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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編
20.進む道は希望か絶望か
しおりを挟む※ちょっと諸事情で遅れました…申し訳ない……
そうこうしている内にラトテップさんが現れたので、今日も今日とて換気ダクトを通ってブラック達の待つ牢屋へと向かう。
なんかもうこの道を四つん這いで進むのも慣れっこだな……。
素早く移動して牢屋へ辿り着くと、さっそくブラックが檻から手を出して、こちらに大仰に手を振って来た。
「わーい! ツカサ君、おいでおいで! 再会のちゅーしよ~!」
「だぁーもー! 一々ねだってくんな!」
「ツカサ、オレにも舐めさせてくれ」
「クロウも乗っからなくていいってばっ」
ああもう調子に乗りやがって!
ヒゲを伸ばしたり熊の姿になって同情引いて、また美味しい思いをしようと思ってやがるなこいつら、まったくこのスケベオヤジどもめ……。
昨日はブラック達も切実そうだったからヤッちゃったけど、でも今日は確実に調子に乗ってるじゃないか。こんなん俺でも気付くわこんちくしょう。
絶対に流されないんだからなと思いつつ、俺は早々に邪悪なオッサンどもを無視して、ラトテップさんと本日の情報交換を行う事にした。
「さて、昨日の話からですが……相変わらず、設計図は見つけられませんでした。【機械】が造られている様子もないので、完全に計画は停滞してるようですね。……やはり、ツカサさんとマグナ様がいなければ計画の肝心な部分が動かない……とそう言った感じなのでしょう。ツカサさんが意図的にギアルギンから離れた事で、色々と明確に見えて来たようで助かります」
「い、いや……それほどでも……」
何にもしてないんで褒められても困っちゃいますよ。
だって、あの件はあいつが勝手に自爆だし、俺が解放されたのだって偶然でしたって感じだからなあ。完全にタナボタラッキーだよねアレ。
やっぱ素直に喜べないなあと悩む俺を余所に、ブラックはまた別の事をラトテップさんに質問していた。
「ギアルギンについては何か解ったのか?」
「いえ、残念ながら……。ですが、少し気になる事が有りまして」
「気になる事?」
ブラックの質問に言いよどむラトテップさんに問うと、相手は軽く頷いた。
「それが……今日は、ツカサさんが連れて行かれた【アニマパイプ】の部屋などを重点的に探っていたのですが……その時に、ギアルギンが現れまして。何をするのかと思って見ていたら、妙な事をし始めたんですよ」
「妙な事?」
「ええ、その……【アニマパイプ】を動作させたり、かと思えば停止させたり……。何だかよく解りませんが、動作の確認をしているように見えました」
動作の確認?
なんでだろう……ここにあの装置があるって事は、ギアルギンもある程度【アニマパイプ】の動かし方を知ってるって事だよな。それなのに動作確認って……。
いや、でも、決めつけるのはまだ早いな。
もしかしたら、この国の【アニマパイプ】もオーデル皇国の物と一緒で、遥か昔に造られた異物なのかもしれない。起動させたのだって、つい最近なのかも。
だとすると、何も進まないこの期間に動作を確かめておこうと思うのは解る。
「ギアルギンもあまり使い方を知らない……とか?」
俺の問いに、ラトテップさんは解せないという顔で首を傾げた。
「うーん……難しい所ですね……。私見ですが、手の動きに迷いは無かったようなので、少なくとも操作に関しては慣れているように見えましたが……」
「そうですか……」
だとすると、ますます謎だな。
思わず腕を組んでしまう俺達三人だったが、答えの出ない事を考えていても仕方がないので、今はとりあえず置いておくことにした。
「他に何か気付いた事は?」
再び問うブラックに、ラトテップさんはすぐに応える。
「相変わらず鉱石を運び込んでいて、まあ羽振りがいいな……という感じですかね。あとは……この工場を動かすための燃料や食料、備品などを一気に運び込んでいましたよ。どれも一定の規格で同じ幌を使った荷車だったので、よほど大きな商会に物品を頼んでいるのでしょうね。ですが……」
「それが何か問題でも?」
「この国には、今日この工場に搬入した品の全てを賄える商人や商会は、恐らく存在しないと思うんです。なので、他国からの輸入品という事になると思うのですが……この工場に直接運び入れると言う事は、かなり親密な付き合いのような気がするんですよね。それがどんな商会なのか気になって……」
「他国の商人と昵懇の仲か……それは確かに気になるな」
クロウの深刻そうな言葉の意味が理解出来ずに首を傾げていると、そんな俺を見かねてかブラックが説明してくれた。
「商人ってのはね、基本的に利益主義なんだよ。自分が得する方の肩を持つ奴らで、その為なら国を裏切る事だってあるし……莫大な報酬が約束されているのなら、敵国を落とす手伝いだって喜んでやる。そんな存在の中でもかなり力を持っている人間が、ここのクソみたいな支配者に味方してるとなると……そいつは、自分の国すら裏切りかねないって事だ。それって、戦争の火種になる可能性があるだろう?」
「あ……なるほど……」
この世界の商人は自由に国を行き来できると言っても、やっぱり国には所属している立派な「国民」だ。それ故に、オーデル皇国のリュビー財団みたいに、国を助ける義務があるし、自分が所属する国を脅かす事はしてはいけない。
特に、大量の品物を扱う大商会レベルの商人ともなれば、ちょっとの裏切りで国が混乱しかねないからなあ……。
うーん……またもや頭の痛い事実が浮き上がって来たぞ……。
「どこの商会かは解ったのか?」
クロウの問いに、ラトテップさんは首を振る。
「いえ、相手も最初から身分を隠して運搬していたようなので……ですが、荷車や幌の感じからして、かなり位の高い商会かと」
「……ふーむ……。せめて倉庫の中を探れたら、どこの国の商会なのか何となく解るかも知れないんだけどねえ……」
そうだよなあ。運ばれて来た物……例えば食料とかでも、だいたいどこら辺の産地かってのはこの世界なら分かりやすいもんな。
この世界は「この場所にしか生えない」ってモノが多い。だから、もしそういった類の物があれば、俺にだって容易に見分けられる。備品なんかも、必ずパッケージや製品などにロゴくらいは付いてるだろうから、きっと解ると思うんだが。
うーん、ラトテップさんは倉庫の場所を知らないのかなあ。
「ラトテップさん、そう言う物は何処に運ばれて行くんですか?」
「ああ、場所なら大体把握できていますよ。……行ってみますか?」
そりゃ行くに決まってる。こっちだって膠着状態はごめんだし、何かが判るのならとにかく動きたいんだからな。
ブラックもクロウも調子に乗り始めてるけど、でもやっぱり牢屋は可哀想だし。
それに……万が一俺が発動しようとしている術が役に立たなかった場合、他の糸口を見つけなくちゃいけないんだからな。
「倉庫に行くって、ツカサ君大丈夫……?」
心配そうに問いかけて来る赤い髭モジャのブラックに、俺は力強く頷いた。
ここは「任せて安心!」と思わせるくらいの勢いで行かないとな!
「おう、俺だって男だ。やるときゃやるさ!」
大丈夫だとサムズアップしてブラックとクロウに俺のやる気を示してやったが、オッサン達はと言うと。
「だからぁ……そうやって男ぶるから心配なんだってば……」
「ツカサ、何度も言うが、メスとしての自覚を持て! 襲われたらどうするんだ!」
………………。
いや……うん……そうね。そうだね……。
今まで「男を見せてやるぜ!」とばかりに行動して痛い目に遭って来た訳だしね。悔しいけどこればっかりは反論できないわ……。
いつもなら、難色を示すブラックと真剣に怒るクロウに言い返す所だったが、余計な心配をさせるのはいけない事だ。
メス扱いは何時まで経っても慣れないが、今回は仕方あるまい。素直に頷こう。
「わ、解った。調子に乗らないように慎重にやるし、ラトテップさんから離れないから安心してくれよ。絶対に危ない事もしないからさ」
そう言うと、ブラックが拗ねたように赤髭に埋もれた口を尖らせた。
「……ホントだよ?」
「ホントホント!」
子供のように拗ねるオッサンに笑顔で言うと、クロウが隣の牢屋から胡乱な目で俺をじいっと見つめて来る。
「嘘をついたらまたお仕置きだからな」
「わ、解ってます……」
ヒィイ……く、クロウ、頼むからもう羞恥プレイするのだけは勘弁して下さい。
アレやるくらいならもうメスの気分で慎重になる方がマシだわ。
「じゃあ、明日は倉庫を見てからこちらに来ましょうか。それまでに、ツカサさんが楽に降りられそうな足場を探しておきます」
「い、色々とすみません……」
ぐう、俺がもうちょっと機動力が高かったらホバリング移動とかできそうなのに。
凡人以下の体力で申し訳ないと頭を下げると、ラトテップさんは苦笑した。
「はは、良いんですよ。これは、私が好きでやっている事ですから」
そう言って笑うラトテップさんは、何だか少しだけ泣きそうな顔に見えた。
予想外……いや、今まで想像していた「悪い予想」より、ずっと良い結果だった。
ほんの数刻前までこの部屋に居た愛しい相手の事を思い、レッドは溜息を吐く。
嬉しい事であるはずなのに、何故か心は晴れない。それどころか、嬉しさよりも己の愛する相手が縛られている業を思えば、どんどん顔は曇っていった。
「……ツカサ…………」
愛しいあの少年が座っていた椅子に手をかけ、背凭れの頭を指でなぞる。
ただの木の感触も、愛しい者が触れていたと思えば不思議と愛着が湧く。そんな自分の思考に苦笑が滲むが、そこまで愛しいと思えばむやみに自嘲も出来ず、レッドは再び息を吐いて私室に戻ろうとした。
――と。
「……誰だ」
レッドの機嫌を窺うような扉を叩く音が聞こえて、少し大股気味で扉へ向かう。
問いかけたこちらに、相手はすぐに答えを返してきた。
「お休みのところ、申し訳ない」
この声は飽きるほど聞いた。自分を使う、いけ好かない男の声だ。
「何の用だ」
つっけんどんに返したレッドに、いけ好かない男――ギアルギンは答えた。
「ええ、ちょっと……貴方に関係する事で」
「…………入れ」
そう言われれば、部屋に入れざるを得ない。
ツカサとの甘い時間が残る部屋にこの男を入れるのは酷く不快だったが、契約した以上は従わねばならないし、邪険にも出来ない。
それに、一度は滅ぶはずのこの身を救われた恩が有る。
ツカサにも言われたほどの「失態」ではあるが、救われて契約したのであれば、レッドはギアルギンに反目する事は出来なかった。
例え、今はギアルギンの意思に背いて「ツカサを連れて逃げたい」という思いを抱いていたとしても。
「……ずいぶんと可愛がっていらっしゃるようですね、あのエサを」
入って来るなりツカサに無礼な口を聞くギアルギンに、レッドは目に見えて嫌悪感を現した顔で相手を睨む。
「ツカサをエサと言うな」
そうは言うが、ギアルギンはこちらが嫌がればそこを突いて来る男だ。
当然、レッドの嫌悪に気を良くしたらしい相手は、仮面の下の口を笑ませた。
「エサ、でしょう? あなたにとっても、そして……グリモアにとっても」
「…………」
「それで……試してみましたか? “アレ”を」
その言葉に、レッドは暫し言い淀んでいたが――観念したように、頷いた。
「……試した」
「どうでした?」
「…………ツカサは……予想以上に、俺を許しているようだった。最初の時のように反発されるかと思っていたが、今度は間を置かずに染まったよ」
その言葉を聞いて、ギアルギンはニタリと歯を見せて喜ぶ。
「おお、それはそれは良かったではないですか! このままエサ……いや、ツカサがレッド様に心を許せば、私はツカサを楽々組み込めますし……レッド様は、その後でツカサを思う存分愛する事が出来る。ああ、最初は取り乱して申し訳ありませんでした。まさか、レッド様がそれほどにあの肉奴隷の扱い方を心得ていたとは……」
「失礼な事を言うなと言っているだろうが!!」
肉奴隷、などという下の下である存在の名でツカサを表されて、思わず激昂して声を荒げるレッドだったが、ギアルギンは恐れもせずにわざとらしく身を縮める。
明らかにこちらをバカにした態度だった。
「おお、怖い怖い。……ですが、“怒り”は貴方の“悪心”ではないでしょう? 貴方の持つべき感情は“嫉妬”……嫉妬の悪心に選ばれた貴方は、その心を誇るべきだ。そうなさらないから、ツカサを完全に自分のモノにできないのですよ?」
「……解っている……解っているさ……!!」
だが、その言葉に完全に肯定してしまえば――――
レッドは、あの憎き男に屈した事になる。
男としても、復讐者としても。
「……ま、いいでしょう。貴方にはいずれ、何が何でも【紅炎のグリモア】の能力を制御して貰わねばなりませんからね。早い所悪心を受け入れて、その不安定な情緒を大人しくしておいて下さい。【機械】の壮絶なる火力は、貴方のグリモアに係っているのですからね……」
「………………わかって、いる……」
それ以上の事が、何も言えない。
(……ツカサに守ってやると言ったくせに、俺は…………)
なんと、矮小で情けない男なのだろう。
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