異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編

12.裸の付き合いにも限度がある1

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「え、貸し切り風呂?」

 夕食を済ませ、五人でテーブルを囲み一息入れた後、手桶ておけを持って大浴場に行こうとした矢先にブラックが思っても見ない事を言い出した。

 てっきり以前入ったあの大浴場に行くとばかり思っていたのだが、ブラックが言うにはこの【紫狼しろうの宿】には貸し切りに出来る風呂がいくつか有って、前の仲間と来た時にはそちらの風呂に入っていたらしい。

 どうりで大浴場に行きたがらない訳だと思ったが、それならそれで前に来た時に言ってくれれば良かったのに。
 いや、結構なお値段と言う話だったから、知ったとしてもそんな高い風呂はいらんと断わってしまっていただろうが。

 しかしとにかく他人を気にせずにゆっくりできる風呂があれば、そりゃあそっちに入るほうが良い。思わず聞き返してしまったものの、まんざらでもない顔をすると、ブラックはニンマリと笑って俺の手を引いた。

「ツカサ君、お風呂好きでしょ? でも他の奴がいるとゆっくり楽しめないと思ったから用意しておいたんだよ~! だから入ろっ、ねっ、ねっ」

 強引に起立させられながらも、貸し切りの風呂を用意してくれたという話を聞けば悪い気はしない訳で。俺が風呂を重視しているのを覚えていてくれたんだと思うと、なんというかその……まあ……嬉しかったり……。

 だ、だからって訳じゃないけど、用意してくれた物を断るのは悪いからな!
 貸し切りってのにはちょっと下心を感じないでも無かったが、どうせみんなで入るんだからその辺りは心配しなくたっていいよな?

「うーん……じゃあ、せっかくだし入ろっかなあ」

 とは言え大喜びでブラックに懐くのもなんだかしゃくだったので、仕方なく入るんだぞ的な風に返してしまった。だってここで喜んだら絶対調子に乗るだろうし。
 しかし相手は俺のそんな態度も気にせず、ずんずんと歩き出した。
 お、おい、いやに急ぐな。ちょっと待てよクロウ達はまだ座ってるのに。

「さー行こうね行こうね早く入ろうねー」
「だ、だって。みんないこ」

 今まで黙っていたクロウ達にそう言うと、急にブラックが驚いたように「ハァ!?」と声を出した。

「ツカサ君なに言ってんの! 僕達二人だけで入るに決まってるだろ!?」
「え!? ぜ、全員で入るんじゃないの?!」

 貸し切り風呂ということは、俺達のグループが貸し切りにしたと言うことだろう。だから、当然俺はクロウやラスター達と一緒に風呂に入るんだと思っていたんだが、ブラックはそういう事を考えて貸し切ったのではなかったらしい。
 いや待てだったらお前やっぱりやらしい事をする為にこんな……。

「ええそうですね、行きましょうかツカサ君」
「ム、オレも風呂に入るぞ」
「ツカサがそう言うなら仕方がないな。この不潔な下郎と同じ湯を使うのは嫌だが、俺の未来の妻が誘っているとなれば入らんわけにはいかん」
「お前らあぁあああああつーかそこのクソ貴族誰が未来の妻だあああ!!」
「お、抑えて抑えてどーどー」

 俺の言葉に一気に立ち上がる三人にブラックが怒るが、何とかなだめる。
 風呂の中で二人っきりでとか変な事を考えてたんだろうけど、どうせ今日は一緒に寝るんだし、風呂場でも二人っきりにならなくたっていいじゃないか。

 しかしそう説得しようとしても、ブラックはどうしても他の奴と一緒に風呂に入りたくないようで。まったく何が不満なのか理解出来ない。風呂場でくっつけと言っている訳じゃないんだから、一緒に風呂に入るぐらい別に構わないだろうに。
 うーむ……このままでは風呂に入るのが遅くなってしまう。

 ごねるブラックにどうすべかと少し考えたが……こうなっては仕方がないと思い、俺はブラックのそでを引いて少し屈んで貰うと、手で覆いながら耳に直接ささやいた。

「ど……どうせ、今夜一緒に寝るんだし……風呂ぐらい、別にいいじゃん。寝る時は、その……また……そ、添い寝するんだろ?」

 こしょこしょとそう言うと、ブラックの体がびくりと反応する。
 そうして、ゆっくりと横目を変に歪めながら俺を見詰めて来た。

「そ、そいね、下着一枚で添い寝してくれる……?」
「え゛……。う、うん、解った、添い寝ぐらいならいくらでもしてやるから、な?」

 一瞬おバカと言いそうになってしまったが、すんでの所でこらえる。
 ま、まあ? 俺とブラックは恋人なんだし?
 ずっと素っ気ないのはブラックが嫌だっていうんなら、そりゃ、その、俺も答えるのが恋人って奴なんだろうし? ま、まあいいけど。いいけどね!

「ホント!? わーっ、やったぁツカサ君~」
「わっ、だから人前で抱き着くなって!」

 ああもうほら三人とも呆れてるじゃないか。
 馬鹿なことやってないでさっさと風呂に行くぞと怒鳴ると、ブラックはさっきの不機嫌な顔は何処へやらのニコニコ顔で俺達を貸し切り風呂へと案内した。

 中庭の見える廊下を通って少し奥へと歩くと、宿から出る裏口のような物が有って、高い壁に囲まれた離れに続く飛び石の道が見える。
 ブラックが言うには、道の先に見える離れの全てが貸切風呂ということで、試しに行ってみると、そこにはバンガローが並んでいるキャンプ村のような風景が広がっていた。どうもこの建物の中に風呂が有るらしい。

 放射状に建物が並んでいるが、内部は内風呂と貸切風呂だというので、おそらくは屋根の向こうは仕切りが有るだけの露天風呂なんだろうな。
 それが連なってるとしたら、上から見たら扇状になっているんだろうか。高い壁はもしかしたら仕切りだったのかも知れない。

 しかし、離れの貸し切り温泉まであるなんて、ほんと凄い宿だなぁ……。

「えーと……僕達は三番だね」

 ずらっと並ぶドアの一つに案内され、ブラックは何やら複雑な加工がされている鍵でドアを開けた。この世界では鍵が複雑ならそれだけセキュリティが高い事になる。なので、この風呂も相当守らている事になるんだろうが……なんでそんな事に。

「凄いゴツい鍵だな」
「んー、ほら、ここの温泉って曜気のかたまりみたいなもんだろう? それをウリにして商売をしてるんだから、忍び込まれて勝手に入られちゃ困るからね。だから、普段は人の目が届かないこういう離れには頑丈な鍵がついてるのさ。高い壁も他の所が見えないようにする為っていうか、むしろ侵入されない為って理由の方が強いんだ」
「なるほど、湯は財産という訳ですね」
「へ~……」

 ブラックの言葉を総括するかのようにアドニスが付け加えてくれる。
 そのおかげで何となく離れに厳重な鍵が掛かっている事に納得して、俺はドアの中に入った。中はあちらの大浴場と一緒で、片方の壁に籠がずらっと並んでいる棚があって、もう片方には壁から突き出た長い机が有った。席ごとに小さな鏡が有るから化粧台とかそういう感じなのかな。

 こういう所はやっぱり俺の世界とそう変わりはないな。
 木桶を置いて、俺は早速裸になろうとベストを適当な籠に放り込む。なんせ、早く温泉に入りたいからな。貸切風呂ってんだから、絶対露天は有るだろうし。露天風呂を好きなだけ堪能できるってのはそうないぞ。これもまた贅沢って奴だよな!

 いやーそれにしても、こういうのって何か修学旅行を思い出してワクワクしてくるなあ。ちょっと童心に帰ってしまおうか。今回一緒に入るのは年上ばっかりだけど、ノリが悪いワケじゃないし、誰か一人くらいは俺と一緒に騒いでくれるだろう。

 やっぱさ、大人数で自分達だけの風呂ってなったら、ちょっと遊びたいじゃん?
 貸し切りなら、周りを気にせずはしゃいだっていいよな!
 大浴場じゃ迷惑になるから出来なかったけど、ここなら気兼ねなく出来るぞ。

「なあなあ、風呂が広かったらさ、泳いだりしたっていいよな!」

 服をぽいぽいかごに突っ込みながら、やる気満々でクロウ達にそう言うと――
 何故かクロウ達三人は全く服を脱いでおらず、ポカンと口を開けて俺の方を見つめていた。……いや、なんで?

「なんだよ、風呂入んないのか?」

 ズボンに手を掛けて適当に放り、下着に手を掛けようとした、というところで。

「あーっはいはいはいツカサ君僕が腰に布を巻いてあげるねーっ!」
「うん? あ、ありがとう」

 なんだかヤケクソ気味な口調で声を荒げながら、ブラックが俺の腰に薄いタオルを巻いてくれた。今日はなんだかやけに気が利くけど、なんで顔が怖いんだろう。
 やっぱり風呂に入りたくないのか?
 いや、でも、風呂自体は面倒だけど嫌いじゃないはずなんだけどなあ。

「おいお前らも入るんならさっさと入れよ!! 殺すぞ!!」

 威嚇するように牙を剥き出しにして言うブラックに、クロウ達はやっと動き出す。
 まだちらちらとこちらを見ているが、それぞれに服を脱いでいった。
 ……そう言えば、クロウはともかくとして、アドニスの裸って見た覚えが無いな。ラスターのは前に見たような気がするけど、あの時は俺も耐性が無かったからもう色々と記憶の彼方に消え去ってて忘れちゃってるし。

 別に裸が見たいって訳じゃないんだけど、みんなどのくらい筋肉が有るのかは気になるぞ。この世界の人って、細腕の女の人でもめちゃくちゃ腕力が有るんだけど、男の場合だとみんな割としっかり筋肉が付いてるから、ラスター達はどうなんだろうなってちょっと気になってたんだよなあ。

 人の体をジロジロみるのはマナー違反なんだけど、筋肉量は知りたい……ううむ、体を洗ってる途中に聞いたらじっくり見せてくれるだろうか。

「つーかーさーくん! もう脱いだならいいでしょ、早く風呂に行こう!」
「うおっ?! わ、解った解った! 行くから引っ張るなって!」

 何をそんなに怒ってるんだかよく分からないが、何か気に障ったんだろうか。
 ……あっ、さてはブラックったら、また俺の心を読んだんだな。それで三人の筋肉ばかりを気にしてたから、自分を忘れられたような気がして怒っているに違いない。
 んもーやだなあ、お前の筋肉は見慣れるほどに見てるじゃないか。

 見ろって言うならじっくり見るから、そんなに怒るなって!

「……ツカサ君、なにニコニコしてるのさ」
「え? いやー、お前も人並みに筋肉には自信が有るんだなあと」
「…………ツカサ君……ハァ……」

 なに、なんでそんな重苦しい溜息を吐くんだよ。
 俺はお前の心とか読めないんだから、きちんと言ってくれないと解んないぞ。

 まったく、今日は怒ったり笑ったりヤケに忙しいなとブラックを見上げて……俺はふと、相手の髪の毛がまだまとまっている事に気付いた。

「……ん? あーもーブラック、お前またリボンつけたままで風呂に入ろうとして! ダメだろ、ちゃんと取っとかないと!」
「え? あっ……いや、別にいいよぉ」

 俺と同じく腰にタオル代わりの布を一枚巻いただけのブラックは、今更ながらに髪を解いていなかった事に気付いたのか、ねたように口をとがらせて目を逸らす。
 だけど、そうやって髪を結んだままじゃ頭を洗えないじゃないか。

 仕方がない奴だなと溜息を吐いて、俺はブラックの頭に手を伸ばした。
 ……が、手が届かない。
 ち、ちくしょう。こういう時に相手の背が高いと困る……。だけど、こうなっては仕方がないので、俺はブラックの両腕を掴んで無理矢理相手を屈ませると、ブラックの顔を見ながらリボンを解いてやった。

 なんだか首に腕を回してるみたいになってしまったが、まあ位置的に仕方ない。

「……よし、これでいいぞ」

 リボンを服が入っている籠に放って振り返ると、ブラックは嬉しそうな顔をして俺を見つめていた。何だかよく分からないが、機嫌が直ったらしい。

「えへ、ツカサ君……」
「なんだよ。早く風呂入ろうぜ」

 髪を降ろしていつもより少し野性味が増したブラックに、何だか急に胸がドキドキしてきて、熱くなってくる。顔にまでその熱が上がって来ると困るから、ブラックを急かしたのだが……相手はそれを聞いて、また嬉しそうに微笑んだ。

 う……だ、だから、その格好でそういう顔されると心臓に悪いんだってば……。








※次は総受け色強めというかみんなゲスいのでちょっと注意
 
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