異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編

13.まことの姿が見えるもの1

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   ◆



 あのさ、ここ遺跡だよ。超古代の遺跡なんだよ。
 なのに俺達はなんでこんな事してるんですかね。何で体洗って服を乾かしてんの。

 どうして世界協定のお偉いさんが感心した【ウォーム・ブリーズ】で服を乾かしてるんですかね俺は。おかしいな。俺は洗濯をしに来たのではなかったはず……。
 ……いや、うん……解ってるんだけどね。ヤッた後始末が必要だから、やらざるをえないって俺だって重々理解してるんですけどね!
 でもさあ、こう言うの駄目だと思うんだよね俺は!!

 きゅ、休憩室に排水設備が有ったから助かったけど、でも、こんな叡智えいちの結晶みたいな場所でケツを洗うってど、どうかと思うっていうか、あの野郎、横から手ぇ出してきて無理矢理指で掻き出しやがって……っ。
 うう……ナカがまだ指の感触がするし、なんかすーすーする……。久しぶり過ぎて腰も痛いし、もうなんか色々と辛いんですけど。

 えっちってこんなにキツかったっけ……?
 というか、こんな行為を何度もやってたのかい俺は。嘘だあそんな御冗談を。いやでも結局アンアン言っちゃってたし、という事は、気持ち良かった訳で……。
 あぁあ……なんで俺って奴はすぐに流されちまうんだ……死にたい……。

「ホントはあと五回ぐらいしたかったんだけど……」
「俺を殺す気かお前は!! も、もう良いからアレはどうなったんだよ!」
「え? アレってツカサ君のお尻の開発具合の事?」
「だー!!」

 誰がンな事訊いた!!
 とぼけるのも大概たいがいにしろよと毛を逆立てて怒ると、古代式コンピューターの画面をながめていたブラックが、上機嫌で笑いながらこちらを振り向いた。

「あはは冗談冗談。もうすぐ終わりそうだよ。この装置どうも少し壊れてたみたいでさ、正規の手続きじゃ許可……システム? っていうのが開けなかったから、ちょっと遠回りだけど蔵書データーっていうのをあの閲覧室にまるごと転写させてたんだ」
「え……それって……」

 許可が無いと開けない重要なデータを閲覧するために、工夫をこらして強引に移動させ、本来ならコピー出来ない所にコピーしてるって事だよな……。
 ……ブラックお前、ピッキングに続いてハッキングまで……何でお前はこう犯罪チックな方面にまで天才っぷりを発揮するんだ。いや、今はありがたいんだけども。

「ね、ね、ツカサ君、僕えらい? すごい?」
「あーはいはい凄い凄い」

 投げやりな返答をすると、ブラックは頬を膨らませて俺に近付いてきた。
 そして、腰を屈めてくる。……撫でろってか。頭を撫でろってか。まったく……。
 あんな事をやった後だからか、スキンシップに対してのハードルがいちじるしく下がっていた俺は、特に何も思わず頭をわしゃわしゃと撫でてやった。
 まあこのくらいなら可愛いもんよ。

「えへへ……ツカサくぅ~ん」

 髪の毛をボサボサにされたというのに、ブラックはでれっと顔をとろかせながら抱き着いて来る。軽く体を洗った後だからブラックの手や頬もしっとりしていて、さっきのことを思わず思い出してしまって居た堪れない。
 だけど離れたら意識してると感付かれるので、甘んじて受け入れるしかなかった。

「もー……。じゃあ、アレだな。とにかく後は閲覧室に戻るだけでいいんだな?」
「うんっ、あっちで独立して検索できるようにもしておいたから、
「お前……良くそんな事出来るな……」
「え、だって簡単だったよ? 希求ききゅう語でずらずらーって書かれてる文章のいくつかを変えたり、新しく作ったりするだけで出来たもん。まあ多少他の文章も変えなきゃ行けなかったけど、他の文章で動いてるモノが変になるようなものにはしなかったよ。そんだけ。簡単簡単!」
「…………」

 なるほど、プログラムを即興で理解して、不具合が出ないような新しいプログラムを打ったって訳か……ってナルホドじゃないわい!
 お前俺よりチートじゃねえかこんちくしょおおおおお!!

「ツカサ君なんで涙目なの? 可愛いけど」
「何でも無い……あと可愛い言うな……」

 俺はどうせプログラムのプの字も解らない文系男子ですよ。プリンの作り方なら知ってるけどね!

 ああでもそれがどうしたってんだ、俺もキーボードを華麗に打って「カチャカチャッターン!」とかキーを打って格好良く決めたいよ。エロ画像検索してエンターキーしか押す事しかしてないよ俺。
 はぁ……やっぱりオタクはどこ行ってもオタクか……。
 神様に出会わない世界は本当に辛いなあ。

 色々と思う所は有ったが、苦労しないで見れるのであれば文句は無い。
 俺は監視役の二人が来ないかヒヤヒヤしながら服を乾かすと、身だしなみを整えてから食堂へと戻った。一時間ぐらい戻ってこなかったのでラセットはプリプリ怒っていたが、しかしケルティベリアさんはと言うと、微笑みながら俺に「心配ない。後片付けも全て済ませておいた」と、菩薩のような微笑みを向けてくれた。

 ……どうも、ケルティベリアさんが「様子を見に行ってくる!」とキーキー騒いでいたラセットをなだめて、食堂に留まらせていたらしい。
 ってことは……あの……もしかしてケルティベリアさん、俺達がしてたことを、知って……。

 …………し、知らない。俺は知らないぞ!
 相手も知らない振りをしてくれ……って言うか、あの、偶然に、奇跡的に鉢合わせしなかったんだから、問題ナシ、何もなかったんだからオッケーオッケー!!
 とにかくこの話終わり! 終了!!

 色々気にはなるけど、一番ネチネチ言いそうなラセットには気付かれなかったんだから、もうそれだけでヨシとしよう!

 と言う訳で俺達は再び光るヒッポちゃんに乗って図書施設へ戻ろうと外へ出た。
 ――――と。
 その瞬間、けたたましい警報音のような高い音が区域一帯に響いて……って、な、なに!? これどういう事!?

「なっ、なんだこれは!!」
「何かヤバそう……」

 ブラックがそう言ったと同時。
 ビルの群れの奥の方から、一斉に黒い群れが雪崩のようにこちらに向かって来た!

「うわあああああ!!」
「な、なんだあれは!?」
「とにかく逃げるぞ!!」

 自分達が走るよりかは光るヒポカムが全力を出して走った方がまだ早い。
 俺達は慌ててひっぽちゃんに乗りこむと急いでその場から離れた。
 出口までが遠い。なんとか引き離せるとケルティベリアさんは言うが、しかし、背後から来る黒いナニカは確実に距離を縮めて来ていた。

 ブラックに抱えられてヒポカムに乗りこんでいる俺は、ブラックの腕の隙間を潜って恐る恐る背後を見やる。すると、その群れの詳細がはっきりと見えて、俺はぞっと鳥肌を立てた。

「あっ、あれ、ロボ……ッ」
「え?! なにツカサ君!」
「黒くて丸いロボが沢山きてるうううううう!!」

 ――――そう、ドドドドドと轟音を立てながら俺達を追って来たのは……ロボット掃除機のような出で立ちをした、何百もの円形の集団。
 地を這いずる物や、その体から細く長い六本の足を出してガシャガシャと音を立てながら追ってくるタイプの物もいて、とにかく本能が「ヤバい」と告げるような恐ろしい動きで俺達を執拗に狙い、なにやら体から変なものを出している。

 あれは……ドリル?
 いや、なんか、刃物が付いた奴とかハケが付いた奴とかいるぞ。
 どういう事だ、なんでロボットによって装備が違うんだ。
 考えたいけど怖くてどうしようもない。

「ツカサ君ロボってなにぃ!?」
「よく判らんが名前なのか、お前何か知ってるのか!?」
「しししし知りません俺の知ってるのに似てるだけでえええええ」
「弱点とかはしらんのか!!」

 ラセットが立て続けに俺に質問するが、俺だって弱点が見えるなら知りたいよ。
 だけどこんな怖い奴らなんて俺は知らないし、お部屋を綺麗にしてくれるロボット掃除機はもっと可愛げがある。
 それにルン○の弱点があいつらの弱点って決まった訳じゃないし……。

「何でも良い、頼むクグルギ君! このままではミフラ達が傷付いてしまう!」

 ケルティベリアさんにそう言われて、俺はハッとした。
 そうだ。このままだと、ヒポカム達が一番危ない。足にナイフでも投げられたら、怪我をするだけじゃすまないぞ。いくら霊体っぽい物でも、形が有るんだからきっと傷つけられれば痛かろう。
 俺が思ってるものが正解になるかは解らないけど、こうなったらやるしかない。

「ケルティベリアさん、ラセット、俺達より先に行って下さい!」
「なっ、呼び捨……ッ」
「解った! 行くぞラセット君、早くせねば黒曜の使者の力に巻き込まれるぞ!」

 俺の呼び捨てに一瞬咎めようとしたラセットだったが、ケルティベリアさんの言葉を聞いてサッと顔色が変わると、素直に従って速度を速めた。
 なんかそう言う態度を取られると俺が怪物みたいなんですが……いやいい、そんな場合じゃ無かったんだ。とにかく、相手が怯むかは解らないけど、やるしかない。

「ブラック、ちょっと脇から顔出すぞ!」
「出していいよ! なんならその状態でずっと居てくれていいよツカサ君!」
「アホウ!! いいから走るのに集中しろ!」

 お前向かい合わせで密着してるのが嬉しいだけだろ!
 こんな時になんつう事を考えるんだ!
 じゃなくてっ。お、落ちつけ俺。水の曜術は冷静に、心を保たねば……。そう、今から使うのは、凄まじい威力を齎す術なんだ。明確にイメージしないと。

「…………――っ」

 息を吸って、ブラックの体の両端から両手を出す。そうして俺は襲い掛かってくる謎のロボットたちに目を向けて、怖がる心を叱咤しったした。
 なに、失敗したって大丈夫だ。だって俺にはブラックがいる。だから、怖がることなんて何もないんだ。
 ブラックだって、アホな事を言ってたじゃないか。
 シリアスっぽくなかったんだ。……だから、きっと、大丈夫。

「――――遠き地に広がる茫洋とした海原よ、我が願いに応え給え……」

 水平線を越えて広がる、青い海。
 その真水とは異なる性質を、自分の中に有るありったけの海の記憶を呼び起こし、両手を敵に向かって広げる。すると、俺達が今走っている場所から幾つもの魔方陣らしき円形の模様と、それを繋ぐ線が現れた。

 まるで、時計の中の歯車の連隊。青い光によって造られたそれは、俺の肩まで侵食した蔦のような何本もの青い光に連動するように、煌々と周囲を照らしていた。

「これは…………」
「なっ、なんだ、この紋様は……!」

 先頭を走っていた二人の声が聞こえる。だけど、俺の耳にはブラックの心音が聞こえて来て、驚く暇すらない。だから、出来る。この状態でなら、絶対に、成功する。
 何故か、そう思えた。

「猛きうしおよ、敵の群れを薙ぎ払いその足を崩せ!!
 ここに出でよ、【アクア】――――――!!」

 そう、俺が叫び――
 術が発動した、刹那。

「――――――!!」

 青い光が一斉に輝き、その中から大量と言う言葉すら生温いほどの青々とした水が、間欠泉のように一気に噴き出した!

「み、水が……!?」
「いっけええええええ!!」

 ――数えきれないほどの群体には、武器の力では勝てない。
 だから、こちらも異常な能力で対抗する必要が有ったのだ。

「ツカサ君、後ろどうなってんの!?」
「い、いいから早く!」

 ブラックが「見えない」と振り返ろうとするが、前を見て貰わなければ危ない。
 それに……ブラックは多分見ない方がいいとおもう。
 だって、俺の目の前に広がっている光景は、大量の水に押し留められる黒光りするロボット達と、そんな彼らが“海水”によってバチバチと火花を散らし、積み上がって行く地獄絵図のような光景が繰り広げられていたのだから。

「…………うぅ……」

 自分でやっといて何だけど、これはこれで怖い……。
 っていうか、今回初めて水の曜術で黒曜の使者の力を使ったけど、こんなとんでもない事になるんだな……木属性も大概だけど、水と群体の組み合わせは中々キツい。
 相手は機械だったからやったけど、あんまりやらないようにしよう……。

 水の壁にはばまれて、ついにうずたかく積み上がってしまったロボ達は、今度は耐え切れなくなったのか音を立てて爆発し始めた。こうなるともうこの区域にはいられない。
 強烈な爆発が来る前に逃げなければ。

 俺達はヒポカムに頼んで速度を上げると、危なげなくオフィス区域から脱出した。
 と、その直後。

「うあぁあっ……!」

 鼓膜をつんざくような爆発音が響いて、遺跡全体が揺れる。
 思わず今まで走っていた場所を見ると――ガラガラと轟音が鳴り、瓦礫がれきがいくつも落ちる光景が一瞬だけ見えて……その後は、砂ぼこりに巻かれて何も見えなくなってしまった。…………え……あの……これってまさか、遺跡破壊……。

「…………とにかく、ここから離れよ」

 ブラックの言葉に、ケルティベリアさん達も頷く。

「そうだな。説明して貰うにも、落ち着いた場所が必要だ」

 あ、やっぱ説明するんですね……。

 また尋問のように根掘り葉掘り聞かれるのかと思うと気が重かったけど、彼らは俺を監視するためにやって来たんだから仕方ないか。そんな訳で、俺達はヒポカムに乗ってと図書館へと戻ったのだった。

 ……ど、どうか、遺跡を破壊しちゃった事に関しては不問になりますように……。










 
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