異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

26.己を知るためには1

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 そんなこんなで蜂龍ほうりゅうさんとしばらく話していると(ブラック達が帰って来たら偵察蜂が教えてくれるらしい。ありがたい)、彼女のお蔭で俺達でもよく解らない事が色々と解って来た。

 蜂龍さんはやっぱり伝説上の神と同等の存在である「龍」らしいのだが、龍はそのほとんどが生まれてすぐに一つの場所に陣地を作り、そこを己の城として一生暮らすのだという。そのため、ちょっとヤンチャな龍以外はほとんど姿を見せず、人族などは数える程しかその姿を見た事が無いのだとか。

 まあ確かに、伝説の存在がそんなホイホイ現れてたら伝説じゃなくなるわな。
 龍という存在は、人語を解しありとあらゆるモンスターよりも強大な力を持つからこそ、神としてあがめられる事も有る存在なのだ。
 パワーの安売りをするようなモンスターなら、そりゃ微妙な評価だっただろう。

 しかし、この世界の「龍」と「竜」って本当に違う存在なんだな。
 龍の方は生まれたてでもう小さい龍の体をしてて、その頃から神通力まがいの凄い能力が使えるらしいし……龍って生まれながらの強者って奴なんだな。
 あと、蜂龍さんの話では、世界各地に属性の異なる龍が数十体ほど存在しているというのだが、人族が出会うのはまず不可能に近いらしい。
 俺がここに来れたのは、例外中の例外なんだそうな。

 それに、蜂龍さんにもうすぐお別れが来て新しい蜂龍が生まれるまでは、新たな蜂龍は生まれないそうなので、数自体はずっと同じで増える事も無く、目撃する確率は変わらないのだそうで……。
 ……うーん……伝説上の火の鳥みたいなもんなのかな?
 代替わりはするけど、結局はそれも生まれ変わりみたいなもので、その存在自体は一匹しかいない状態であり続けるみたいな……。

 俺には確認の出来ない事象なので理解したとは言い難かったが、しかし蜂龍さんが数千年生きているというのなら、少し気になった事がある。
 ――数千年……そう、それほどの長い年月を生きているのなら、もしかしたら……俺より前の“黒曜の使者”の事を知ってるんじゃないかって。

 そう思って、ドキドキしながら聞いてみたのだが……蜂龍さんは長い間シルヴァの森に籠っていて、詳しい事は知らないと答えた。
 だけど、この世界で起こった戦乱の気配なんかは他の蜂の話を聞いてぼんやりとは知っているらしい。

『我が知る所によれば、この人族の大陸で起こった大きな戦争は三度だな。一度目は我も微力ながら力を貸した事がある。アレは、モンスターと呼ばれる恐ろしい怪物が現れた時の事だ』
「えっと……プレイン共和国……東の方の国の話ですか?」
『発端は解らんが、他の龍の話では生まれ出でた所はアランベール帝国と聞いておる。あれは東南の国であったか……まあいずれにせよ、モンスターは大陸のみならず全世界に発生し、酷い戦乱を生んでな。北方の白の国などは、赤の帝国と揶揄されるほどの酷い有様だった。その時に我らは神に“象徴たるもの”とは違う力を与えられ、怪物たちの侵攻にあらがったのだ』

 モンスターが現れ始めた頃って言うと……間違いなくアスカーって神様と俺の前の代の“黒曜の使者”が争っていた時代だよな。
 確か……第二の開闢かいびゃくだったっけ?
 その時の神っていうことは、アスカー神が彼らの母神なんだろうか。

「象徴たるものっていうのはどういう……?」
『わが神は、我らをお創りになった時“ただの象徴で在れ”と申された。人に関わる龍たるものは、ただ存在しその姿で人を見守れば良いと。……そのような存在であると示されたのだ。……けれど……悪しき者との戦いに、神は我々に真っ当な存在を生むという能力を新たに与えたもうた。炎龍には炎を司るものを、水龍には水を司るものを……そして我には、植物を繋ぐ役を司るものを生む力を与えた』

 悪しき者は……十中八九、俺と同じ“黒曜の使者”で……神様は、モンスターを倒すために龍にそのような能力を与えたんだろう。

 蜂龍さんが蜂たちを「我が子」と言ってたのは比喩じゃなくマジだったんだな。
 その事に驚いたけど、でも、蜂龍さんが言うには今ではモンスターと混ざって同じような物なってしまったので、龍が生んだ純粋な生物はあまりいないんだとか。

禽竜きんりゅう族と我の子らは、数少ない純潔の龍の血族だ。まあ……結局のところ、我ら龍は神の助けになる事も無く次代に引き継がれたが……それもまた、定めという物なのであろう。……それはそれとして、二度目は確か……その神の敵を殺す為の戦争で、人族が主導となり悪しき怪物を掃討しておったな。三度目は……我もどう言って良いのか解らんが……“我らであって我らでないもの”が生まれ、それが人族との間にいさかいを繰り広げていたような……すまんな、つい最近の事なのだが、我はもう隠居しておって、二度目以降は余程の事でないと感知できんのだ』
「いえそんな! 本当に凄いですよ、歴史の生き証人というか……」

 二度目の戦争って多分……あれだよな……ハルカ・イナドウラっていう異世界人と人族が一丸となって、モンスターとかと戦ったって言う……。
 三度目は良く解らないけど、でも、蜂龍さんの話で今までこんがらがっていたこの世界の歴史がちょっとだけ繋がったぞ。

 時系列的には、まず最初に黒曜の使者とこの世界の神との戦いが起こって、黒曜の使者が生み出したモンスターがこの世界に蔓延した。その為世界は混乱して、荒れに荒れて……最終的にはハルカ・イナドウラが現れた事で、ラスターのご先祖様である【勇者】が誕生し、世界がひとまず安定した。
 そこからどれぐらい時間が経ったのかは解らないけど、もう一度何かが起こって、現在に話が繋がっているって事か……。

 …………じゃあ、黒曜の使者は俺の前には一人だけしかいないって事か?
 いやでも蜂龍さんは引き籠ってあんまり解らないって言ってたから、その後に何人か現れてた可能性も有るし……ていうか、そもそもモンスターを作り出したって……俺にはそんな能力とか欠片も無いんだけど、どういう事なんだろう……。

 ギアルギンが言っていた「黒曜の使者が七人の魔導書グリモアを作った」ってのも、考えてみると神様レベルの所業で未だに「本当かよ」としか思えないし……。

 一応、蜂龍さんには恐る恐る俺がその“神の敵”であることを明かしてみたんだけど、彼女は信じてはくれたものの、俺とその敵であった使者に繋がりがあると思っていないようだった。……まあ、能力全然違うもんな……そりゃそうか。

 ついでなので蜂龍さんの属性だという金の属性を体に流してみたら、マッサージチェアに座ってるお婆ちゃんみたいな事になっていた。
 気持ち良いのは良かったけど、なんていうかやっぱり老齢になるとどんな形態でもご老人はご老人なのだろうか……。いや、良いんだけどね、喜んでくれたから良いんだけどね! でも何だろうこの釈然としないきもち!

『我も長く生きてすぐには思い出せない事もあるでな。お前に有益な事はなにか思い出しておくゆえ、また明日にでも来るがいい』
「それは俺としても願ったり叶ったりで、凄くありがたいんですけど……でも、良いんですか? 俺マジで急に悪役化しちゃうかもしれないですよ」

 元々敵対していた存在なら、俺の中の使者の能力がスイッチオンして急に悪役マン化する可能性があるし、さすがに迷惑を掛けられないのでは……と思っていたら、蜂くんたちがわっと集まって来て、行っちゃヤダとばかりに体を摺り寄せて来た。
 あああモニモニしてる、おもちみたい気持ち良いぃい……。

『ハハハ、我の子供らに好かれておるのが証拠だ。悪意を嗅ぎ取ることに長ける我の子が、間違うはずもなかろう。お主はもう少し己を信じろ』
「は、はい……」

 あんなにおびえていたペコリア達も、気付けば蜂の子供達とぴょんぴょん飛び跳ねて遊んでいる。とても可愛い。
 ……まあ、あの光景を見たら、悪い事なんて考える木も失せちゃうよな。
 可愛いは正義だ。つまり、この蜂っこ軍団も正義なのだ。
 ならば正義に味方する俺は、蜂龍さんの嬉しい申し出を断れようはずもない。

 思いがけず昔の話が聞けそうだし、ここからまた何か情報が貰えるかもしれない。俺の正体が少しでも解れば、色んな不安も解消できそうだし……何より……考える事で、余計な事を思い出さずに済むからな。

 …………逃げてるなあとは思うけど、今は少しでも時間が欲しい。
 冷静にならなきゃ、気持ちの整理だって付けられないんだから。



   ◆



「ヒャッハー! 狩りだぁ!」
「何を異様に興奮してるんだお前は」

 大岩が転がる狩場で宝剣を掲げながら叫ぶブラックに、すかさず背後に居た駄熊が面倒臭そうに茶々を入れる。

 これがツカサならもっと気の利いた可愛らしい言葉を掛けてくれただろうに、本当にこの駄熊は使えない。いや、可愛さの「か」の字もないやからに無理に可愛げを出されても困りはするのだが、それはともかく。

「気分を上げてなにが悪い。僕は今日こそツカサ君に美味しいお肉をたっぷり持って行って、たっぷり食べさせて更に脂肪を付けて貰う予定なんだから邪魔すんな」
「脂肪。豚のようにか」
「いやそこまでは考えてないけど、ツカサ君にお肉が付いたら更にぷにぷにで抱き心地良さそうじゃないか。それに、家にこもりきりってのもさすがに可哀想だし、ここで一発美味い肉でも食べさせて元気にしてやりたいからな」

 そう言うと、熊は目を丸々と見開いて顎を引いた。

「お前がそんなまともな意見も言えるとは思わなかった」
「うるさいなクソ熊。お前の筋肉全部削いで獣の餌にすんぞ」

 とは言え、この熊にも協力して貰わない事には獲物を無事に捕獲できない。
 今はやめておくかと思い、ブラックは溜息を吐いた。

(まあ、ツカサ君に大物を持って行くのは、約束の為でもあるけど……元気を出して貰いたいのは本当だしなあ。なんか最近のツカサ君大人しいし、前みたいに僕にバシバシ痛気持ち良いツッコミも入れてくれないし……)

 そう。何故だかよく解らないが、この村に来て少ししてから、ツカサは何故か急に前みたいに殴りかからんばかりの暴言を言ってくれなくなっていた。
 抵抗したり意地を張ったりするのは毎度の事ではあったが、それでもこの行為も何だか手緩てぬるいし抵抗も弱々しいのである。

 いつものツカサならギャーギャーと叫んでブラックから離れるのに、最近は素直に抱かれてベッドに入るし、寝る前に太腿を触ったり尻を撫でたりしても耐えるだけで怒らない。抱き着いて首筋にキスをしながら寝ても、ツカサは体を熱くしながら寝るまで耐えているような有様だった。

 まあ、それはそれでかなり興奮するし、興奮しすぎてうっかり挿入しかねなかったので、ツカサが寝静まった後にまた彼の手を使ったり素股をしたりして自慰行為をしていたのだが、多分これもツカサは気付いていても何も言わないだろう。
 そのくらい、家に籠りきりの彼は大人しくなってしまっていた。

(モンスターや兵士が居るから、ツカサ君はきっと寂しくないだろうけど……でも、家にずっと閉じ込められて気が滅入る事は有り得るからなぁ……。そう言う時は、肉が良いって話だったから、なんとしてでも美味い肉を手に入れないと)

 昔の仲間は、肉が活力だとうるさいぐらいに騒いでいた。
 現に、ゴシキ温泉郷では美味い肉を食ってそれなりに満足したし、各地の食事でも肉料理はそこそこ美味い物が多かった。
 だから、肉は彼らが言う通りにきっと活力を得られる最たる食事なのだ。

 最上の肉を贈れば、ツカサもきっといつものように喜んでくれるだろう。
 それで、美味しい料理を作って食べてくれれば、快く「好きな色」も教えてくれるかもしれない。

「なんとしてでも美味しい肉を狩らなきゃな」
「…………肉で、元気になると?」

 呆れたように駄熊が言うが、獣である存在が何を疑うように言うのか。

「文句あんのか」

 不満げに振り返ったブラックに、クロウは深々と溜息を吐いて肩を竦めた。

「ああ、そうだな。肉でツカサが喜べばいいな。それで収まれば万々歳だ」
「なんだ、ヤケに物分かりが悪いなお前」
「さてな。……早く狩って帰るぞ」

 いつも以上に癇に障る態度だが、何だか含みがあるように思えてならない。
 だが、熊に対してはなんの興味も無いブラックには、彼が何故そう言う態度なのかは終ぞ解らなかった。









 
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