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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編
24.そばに居てくれるだけでわりと違う
しおりを挟む結局シーツや服は洗う事になってしまったが、まあ実際俺には苦でも無い。
なんせここ数日家事しかやってないからな。笛の練習とか以外はもう家事ばっかだからな! ランチョンマット作るのもプレゼント作るのも結局あれ家事だし!!
俺よく考えたらずっと家で男子らしくない事ばっかりしてない!?
思い返すと俺って何やってんだろうと思うけど、まあ、それはいい。
料理担当は前からずっと俺になってるし、オッサン二人に洗濯を任せたら酷い事になる。だから仕方ない、これは消去法による仕方のない当番なんだ。なのでその事は今は置いておこう。
とにかく今は、ブラックにバレて大事にならないようにしなければならんのだ。
耳を伏せてまだほっぺを真っ赤にしたまんまのクロウに手伝って貰い、シーツや服を洗って干し、部屋の窓を開けて酒の匂いを散らしておく。ごっそり減った蜂蜜酒はどうしようかと悩んだが、結局クロウが引き取ってくれた。
怒られるんじゃないかと思ったが、クロウが頑として聞き入れてくれなかったので、バレたら俺も素直に怒られよう……。元はと言えば、俺が辛い事を忘れようと酒に手を出したのがいけなかったんだし。
とにかく、なんとかブラックが帰って来る前に全てを終わらせる事が出来た。
あとはシーツをさっさと乾かすだけだな……。
「ツカサ。ブラックは夕方前に帰ってくるぞ、干す時間が足りないのではないか」
「うーん……確かにこのまま干してたら夜になるし、朝になったらここら辺って霧が掛かるから洗濯物が台無しになるよな」
「そ、そういう事ではないのだが……」
「まあ待て、こんな事もあろうかと俺は洗濯中にいい曜術を思いついたんだ」
「ンン?」
そう言いながら俺は両手を合わせ、それを花の形にふわっと開くと腰を屈めて手を引いた。そう、これはアレだ。ナントカ波を打つ時の姿勢である。
俺はその手に二つの異なる気を籠めると……目の前で重そうに揺れている洗濯済みのシーツに向けて、勢いよく突き出した。
「出でよっ、ウォーム・ブリーズ!」
そう、ウォーム・ブリーズ。それは直訳すると温かいそよ風だ。
名前を言った時点でどんな効果か丸わかりだが、要するにこれは温風なのである。しかし、俺の創作曜術をただの弱々しい温風と思って貰っては困る。これは俺なりに出力を強めた術なのだ。そよかぜからは逃れられないかも知れないが、風なんだからそよ風でも違いはあるまい。多少強めても問題は無いだろう。
と言う訳で、ただの思いつきでやってみたのだが、これが結構使えた。
広範囲で出力するのはちょっと大変だったけど、適度に水分を取れたので良しとする。正直ぶっつけ本番だったんだけど、術って作るだけなら結構簡単だな。
「むぅう……。ツカサ、いつも思うのだが……お前は何故そうもすぐに妙な術を創り出せるのだ? それも異世界の知恵と言うものなのか」
「うーん、そう言われればそうかも……」
かめ○めはに関しては何も突っ込まれなかったのが逆に恥ずかしいな。
いや長そう。そういうスルーされた話はすぐに流すんだ。
えーと、言われてみればそうだよな。確かに「温風」ってのは自然界にはそうそうない物だろうし、日光と風で乾かすって考えは有っても、熱と風で乾かすってのは異世界だと思いつきにくいのかも知れない。
だってこの世界にはドライヤーなんてないし、それに通じるものだって、思いつくとしたら産業革命起きてるオーデルやベランデルンくらいしかなさそうだもんな。
牧歌的で魔法の国らしい生活を続けている国では、まず思い浮かばないだろう。
そもそも、そんなに急いで乾かす必要もない訳だし。
主婦には喜ばれそうだけど、まあ普通は必要ないっちゃ必要ないよな。
そらクロウにも「妙な術」と言われるわけだ。
「とにかく……まあこれでひとまず安心だな」
「ああ、あとはオレが半殺しになればいいだけだ」
「そ、それはあの……言う前に俺も混ぜてねクロウ……」
殴る方も殴る方だけど、受け入れる方も受け入れる方だよクロウ。
解ってて素股をやらかすのもどうなんだという気持ちはあるが、ブラックも半殺しなって言ってるワリには許してるんだから、もうちょっと平和な落としどころを考えられない物なんだろうか……。
やっぱ一度話し合った方が良いのでは……などと思って、俺はふと先程までの自分の状態を思い出した。
……さっきまでは情けなくグスグス言ってたのに、泣いて酒をがぶ飲みして意識が吹っ飛んだら、一応は心って冷静になっちゃうんだから凄いよなあ……。
だけど酒を飲む前の記憶はやっぱり消えない訳だから、そこんとこを考えると俺の悩みもやっぱり「話し合った方がいいのでは」なんて思えてくる。
……俺のは、嫉妬かも知れないんだけど、嫉妬とはやっぱり少し違うんだよな。
嫉妬だけなら良かったけど、そうも言ってられないくらいに切羽詰まってたんだから、もうこれ以上自分一人でぐだぐだと悩むのは限界なのかもしれない。
でもやっぱり、話してしまうと更に怖い事が起こるんじゃないかって思ってなあ。
「…………はぁ」
「ツカサ?」
「あ、ううん。なんでもない。それよりクロウ、もうそろそろ夕飯作ろっか。昨日貰った野菜が残ってるから、今日は残りの肉も使って豪勢にしてやるぞ! 明日の狩りを頑張ってもらわにゃな!」
心配させないように元気に言うと、クロウは熊の耳をピンと立てて頷いた。
ま、とにかく……ちょっとは心が落ち着いたんだから、もうクロウには情けない所は見せないように頑張らないとな。
まだ考えが纏まらないけど、クロウのお蔭でスッキリしてだいぶ冷静になれたし、何とかなるだろう。
独りじゃきっと潰れてただろうから……クロウがいてくれて、本当に良かったよ。
そんな事を思いつつ、俺はクロウと家に戻って夕飯の支度をする事にした。
◆
「ツカサ君、明日は絶対にウマいモンスターを狩って来てあげるからね!」
夕飯を終えてクロウを一発殴ったブラックは、今日も今日とて俺と一緒のベッドの上でフンスフンスと鼻息荒く興奮している。
俺の必死の抑制でなんとか拳一発で収まったが、代わりに明後日は丸一日中一緒に居る事を約束されてしまったので、なんというか痛し痒しというか。
まあ別に……そういうのなら、いいけど……。
…………ゴホン、いや、違う。そういうのナシナシ。
自分の考えが流石にちょっとおかしく思えて変な感想を散らしていると、ブラックが不意に問いかけて来た。
「ところでさーツカサ君、好きな色ってある?」
「え?」
唐突に聞いて来たなと少々驚いてしまったが、そう言えばあんまりそんな話もした事が無かったなと思い、俺はベッドに乗り上げた。
「好きな色って、唐突だな」
「そ、そうかな? でもなんかほら、二つくらいないかな」
「二つも? うーん……別にアレが好きこれが好きってのはないんだけど……」
色、色か……そういやベイシェールでもリオルに質問されたなあ。
俺に宝飾品を渡そうとするとか狂気の沙汰かよと思ったもんだったが、今考えるとあれってリオルなりの相手を落とすデートテクニックだったんだよな……。
惜しむらくは相手がクソガキな俺だったって部分で、俺のクラスメートの女子が嵌っていたBLのアニメの受けみたいなのだったら、多分成功して今頃はリオルの虜だったんだろうな。
しかし返す返すもBLアニメってのは難解だった。展開は少女漫画的だし、それゆえどこに萌えるのか解るような気もしたけど、女が好きな俺は「女子でやっても良いのでは」と女子を求めるが故に最後まで見れなかったので、何というか文化が違うんだなぁという思いだったが……いや、そんな話では無く。色の話だ。
確かあの時って俺……宝石があんまりにキラキラしてるから、ブラックとクロウの目を思い浮かべてつい口に出しちゃったんだっけ。
でも……言われてみると確かにこれと言って好きって色は無いな。
青や黄色やオレンジは男なら普通に選ぶ色だし、赤やピンクもぶっちゃけ嫌いじゃない。黒も白も大人っぽいし暖色系の茶色とかベージュとか……うーん、強いて言うなら自然が好きってことじゃ駄目なんだろうか。
「ツカサ君?」
「えっと、色……って、満遍なく好きかなぁ……」
掛布団にもぐりこみながら言うと、ブラックが「えー」と不満げな声を漏らして、俺をわざわざ引きずり出してくる。
「ツカサ君、ほんとに好きな色ないの?」
そう言いながら、ブラックが俺の顔を覗き込んでくる。
好きな、色……。
「…………」
「あっ、赤くなった。なに、なになに?」
「っ……ちょっ、ちょっとは解れよばか!!」
こんな事で一々赤くなる自分が本当に憎たらしい。
だけど、目の前で間抜けな顔をしてるブラックを見てたら、勝手に顔が熱くなっちゃうんだからしかたないじゃないか。
お、俺だって、こんなに解りやすいなんて……やっぱり酒飲んでからちょっとおかしいぞ俺ってば。ブラックを見ただけでこんな……。
「ねー、ツカサくーん」
「ああもう解った解った! 明日でっかい肉狩って来たら教えてやるよ!!」
そう言いながらブラックを振り切って再度布団にもぐりこむと、ブラックはえへえへと笑いながら同じように布団にもぐりこんできて、背中を向けていた俺にぎゅっと抱き着いて来た。
「約束だよ、ツカサ君……」
俺を抱き締めて来るブラックは、風呂に入ったせいか石鹸の匂いがする。
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だって、そんな話をしたら雰囲気が重くなりそうだし、ブラックだって真面目に勉強して疲れてるんだろうから、俺のワガママでグダグダ話しても申し訳ないし……。
…………でも、いつかは言わなきゃいけないんだろうな……。
こんなにどうしようもない、本音を。
明日はもうちょっと冷静になって、良い案でも思い浮かべばいいんだけど。
そんな事を思いながら、俺は目を閉じたのだった。
→
※また遅れてしもうて申し訳ないです…
次は頑張ります…!!(´;ω;`)
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