異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編

15.ただ服を着るだけの回

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 いや、待てよ……そう言えば、ラトテップさんもレッドも俺が“黒曜の使者”だって事はギアルギンに教わったと言ってたけど、二人とも一度も「異世界」という単語を出した事は無かったはずだよな。

 ギアルギンは、そう言う部分だけはえて教えなかったんだろうか。

 でも、隠して何になる。俺が異世界人だと知ったら、何か変な病気でも撒き散らしそうだと思われて、近寄らなくなるって考えたのか?
 もしくは必要ない情報だから教えなかったとか……。

 俺には全く神々しさは無いけど、「神様と同じで異世界から来た」って説明すると万が一の確率で俺をあがめちゃう人が出そうだなと思ったから、余計な混乱を招かないようにと話さなかったって可能性も有るな。

 確率は低いけど、そんな奴が一人でも出て来たら、俺の手助けをして俺を逃がしちゃいそうだもんなあ。あの絵本での話だって、黒曜の使者を崇めている人達が沢山いた訳だし……用心するに越したことはない。

 ……んん?
 そうすると、もしやギアルギンもあの絵本みたいな話をどっかで読んだのか?
 このプレイン共和国の国教である“アスカー教”の経典で知ったのかな。でも、ラトテップさんに教えて貰った経典の話には、異世界って単語は出て来なかったような……。ああ分からん……なんだかまた謎が増えてしまった……。

「ツカサ、茶だ」
「あ……あ、ありがと……」

 レッドにれて貰った緑茶をちびちびと飲んで落ち着ついた……フリをしながら、俺は机に視線を落とした。

 …………とにかく、俺にはまだ知らない事が多すぎる。
 考えてみれば、ラトテップさんだって全ての情報を把握はあくしている訳じゃないんだ。なら、その情報の穴でいつかとんでもない事態になるかも知れない。
 やっぱり俺もどうにかして色々と探らないと……。

「ところでツカサ、その……動きにくい、だろう?」
「ん……?」

 唐突に話しかけて来たレッドに視線を向けると、相手は何故だか少々頬を赤らめながら、ぽりぽりと頬を掻いていた。
 その表情の意味が良く解らなくて小さく首を傾げると、レッドはチラリと俺の方を見てから、また視線を逸らしてしまう。何が言いたいのか良く解らず眉根を寄せたら、やっと答えが返ってきた。

「そ、その……。その、服装は……動き辛くて、恥ずかしい……だろう……?」
「あ……」

 そ、そうだ。色々有って忘れちゃってたけど、今の俺の格好って裸に布かけてるも同然の奴隷服みたいな奴だったんだっけ……。

 思わず顔が熱くなる俺に、レッドは困ったような笑みで笑いながら、少しもたつきつつ立ち上がった。何をするのだろうと目で追っていると、レッドは部屋の隅に有るクローゼットを開く。服が色々入っているようだが……と思っていると、何かの服を持って戻ってきた。

「ツカサ、俺と居る間だけでもこれを着てくれ」
「あ……」

 レッドが持って来たのは、シャツとズボンだ。
 とは言え、シャツはワイシャツみたいな物ではなく、俺が普段着ているような丸い襟ぐりの長袖シャツだ。ズボンもこれといって変な部分は無い。
 ってことは……俺が恥ずかしくないように服を……。

「あ、ありがと……」
「ツカサの綺麗な素足を、いつまでも曝す訳にも行かないからな。俺と一緒にいる時だけでも、安心できればと思って……」
「っ……」

 なっ、なに変な事言って……。
 いやあの俺っ、ダメだろ! なんでお礼言ってんのさもうううう!

「さ、着てくれ」

 仕方ない、お礼も言っちゃったしここはもう普通に着ちゃおう。
 レッドの言葉に頷くと、俺は椅子を降りて服を受け取った。レッドは後ろを向いていると言ってくれたので、遠慮なくその場で裸になる事にする。
 もうさっさと着替えてしまおう。

 紐を一つずつ解いて服を元の布の状態に戻すと、その場に脱ぎ捨てた。
 まずはシャツを着ようと思い、頭から被ってそでを通すが……やはりと言うかなんと言うか、レッドともわりと体格差があるせいか、袖の長さが合わない。
 裾もひざに掛かりそうだわ。この世界のシャツって結構裾が長いんだけど、これじゃスカートみてーだなあ……まあ、あの服よりはマシだけど。

 さっさとズボンを穿いてしまおうと思い手を伸ばすが……ふとある事に気付いて、俺はレッドを呼んだ。

「レッド、あの……俺、下着はいて無くて……ズボンどうしよう……」
「おっとそうだったな。紐で調節できる新品の下着があるから、それを……」

 振り返りながらすらすらと話していたレッドが振り返って、俺を見る。
 ――――が。レッドは振り返って俺の姿を見た瞬間、何故か固まってしまった。

 何かしただろうかと眉根を顰める俺に、レッドはまたもや急に赤くなって、視線をあちらこちらに彷徨さまよわせ始める。
 意味不明な行動を披露する相手に理解が追いつかなくて、俺はどうしたもんかと頬を掻こうと腕を上げ……やっと、レッドが赤くなった理由を理解した。

 …………これ……あれじゃん……萌え袖って奴じゃん……。
 俺の役が可愛い美少女で俺自身がレッドの役だったなら、思わず泣いて喜んじゃうほどのセクシーな格好って奴じゃんかこれえええええ!

 いやっ、待てっ、そ、そんな萌え袖に萌えるなんて俺の世界の奴くらい……いや、ブラックなら確実にハァハァ言いそうだな……あいつ変態だもんな……。
 でも、レッドまでこんな態度になるなんて。

 ……うーむ、俺にも魅力が有るんじゃないかって調子に乗ってしまいそうだが、レッドはそもそも俺に好意を寄せてるっぽいし、この世界は俺みたいなガキ容姿の十七歳なんて珍しくて貴重な世界だもんな……。

 こんな反応をされるのが当たり前なら、俺は早くヒゲがモサモサと生えてくる立派な大人になりたい。何で俺がメス何だよ毎度毎度。
 なんなの筋肉なの。筋肉鍛えてヒゲ大胸筋マンにでもなれば男って認めてくれんのこの世界。マジハードモードすぎない。

「つっ、ツカサッ、あ、あの、その、その格好は……ッ」

 あ、レッドの事忘れてた。そうだな、目の毒だな色んな意味で。

「行儀悪かった? ごめん、下着穿くから場所を……」
「あっ、い、いや、別にその、その格好でも俺は全然……っ」
「………………」

 もしかして“導きの鍵の一族”ってみんなムッツリスケベか何かなの?
 それともブラックとレッドが似過ぎてるだけ?

 どっちにしろ勘弁して下さいよ……。
 でもなあ、レッドに対して嫌がるのも、好感度が下がったと思わせるかもだし……ええいもう、仕方ない。ここはより美人局つつもたせっぽい方を選ぶしかない!
 因みに美人局って言葉は親父のエロ本から習いました!

「レッド、この格好が好きなのか?」

 そう言うと、レッドは思いきり体を跳ねさせて顔をユデダコレベルで赤くする。
 赤毛のせいで余計に暑苦しく見えてしまったが、そういうツッコミをするとレッドの興奮が収まってしまうので、俺はその姿のままで相手に近付いて行った。

 ……同じ男だから解るが、扇情的な格好をしている思い人に言い寄られて嬉しくない訳がない。それが罠かも知れないと解っていても、理性とは裏腹にやはり体は多少はハッスルしちゃうんだ。俺みたいな汚れた奴なら尚更なおさらな。

 レッドがそうとは言わないが、しかし、好みの格好で迫られれば嬉しかろう。
 その「嬉しい対象」が俺であるという唯一納得できない点を除けば、この状況が俺にとってのチャンスだと言う事は疑いようがない。
 色仕掛けは俺には無理だけど……でも、不意にこうなる事が有れば、積極的に利用しないと。俺の目的は、レッドを油断させて情報を奪う事なんだから。

「つっ、ツカサ、ま、まて、あのっ」

 赤ら顔を隠したり凝視したりと忙しいレッドは、動揺しっぱなしのようだ。
 しかしいつまでも照れさせている訳にはいかない。俺はレッドの服のそでを軽く引っ張って、至近距離で相手の顔を見上げた。

「レッドがこの格好で居て欲しいなら……俺……いいよ」
「えっ……」

 目を見開いて俺を見るレッドに、俺は口だけを笑みに歪めた。

「服、貰えるだけでも嬉しいから……」
「あっ……。す、すまん……そう、だな、いや、そうだ。違う……違うんだツカサ。すまなかった……」

 何を謝ってるんだ?
 しまった、言葉を間違えただろうか。

「お前は傷付いて、だから俺にすがって来たのに……こんな事で俺は……」
「レッド……」
「本当にすまなかった。下着を持って来よう……。その姿は俺にとっては嬉しい物だが、ツカサにとっては良い物ではないからな……」

 何かに落胆したかのように重い声で言うと、レッドは俺の頭を軽く撫でてタンスのような家具へと歩いて行った。
 ――あれ。これってもしかして美人局つつもたせ失敗したのか?
 いやでもレッドは顔が真っ赤になってたし、嬉しいって今言ってたし……。もしかして、理性でエロい思考をおしこめたってのか。

 なんだかおかしい状態のレッドだけど、理性を失った状態ではないんだな。
 だったら、何でこんなに違和感を感じるのかが謎なんだが……。

「ほら、下着だ。これもツカサには大きいかも知れないが、我慢してくれ」
「ん……ありがと……」

 下着を手渡されて、またもや礼を言ってしまう。だけど、今回はそんなに失態だとは思わなかった。レッドにある程度の理性が有ると判ったからだろうか。
 ……なんだか少しホッとしてしまったってのも有るのかも知れない。

 何故ホッとしたのかなんて、考えたくもないが。

「ズボンまで穿いたら呼んでくれ」

 そう言って再び背を向けてしまう相手に、俺は素直に頷いて下着を穿いた。
 久しぶりの感覚に涙が出そうになるが、ぐっとこらえてズボンも足を通す。大きくて足の長さも合わない憎たらしいズボンだったが、必死に裾を巻いてズボンのベルトを一番奥の穴でギリギリ止めた。

 ……萌え袖だぼだぼなシャツにぶかぶかズボンだなんて、完全に「お父さんの服を真似して来てみた小学生」みたいな事になってしまっているが、仕方ない。
 だが服が有る事で俺もだいぶん落ち着いてきた。

 これならより冷静に周囲を観察できるようになるだろう。
 理不尽ではあるが、やっぱりここはレッドに礼を言うべきなんだろうな。あの仮面男なら、絶対に俺に服を着させなかっただろうし。

「レッド、もういいよ」

 そう言うと、レッドは振り返って俺を見る。
 頭のてっぺんから足の先までじっくりと眺めたレッドは、やっぱり何だか顔を赤くしていたが……先程とは違い、どこかホッとしたような笑顔を浮かべた。

「少々可愛らしい事になっているが……まあ仕方がないな。さあツカサ、また茶でも飲んでゆっくりしよう」
「うん」

 ……こんな事でほだされた訳じゃない。
 だけど、俺が緊張していたら相手に違和感が伝わってしまうだろう。
 なにせレッドは「おかしい」所があるのに、ちゃんと「理性」は持っている。ただの狂人と言う訳ではないのだ。

 だから、レッドの違和感の正体が判るまで……下手な事は出来ない。

 変な事で時間を使っちゃったけど、でもこれで、レッドが安っぽい美人局だけでは落ちないかもって事が解った。
 “落ち着いてしまった”今は、もうあの泣いて縋る方法は使えない。

 まず……なんとかして、レッドの部屋を漁る理由を見つけないとな。











※すんません何故か長くなった…えっちなお着替えシーン好きだからかな……
 
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