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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
17.エンテレケイア遺跡―邂逅―
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【エンテレケイア】遺跡の中央に位置する、謎の巨大な建物。
こういう場所はもう王様や領主の館と相場は決まっているもので、やっぱりというか、俺達はその建物に案内されてしまった。
まあ、町をお掃除するロボの「ご主人様」ってんだから、それなりの人だよな。
いやまだ人かどうかも解らないんだがそれは置いておくとして、俺達は遺跡の中央に位置する巨大な建物まで案内されたんだが、この建物の入口がまたヤバかった。
これを登るのかと言わんばかりに長々と続いている階段は、パッと見は荘厳さがあって良いとは思うけど、これを毎回のぼるのだろうかと思ったら頭痛がする。
神殿のつもりなのかは知らないが、設計者は何を考えて作ったんだ。
あえて人が近寄らないような作りにしているんだろうかと思っていると、階段の上の方からズシンズシンと何かが降りてくるような音がした。
『ヒキツギスル、オムカエクル。オキャクサマ、ココデマツ』
きゅいきゅいと小さなモーター音のような音を鳴らしつつ、黒いお掃除ロボは俺の周りをくるくると回る。子犬がじゃれてるみたいで可愛いんだけど、まだ油断はしていられない。我慢だ、我慢。
そんな事を思いながら上を見上げると――――階段を五段飛ばしほどで降りてくる巨大な何かが見えて、俺は思わず息を飲んでしまった。
「な……あれ……」
人じゃない。人型ではあるけどシルエットが違うし、形が大きすぎる。
なにより……足音が、そもそも人間の質量で出る音じゃない。
何がやって来たんだと見上げた俺達の前に現れたのは、黄土色の石で作られた関節人形のような何かだった。
あれ……この形、どうも見覚えがあるぞ。たしかゲームとかで……。
「もしかして……ゴーレム……?」
顔の真ん中に一筆書きのように走る黒い横線。その中を動く、立体感のない紅桃色の丸い目。口も耳も無く頭の形はどこかのゲームで見たようなゴーレムと似ている。
変だな、この世界はドラゴン退治をする世界ではないはずなんだが。
『ヨウコソ、オキャクサマ。ゴシュジンサマ、ノ、トコロニ、ゴアンナイシマス』
そう言いながら、ゴーレムは俺の前に跪いて大きな手を差し出した。
えーとこれって……握手じゃないよな。どうすれば良いんだろう。戸惑っていると、後ろからラセットの驚愕したような声が聞こえてきた。
「なっ……ゴーレムだと……!? 馬鹿な、古代の叡智がなぜこんな……」
古代の叡智?
ラセットの言葉に、俺は思わず首を傾げる。
「え、ゴーレムってそんなのだっけ……?」
確かにゴーレムは人間が作った技術の結晶だけど、叡智って言うほどかな。
異世界物とかじゃホイホイ作られてるし、硬いけど弱点はわりとあるし、それこそオートマタとかよりは汎用的な存在だと思うんだけど。
眉根を寄せた俺に、ブラックがンモーとか言いながら説明しだした。
「ツカサ君、忘れちゃったの? ほら、ラッタディアの地下水道遺跡で同じようなモンスターを見たじゃない。たぶん、このお掃除ろぼってのも……ゴーレムなんだろうね。考えて見れば、それならすんなり納得できる。爆発する金属のモンスターなんてこの世界じゃ『空白の国』にしか居ないだろうし……間違いないと思うよ」
「あ……そっか……あいつもゴーレムだったんだっけ」
ブラックに酷い事をしたあのガーディアンだってゴーレムだったんだっけ。
だとしたら……このゴーレムも古代の謎の技術の結晶って所なのかな。
けどそれが今でもこうやって動いてるってのは不思議だ……やっぱし異世界だからなのかな。劣化した所なんてないみたいだし。
まじまじと見ていると、再度ゴーレムが語りかけて来た。
『オキャクサマ。テ、ニ、オノリクダサイ』
「え? て、手に? 良いの?」
確かに人一人楽に乗れそうな大きい手だけど、乗っていいのかな。
逡巡していると、ゴーレムはもう一方の手を俺の背中に回し、押し出すように俺を強引に掌に乗せてしまった。
思わずよろめいて座り込むと、そのまま俺が逃げないようにする為か軽く掴んで、有無を言わさず立ち上がる。
「おっ、おいお前!!」
「わーっブラック待て攻撃やめ! 別に締め付けられてる訳じゃないし、なんか本当に案内したいだけみたい。とにかくこのまま行こう」
というかゴーレムさん、話す間に階段上がるのやめて下さい。声が遠のく。
しかしゴーレムにそこまでの気遣いを求めるのは酷と言う物だ。仕方なく諦めると、抵抗せずに建物の中まで連れて行ってもらった。
……しかし、なんでブラック達は担いでくれないんだろう。
「あの……他の人は運んでくれないのかな?」
ダメもとで聞いてみると、意外にも返事が返ってきた。
『オキャクサマ、ヒトリ。シモベ、ゴーレム、オナジ』
う……うーん……要するにブラック達を俺の従者と勘違いしてるって事なのか。
一応「一緒に連れて行って」とはお願いしてみたんだけど、ゴーレムは無言のまま俺を輸送するだけだった。ある程度こっちの希望に沿ってくれるみたいだけど、物事を自分で判断する力は無いみたいだ。
まあ、そこまでやったら案内役の範疇から越えちゃいそうだしな……。
しかしこの建物の主ってのは一体どういう人間なんだろうか。
この世界では「古代の技術」とされるゴーレムを何体も操って、俺達を招く者。
どう考えてもただの人間ではないが、しかし……それにしては……建物の内装が、この世界の普通の洋館と変わりがないところが判断を鈍らせる。
建物の中は、これまで俺達が招かれてきた洋館とそう変わりは無い。
強いて言うなら少々アンティーク調で、壁や調度品まで豪華だって所だろうか。
外観はハイテク建築物なのに妙だなあと思っていると、ゴーレムが階段をのしのし登り始めた。どこまで行くのかと思っていたら、四階で立ち止まりフロアに入る。
まだ上の階が有りそうなのだが、俺を連れて来いと命令した主はここにいるとでも言うのだろうか。不思議に思いながらもゴーレムに連れられて行くと、とある部屋の前で優しく降ろされた。どうやらこの中に入れという事らしい。
「三人とも疲れてない?」
「まだラピッドの効果が継続してるから大丈夫」
「右に同じだ」
ラセットも頷いているので、どうやら三人とも平気だったらしい。
……俺の基準で三人を判断しない方が良いらしい。まあそうだよな、みんな俺より体力あるんだし。ああ何で俺って体力も筋力も据え置きなんだろうか……。
いやそんなこと考えてる場合じゃないんだけどね、うん。
『ゴシュジンサマ、ココ、マツ』
俺達の様子も気にせず、ゴーレムはドアを開ける。
この動作だけはやけに繊細だなと思いつつ、扉の向こう側を見やる。と、そこは――拍子抜けしてしまうほどに、普通の部屋だった。
「ここが、ご主人様が待ってる部屋……?」
「いたって普通の……人のいない部屋だがな」
両脇が本棚で埋まっていて狭く感じるけど、暖色が基調のレトロな書斎だ。
本棚には本も残っていて、ここだけ時間が止まっているように思えた。
その一冊にブラックが手を伸ばそうとするが――本と指先の間に火花がバチッと走って、ブラックは反射的に手を引いた。
「お、おいっ、大丈夫か!?」
「あ、うん、大丈夫だよツカサ君。どうもこれ、何かの障壁が守ってるみたいだね。本の題名からして読めると思ったんだけど……これじゃ無理か」
さすがのブラックも、どういう術なのか解らないと解除も出来ないらしく、「お手上げだ」と欧米人ばりのジェスチャーで肩を竦める。
こんなに本が有るのに読めないなんて切ないが……ブラックが背表紙のタイトルを読めるって事は、馴染みのある言語で書かれた題名でも見つけたんだろうか。
「どこの言葉かわかる?」
「確かこれは……アタラクシアの遺跡で見つけた本と同じ言語だね。しかし……そうなると変だな。この文字は、遺跡に遺されている【希求語】よりも、かなり後の年代の遺跡の文字のはず……。こんな場所に、しかもこんなに劣化してない状態で残っているなんて……。まさか、この本の持ち主がゴーレムの主なのかな」
アタラクシアで見つけた本って……もしかして、あのリーザン・トルテスフィアという女賢者の日記の文字のことだろうか。
あの日記って確か、昔の女子高生が使うギャル語っぽい【ナトラーナ文字】よりも前の言語とかなんとか言ってたっけ。だとしたら、年代的には希求語が一番古くて、この文字が二番目、最後がナトラーナ文字ってことになるのかな。
うーん、俺にはよく解らんが、とにかく神様と黒曜の使者が戦った時代よりも後の物がここに在るって事だな。じゃあ、確かに変だ。
時代の違う本がどうしてここにぎっしり収められているんだろう。
ドアから真正面に見える執務机になにか手がかりが無いだろうかと近付く。
すると机の上に妙なものが置かれているのに気付いた。ワイングラスのような金の台座に、紅桃色の綺麗な宝玉が乗せられている豪華な置物だ。
どこからどう見ても、明らかに何かの重要アイテムっぽい。
でもなあ、こう言うのに触ったらトラップが発動するのがこの世の常なんだよな。俺もゲームで何度引っかかって敵と戦闘したか……ハッ、まさかゴーレム達が俺らを攻撃せずにここに案内したのは、この罠で一掃するため……!?
まさかそんな……しかしありえる。
むう、ここはブラックに調べて貰った方が良いかも。台座は明らかに金属だし、それなら金の曜術師の独壇場だ。ハイクラスな曜術師のブラックなら、隠蔽されてても術の気配くらいは解るだろう。
「ブラックちょっときて。これ、調べて欲しいんだけど……」
「え? なになに?」
今まで真面目な顔をして本棚を眺めていたのに、ブラックは俺の声に反応してすぐに近付いて来る。そうして、隣に立って謎のアイテムを見た。
「ん? あれ? なんかこのタマ光ってない?」
えっ。まさかそんな手も触れてないのに……いや本当だ光ってる。
何故こんな事がと思い、一瞬身を引こうとしたと同時。
瞬きをする暇もなく……周囲の風景が、一気に塗り替えられた。
「え……!?」
黒に塗りつぶされた空間に、チカチカと光る無数の星が瞬いている。
どの方向を見渡してもそれ以外の風景は無く、俺達の足もボンドで固定されたかのように一歩も動かなかった。
まるで、自分達の眼前で煌々と光る台宝玉から目を離すなとでも言うように。
「こ、これは一体……」
「何がどうなってんだ……?!」
俺はともかく、ブラックまで動けないって相当ヤバいよな。
これでボスとか出て来られたら困るぞと冷や汗をかいていると、宝玉の光が何やら大きくなり始め、何かの形を成し始めた。
それはやがて細かい曲線を描き始め、人影のようなものになっていく。
ただ呆けて見つめていた俺達の前で、その人影は色を持って完全な形になった。
「…………この、人って……」
――その姿には、非常に見覚えがった。
いや、俺が出会った、と言う訳ではない。だが、それでも、自分の故郷を思い出す程度には彼は「見覚えがある」と思わせるような容姿だったのだ。
黒に近い焦げ茶色をした大人しめの髪型に、少し大きいスクエアフレームの眼鏡。目鼻立ちは取り立てて美形と言う程ではないが、整っている。一般的な少年だ。
だけど、俺より少し高い身長も、体格も、見覚えがある。
そう思ってしまほどの――――俺と同年代の男が、目の前に立っていた。
『この擬似人格映像が発動したということは……ここに俺と同じ存在が来てくれたと言う事なんだな。……今がいつの“時代”かは解らないが……よく来てくれた』
そう言いながら、俺達の方をしっかりと見て軽く笑う相手。
まるでこちらを視認しているような仕草に思わず息を飲むと、相手は笑った。
『ああ、立体映像だと思ったのか? 安心しろ、これは擬似人格……つまり、ここに居た時の俺の性格や考え方や記憶をトレースした物だ。お前に言って解るかは知らんが……まあ、擬似的なビデオ通話みたいなもんだと思ってくれたらいい』
「スマホとかパソコンのアレみたいなもん?」
そう言うと、目の前の同級生らしき見た目の男はくすりと笑った。
『間違いなくお前、日本人だな。それも、俺と同じ平成から来たのか。話がだいぶん通じそうで助かったよ』
「じゃあ、お……お前…………」
心臓が早鐘を打つ。何故か胸がぎゅっと痛くなって、汗が噴き出て来た。
まるで、何か聞いちゃいけない事を聞いてしまったかのように。
だけどそんな俺に迷う事も無く、相手は微笑みながら頷いた。
『そう。俺も……お前と同じ、異世界人。……ここに飛ばされてきた日本人だよ』
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