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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編
23.がんばるためのなにか1
しおりを挟む※直してたら後半えっらい長くなったので分けますすんません(;´Д`)
移動するだけの回になってしまった…
【工場】に戻った俺は、体が汚れたからと言ってレッドに風呂を借りて、隅々まで洗いながら自分の体に痣などが残っていないか念入りに調べた。
自分でもよく冷静に風呂に入れたなと思ったが、それはもしかしたら襲われ慣れていたからかも知れない。俺ってば、結構な回数犯されかけてたもんな……。
……それでもやっぱり、怖いのは拭えなかったんだけど。
だけど、だからと言っていつまでも怖がってる訳にはいかない。俺にはやる事があるんだ。それに、ブラックとクロウに会える。だから、いつまでも鬱々とした気持ちのままで居る事は出来なかった。
幸い、風呂に入って夕食を食べてレッドに連れられて部屋に戻ったら、それなりに心は落ち着いたみたいだ。今後の事を考えるべきだったかもしれないが、今はあまり考えたくない。とにかく、やる事をやらなければ。
「…………よし、やるぞ」
ラトテップさんが来るまで、とにかく【ゲイル】を習得してちゃんと使えるようになるんだ。気を紛らわせるのにもちょうど良いし頑張ろう。
そう思い、俺は昨日のようにベッドの脇に身を隠すとどっかと座った。
「えーと……昨日は【ブリーズ】の感覚を掴もうとしてたんだっけ……」
【ゲイル】をしっかりと発動させるには、そよ風を発生させる【ブリーズ】の感覚をまず掴んでおかねば始まらない。風を重ねて竜巻のように回すイメージを作るのだから、まず発生させる風を作るのが基本って奴だよな。
というわけで、昨日はそよ風祭りだった訳だが……二日目ともなると、それなりに感覚が解って来た。風の動きとでも言うのだろうか。自然と、術を発動した時の空気が流れが解って来たのだ。これなら【ゲイル】もなんとか出来るかもしれない。
「風を重ねて、流動させて、竜巻を作って外側から保つイメージ……」
竜巻のみを自立させるのではなく、竜巻を補助するように周囲に風を巻き起こし、その風が発動している最中は絶えず竜巻に流れ込むように想像する。
周囲の空気を動かして、はじめて竜巻はその形を保てるのだ。
息を詰めて、両手で軽く範囲を決めると、俺は――口を開いた。
「小さな空気の渦よ、風を巻き上げ姿を現せ……【ゲイル】……――!」
手に黄金の光が灯る。
その光が俺の両手が囲む範囲に光を落とし、その中で風が渦を巻き始めた。
空気の流れが、はっきりと見える。
渦は中央で立ち上がり徐々に姿を変え始め……手で握って消せるほどの小ささではあったが、すこし緩やかな巻き上がりの竜巻が出来上がった。
「やった!」
小さいけど、なんとか旋風が出来たぞ!
竜巻をイメージしてたけど、ゲイルは元々旋風なので暴風でなくても良い。ようは瞬間的な強い風が造れればそれでいいのだ。
この程度の威力だと俺が欲している術はまだ造れそうにないけど、もっと強い旋風を作れるようになったら、どうにか形になりそうだ。
そこまで考えて、俺はふとあることに思い至った。
「……そうだ。術が完成したら、全部解決するじゃん! もし明日術を完成させられたらブラック達も助かるし、そしたらブラックの【幻術】を使って兵士達をなんとかして、シディさんを攫って逃げればいい! 面倒な事になるかもだけど、シアンさんに助けを求められればきっと打開策は見つかるはずだ……!」
なんでもっと早く気付かなかったんだろう……!
コレが完成しさえすれば、全部上手く行くじゃん。万々歳じゃん!
だったら、もう俺はこの術に賭けるっきゃない! よし、今夜は徹夜で頑張ろう。そうなると不思議と力が湧いて来るぞ。ラトテップさんと倉庫を探ってブラック達と話をしたら、すぐに帰って来よう。そんで、完成を急ぐんだ。
よーし、なんか元気が出て来たぞ。頑張れ俺、これが完成したら脱出だ!
なんて事を考えていると、丁度ラトテップさんが俺を迎えに来てくれた。
「こんばんは、ツカサさん。今日は倉庫の調査が先でしたね……さ、行きましょう」
うんうん、ラトテップさんはやっぱり有能だ。
今日も今日とてダクトに登り、今日は牢屋へ行く道とは違う方向へと進む。
倉庫はどうも工場の端っこにあるらしく、ラトテップさん曰く換気ダクトの中を通るとかなり大変らしい。膝の心配をされたが、今日の傷も治るくらいの自己治癒能力が俺にはあるので、問題は無いと言っておいた。
……本当は、ちょっと怖いんだけどな。
「ところでツカサさん、今日は外に出られてたんですか?」
「あ、は、はい。レッドが神殿の方に連れて行ってくれて……」
「ほぉ……レッド様は相当貴方に入れ込んでいるのでしょうね。しかし、ギアルギンは貴方が逃げる手がかりを掴むような事は絶対に避けたいでしょうし……庭園だけなら大丈夫だと思って許可したんでしょうか……」
「あ、やっぱりアレもレッドの独断じゃないんですね」
ラトテップさんのお尻を見ながら言うと、相手は移動しながらも頷く。
「前に説明されたかも知れませんが、神殿とこの工場の施設の重要な物の鍵などは、特定の人物によって管理されています。あの扉番が必要な鉄扉も、特別な鍵を持つ人物であれば一人で開錠できる……その権限を持っているのが、ギアルギンなのです。ですから、彼以外の者には動かせない物も有ります。あの神殿へと移動する軌道車も、鍵は彼が持っていて、動かすには許可が必要なんです」
「なるほど……だから、ギアルギンがレッドに許可を出したと……」
しかし、そうなると……何だか妙だな。
あのギアルギンがレッドのワガママを許容するだろうか。
ラトテップさんの言う通り、あいつは俺が脱出する為のヒントを見出すのを異常に警戒しているし、その可能性を潰す為なら俺を壊す事もいとわない。
だからこそ、レッドが俺を庇った事に激昂したんだろうし、早いとこ俺を【機械】に組み込みたくて二三日とか期限を決めようとしたんだ。
なのに、その警戒をわざわざ緩めるなんて考えられない。
俺の回復を願って……なんてのは有り得ないだろうが、だとするとなんの思惑が有ってあんな事を……俺を襲いかねない兵士達を、御付きに……。
「…………っ」
だ、だめだ、考えるな。今考えてもどうしようもない。
とにかくギアルギンの行動も何かおかしいんだ。それは間違いない。
「敵の動きがなんだか解せませんねぇ。……それだけツカサさんの心が【機械】に影響するという事なのでしょうか?」
「俺の力を吸い取るって言ってたし……そこに関係あるんですかね」
「どうでしょうね……。そんな事が可能なのかは私には解りませんが……まあそこは、改めて調べましょう。さて、そろそろ倉庫に着きますよ」
安全を確認するまで声を出さないように、と言われて、俺は頷く。
最初に換気ダクトに登った時みたいに息を潜めて移動し、丁字路の突きあたりから左へと曲がると――そこは長い直線の通路になっており、少し先の方に、左側に四つ道が分かれているのが見えた。
なんか……なんだろう。初めて見る感じの道だ。
しかし疑問を口にする訳にもいかず、突き当りまでゆっくりと進む。
ラトテップさんは俺に「突き当りのすぐ横の通路に入る」とジェスチャーを見せて、その通りに進んだ。俺も音を立てないようにして後に続く。
すると……四つの通路の内の一つであるその通路は、床に等間隔に格子状の蓋が嵌っていた。その中の一つを覗いてみると……
「…………!」
等間隔に並んだ金属の棚のような物がみえる。
まるで、図書館のようだが、しかし棚に置かれているのは本ではないようだ。ここからでは暗くて詳細が確認できないけれど、棚にある物が本ではないとすると……やっぱり、ここが倉庫なのだろうか。
ってことは、あの四つの横道がある範囲全部が倉庫ってこと……?
えっ、広くないこの倉庫。コス○コかよ。
「……よし、人はいないようだ。ツカサさん、格子を開けるので待っていて下さい」
ラトテップさんの言葉に頷いて、俺は彼が格子を外してくれるのを待った。
こういう時は焦っても駄目だもんね。急かしたら手元が狂うかもしれないし、俺は黙って置くに限る。と言う訳で、謎の道具を格子に差し込んで、外側のネジを器用に外しているラトテップさんを見ていると……最後のネジを外し終わったのか、ラトテップさんはネジのついた謎の道具を格子から外し、ネジをマントの中に隠した。
「…………。よし、まずツカサさんから降ろしますね」
「お、お願いします」
今回は天井から床までの距離が高すぎるので、ラトテップさんに体をロープで縛ってもらい、そのまま荷物のように下へと降ろして貰う。
俺が先に降りるってのは毎回不安ではあるが、華麗に降りられない以上仕方がない。こんな所で曜術使う訳にもいかないし。
という訳で、荷物のように降ろして貰った俺は、縄をほどきながら周囲をぐるりと見渡した。俺は夜目が効かないが、それでも多少の輪郭くらいは解る。
それに、この物凄く広い倉庫は等間隔に緑の非常灯が設置されており、薄ぼんやりと周囲を確認する事が出来た。
「うわ……ほんとに外国のスーパーとかホームセンターみたい……」
棚と言うよりも、工事現場の足場というレベルの高さで一段一段が詰まれている棚に、俺の身長ほども有る木箱の群れ。
大きな棚の中には、無造作に鉄の棒や何かの資材らしきものが置かれていて、値札が有ればそういう店なのだなと錯覚してしまいそうだ。
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しかし……二十五メートルプールが十個も二十個も入りそうな程に広いこの施設の事だ、資材だけでは無いものも沢山保管されているに違いない。
「ここは建築資材のエリアですね。……私が確認したものは、別の場所のようです。さ、行きましょうツカサさん」
「は、はいっ」
さて、どんな物が保管されているのか。
何だか色んな意味でドキドキしてきたぞ……。
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