異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

1.おさらいはとても大事な事です

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 俺がまだ小さなガキで、毎年のように婆ちゃんがある田舎に行って、楽しく遊んでいた頃……ある友達と二人で探検をしていた時に、そいつに怪我をさせてしまった事が有った。血が出るくらいの結構な怪我だった記憶が有る。

 その時の俺は、友達を怪我させた事でパニックになっていた。自分よりも弱かったソイツを怪我させてしまった事が怖くて、泣きじゃくりながら婆ちゃんや友達の親に「ごめんなさい」と何度も謝っていたんだよな。

 だけど婆ちゃんはそんな俺をただ抱き締め、落ち着くのを待って……叱るよりも先に、俺に“何が起こって、どうなったのか”を聞いて来たのだ。
 「ただ謝るよりも、何が有ったのかを話しなさい」と。

 ……今思えば、婆ちゃんは俺から正しい話を引き出すために、俺を抱き締めて落ち着かせたんだと思う。でも、あの時の俺には衝撃だった。だって、怒られる前に抱き締められたんだから。

 まあ、叱られる事は解っていたけど、俺は婆ちゃんが抱き締めてくれたお蔭で怖さが薄れて、ちゃんと話す事が出来た。何が起こって、何故俺が悪かったのかを。

 そして俺とその友達が話した事を合わせた結果、アレは“事故”であることが解り、俺達は危ない場所に行った事だけを怒られて全てが済んでしまったんだっけ。

 その時の俺には、それが納得いかなかった。
 当然だよな。悪いと思って謝ったのに「そうじゃない」って言われて、怪我をした友達までもが、俺を許したんだから。今思えば「濡れ衣だったから」って話だけど、当時は怒られない事こそが理不尽だと思ってたんだ。

 だけど、そんな事に悩む俺に、婆ちゃんはこう言った。

「何が悪かったのか、どうして悪かったのか。それを考えなければ、謝っても意味が無い。ただ自分が悪いと思って謝り続けるだけでは、正しい事は見えてこないのよ。怒られる事の怖さに怯えて謝るだけでは、何も解決しない事も有るの」……と。

 ――――シアンさんは、それと同じ事を……俺に、言ってくれた。
 俺は、自分のせいでラトテップさんが殺されたって事にばかり意識が行って、独りよがりに悲しんで、彼が何を望んだのかを考えようとしていなかった。

 彼が「気に病むな、つぐないだから」と言った言葉の意味を、ちゃんと考えようとしてなかったんだ。……ラトテップさんは、最初から俺に「償うために助けに来た」って言ってたのにな……。

 なのに俺は、自分勝手な悲しみに溺れて、シアンさんやブラック達に迷惑を掛けて……って、だから、それがいけないんだよな。イカンイカン。
 えーとつまり……人をいたむにも、色んなやり方が有るって事なんだよな。

 誰しもが泣いて見送られたい訳じゃない。笑顔で見送って、笑顔で自分の事を思い出して欲しいと願う人もいるんだ。
 ラトテップさんもきっと……そうだったんだろう。そうだと、思う事にした。
 俺はもう、ラトテップさんの悲しい顔を思い浮かべたくなかったから。

 ……自分のせいではなかった、とは、まだ言い切れない。
 そこまで自分を許してしまったら、俺は今度こそ駄目な人間になってしまうような気がするから。でも、いつか、自分の弱さを許せる時が来たら……笑顔で彼の思い出を話せるような人間になりたいと思う。

 気に病むなと言った彼の気持ちを、無駄にしない為にも……。

 …………うん。泣いたらすっきりした。
 でも……シアンさんには格好悪い所みせちゃったなあ……。

 おばーちゃんなんて言っちゃうし、あの美老女様に抱き着いちゃって幼児退行した上にすり寄っちゃうなんて……う、うううぅぅ………。
 や、やっちゃったモンは仕方ないけどさあ! でも、そのっ、なんか、落ち着くと、顔を合わせらん無いって言うか恥ずかしいっていうかあああもうううう。
 やめやめ! この話やめ!!

 とにかく、俺は立ち直った、チャンピオンのごとく立ち直ったのだ!
 ……と言う訳で、この二日は体調を整えたりシアンさんの調査に強力したりして、首都のディーロスフィアに滞在していたのだが……今後の事を考えた結果、俺達三人はシアンさんと一緒にプレインから離れる事になった。

 シディさんが国の立て直しのために動くので、その時に俺達のような客人が居るといざこざが起きそうで危険だから……という事情も有ったが、主な理由は俺が襲撃されないように、国を離れて安全な場所に避難するためだった。

 ……そうなんだよな……。実はまだ、ギアルギンとレッドが確認されてないんだ。
 そう、失踪状態。つまり、あいつらは無事に逃げ出してたらしいんだよ。

 俺は、心身が落ち着いた後に事の顛末てんまつを聞かされたんだが、どうやら【工場】から運ばれた病人達の中には、二人のような背格好の者はおらず、調べても彼らの痕跡は故意に消されていたらしい。
 もちろん、ギアルギンが持っていた【機械】の設計図もドロンだ。

 ということは……あいつらは逃げおおせたって訳で……。
 レッドはまあ、いいとしても……ギアルギンを逃したのは痛いよなあ……。
 シアンさんの推測では、議事堂で残虐な事件を起こした犯人はギアルギンかレッドのどちらか。動機から考えるとギアルギンの可能性が高いと言っていた、
 どうも【機械】の事を詳しく知っている人間達を優先的に殺したっぽい。

 あの男なら考えそうな事だと思ってゾッとしてしまったが……今となっては、もう解らない。この世界には防犯カメラも警察も科捜研もないからな。
 なので……足取りが解らない以上、俺達を放っておく訳にはいかないという事で、シアンさんに連行される事になったのである。

 ……ま、まあそうだよね……俺の話聞いたら、もうレッドには会わせられんわ。

「はぁあぁあああ~……今思い出してもムカムカムカムカムカムカするぅう……」

 うん、ブラック。隣でリズム刻まないでね。俺ダイジェストの途中だから。

「まったくだ。ツカサに非道な行いをしていながら、尻尾を巻いて逃げだすなど……立派に獣人の掟を全うしたラトテップに救われておいて、なんという無様さだ」

 そうだね、俺もそうだと思うよクロウ。
 でも隣に座って俺の手をずっとペロペロするのやめてね。手がふやけて死ぬぞ。

「つーかああもう! なんなんだよお前らはーッ!! 馬車の座席対面スッカスカじゃん、お前ら二人余裕で座れるだろぉ!? なんでわざわざ俺の隣に座っておしくらまんじゅうしてんだよォ!!」

 やっと俺の“自分の心を落ち着けるための”脳内ダイジェストが、現在の場面にまで移って来たのに、どうしてお前らはそうシリアスをぶち壊すかなあ!

 あとブラック、ムカムカ言いながら俺の太腿触るのやめろ、やめんか!

「もうヤダ、俺が対面に行く!!」
「あーんゴメンゴメンってば! ツカサ君行かないでっ」
「席を変えても俺とブラックが付いて行くから意味が無いぞツカサ」
「解ってるけどお前らにセクハラされるよりましなんだってばっ」

 頼むから真面目にやれよと泣き喚きたくなるが、安全な場所となると途端にスケベになるオッサンどもには効果は無かろう。
 結局俺が我慢するしかないんだよな……ははは……。
 ……まあ、俺が“後から話す”と言っていた事を話した時の、今すぐにでもレッドとギアルギンを殺しに行きそうだった時と比べるとマシだけどさ……。

「はあ……」

 思い出しただけでも溜息が出る。
 シアンさんに慰められた次の日……やっと落ち着いて話せるようになった俺は、ブラックとクロウを呼んで、シアンさんも加えた四人で卓を囲み、“脱出したら話す”と言っていた事を聞かせた。

 ――俺が“支配された”事と……黒曜の使者についての、新たな事実を。

 でも、実は思ったよりブラックは冷静で、クロウも熊耳の毛を思いきり膨らませて目を丸くしてはいたけど、どこかに納得するような部分も有ったのか、そこまで取り乱さずに話を聞いてくれた。

 黒曜の使者の事実については、何故かシアンさんが目を見開いてショックを受けていたけど……神族でも知り得ない情報だったんだろうか。とにかく、俺が思っていたよりかは穏便に話を済ませる事が出来た。

 ……うん、まあ……話については穏便だったんだけど……ギアルギンとレッドが俺に無理矢理“支配”を行った事には、ブラックもクロウもブチギレましてね。
 シアンさんと俺が止める間もなく、部屋を三つぐらいぶち壊したんだけど……ま、まあそれは忘れよう。過ぎた事なんだ。フォーゲットだ、フォーゲット。

 俺の“支配”に関しては、ブラックはかなり怒って「するわけないだろ!!」と母親代わりのシアンさんにまでブチギレて怒鳴ってたので、その辺りは心配してないんだけど……こうなると他のグリモアの事も心配になってくる。

 あっ、アドニスやラスターが心配って事じゃないぞ。あいつらはそんな事するような奴じゃないもんな。でも、今後もし俺達と面識のない新たなグリモアが現れたら、その時に俺は完全に支配されてしまいかねないんだ。
 だから、それを防ぐ術が見つかるまではって事で……シアンさんが言う「ひとまず安心できる所」に馬車で向かってる途中なんだが……。

 そこで早速セクハラして来るんだからもう、この中年共どうにかして欲しい。
 アンタら、神殿では滅茶苦茶俺の事心配してたよね。
 涙ぐんでグスグス言ってたよねえ?!

 なんでそっから全部話してスッキリしたら、いつものようにセクハラするの!
 かと言ってシリアス続けられても嫌ですけどねまあ!

「それはそうと……僕達今からどこにいくんだろうね」

 俺の怒りが収まったのを察したのか、ブラックはまたもや俺の太腿を揉みながら馬車の外の景色を見やる。ええクソこのスケベオヤジ。
 どうせ触るんならもうちょっとこう、恋人らしく……いや、何でもない。忘却。

 と、とにかく、アレだ。
 まだ俺達は色々と情報を整理しなきゃ行けない。

 落ちつける場所とやらに着いたら、さっさと話し合いでもしなきゃな。
 えーっと……そう言えば、俺達マジでどこに行くんだっけ……?

「クロウ、知ってる?」

 隣で無表情な顔をしながら、俺の肩にごりごりと頭を押し付けてる熊耳オッサンに問いかけると、相手は体を離して首を傾げた。

「確か……ラゴメラという、山間部の村だったぞ」

 村。ラゴメラ村か。

 一体どんな所なんだろうな……。













※(`・ω・´)と言う訳で、ラゴメラ村編です
 たくさんラブラブさせる&二人の関係も進展するのでどうか
 よろしくお願い致します…!!!
 
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