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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編
17.君が居なければ何も始まらない1
しおりを挟む※重要な部分が長くなったのでふざけた部分は次回になりました…
重ね重ね申し訳ない…_| ̄|○ 次はちゃんとやらしいです…
「ツカサ君元気? 変な事されなかった? ねえ僕今目隠しされてるからツカサ君の顔が見えなくて不安なんだよ! だからさ触れさせてよ顔で良いからいや顔じゃなくても体とか胸とか足とか腰とかお股のあい」
「うっるっさい!! 頼むからちょっと落ち着け!」
せっかくホッとしたりしてなかったりしたのに、お前の長い一言で台無しだわ!
まあでも、二人と長く離れていると、不思議とこの変態な台詞も「懐かしいなあ」と思う訳で……ああ、なんでこんな変態台詞に懐かしがらなきゃいけなんだか。
ブラックとクロウが相変わらず元気そうなのには安心したけどさあ。
「ツカサ、何もされてないか? 大丈夫か」
ブラックとは違い、クロウは大人しく檻の中で待ちながら問いかけて来る。
手を伸ばして触って来ようとするブラックから逃れて、俺は隣の檻のクロウの所へと駆け寄った……ってうおお! 熊になっとる!
「くっ、クロウ熊の姿なの!?」
「ああいや、こうしていた方が服も汚れないし、体力も消費が少なくなるからな」
体力の消費がってことは……。
「も、もしかしてやっぱり、メシ少ないのか……?」
「ム? まあ確かにそうだな。いつもはツカサの美味いメシとツカサで腹がいっぱいになるし、ここ数日は舐め」
「あーっ、そうだあの俺リオート・リング取り返したから食料食べながら今後の事を話しあおうぜー! なーっ!」
チクショウ、クロウはマトモだと思ったのにダメだった。
と言うかエロい気持ちが無いからこそ余計にアカン。ああもうこんな会話もラトテップさんに全部聞かれてるんだと思うと死ぬほど恥ずかしい……。
でも今はそれより二人に食料を渡さねば。
リオート・リングからアマクコの実やらなんやら食料を出して二人に与えつつ、俺は気を取り直し、改めて四人での話し合いを始めた。
まずはラトテップさんの話からだったが、丸一日工場を探ってみた結果、どうやら奇妙な事が解ったらしい。
それは、この場所に開発されているはずの【機械】が見当たらないって事だ。
設計図が在るって事は、完成とまでは行かなくとも、エネルギーコアの部分以外は多少は組み立てられていてもいいはずだ。それなのに、工場のどこを探しても【機械】に組み込むべき部分が見つからなかったんだそうな。
意図的に隠しているのかとも考えたが、それにしては運び出すための場所も無く、この工場はどうやらここが最下層なので、他に部品を移す場所も見当たらない。
辛うじて「組み立てる予定の場所」的なエリアは見つかったのだが、そこには何も無く、その場所も人気が無かったんだそうな。
エリアを示すランプ的には赤――つまり、かなり位の高い人間しか入れない所みたいだから、工場内のスペース的に考えてその場所に【機械】が置かれないとおかしいとの事なのだが……確かに解せないな。
マグナの話では、マグナが居れば一気に開発が進むと言っていた。
となると、元々ある程度は開発が進んでいた、と考えるのが普通だろう。なのに、部品を作るだけ作っておいて少しも組み立てていないのは解せない。
「それと……工場に運び入れた素材や材料などの目録を見つけまして、少し読んでみたんですがね……有り得ない量の鉱石を【十二議会】の勅命で運び込んだにしては、どうもその全てが使われている気配が無いんですよねえ」
「倉庫か何かに放置してあったのか?」
ブラックの問いに、ラトテップさんは頷く。
「こんなに集めて何になるってくらいにね。……以前……商人として動いていた時にですね、最近は運び屋関係の奴らがやけに捕まらないと思ってて、それで調べた事があるんですが……国の主要な港町に辿り着きましてね。そしたらなんとまあ、大量の鉱石を乗せた船が貴族専用の発着場に何十隻も集っているのを見つけまして」
「そりゃまた……大胆な輸送方法だな」
「国ぐるみの悪巧みだから、そこまで大っぴらに運べたのか」
中年二人の呆れたような言葉に、ラトテップさんは苦笑する。
「大きい後ろ盾って言うのは、本当にありがたいですねえ。……でまあ、その時に、上層部が“この計画”の為に鉱石などを集めていて、それを全て船に運び込むために、金に糸目を付けず運び屋を大金で独占しているんだと気付いたんです。……なので、そのくらい人や物を大量に集めたって事は、私には想像できないほど大きな【機械】を作る物だと思っていたのですが……現状、倉庫を圧迫するほどの鉱石が保管されているだけでして」
「…………」
その話には、色々と妙な所がある。だが、俺が一番引っかかったのは、恐らくラトテップさんが伝えたい事とは別の部分だった。
運び屋を大金で独占した。
と言う事は、ほとんどの運び屋はプレイン共和国の為に動いていたって事だよな。
もしかして、ここで【機械】を作るために運び屋の人達の殆どを駆り出したから、個人間の手紙や荷物のやりとりが滞っていたんだろうか?
しかも、鉱石を溜め込むって言うのも、思い当たる節がある。
全てが【機械】のためだとすると、色々と謎が解けるぞ。
オーデルやベランデルンの人達が「配達人が捕まらない」と言っていたが、あれはプレイン共和国が輸送業の人達を独占していたからだったんだ。
それに、鉱石の事だって、今の状況と併せて考えると納得が行く。
ベランデルンの腕利き美人鍛冶師であるグローゼルさんが「最近は鉱石が手に入り辛い」と言っていたのも、恐らくこの国の奴らが全て持って行ったからに違いない。そうでもないと、こんな事態になるはずがないんだ。
この世界は、異様に資源が豊富だ。
草花は非常に短いスパンで復活するし、鉱石だってザクザク掘れる。
そんな世界で資源が枯渇するなんて事はありえない。誰かが独占しようと考えでもしない限り、市場に並ばなくなるはずがないのだ。
そうか……俺は鍛冶師とかでもないから別段気にしてなかったけど……考えてみると、色んな所にプレイン共和国の影はあったんだな。
…………でも、なんかスッキリしないな。
なにか忘れているような……。
「思ったのですが、もしかすると……この計画は、マグナ様とツカサさん、どちらかが欠けても成立しないのではないでしょうか?」
俺が考えている間に、ラトテップさんが凄い事を言っていた。
え。え?
何その話。どういうこと。
「なるほど……。だから、敢えてツカサ君を蛇の生殺し状態で生かして、僕達の事もエサとしての利用価値があるから、まだ生かしていると」
「ツカサさんに、こんないやら……ゴホン、いかがわしい服を着せて放置しているのも、抗う心を削ぐためでしょう。マグナ様を捕まえて協力させない限り、機械は完成しない。だから、組み込む事も無く悠長にしているのだと思います」
……確かに、そうだ。
考えてみると、最初からギアルギンの行動は変だったよな。
レッドは俺を助ける為に「精神が弱った俺では不具合が起きかねない」と言ったが、その事でギアルギンが退いたなら妙な事になる。
だって、今まで俺に対して行われた事は、自然治癒能力の確認のためも有っただろうけど、ほとんどが「俺の心を壊す行為」だったんだぞ。俺が壊れると困るんなら、絶対にやっちゃ駄目な行為じゃないか。
ラトテップさんが見て来た事が間違いないのなら、あのギアルギンがレッドに強く出られただけで引き下がったのも頷ける。
じゃあ……俺をあんな拷問で辱めてたのは、ただの時間稼ぎだったって事?
…………あ、あんにゃろめ……。
「だが、マグナが居なければ進まないとはどういうことだ? 設計図に神童を使えとでも指示があったというのか」
不思議そうに首を傾げる大きな熊さんに、ラトテップさんも困り顔で首を振る。
「そこまでは……ですが、設計図さえ手に入れば恐らく分かる事かと」
「設計図はまだ見つからないのかい」
「はい……。巨大な術式機械と予想されるものですので、そうなると必ず部品ごとに組み上げるための担当がいて、部分的にでも設計図がその担当へと渡されるはずなのですが……未だに見つけられなくて」
「……もしかして、組み立てる為にマグナの力が必要……とか?」
それなら、他の奴に設計図が渡ってないのも頷けるんだが……。
なんて事を特に考えずに言った途端、三人の目が一気にこちらに向かって来て、俺は思わずビクリと震えてしまった。
な、なんだよう。
「それなら……。いや、でも、そんな事が可能なのか?」
「だと、思います。何せ、神童は通常の金の曜術師では考えられない程の能力を有すお方です。数多の金属を一斉に操る事も不可能ではないかと……」
「だったら、設計図はギアルギンの手の中って事か……」
「……明日、ギアルギンが立ち寄っている場所を調べてみます」
とにかく、証拠が無ければどうしようもない。
その話はひとまず置いといて、と言う事で、今度は俺の話の番になった。
とは言え、ブラック達が絶対激昂するような事実を、まるまる全部話す訳にもいかないので、事前にラトテップさんと話し合って「ここは大丈夫だろう」という所だけを簡潔に伝えた。俺は全然平気だったが、と前置きしてな。相手が焦って拷問しようとして失敗した事や、あと数日程度は余裕がある事、そして……ギアルギンが喋った事を。
これに関してはブラックとクロウも「妙だ」という感想を述べていたが、二人の記憶にも“黒曜の使者”に虐げられたらしい存在の情報などはなく、結局のところギアルギンが何者なのかと言う事は謎が深まってしまった。
だが、ブラックは少し気になった事があるらしく。
「……ねえ、ツカサ君。アイツは明らかに特定の人間しか知らない事を知ってたんだよね? 黒曜の使者に関しても、さ」
「うん……」
「…………あいつ……もしかすると……世界協定の裁定員に繋がりがあるんじゃないかな? ……直接的な繋がりじゃなくても、裁定員に近しい人間と知り合いとか……なんか、そう言う立場のような感じがするんだよね」
世界協定に繋がりがある人間?
って事は……世界協定の内部に黒幕とかがいるってのか。
いや、この場合はギアルギンに利用されている人間が居るってこと?
「良く解らないけど……有り得る事なのか?」
目隠しをされているブラックを見やると、相手は隠されていても感じる強い視線を発しながらこくりと頷いた。
「世界協定も、一枚岩じゃないからね。……寝返ろうと思えば誰だって寝返るさ。元々、あの協定の裁定員は各国の王や長、代表なんかが就任している。だから、シアンの持つ情報を誰かが奪ったとしても不思議はない」
「そっか……。だけど、ギアルギンの事を考えると、プレインの代表がギアルギンに漏らしたって事はないよな。最初っからグルなら、突然の訪問者みたいな事を演出しなくたって良いんだし……」
突然現れた怪しい奴の策に乗るような野心家達の事だ、ギアルギンを素直に紹介しても、この計画にはすんなり乗って来ただろう。
じゃあ……ギアルギンは、プレインとは別の所から情報を仕入れた事になるが――一体、どこから……。
「…………少し危険ですが、世界協定のどなたかと接触してみますか? 私なら書簡を届ける事も出来ると思いますが……」
「しかし、この工場にはツカサを縛る為の装置が無いとも限らんのだろう? 書簡がバレてツカサがどうにかされんとも限らん」
「僕達も今のところ、コレの外し方が解らないしねえ」
「…………」
そう、だよな……一番の問題はそこなんだ。
ブラックとクロウが枷を嵌められている以上、俺は絶対にココから動けない。
二人の安全が保障されない限りは、迂闊に動けなかった。
「ま、とにかく続報待ちだね。ツカサ君のためにも、早くどうにかしなきゃだけど」
「もどかしいでしょうが、どうかお待ちください」
ラトテップさんの言葉に、ブラックとクロウは「気にするな」と掌を見せた。
それなりに信用してるって事を示してくれるのは俺としても嬉しいけど、なんだかお預けを喰らわせたようでちょっと申し訳ない。
それに……俺、色々と隠してる事があるし……。
クロウは深く聞かないでスルーしてくれる程度には大人だけど、でも、ブラックは違うもんな……。俺がされた事に怒って、自分の事でもないのに心を痛めて……だから、尚更話せなかったんだけど……ブラックの目が隠れていて良かったよ。
だって、あの菫色の目でじっと見つめられたら、どんなに俺が隠したくっても全部見通されてしまうんだから。
「ところでさあ、ツカサ君」
「ん。え? なに?」
じっと見つめる相手から不意に呼ばれて、俺は顔を上げる。
すると、ブラックは、明るく笑うように口を歪めてこう言った。
「僕、さっきからずっとお預けくらってて切ないんだよ……。だからさ、ツカサ君も少しは僕の事思ってるなら、慰めて欲しいなあ……」
…………ん? 慰める?
どういうことだ。
「慰めるって、なに……?」
「やだなあ、簡単な事だよ……。真っ暗闇で寂しい僕に、ツカサ君の温もりを檻越しで良いから恵んでほしいだけさ」
「う……」
ま、真っ暗で寂しいって……いや、まあ、そうだけど。
今はブラックが一番大変なんだけど……でも、なんか嫌な予感しかしないぞ。
恵んでほしいって、どうしてもロクなモノを望まれそうなんだが。
「あっ、ツカサさん、私はドアの方で外を警戒してますね。だから、少しの時間なら大丈夫ですし私の事ならお気になさらないで大丈夫ですよ。では!」
「待って、待ってラトテップさん今なにを察して……あああ行かないでぇえ」
どうして俺が引き留めようとする間に向こうに行っちゃうの。
察しが良過ぎるのも考え物ですよラトテップさん、この場合は鈍感なままで俺の隣に居て欲しかったよぉおお!
「さ、邪魔者もいなくなったし……ツカサ君、おねがいっ! ……ね?」
言いながら、ブラックは両手を組んで可愛らしいお願いポーズを披露する。
ヒゲをモサモサ生やして髪の毛もボサボサの中年が何をカワイコぶってるんだと思った。思ったけど。でも……。
「…………それで、元気……でるのか……?」
薄暗い部屋で満足に休めない相手の事を思うと、拒否も出来なかった。
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