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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編
33.確かめるためとは言いながら1
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目の前にいるアドニスが、部屋のドアを開ける。
その音がやけに耳に煩く聞こえて、俺は思わず拳をぎゅっと握ってしまった。
「さ、ツカサ君どうぞ。ベッドに座って下さい」
「う……うん……」
昨日まで自分が小まめに掃除してた空き部屋だったんだから、入るのに躊躇する事なんてないんだけど……でも、今から何をするのか考えたら緊張してしまう。
だって、俺は今から、オノレの問題点を解決するための話をするんだから。
そう、俺が気絶してしまわないようになるための、策を。
「どうしました?」
「あっいや、ごめんごめん」
アドニスに不思議そうに首を傾げられて、俺は慌てて一緒に部屋に入る。出来ればブラックが帰って来る前に済ませたい……。あっ、話し合いをする前に、ロサードは帰したぞ。ついでだからとゴーバルさんには頼めなかった物資などを注文して、今日の所は禽竜族に頼んで地上へと送って貰ったのだ。
相手もそこそこ忙しいので、これ以上滞在してもらうのも悪いしな。
まあ、色々な用事を済ませて数日後にまた来てくれるらしいので、その時に改めてブラックにも会せてあげよう。……アナベルさんが許してくれたらの話だけど……。
あと、クロウにはリビングで待機して貰っている。
隣の部屋に待機されるのはなんか恥ずかしかったし、何よりブラックがいつ帰って来るのか解らなかったからだ。アドニスに「まず二人だけで話した方が良い」と言われたし、もし話が終わる前にアイツが帰って来たら、変な事をしていると誤解されるかもしれない。
だから、こういう事をしているとすぐに説明できるように、クロウにはブラックの対応をお願いしているのである。
幸い、クロウが「任せておけ」と快諾してくれたので、俺は憂いもなくアドニスと部屋に入った訳だが……。ああ、それにしてもドキドキする。俺の気絶癖がどうにかなるって、どういう事なんだろう。
さっきアドニスが見せてくれた物で本当に解決するのかな。
色々と考えつつも、まだ殺風景な部屋のベッドに素直に座る。
すると、アドニスは椅子を持って来て俺と向かい合うように腰掛けた。
「では、まずは問診と行きましょうか」
「な、なんか医者みたいだな」
「薬師も同じような物ですよ。症状を事細かに聞いて、最善の薬を調合する。本来は、そう言う医者を補助するような存在のはずだったんですけどね……まあ、よほどの病でなければ回復薬ですぐに治ってしまうので、薬師も今は調合する者と言う意味のみになってしまいましたが」
「ふーん……木の曜術師って安定した仕事がある職業だと思ってたけど、出来たはずの事が出来なくなってたりするんだな」
「技術の進歩と言うのは痛し痒しですね」
なんか俺の世界の大人みたいなことを言うなあ。
でもまあ、その技術自体が「要らない」って訳じゃないし、素晴らしい技術なら持ってて無駄にならないんだから、廃れはしたけどまだまだ必要だよな。
だって、俺みたいに必要とする奴が出て来るかも知れないんだから。
その事を考えると何故かちょっと緊張がほぐれて来て、俺はようやく人心地ついたような感じがした。……そうだよな、アドニスも俺のために協力してくれてるんだから、ちゃんと話す事は話さないと。
と言う訳で、俺は改めて失神した時の事を出来るだけ事細かに、覚えている限りのこと全部をアドニスに話した。
えっちの時の事だけじゃなくて、俺が普通に曜術を放った時の事も含めて。
アドニスは俺の話を真剣に聞いていたが――全てを話し終えると、少し悩むように顎に手を当てた。
「ふむ……昨日聞いた時も思ったのですが……ツカサ君のその話、やはり少々奇妙な部分がありますね」
「奇妙な部分?」
「ええ……。どうも、ツカサ君が自分の意思で曜術を使った時と、あの男が摂取した時の量が違い過ぎるのではないかと……」
「それって……どういう事……?」
どちらにせよ曜気が失われて失神したんだから、同じ事なのではないのだろうか。
よく解らなくて首を傾げると、アドニスが手を差し出した。
「やってみた方が早いでしょうね。ツカサ君、手を握っても良いですか?」
「あ、う、うん」
素直に手を握ると、アドニスは何故かぴくりと小さく体を動かしたが、すぐに俺の手を握り返した。
「ではまず……私が木の曜術の初級術である【グロウ】を発動する時の消費量を、君から奪います。決して失神はさせない量だと思うので、我慢して下さいね」
「お……おう……」
アドニスにも、グリモアが俺から無尽蔵の曜気を取り出せるって事は話してある。
出会った頃のアドニスなら絶対教えられなかった事だけど、でも、今のアドニスには何も隠す事など無い。むしろ、聡明な相手には協力して貰いたいぐらいだった。
だから、俺は信頼してアドニスに自分の弱点を曝したんだ。
彼なら俺の事を絶対に悪いようにはしないって思ってたから。
その俺の確信は確かだったようで、アドニスは真面目な顔をして少し目を細めると、軽く手に力を込めた。刹那、つないだ手から、俺の体を緑色の光が覆い始め……たが、今回は光の蔦が出る事も無く、すぐに光が消えてしまった。
「……今度は、中級術である【ウィザー】……植物から曜気を奪って枯らす術です」
「えっ、い、いま【グロウ】発動してたの?」
「厳密に言うと、発動直前の“曜気を集中させる状態”で留めただけです。詠唱をしなければ、曜気はそのまま散って再び体内に取り込まれるか、大気に霧散します。この家で発動させる気は無いので、安心して下さい」
「はえ……」
曜気ってそう言う風にすることも出来たんだ……。
でも、これがなにを確かめる事になるんだろう。
まあアドニスの事だから、絶対意味が有るんだろうけども。
「では、曜気を奪います」
アドニスの手が、再び俺の手を軽く握る。
すると、今度は俺の腕に見慣れた緑色の透明な光が現れ、いくつもの蔓として伸びあがり、腕に巻き付いて来た。
さっきは出て来なかったのに、今はちゃんと“いつもの”が出て来たぞ……。
驚いていると、ふっと体が軽くなってアドニスが息を吐いた。
「……違い、解りましたか?」
「う、うん……。もしかしてこれって……術の規模によって違うの……?」
俺の答えに、アドニスは少し考えるように視線を空にやってから頷いた。
「いま曜気を使わせて貰った限りでは、概ねそういう事でしょう。……ですが、その通りだとすると、妙な事になるんですよねぇ……」
「妙って……何が?」
「通常、人族の一日の活動に於いて、体内に取り込まれる曜気の量は多くても中級術程度なんです。……つまり、君が気絶する条件が“術や性行為によって、規定量以上の曜気を奪われたため”であれば、本来は今のように正気で居られるはずなんですよ」
「え……」
それって……どういうこと?
や、やべえ、理解が追いついて行かない。
「君は気付いていないかも知れませんが、私は既に中級術を三度放てるほどの曜気を君から貰っています。ですが、体調におかしなことは無いでしょう?」
「……うん……別に変な感じはしないけど……」
「あの男が三日間毎日君と性行為を行ったとしても、恐らく今以上の曜気を失う事はなかったはずです。……ですが、君は毎回失神を起こすほどに曜気を消耗していた」
「それって……ブラックが異常ってこと……?」
普通なら気絶しないはずだったって言うんなら、そう言う事だよな。
ブラックは人一倍食いしん坊とかそう言う事なんだろうか。
イマイチはっきりしない言葉に首を傾げると、アドニスも決めかねているようで、難しい顔をしながら空いている方の手で眼鏡を直した。
「……私にもまだ明確な事は言えませんが……恐らく君は“自分で曜気を使う時”は、よほどの巨大な術でない限りはもう気絶する事はないはずです。今の君の曜気を溜めこんでいる器が、どの程度成長しているのかは把握できていませんが……。ただ……失神するという事に関しては、あのブラックと言う男が規格外なのか、それともグリモアという称号に起因する何かなのかが、まだ掴めません」
「じゃあ……結局、気絶の理由はハッキリしないって事?」
アドニスでも解らない事ってあるんだな、などと思っていると、相手はその言葉が悔しかったのか、不機嫌そうに眉を顰める。
だが、すぐに真剣な表情に戻ると、今度は俺の手を両手で握って来た。
「ツカサ君、私としても今の状態は非常に気持ちが悪い。見えかけている謎が解けない時ほど、心が騒ぐことはありません」
「う、うん」
「私は、出来れば君の懸念を払拭したい。今後の我々の為にも。だから……」
真面目な顔をして、じっと俺を見つめながら――――
アドニスは、はっきりと言った。
「だから……私と一度、性行為をしてみませんか?」
「え……」
せい、こうい、って。
え…………ええええ!?
→
※挿入しはしませんが、ごちゅういを(;´∀`)
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