが、それ以外は自然の木々やうるさくない程度の花が咲き乱れる美しい庭園風呂になっていた。

 対して、屋根が有るのみとなった内風呂だが、こちらも中々に良い。
 大小の石が敷き詰められたような水はけが良い床に、左右には洗い場。隅っこには仕切りが有るシャワー室ならぬ打たせ湯もある。
 肝心の内風呂はしっかりとした石造りで、こちらもまた広そうだった。

 大浴場と何か代わりが有るかと言われるとそう無いんだが、風呂の数が二個って所が違う部分だろうか。まあそれでも五人で入るには十分すぎる数なんだけどね。
 でもこれだけ広ければ気兼ねなく泳げるな! うむ!

「よーしまずは体を洗おう! ブラック行くぞ」
「えー、貸し切りなんだしそのまま入っちゃだめぇ?」
「ダメ!」

 だーっ、たくもうこのオッサンはすぐにそういう事を言う!!

 洗わないと湯船につからせないからなと怒ると、ブラックは何故だか俺を足元から顔までじっくりと見て、上機嫌でとろけた顔を浮かべた。

「えへへぇ、ツカサ君が洗ってくれるならいいよぉ」
「は?」
「前にしてくれたみたいにして、僕の背中流してよ~。そうじゃないと洗わない!」
「お、お前……なんつう子供みたいな……いや、まあいい。背中だけだぞ」
「あと髪も!」
「はいはい」

 普通ならさっさと無視して体を洗えば良い事だが、残念ながらこいつは無視すると本当に体を洗わないまま風呂に入ってしまうので、俺が折れるしかない。
 まあいいですけどね。別に背中を洗うくらい、なんてこと無いし。
 でも三十路もなかばを越えたオッサンがこれでいいんでしょうかね。

「はー……じゃあそこ座れ」
「はーい!」

 お返事だけはお利口さんなこって。
 とは言え怒る気にもなれなくて、それがなんだか少しくやしいような気もしたけど、俺は素直に風呂椅子に座ったブラックの背中に流れる髪をまとめた。

 柔らかくて猫の毛みたいにふわふわした赤い綺麗な髪。でも、意外としっかりしてて光に当たると輝くんだよな。前にブラックと一緒に風呂に入った時も、こんな風にしてブラックの髪に色んな事を想ってたっけ。

 広くてたくましい背中だって、あの時は変な感じになってたせいでドキドキしすぎてちゃんと見る事だって出来てなかったけど、やっぱしこうやって観察すると大人の男って感じがしてうらやましい。

 毛は、まあ……外人っぽいし男だし。深くは言うまい。
 だけど俺も大人の象徴である股間の毛くらいはその、そろそろもう生えてくれてもいいんじゃないかと……いや、生えてるけど、きっと生えてるけどね!
 俺やオッサン達には見えない毛が生えてるだけだからね、きっと!

 ああもう変なこと考えてるんじゃないよ俺。
 とっとと背中を流させて俺も風呂に入るんだ。

 風呂場にあった備品の二股フォークみたいな髪留めでなんとかブラックの髪を団子状にして上にあげると、俺は背中を湯で二三度流した。
 ちくしょう一度で済まない。こんな背中ごしごし擦ってやる。

 腹立ちまぎれに石鹸ぽい物体で布を泡立ててブラックの背中を一生懸命にこすっていると、ようやくクロウ達がやって来た。

「ム……ブラックずるいぞ、ツカサにそんなことさせて」
「フン。ツカサを使用人のように使うとは見下げ果てた下郎だ」

 俺達と同じように腰布を巻いて入って来たクロウとラスターは、やはり体が凄い。
 クロウは何度も見てて知ってはいるけど、やっぱこれぞ戦士って感じの無駄のない筋肉があってそれでいてガタイがいい。胸筋がはちきれんばかりとはこの事だろう。はぁ、流石にクロウまで行くとコンプレックスが刺激されるけど、素直に羨ましい。
 あと紐を解いて来たのは偉いけど、髪の毛はちゃんと纏めて欲しい……。

 まあそれは置いといて……ラスターもかなり良い体だなあ。
 前に一悶着あった時はラスターの事なんて興味が無かったし、そのせいであんまり覚えていなかったんだが、今見るとラスターも中々の肉体美という感じだった。

 あのほら、ダビデ像的なギリシャスタイルというか、そこまで腹筋が主張している感じではないけど、今時のイケメン俳優みたいにしっかりと起伏が有るんだろうなって思わせるスマートな体格だ。
 クロウはガチの肉体派だけど、ラスターはアスリート系に近いかな。
 剣術って言っても、ただ筋肉を付ければ良いって訳じゃないみたいだから、そこは理にかなった鍛え方をしてるんだろうけど……やっぱ戦い方によって違うんだな。

 俺的にはクロウみたいな感じに憧れるけど、女子にモテたいならラスターだな。
 ふーむ、じゃあやっぱし無闇に筋トレとかしない方がいいのかね。鍛え方によってこうも違うなら、モテる筋肉に振り切った方が……いや、この世界じゃムキムキで雄臭いほうがモテるんだから、逆にクロウの体型を目指す方がいいのでは……?

 中々に悩ましい問題だなと思いながらも、ブラックの背中をゴシゴシして汚れや泡を流していると、クロウが低い位置で耳を動かしながら俺をじいっと見つめて来た。

「ブラックずるいぞ。オレもツカサに背中を流して欲しい」

 そんな事を言いながら指を口に含ませるクロウの隣で、見事な金髪を縛りもせずにばっさばっさと優雅に流したラスターも何だか怒っている。

「まったく、本当に好き放題だな! ツカサ、そんな汚い中年の背中なんぞ洗わんでいい、洗うなら俺の傷一つない滑らかな背を洗うがいい。お前には許してやるぞ」

 二人とも何を言ってるんだ。ちょっと落ち着いて。

「ハァ? 何言ってんだ? ツカサ君は僕の恋人なんだから、これは僕の当然の権利だぞ。他の奴の背中なんて絶対に流させないからな!! ねー、ツカサ君っ」

 お前も変な事言ってないで落ち着け。
 というか、股間を泡立てながら言うな。喋るからその場面見ちまったじゃねーか!
 ああもうそんな事言ってる間にどんどん雰囲気が険悪になって行くし……。
 どうしよう、このままじゃまたケンカになってしまう。

「またまあ娼姫みたいなことをさせてますねぇ……」

 これ以上重苦しい雰囲気は御免だと思っていたら、また声が飛んで来た。
 今度は誰だと思って振り返ったら、そこには綺麗に髪をまとめたアドニスが……。

 おお、アドニスはちゃんと髪の毛をアップして来てくれたのか。
 あとやっぱりアドニスの体は普通の体型だな。このメンツの中じゃ一番細いんじゃないだろうか。いや、俺の事は置いといてね。
 でもまあ、女みたいに細いって訳じゃないし、普通の成人男性って感じか。
 ダチにこんな感じの体型の奴がいたなあ。なつかしい。

「なんだ、お前もツカサ君に何かしたいのか?」
「そんなこと思ってませんよ。ここで言い争ったって何にもならないですし、喧嘩けんかを長引かせてツカサ君に風邪をひかせたくも有りませんのでね」
「ぐ……」
「ウヌ……」

 アドニスの一言に、クロウとラスターは口籠る。
 唯一ブラックだけが勝ち誇った顔をしていたが、俺はブラックの背中を流し終えると、スパンと背中を叩いた。

「痛いよぉ、ツカサ君なにすんのさ~!」
「髪の毛は自分で洗え! ったくもう……」

 痛いよぉじゃないっての。元はと言えばお前が甘えるからだろうが。
 みんなで入る風呂だってのに、TPOを考えて欲しいぜまったく。
 ……ま、まあ、流された俺も悪かったんだけども……。

「とにかく体を洗って早く風呂に入ろうぜ! なっ」

 ブラックの隣に座って、俺は体にお湯をかける。
 腰に巻いている布が張りつくのがうざったくて、まあ後で付け直せばいいかと思って布を取った。みんな座ってるし、体を洗っているから見る余裕なんてないだろう。
 目の前にある、お湯の蛇口が付いた長台の上に乗っている石鹸っぽい物を泡立て、俺は早く風呂に入るために体を泡だらけにして洗った。

 もちろん頭もごしごしと洗う。
 そう言えば、この中では俺だけが髪を縛る程度の長さじゃないんだよな。アドニス以外は全員髪を縛ってるけど、四人とも長髪だ。
 ……この世界の男って基本的に髪を伸ばす物なのかな……?

 俺からすれば似合ってるし格好いいから羨ましいだけなんだけど、やっぱアレかな、男でもオスとかメスとか入り混じってるから、男が長髪でもおかしくない感じになってるんだろうか。ブラックは「無精だ」てハッキリ言ってたけど、なんにせよ長髪が似合うというのはお得だよなあ。

 実は俺も似合っちゃったり……は、しないか。別にイケメンでもないしな、俺……。
 髪型まで人を区別するのかと悲しい気持ちになりながらも、お湯で泡を流す。これで俺の温泉突入態勢は整った訳だが、ブラック達はどうだろうか。

 頭を振ってお湯を切りながら、ふと左右を見てみると。

「……なんでこっち見てんの」

 ブラックもクロウ達も、何故か俺の方をじっと見つめていた。
 な、なに。何か俺変な顔してた?」

 訳が解らなくて眉間にシワを寄せると、ラスター達三人はさっと顔を逸らした。
 なんだよ急にいそいそと体を洗い出して。もしかして風呂の入り方が解らないとかじゃないよな。でもクロウは一度風呂に入ってるんだし、ラスターだって……いや、貴族と妖精の二人は怪しいな。こいつら使用人とかと一緒に入ってそうだし。
 だったら、自分一人で湯船に入る準備とかした事が無いのかも。

 あー、なるほど。だからこっちを見てたのかな。
 でも見てるだけじゃ解らないだろうし、一応声をかけておいた方がいいかも。

「ラスター、アドニス、洗い方とか大丈夫か?」

 そう問いかけると、二人は何故かとてもびっくりしたような顔をして、ぎこちなく「大丈夫」とだけ返してきた。……一体何なんだ?

「ツカサ君、僕も髪洗ったから早くお風呂はいろ!」
「お、おうそうだな」

 まあ良いか。とにかく今は温泉を楽しむのだ。
 再び腰に布を巻きつつ、一番風呂は贅沢に露天にしようとブラックを急かして屋根のある場所から外へ出る。露天風呂は岩風呂になっていて、雰囲気満点だった。

「おお~、さっすが高級宿! じゃあ一番風呂いっただっき……」
「あっ、ちょっと待ってツカサ君」
「なっ、なに?」
「確か入るのって水の曜気の風呂だよね? そうなってるか確かめるから」
「……?」

 言っている事がよく解らないが、そう言えばアドニスがそうしろと言っていたな。今の風呂って水の曜気のヤツじゃないのかな?
 よく分からないが、ブラックは前にここに来た事が有るからその風呂にする方法を知っているのだろう。とりあえず任せようと待っていると、何を思ったかブラックは角の生えたマーラ○オン的なお湯の出口に近付いて、角をガシャコンと動かした。

「えっ、そ、そうやって切り替えるの!?」
「うん。簡単で便利だよねえ。配管の都合上露天風呂にしか切り替えスイッチはないんだけど、入る時間をずらせば問題ないからね。前に来た時は重宝したなあ。僕は他の奴と入るのなんてゴメンだったし」
「はぇ~……そんな仕掛けが有るとは知らなかったなぁ……」

 ブラックが切り替えてくれたお湯は、確かに良く見てみると徐々に水の曜気を示す青の光に満たされていく。お湯なのに水色の冷たそうな光ってとも思ったけど、まあ見ようと思わなければ見えないし大丈夫か。
 あ、でも……ブラック達は曜気欠乏とかいうのに成ったりしないのかな。

 慌てて「このお湯に他の奴が入っても大丈夫なのか」と訊くと、ブラックは「水の曜気は水と常にある物だから、すぐ流れて行って体に影響はない」と答えた。
 確かにそうだな。でないと【アクア・レクス】で体内とか見れないだろうし……。攻撃性が低い曜気だと、多量に体内に取り込んでも平気なんだろうか。

 色々と気にはなったが、とりあえずお湯につかりたかったので俺はありがたく一番風呂にありつかせて貰うことにした。

「あぁ~……これだよこれ~……」

 浮き上がる体をそのままにして、風呂のふちに体を預ける。
 柔らかなお湯が体を包んで押し上げるのがとても気持ちが良くて、俺は思わず息を吐いて目を細めてしまった。はああ、本当お風呂ってのはたまんないなぁ。
 水を温めただけでこんなに温かくて夢心地にしてくれるんだから、そりゃ色んな国の人が温泉を大事にする訳だよねえ。

「気持ちいい?」

 そんな事を言いながら、ブラックが俺の隣に寄って来て肩を近付けて来る。
 まあそのくらいは良いかと思って素直に頷くと、ブラックはにへらと笑って俺の手を片方お湯の中に引き摺りこんだ。何をするのかと思ったら、ブラックは嬉しそうに手を握ってくる。な、なんだ。手を繋ぎたかったのか。

 でも、その……クロウ達が入って来たらさすがに恥ずかしいって言うか……。

 バレた時の事を考えて思わず口をつぐんでしまうと、ブラックは心得ているとばかりに笑みを深め、空いていたもう片方の手で何かを持って来た。

「ツカサ君、折角だから楽しいお風呂にしようよ! ねっ」
「楽しいお風呂って……ソレ使うの?」

 ブラックが持って来た“何か”は、キャラメルぐらいの大きさの、角が丸い消しゴムみたいなモノだ。どうするのかと思っていたら、いきなりそれをお湯の中に入れた。
 と、驚く暇も無く一気にモコモコと白い泡が湧き出てくる。
 こ……これってもしかして、泡風呂ってやつ?

 泡風呂自体はラスターの屋敷で入ったことが有るけど、まさかあんな小さな物体で風呂全体を覆えるほどの泡が湧き出て来るとは……。

「アレは、この貸切風呂の付属品みたいなもんさ。お湯を変えない限りはモコモコと泡が湧いて来るんだ」

 そう言いながら、ブラックは顔を近付けて囁いて来る。

「これなら、手を繋いだってバレないだろ?」
「……っ、お、お前なあ!」

 そういう理由で泡風呂にしたのかよと思わず振り返ると、ブラックは嬉しそうに菫色すみれいろの目を細めて……口をにんまりと緩ませた。

「ふふ、僕とツカサ君だけのヒミツだね」
「ぅ……」

 ば、ばか、至近距離でそんな事言うんじゃないよ。
 なんでそんな、こんな事で嬉しそうに……いっいや違う、見るんじゃない、そんな顔でこっち見るな。風呂の湯が余計熱く感じるだろうが!!

「うおっ、なんだこの風呂は」
「泡だらけだ」
「ふーむ、こんな贅沢な事をするとは……流石は名高い宿ですねえ」

 恥ずかしくなってブラックから顔を逸らしてしまったが、そんな俺の背後から声が聞こえてくる。振り返ると、やっとクロウ達も洗い終えたらしく、こちらにやって来た。クロウは相変わらず俺の隣で、アドニスとラスターも近い場所に陣取ったが……なんでこんな至近距離に固まっちゃったんだろうか。ここ結構広い風呂なのに……ま、まあいい。

 当初の予定とは違ったが、お湯につかりながら他愛ない話をするってのも良いよな。このまま黙っているのもなんか気まずいから、とりあえず何か喋ろう。
 あとブラック、お湯の中の手そろそろ離して。

「と、ところでさぁ、明日はいよいよイスタ火山に行くけど……ほんとにあれだけの用意で良いのかな。アドニスに言われた物は全部用意したけど、ホントにテントや寝袋って必要ないの? 俺達用のは用意してるんだけど……」

 ブラックやクロウとの三人旅の時は、スクナビナッツに夜具を纏めて収納して旅をしていたので、俺達の分の寝袋などはあるんだけど、生憎とアドニスとラスターの分が無い。でも、アドニスは「テントも買え」とは言わなかったんだよな。

 だから、ちょっと不思議だったんだけど……アドニスは眼鏡をお湯に付けて湯気を取りながら、口元に薄く笑みを浮かべた。

「心配いりませんよ。それに、ツカサ君達も寝具の用意はいりません。用心のために持っておくことは無駄ではありませんが……まあ、明日になれば判るので、楽しみにしておいてください」
「えっ、なになに、なんか隠しダネがあるの!? なんだよそれー!」

 なんだろ、あれか、今週のビックリドッキリメカ的なモノか!?
 アドニスの事だから、植物でなんか凄い道具を作ってるのかも!
 もしくはあれか、なんかこう妖精の力でしゅばーってテントを作っちゃうとか!?

 アドニスはそういうトコあるからな~。そうか、テントはそう言う系かぁ。どうしよ、めっちゃ明日が楽しみなんだけど。メルヘンな物とか見れちゃうのかな?
 思わずワクワクしてしまって身を乗り出すと、横から手を引かれて引き戻された。

「何でも良いけど、ハンパなモン作ったら承知しないからな」

 さっきまで笑っていたブラックがまた何だか不機嫌になっている……なんで……。
 今の話に怒る要素あった? と首を傾げていると、アドニスも今度の今度はちょっとイラッとしてしまったのか、ニコニコと笑いながらブラックに舌鋒を仕掛けた。

「おや、嫉妬は醜いですよ? 自分が期待されていないからって、八つ当たりするのは止めた方がいいと思いますけどねえ」
「こっ、このクソ眼鏡……っ」
「悔しかったら、甘えてばかりいないで、少しくらいはツカサ君を喜ばせてあげたらどうですか。自力で出来る事があれば、ですけどね」
「ちょ、ちょっとアドニス、それは言い過ぎでは……」

 ブラックだっていつも俺を助けてくれてるし、悔しがる必要なんてないんだぞ。
 俺がワクワクしたのはアドニスならではの事を見れるんじゃないかと思っただけで、テントを用意しなくても良いよって言われて喜んでたわけじゃないのに。
 それを変に捻じ曲げて言い合いするなんて、子供の喧嘩か。

 ったくもう、こんな時ばっかり子供っぽくなるんだからコイツらは……。
 しかし放っておく訳にもいくまい。俺のせいでブラックが不機嫌になったのなら、俺がどうにかしなければ。だけど、どうやって相手の機嫌を直そうかと考えていると。

「ツカサ君をよろこばせるだって? ああいいよやってやろうじゃないか、絶対にお前らには出来ないことでな!」

 強い口調でそう言いながら、ブラックは繋いでいた手を強く引いて、俺を自分のひざの上に乗せるように強引に仕向けた。
 お湯の中では抵抗する力も弱くて、俺はなすがままで簡単に乗り上げてしまう。

「ぶ、ブラック?」
「ツカサ君、もっとあげるからね……!」

 よっぽどいきり立っているのか、そう言いながら俺をがっしり捕まえたと思ったら――いきなり、キスをして来た。

「ん゛ー!? んっ、んんんん!?」

 ちょっ、なっ、なにこれ、何やってんの人前で何やってんのおまええええ!

「お、おいブラック」
「なっ……」

 視界の向こうで少し慌てたようなクロウの声と、ラスターの絶句が聞こえる。
 だけどブラックは二人に構わず、俺を抱き締めて一層深くキスをしてきた。

 な、なんで、何でキスなんかしてんだ!
 離せっ、離せったら!!










 
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