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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
11.育った環境が違えば感じ方も違う1
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古代遺跡、というんだから、普通は誰もが石造りのすごい神殿と化を思い浮かべるだろう。
俺もそんなものばっかりだと思ってたんだけど……このミレット遺跡は違う。
壁は石だけど石っぽくないし、色付いてるしまるで近未来SFな世界だし、おまけにその設備も明らかにオーバーテクノロジーだった。
そんな遺跡で、施設を管理する区域となると、そこが普通な訳がない。
オーヒス地域は、俺の想像とは全く違う様相でそこにただ残されていた。
「これ、石の塔……?」
「だが塔とは円形であったり、屋根のある建物ではないのか? なのに、これでは箱ではないか。奇妙にもほどがある」
「さっきの施設といい、一体何なんだこの遺跡は……!」
ブラック、ケルティベリアさん、ラセットが、それぞれに目を丸くしてその光景を見上げる。俺も言葉を失くして呆気にとられていたが……その理由は、彼らとは全く違っていた。
――だって、ビルなんだもの。
そう。オーヒス区域に乱立していたのは……俺の世界のモノとほとんど同じ作りの、ビルの群れだった。
寸分たがわぬとまでは言わないけど、なんというか、超高層とも言えるビル三つを中心にした、背の低いビルの群れというか……これじゃまるでオフィス……。
「あっ……も、もしかしてこれ……オーヒスじゃなくて、オフィス街ってこと!?」
ブラックの発音が怪しかったから聞き取れなかったけど、そうだよ。これ、マジでオフィス街そのものなんだ!
ああ、そうか、だからここに図書施設を管理する建物が有ったんだ。データが飛ばせるんなら、それ専用の施設を集めた所が有ってもおかしくない。
だから、この学問都市を作った人達はオフィス街を作ったんだろう。
……ただ、なんで「オフィス」という英単語が存在するのかだけど……やっぱり、この都市も神様とやらが手を貸して作ったからなのかな。
もしくは、過去の異世界人が建築家だったとか……?
考えるとなんだかあまりこの場所に居たくなくて、ちょっと萎縮してしまった。
そんな俺の耳元に、ブラックが顔を近付けて俺にしか聞こえない声で囁いて来る。
「ツカサ君、これ、見た事有るね……裏世界で」
「あっ……そうだな、確かに似てる……あっちはこんな高くは無かったけど……」
確かにジャナハムもこんな感じだったよな。あっちは建物の背丈も低くて、完全に歓楽街のビル群って感じだったけど。
あ、そっか、だからあんまり背が高いビルとかは無かったのか……。
「ツカサ君の世界でこれ見た事有る?」
「うん。オフィス街ってのがこんな感じだった。あっ、オフィス街ってのは、大人が仕事をする為の仕事場が沢山集まってる所な。……でも、俺の世界では、他のビルも高くて圧迫感は倍だけど」
「そうなんだ……やっぱりここも、異世界の形を参考にしてるんだね」
ブラックも「想像を絶する物=異世界の物かもしれない」という方式に気付いているようだ。さもありなん。こんな建物この世界じゃまず見かけないんだから。
あるとしても、王都や首都か国境の砦ぐらいのもんだ。
ううむ……しかし地下にこんな広い空間と高いビルがあるなんて。
「だが、これは……命のない結晶の群れだ。とても恐ろしい……なぜこんな物が大地に埋まっているのだ」
「確かに、人の手で作ったような建物には思えないな……あまり好ましくない」
大地の民であるケルティベリアさんから見ても、エルフ神族のラセットから見ても、やっぱり変だと思うらしい。
確かにビルって殺風景な感じがするよな。
デザインされてるビルはまだ人の手が加わってるって感じがするけど、そうじゃない所は人の気配がなくなると、ほんとに人が手を加えた気配なんて見えないもんな。完璧に作りすぎちゃって。
うーん、機能性を突き詰めると、無機質になっちゃうものもあるんだろうか。
よく解らないけど、俺は婆ちゃんの家の方が好きだなあ。田舎の昔の家って、縁側の窓とか雨戸を全開にして、家の窓も全部開けると、山や川からの気持ち良い風が入って来るんだよ。都会じゃそうはいかないし、断然クーラーの方が良いけど、でもアレも好きなんだ俺は。
鉄筋も良いけど木造もね……ってそんな場合じゃ無かった。
とにかく、図書施設の管理をするビルを見つけないと。
しかしこの規模じゃ探すのに骨が折れそうだなあ……。
「うーん……どこを探せばいいのやら……」
「手当たり次第ってなると、何日掛かるか判らないね」
腕を組んで悩む俺達に、ケルティベリアさんもどうした物かと言わんばかりに頬を掻く。
「我らのカティナもここでは形無しだな……せめて生き物であれば探せたのだが」
それってインディアン的な知恵ですかね。息遣いとか気配とか温度で探す的な。
しかし相手は命のない機械だからなあ……と、思って、俺はふと気が付いた。
「あ……そうだ、ブラック、稼働してる金属って見分けられたりしない?」
「ん? どういうこと?」
「曜具とかでもさ、ずっと使ってたりすると熱が籠ったりする物ってない? もしかしたら、図書施設で端末が動いたんなら、大元のモノも起動して動いてたりするんじゃないかなって。物って動くと多少なりとも熱を出すだろ? だからさ、熱を探知すればイケないかなーと思って……」
「なるほど……! 確かにそれで見つけられる可能性はあるね! そういう事なら、金の曜術じゃなくて【索敵】を使おう。ちょっと範囲を甘くすれば、人だけじゃなく熱を発するモノを探知できるはずだ」
そういう時って【索敵】なんだ。と言う事は、この世界のサーチって熱源探知とか色んな機能が混ざり合ったものって感じなのかな。何か詳しい仕組みが有りそう。
まあ俺はまだ全然使えないんだけども。とにかくブラックに任せよう。
と言う事で、ブラックに【索敵】して貰ったら……なんと、件の施設が有るビルが見つかった。
その施設は例の高い三本の建物に近い場所にあったみすぼらしいビルで、特に取り立てて言う事も無い質素な外観だ。一応重要な施設の管理センターなのに何故……と思ったが、入ってみるとそこかしこに「多分監視カメラとか探知機とかだろうな」という感じがする機械が沢山あったので、恐らく外観をわざとカモフラージュしていたのだろう。
なんか本当に俺の世界のどこかの会社みたいで、とりたてて異世界らしいところが無いのが不気味だ。
「変な場所だ……こんな石室みたいなところで作業をしていたのだろうか」
「墳墓でもこんなに殺風景な内装にはせんのだがな」
ケルティベリアさんもラセットもビルに散々な言いようだが、まあ二人には異様な光景だもんな。でも、これが気が散らない内装って奴なんだから仕方ない。
そう言えば教室だってイベント事で飾り立てなきゃ、殺風景だったしなぁ。
夕方に教室で一人で残ってるのってなんか怖いし、人がいないと俺だって早く離れたいなあとか思ったりするから、そう言う感じの気分なのかな二人とも。
どんな風に俺達の世界が見えているのかが気になったけど、今は閲覧できる装置を探すのが先決だと思って俺達は奥へ奥へと進んだ。
途中、休憩室や食堂などが有って、遺跡がそこまで崩れていない事に驚きながらも、静かな廊下を奥へと進んでいくと――突き当りに、鉄とはまた違った青白いエレベーターのドアのようなものが有るのが見えた。
当然、これもブラックがサクッと切り捨てる。
……どんだけ頑丈なんだこの宝剣……なんか怖くなってきたぞ。
もう何でもアリなんじゃないのかと思いつつも、やけに綺麗な青白く輝く通路を歩いて行くと、一つの扉が見えた。これは普通の扉みたいだ。
一応警戒しながら開けてみると。
「お……ここかな?」
「みたいだな……」
俺達が辿り着いたのは、あの異世界人の勇者の伝説が残っている村――フォキス村がある巨岩の内部に存在した古代式コンピューターのような物が鎮座している部屋だった。……こうなるともう、完全に疑う余地ナシだな。
どうも古代式コンピューターは動いているらしく、薄らと光を放っている。
「よっし、じゃあさっさと解析しますかね」
なんだか珍しくオッサンっぽい事を言いながら、ブラックは腕まくりをして機械に近付く。と、背後から盛大に「ぐぅうう」という音が鳴った。
……ん? なんだこの音。
何かの警報かもと恐る恐る後ろを振り向いてみると……目を丸くして隣の男を凝視しているケルティベリアさんと、頬を真っ赤にして腹を抱え、長い耳を伏せている口惜しそうな顔のラセットがいた。
ええと。
つまり、ラセットの腹が鳴ったってことかな?
「クッ……い、今のは違うぞ、い、今のはだな!」
「我の体感が確かなら、昼をもう過ぎている頃だろう。ミレットに近い村に朝方到着してから、すぐこの遺跡に来たから、腹が鳴るのも仕方ない」
「~~~~……」
エルフって小説の中だと結構耳が頻繁に動くもんだけど、こっちの世界のエルフも耳が動くんだ。これは何気に新しい発見だぞ。
エネさんは常にマントを被ってるからエルフ耳を見せてくれないし、シアンさんはそもそも恥ずかしい事はしないので、耳が動く所を見た事が無かったんだよなあ。
むう、いけ好かない奴だけど、こういう所を見ると少し可愛く思えなくもない。
「すまない二人とも、ここで食事をとっても良いだろうか?」
「あ、はい。俺は構いませんが……ブラックはどうする?」
「んー……僕はもうちょっと……今中断したら解らなくなると思うから、ツカサ君もお腹空いてるなら先に食べてていいよー」
おお、ブラック真剣だ……。
こうなると、そっとしておいた方が良さそうだな。
でも、ブラック一人でメシを食わせるのもなんだし……あ、そうだ。ここにも食堂が有ったから、そこで何か作ろうかな。良い匂いがして来ればブラックも手を休める区切りを見つけてこっちに来てくれるだろうし。
そうと決まれば、気が散らないようにケルティベリアさん達も食堂に誘導しよう。
「あの、俺朝食作るんで、もし良かったらどうですか?」
「クグルギ君、いいのかい?」
「はい、二人分も四人分も一緒ですから! ブラックの気が散らないように、食堂に行きましょう。あ、嫌なら別に食べないでも構いませんけど」
などと言いながらラセットをみやると、相手は耳を慌てて上げて「フンッ」と鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。そりゃもう、物凄く解りやすく。
この分だと、勝手に付いて来るだろう。どの道、ブラックと二人きりなんてこの人には耐えられないだろうし。
気楽にそう考えつつ、俺はケルティベリアさんと一緒に食堂へと向かった。
→
※また胃袋を掴む作業がはじまるお…(´・ω・`)
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