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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
21.託された救い
しおりを挟む※都合上ちょっと短くなってしまいました、すみません(;´Д`)
一夜明けて、朝。
結局、あれからブラックは部屋に帰って来ず、食堂で朝食を食べる時間になって、ようやくやつれた顔で帰って来た。
髪もボサボサで、ヒゲも更に伸びきって彫りの深い顔は何だか余計に影がかかってどよんとしている。何が起こったのかと心配になるレベルだ。
あまりにもみすぼらしかったので、思わず駆け寄ったのだが……ブラックはそんな俺の行動を制止して、何故か少し離れた席についてしまった。
そんなこと、今まで一度も無かったのに。
…………いや……うん……でも、そう言う時もあるよな。
それに、ブラックも気を使って離れて座ったのかも知れないし。そりゃ、いつもは俺に遠慮なんてしないで抱き着いて来たりするし、ヒゲなんか気にしないけど、でも昨日は色々あったしブラックも気持ちの整理がつかないんだろうし……。
……だから俺も、何も言わないで朝食を黙って食べた。
一々指摘する事もなんだか烏滸がましいような気がしたから。
ケルティベリアさんとラセットも、昨日キュウマに聞いた話のせいか、俺達二人を気遣うみたいに何も話しかけてはこなかったけど、今はこの沈黙が辛い。
だけど俺も何を話していいのか解らなくて、申し訳ないと思いながらも時間がただただ過ぎて行った。
……そんな朝食が終わった頃。キュウマがタイミングを見計らったかのように手を叩いて、俺達の注目を集めた。
『さて……残念だが、俺は今日でお別れだ』
何を言うかと思ったら、突然のお別れ宣言だ。
思わず目を丸くした俺達に、キュウマは微苦笑しながら頭を掻いた。
『俺は所詮擬似人格の映像だからな。役目が終わればそれでさよならだ』
「それって、もしかして……消えちまうって事か……?」
フィクションではよくある展開だ。
使命を終えた「作り物」は、様々な要因から機能を停止してしまう。もうそれ以上存在する意味が無いし、そのまま生きていても目的が無いからだ。
だけど、今から消えると言われると、俺も「何かとどまる方法は無いのか」と問いかけてしまう。しかし、役目を終えた映像のキュウマにとっては、むしろ留まる事の方が不本意らしく、ありがたいがそんな事をしてはいけないと諫められてしまった。眼鏡キャラだからかとは言わないが、キュウマはコピーした人格であっても実直で誠実な人間だったようだ。
ケルティベリアさんもキュウマの消滅には難色……というか、出来る事なら一緒にカスタリアに来て欲しかったみたいだけど、キュウマの映像装置は書斎から動かせないらしくて、それは出来ないと断られていた。
そうなると……もう、彼とはお別れせざるを得ない訳で。
名残惜しかったが、消える所は見せたくないという彼の願いを聞き届けるために、俺達は朝食が終わったらカスタリアへと帰る事にした。
帰りはキュウマが“創った”という、一回使い切りの「どこにでも行けるドア」で、ミレットまで一瞬で届けてくれるらしいので、心配はいらないが……なんというか、キュウマは本当にチート主人公そのままで生きてたんだな……ドアて……。
『なんか……すまなかったな。お前達、元々はここにあるって話の異世界人の遺物を持って帰ろうとしてたんだろう? それが俺みたいなのですまん』
書斎にドアを持って来て貰って、開ける前。
キュウマが改めてそんな事を言うのに、俺は首を振る。
……今だから思いついたことだけど、多分ライクネスの王様は遺物なんて期待してなかったんじゃないかな。あの人は俺の事をからかうから好きじゃないけど、でも、俺に対しては何か含んだところが有るようだった。
だから、たぶん……この【エンテレケイア遺跡】に何が有るのかをもう知っていて、敢えて俺に探させようとしたんだと思う。
そもそもの話、人族の大陸最強とも名高い【勇者】のラスターが居るんだから、彼と一緒にエンテレケイアに調査隊を派遣すればよかったわけだしな。王様は何のかのと理由を付けていたけど、信頼できる腹心なら沢山居たはずだ。
それでも俺達に調査をさせたがったのは……遺跡の遺物が欲しかったんじゃなくて、俺をここに来させて、キュウマと会わせたかったんだと思う。
そもそも、キュウマの映像装置は黒曜の使者が来ない限りは作動しないらしいし。だから、その事に関しては大丈夫だと言っておいた。……とは言え、キュウマも俺達に話した事は結構ヘビーな事だったろうなと心配していたようで、今も何だか申し訳なさそうな顔をしていたが……。
「キュウマ、大丈夫だから心配すんなよ。そんなんじゃ気になって帰れないだろ」
後悔しながら消滅されたんじゃ、こっちも寝覚めが悪い。
大丈夫だからと再度元気付けるが、しかしキュウマは首を振る。
……まあ、ブラックが俺から距離を置いている光景を見れば、そうもなるか。
でも、ケルティベリアさん達に教えていない“俺とブラックの問題”は、俺達で解決するしかない。今はそう言う事も考えられないし、他人事みたいに結論付ける事しか出来ないけど、そうとしか言えなかった。
だから、キュウマが悪いんじゃないんだ。
むしろ重大な事を先に教えてくれたんだしね。末期の状態になってやっと判明したとかそういう展開じゃ無かっただけ百倍マシだよ。
『……ありがとな、クグルギ』
「こっちこそ、色々教えてくれてありがとう」
せめて恩人の最期くらいは笑って見送りたくて満面の笑顔を見せると、キュウマも弱気ながら緩い笑みを返してくれた。
『お前達の事は心配だが……お前なら、乗り切ってくれると信じている』
「ああ、まかせとけって」
「……では、帰ろうか。そろそろ本部も私達の不在に焦っている頃だ。波風立てずに帰らねばな。先に行っているぞ」
「ちゃんと一緒に来い」
ケルティベリアさんが最初にドアを潜って、ラセットも俺に首を指しながら潜る。
一緒にってのは……たぶん、ブラックと一緒にって事だろうな。
…………でも……。
「ブラック……」
「あっ、え、えっと、僕先に行ってるね!」
俺に声を掛けられて、びくりと反応したかと思うと、ブラックは俺の返答も聞かずにさっさと扉を潜ってしまった。
あとに残されたのは、俺達だけで。
そのあまりの素っ気なさに俺は思わず目を丸くしていたが、キュウマは深く溜息を吐いて、俺の正面に回り込んだ。
『……あいつ、本当に大丈夫か? 来た時とまるで態度が違うが』
「う……」
『…………まあ、黒曜の使者とグリモアの問題は、グリモアにとっては大問題だからな……。ああなるのは当然とも言えるが』
「え……な、なんで……?」
問いかけると、キュウマは俺の目をじっと見た。
『お前はその性格からして理解出来んかもしれんが、グリモア達が俺らに向ける感情は、俺達が思っている以上に深くてドロドロしてるんだよ。中には、神様でも崇めてるんじゃないかと思うレベルで依存して来る奴もいる』
「そ……そうなの……?」
キュウマの事だから、多分女の子なんだろうな。羨ましい。
しかし俺の横道に逸れた思考を叱咤するように、キュウマは顔をずいっと近付けて来て、俺を睨むように凝視する。
『いいか、先輩として言っておくがな……この世界の人間は、俺達の世界とは情緒の振れ幅が違う。俺ら以上に奔放だし自由だし、なにより過激で大っぴらだ。俺達が思っている以上に、相手は苛烈……とても、激しい』
そう言って、キュウマはキョロキョロと周囲を見回すと、再び俺を見た。
『クグルギ、お前ひとりにだけ、もう一つ伝えておかなきゃいけない事が有る』
「え……」
『それは【コントラクト】というもののことだ』
あ……それ、そういえば最初にキュウマが言ってたよな。
俺達がコントラクトしたのかとか何とか云々……。
もしかして、それも黒曜の使者とグリモアに関する話なんだろうか。答えを求めるようにキュウマを見やると、相手は真剣な顔で頷いて言葉を続けた。
『もしお前が、嘘偽りなく“死ぬまでずっと一緒に居たい”と思う存在を見つけたら【コントラクト】を行え。そうすれば、お前の地獄も少しは軽くなるかも知れない』
「それ……どういうヤツなんだ? 言葉じゃイマイチ解らないんだけど……」
『コントラクトは、お前の能力に鍵をかけて、曜気を無条件で渡せる相手を限定する術――ナトラが俺達に授けてくれた、グリモアの能力に唯一対抗する術だ』
その言葉に、俺は目を剥いた。
「な……なにそれ、昨日はそんなこと何にも……」
『ああ、言わなかった。と言うか、言えなかったんだ。いくらお前の事を思っていても、相手はグリモアだし、それに……お前の気持ちが解らなかったから、アイツの前では迂闊に喋れなかったんだよ。……それくらい、今から話す事はヤバいからな』
ブラックに……グリモアには話せなかった事って、どう考えても黒曜の使者に関係する事だよな。しかも、ブラックには話せないって……もしかして、またブラックがショックを受けるような事なんじゃなかろうか。
どう考えても良い事じゃなさそうだなと顔を歪めた俺に、キュウマは続けた。
『いいか、クグルギ。しっかり聞けよ。コントラクトは、グリモアの狂気からお前を守る手段でもある。俺は昨日“グリモアだけが黒曜の使者を殺せる”と言ったが、この術はその“絶対”を回避することが出来るんだ。もしお前が“永遠を共にしたい存在”を作り、その人間に殺されても良いとすら思ったのなら、そいつに誓え』
「誓う……?」
『ああ。……そうすれば、少なくともお前が他の人間に殺される事は無くなる』
……どうしよう、ちょっとよく判らない。
話が唐突過ぎて、キュウマが何を言いたいのか解らなかった。
「えっと……キュウマ、あの、要約して貰えたらありがたいんだけど……」
『……掻い摘んで言うと、お前が“死ぬまで一緒に居たい”と思う相手とコントラクトを行えば、お前の曜気はソレを誓った相手以外には搾取されなくなるし、お前を殺せる奴もそいつ以外に居なくなる。ただしそれは……グリモア限定の話だがな』
そんな都合のいい契約なんてあるんだろうか。
今の俺にはとても良い条件のように思えるが……しかし、心のどこかで解せないと言う感情が湧いて来てしまう。
だけど、キュウマは俺のその思いを汲み取っているかのように眉間に皺を寄せた。
『今から言う事をしっかり聞け、クグルギ。これが……俺の最後の忠告だ』
「キュウマ……」
『…………もし、どこかで俺の本体に会う事が出来たのなら……お前がどういう道を選んだのか教えてくれ。そして、殴ってくれよ。お前には、その権利が有るから』
何故そんな事を言うのか解らない。
だけど、キュウマが俺を本気で助けてくれようとしている事だけは解る。
彼はその最後の時まで、俺を必死で救い出そうとしてくれているんだ。
やがて来るかもしれない、俺が体感するであろう地獄から。
――――だったら、聞きたくないだなんて言ってはいられない。
聞くべきことが有るなら、聞かねばならない。そうする事で自分が何者なのかを知り、まだ見ぬ悲劇を回避する事だって出来るようになるのだから。
ああでも、本当に……キュウマがこの世界に居てくれたら、いいのに。
本当のキュウマがこの世界にまだ居てくれたら……俺は、同類と言う仲間と出会うことが出来たのにな。
→
※次はブラック視点です。たぶん全話中で一番胸糞悪い別視点かも…
なので、そこまでゲス耐性無い方は飛ばして頂けると幸いです…
本当こんな攻めですみません
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