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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
8.爆弾は解除の仕方が解らないと触れない
しおりを挟む次の日の朝。
俺達は俺達は「身体検査」を行うべく、レイさんに案内されて訓練場らしき場所を訪れていた。
訓練場とは言っても、そこまで特殊な場所ではない。弓道場とか射撃訓練場みたいに、的が何個か並んでいて、シンプルながらも戦闘訓練に特化していた。多分、ここの警備の人とかが定期的に練習しに来る場所なんだろうな。
とにかく、本当に普通の場所で良かった。
ホッとしながら、俺はズル防止のために一時的に支給された質素なシャツとズボンに着替え、ブラック達はレイさんに【契約の枷】を付けられた。
良からぬことを考えないように……との話ではあったが、やっぱり仲間に爆弾付きの首輪を強要されると、嫌な気分になるし不安になる。ブラック達は気にするなと言っていたけど、でも二人だって嫌だと思っているはずだ。
それを押し殺して俺を不安にさせないように、いつもの態度でいてくれる。
ブラックもクロウも、本当にこういう時は優しいし、頼りになるんだ。
……男としては、そんな態度に緊張がほぐれてしまうのが悔しいけど。
でも、緊張してポカするよりはマシだもんな。
二人の優しさに報いるためにも、ヘタな事は出来ない。
と、言う訳で……とりあえず、裁定員達の指示に従い試しに術を発動してみる。
通常の曜術から、気の付加術、そして……俺が自力で思いついた口伝曜術まで、的に当てたり外したりしながら、一通りやってみせた。
……さらっと流したが、本当にただ発動するだけだったので、これ以上に説明する事がなかったのだ。そう、普通はそうなんだよな。試験ってのはそう言う物なんだ。
う、ううう、今まで変な事しかされて無かったから、こういう真面目なのは嬉しくなってしまう。でも俺の世界の期末試験のテストとかは、今やっても嬉しくなる気がしないが。不思議。
……ゴホン。ええと、それは置いといて。
とにかくキチンと言われたとおりに発動していると、どこか離れた所から声だけを訓練場に飛ばしている裁定員達は、ザワザワと言葉を漏らしながらも俺の術に対して一々驚いたり、「な、なんだって」みたいな事を呟いて来たりする。
まあ通常の曜術に関しては、水と木の後に炎の曜術を使ったらちょっとざわついただけだったけど、彼らの驚く主な要因はやはり俺の創作曜術だった。
【ウォーム】は見た目に解らないので最初は「ん?」みたいな感じだったし、【ゲイル】なんかは「強化版か」という「ありえなくはない」という態度だったのだが、やはり【リオート】を使うと、反応がガラリと変わる。やり方は聞いて来ない物の、何度も【リオート】だけを使わされて、俺は何だかどっと疲れてしまった。どうも、氷の術は他の術よりもかなり精神力を使うらしい。
しかし……氷の術の効果を聞かれた時にはちょっと焦ったな。
この世界では、例え曜術師……魔法が使える人であっても、氷の魔法は使えない。それは、水の術を使える人が限られていて、なおかつその水の曜術師の使用する術には、氷を造り出すようなものは存在しないからだ。
後から聞いた話だけど、氷の術というのは研究者達が何百年研究し続けても、まず人族には作り出す事が出来ないと言われていたらしい。
アドニスは妖精と人族のハーフであり王族でもあるからか、特別にその効果を持つ【氷縛】という術を使えるんだが、それも「王族の血筋だから」という特別な理由があるからだしなあ。だからこそ俺が氷の術をさらっと使ったのが問題みたいで……。
俺としては、誰にでも出来る方法で氷を作った訳だから、みんな使えるもんだと思ってたんだけど、現実はそうでなかったようで。
別に隠すほどの事でもないので、術を発動する方法を裁定員の人にも説明したんだけども、彼らは理解出来ないと言った様子だった。
……そう言えば、今まで忘れてたんだけど……この世界――少なくともこの人族の大陸には目立った四季が無く、国ごとに気候が固定されているんだよな。
国の所々で少し温度や植生が違うと言っても、それが崩れる事は基本的には無い。
そもそも、氷が有る地域ってオーデル皇国ぐらいしかないのかも。だから、他の国の人は氷についてあまり知らないって事なんだろうか。
でもなあ、それにしたって学者さんが研究してても良さそうな物だけど……。
まあ、俺が色々悩んでても、答えが出る訳じゃないんだから仕方がない。
一時混乱した場内だったが、とりあえず俺自身の力は危険ではないと判断されたようだった。まあ、黒曜の使者の力を借りなければ常識的範囲だしな。
使者の力を使わないのはどうなんだって感じだけど、ここで使ったら更にとんでもない事になりそうだし、黒曜の使者の力を使えとは言われてないし……。
とりあえず敵意が無いって事だけでも解って貰えたらいいんだけどなあ。
そんなこんなで、俺の身体検査は後は常識的範囲の計測で終わった。
ショックだったのは、身長は変わりがないのに体重がちょっと増えてた事だ。
……これが筋力による増加なら俺だって喜んだんだが、そう言えばズボンの太腿の部分が何かキツいかもしれないという自覚があるがゆえに、何と言っていいものか。
他の所は別にデブってないはずなんだが……。
まあそれは、ま、まあ、気のせいだな!
とにかく危険視されなかったからセーフ!!
この日は何故かエメロードさんも近寄って来ず、代わりに部屋に赤いバラの花束が届いたが、ブラックが燃やそうとしたので俺が制止して花瓶に生けた。
あのね、嫌だからって本人が身近にいるのに燃やしちゃ駄目だろブラック。
……でも、正直悪い気はしなかった自分に自己嫌悪だ。ああもうヤダヤダ。こんなネチネチしたのは嫌いなんだ俺は。早くこの息苦しい状況から抜け出したい。
不覚にもバラの花でちょっと和んでしまったが、シアンさんと面会が出来るようになるまでは、気を抜いてはいけない。エメロードさんからの微笑ましいプレゼントに文句を言うブラックを宥めつつ、俺達はその日は何をする事も無く眠りについた。
そして翌朝。つまり今日。
俺達は二回目の「真言喚問」と呼ばれる場に連れ出された。
また仮面にご対面かと思ったが、今回はみんな生身で円卓に座っている。
そして、俺と……何故かブラックを、チラチラと見ていたが、中立派とされている男の娘的な美男子、オーリンズさんが困り果てたような顔をして口を開いた。
「さて……。君の処遇なのですが……正直な話、我々も情報が少なすぎて困っていましてね。身体検査の間、君の事を【査術】で調べてみましたが……この中央学術院の学院長でいらっしゃるテオドシアス様ですら、君の詳しい情報は見透かす事が出来なかった。……仮に君が何かを隠していたとしても、我らには探りようも無い」
「…………」
やっぱバレてる? 俺が黒曜の使者の力を使ってないって事バレてるよね?
だって、最近ご無沙汰の鑑定の下位互換な術……人物の人となりをぼんやり知る事が出来る【査術】をこっそり使われてて、それをバラされてるんだぞ。
本当はそんな事をバラす必要もないし、言えば言ったで俺に恨まれる可能性だってある。なのにそれを正直に言うって事は……本当に手詰まりって状態なんだろうな。
それかこっちを試してるかのどっちかか。
「君を解剖することも考えましたが……君を殺せば、我々も無事でいられない」
「え……えっと……それって……」
思わず後ろを見るが、円卓の裁定員たちは少し青い顔をしながら首を振った。
その中で、厳しめの顔をしているベランデルン公国の大公であるガムル殿下が、俺を睨み付けるようにジロッと見やると、テーブルに立て肘を付けて組んだ手で口元を隠した。
「オーデルの皇族や、ラッタディアの赤青の隠者、それに多数のライクネス貴族と、ベランデルンの海賊ギルドの連中……お前はどれほど人を誑し込めば気が済むんだ」
「た、誑し込むと言われましても……偶然出会った方々というだけでして……」
好きで誑し込んだんじゃない。というか誑し込んでない。
知り合いだったり仲良くなったりしただけの関係ですよと首を振るが、そんな俺の様子を仮面の奥の目で見つめながら、国主卿がクツクツと笑った。
「謙遜はいけませんね。どの相手も、脅威としか言いようのない存在ばかりですよ。もしここで君を始末して胸でも開こうものなら……どこぞから情報が洩れて、間違いなく我々は裏世界の連中に日を置かず暗殺されるでしょう。ああいう連中は意外と恩に厚いものですから」
低く大人らしい中年の声だが、何が楽しいのか笑っている。
声からすると紳士系の人っぽいんだけど、なんかちょっと怖い。言ってる事も結構な物騒さだし……。でも、本当にそんな事あるのかな。さすがにそれはなくない?
しかし俺を見ていたガムル殿下は、一層眉間に皺を寄せながら言葉を吐き捨てた。
「そうでなくても、お前の後ろには厄介な奴が控えている。お前を殺す事は、新たな災厄を生む事と同じだ。ならば、我々はその災厄を起こさぬように、対処しなければならぬ。……まだ納得は出来んが、お前が理性のない化け物ではないという事は理解した。だからこそ、お前の処遇を決めかねているのだ、我々は」
ガムル殿下の言葉を、今度はハーモニックの古い部族の長・ケルティベリアさんが継いだ。
「斃すべきでないのであれば、生かすべき理由を見つけねばならぬ。危険を取り去るためには、危険と思われる箇所を見つけねばならぬ。だが、我々にはそれを判断する情報が無い。足りぬのだ。お前は本当に水麗候の言った以上の事は知らぬのか?」
そう言われると……俺だけが知ってる事はあるけど……。
グリモアが七人揃ったら俺が元の世界に帰れるかもしれない……って不確定な情報や、それが記されていた「ロールプレイングゲーム」という日本語で書かれた本。
それに……俺を度々助けてくれた、ダークマターの事とか。
でもそれはブラック達にも言ってない事だし……何だか、自分でもそう思うのは変だなと思うんだけど……この事は、誰にも言っちゃいけない気がするんだ。
だから、言わなかったんだけど、やっぱり情報不足じゃ誰だって動けないよな。
そもそも、俺だってよく解んないんだもん。この人達に解るはずもない。
…………あ、でも、情報って言ったら……。
「えっと……色々とゴタついてて忘れてたんですけど……俺達、元々プレインに来た目的が、その黒曜の使者の事を知るために、プレインのどこぞにある遺跡に向かう為でして……」
俺の言葉に、カウカ学院長が髭を触りながら片眉を上げた。
「それは、あの不可解な言語で書かれた地図にあるいずれかの場所か?」
持ち物検査された時に見られてたのか。まあリオート・リングは普通の腕輪としてスルーされてたから、そのくらい見つかっても別にいいけどね!
そうだ。じゃあどうせなら、遺跡に行けばいいんじゃないか?
もちろん王様の許可はいると思うが、それは今ここに居るライクネスの貴族であるローリーさんに取り次いでもらえばいいじゃないか。
王様の本来の目的もこれで達成できるし万々歳じゃないか?
「あの……もし良かったら、そこを俺達に探索させて貰えませんか。勿論、冒険者としてですし、頂くものは頂きますけど、俺について解った情報は、全てお話ししますので……」
なんなら、監視役を一人連れて来ても良い。
そう訴えた俺に、裁定員たちは顔を見合わせたり、ヒソヒソと話していたが――――やがて、何かを決めたように全員でこちらを向くと、俺の正面に居る仮面で姿を隠した国主卿が、手を組んでゆっくりと俺に告げた。
「……その言葉を全面的に信用する、というのは難しい事です。けれども、こちらの監視役を同行させるのであれば、調査を許可しましょう。ただし、君が連れて行ける仲間は一人だけです。監視役二人と、君達二人。遺跡を探索する最中は、彼らの前で以外仲間と連絡を取る事は許しません。それでも良いですね?」
仲間が一人だけ……それは別に構わない。俺の戦闘力に不安が有るけど。
でも、そこで頷かなければ何も進まないだろう。相手だって情報を欲してるんだ。
だったら、俺もある程度は譲歩しなきゃ。
その条件を飲むと頷くと、仮面の二人がなんだか笑ったような気がした。
「では、さっそく用意を……」
「あっ、ちょっと待って下さい。俺、その遺跡に向かう為にライクネスの国王陛下に通行証を貰ってるんです。だから、陛下に“遺跡で見つけた物”を献上する約束をしてまして……。その事に関する許可を、ローリーさんに取り次いで貰いたいんですが」
「許可しよう。ローリー、早急に連絡をしてください」
「もちろんです」
他意も無く頭を下げたローリーさんを見て、仮面の男は小さく頷く。
「では、今回は閉廷とする。準備が出来次第知らせるので、待機しているように」
――――そんな訳で、今日も中身が有るんだか無いんだかな真言喚問が終わった。
何回続くんだろうなあこれ本当にもう。
終わったんなら帰るけどさ。部屋に帰るべと全員で外に出て、やっと解放されたと思い思いに背伸びをしつつ歩いていると、ブラックが心底疲れた声を漏らした。
「はー……。まあ、カスタリアにいるよりは遺跡に潜った方がマシだけどさあ。何も知らない解らないって、どうなのかねえ。呼び出しておいてそんな体たらくとか、ちゃんちゃらおかしいよ」
「まあ、第一の目的はツカサ君の人となりを直接見るためだったのでしょうが、そこからどうしたら良いのかは考えてなかったようですねえ」
ブラックの言葉に、アドニスが眼鏡を直しながら続ける。
アドニスだけは全然疲れてないな。どんだけ打たれ強いんだお前は。
「しかし、遺跡に付いて行けるのは一人だけとなると、少しまずくはないか」
今度は、耳を動かしつつクロウがウウムと腕を組む。
それにロサードがハテナマークを浮かべつつ首を傾げた。
「え? なんでッスか」
「どうせ、今回はブラックが付いて行くのだろう? それをレクス・エメロードが知ったらどうなるか」
「うーん……」
確かにそうだな……。
笑って見送ってくれそうではあるけど、不満たらたらになりそうな気もする。
困ったなあ、恋する乙女って実際どう扱っていいのか解んないよ。
かと言って放置して出て行ったら色々言われるし、でもブラックを置いて行ったら心配だし……あっ、違うぞ。そっちの方の心配じゃなくて、ブラックが何かしでかしそうって事だからな!
「どうせ、ツカサ君はこの不潔中年を連れて行くんでしょうし、戦力的にはその方が良いとあちらも解っているでしょうから、特に気にする事も無いと思うんですがね」
アドニスがそう言うと、ブラックが何故か俺の顔を覗き込んできた。
何やってんだと顔を歪めると、相手はにんまりと笑って俺に抱き着いて来る。
「えへ、えへへ……ツカサ君、僕がいいんだ? 僕だよねぇ~そうだよね~! 僕とツカサ君は恋人だもんねぇ~~~!」
「ぐぬぬ……っ」
イラッとするのに言い返せないのが悔しいぃい……。
確かに「一緒に行くならブラックかな……」とか思ってたけど、でもそれは戦力的な事を考えた結果であって、恋人だからとかそう言うんじゃないんだってば。
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…………だけど、ブラックも「一緒に行きたい」と思ってくれていたのを知ると、なんでかホッとする自分もいる訳で。
そんな事を無意識に考えてしまう自分が、男らしく無く思えて堪らなく嫌だった。
……何か俺、ほんとに最近変だ……。
俺ってこんな情緒不安定な奴だったかなぁ。
→
※次からいきなり旅に出てますよ(はげしく短縮行程)
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不安になってきました_(:3 」∠)_
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