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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編
11.束の間の希望
しおりを挟む※すみませんちょっと短いです……(;´Д`)
そろそろ“幻眠香”の効き目が切れると言うので、俺とラトテップさんは一旦部屋に戻る事にした。せっかく会えるようになったのだから、油断は禁物だ。
ここでミスをして感付かれたらどうしようもない。俺達を助けてくれる人もラトテップさん一人しかいないんだ。彼の安全の為にも、早めに戻るに限る。
それに、ブラックとクロウも無事だって解ったし……ひとまず安心したからな。
二人が元気に食事も出来るし眠れていると言うんだ、俺が焦ったって仕方がない。あの暗い牢屋から早く連れ出したいと思うなら、俺が頑張ってどうにかしなきゃ。
現状、動けるのは俺とラトテップさんしかいないんだから。
ブラックとクロウを助けるためにも、出来る事をやらないと。
……と、言う訳で戻って来たのだが……今回は少しルートが違っていた。
というのも、ラトテップさんが「帰り道は直接あの部屋に出る通路に行きましょう」と言い出したからだ。最初は何を言っているんだと思ったが、どうもあの部屋には俺が探し当てられなかった換気口があるらしい。
どこにあるのかと思ったら、なんと壁に埋め込まれているクローゼットの天井にこっそりと作ってあったのだ。そら分からんわ。というか、そんな場所につけといて換気出来るんかいな。
思わず突っ込んでしまったが、あの部屋はどうも“重要な賓客”を隔離しておく部屋らしく、だから容易く侵入できるように、こちらもダクトの内側にネジが付いているとの事で……まあ、豪華ではあるけどあの部屋も結局牢屋だって事だよな。
しかし、ラトテップさんが行き来を円滑にする為にネジを外しておいてくれたので、これからは俺一人でも牢屋に行けるようになったぞ。
ふふふ、クローゼットの中に隠すなんて小賢しい事をしたのが裏目に出たな。
お前達は絶対に安全な隠し通路を俺に作ってくれたのだ!
お蔭でちゃんとお香の効果が切れる前に帰って来れたし万々歳だな。
ラトテップさんはついでに「いざという時の為に」と幻眠香を置いて行ってくれたので、不測の事態もこれで耐えられる……だろう。
俺の元にはリオート・リングも帰って来てくれたし、なんとかなるって希望が湧いて来たぞ。このリングさえあれば持ち物は隠し持つ事が出来るし、俺以外には絶対に中の空間を開けない。誰も俺の所持品を把握出来ないんだ。これはとても助かるぞ。
それに、このリングに宿っているのは、曜気とはまた別の力だ。
誰かに察知されるという事も無いだろう。たぶん。
「よーし……そう考えるとなんだか力が湧いて来た!」
帰る時に、ブラックとクロウに「また来る」って言ったんだ。その時にしょげた顔をしてたらあいつらを不安にさせちまう。
今の俺に出来る事の一つは、二人を不安にさせない事だ。
牢屋で不自由はないと言ったけど、でもやっぱりストレスってのはあるだろう。
クロウもブラックも冒険者らしく束縛を嫌うタイプだし、なにより……その……う、自惚れてるって訳じゃないけど、絶対そう言うんじゃないけど!! その、なんか……ブラックが、あんまりにも離れて欲しくなさそうな顔してたし、く、クロウだって、耳がしょげてたし……だから、その、あんまりそう言う顔させたくないから、せめて元気でいて、会う時には安心させたいっていうか……。す、ストレス! ストレスかけたくないの!
だから、ちゃんと睡眠もとって明日に備えないと。
明日も大変なんだからな! よし、寝よ寝よ!
……まあ、未だにドキドキしてて、すぐには寝付けそうにないんだけどね……。
◆
次の日、俺は今日も同じように身体テストを受けさせられるために、レッドと兵士達に付き添われてギアルギンの待つ部屋に連れて来られた。
ああ、相も変わらず殺風景な部屋で、相も変らぬ仮面マント男だこと。
「今日も時間通りですね、レッド様、ご迷惑をおかけしてすみません」
「いや……」
レッドはあれから俺により優しくなった……んだけど、何だか妙に距離が近いような気もしてならない。まさかあれだけで恋人認定をされたんじゃないよなと焦るが、そもそもレッドは最初から俺の事を「連れて行く」だの「婚約者」だのとふざけた事を言っていたので、今更なのかもしれないが。
それに……なんか、日を追うごとにいつも付いて来る数人の兵士達が、じろじろと俺を見て来る回数が増えて居た堪れない。
ギアルギンがレッドと話している今も、絡みつくような数人の視線が感じられて、俺は無意識に鳥肌を立ててしまっていた。ぐうう、情けない……。
俺は、この視線以上の事を今から強要されるんだ。こんな事でぞわぞわしている訳にはいかない。ブラック達の為にも耐えないと……。
ああでもやっぱ嫌なもんは嫌だあ。
またあの屈辱的な体操をやらされるのかと緊張し始める俺に、ギアルギンはふっと笑って俺にとんでもない事を言って来た。
「では、服を脱いで貰いましょうか」
「え……」
「そんな顔をしないで下さい。ここ数日の貴方の頑張りを確認したいだけですよ? まあ流石にあの程度で筋肉は付かないでしょうが、連日私が実験していた事がどうだったかという確認くらいは出来るでしょう?」
実験って……あれか、俺を壁に貼り付けにして切ったり殴ったりしてた奴か!
あれのどこが実験やっちゅーねん!!
俺が痛いだけだったじゃねーか、日本なら傷害罪暴行罪だぞゴルァ!
「おや、不満そうな顔ですね。ですが貴方に拒否権は有りませんよ?」
いつも以上に嫌味な丁寧語で俺に強制するギアルギンに、俺は反発心が湧き上がってしまうが……しかし、ここで逆らってもどうにもならない。
ど、どうせ裸なんて何度も見られてるし。
兵士達に見せたって、こいつらだって命令で仕方なく居るんだから、嫌そうな顔をしたって心の中で同情くらいはしてくれるはず……だ。
だ、だから、このくらい……。
「どうしました?」
「ぬ……脱ぐよ、脱げばいいんだろ! でもここで何が確認できるんだよ!」
「目撃者が大勢いた方が結果を誤解する事も無いので、この場が都合がいいんです」
「ぐ……」
自分一人じゃ誤認するから、大人数でしっかり確認したいと……。ま、まあ、そう言うのもアリだとは思うけど、でもそれ普通の実験の場合だし……!
ああもうっ、悩んでるだけムダだ! 早く済ませてしまおう!!
今日も勢いでイケるはずと覚悟を決め、俺はみすぼらしい服の紐を解いて、兵士やレッド達に背を向け一枚しかない服を脱ぎ去った。
部屋の中の冷たい空気を感じて体が縮こまるが、ギアルギンは俺に「直立していて下さい」と命令してくる。仕方なく背を伸ばす……が、やっぱり恥ずかしくて、股間を抑えてしまった。
だけど今回は何かを言われる事も無く、ただ、ギアルギンは俺の体をじっと見て、後ろの兵士達に声を掛けた。
「傷やあざは有るか?」
その言葉に、兵士達は口々に「ありません」と答える。
レッドの声だけ聞こえないが……こういう事は兵士任せかよ。ったく、これだから甘やかされた金持ちのボンボンは……。まあ、なんだ、本当に確認だけみたいだからいいけどさ。
「もう良いか?」
いやらしい事もなかったので、段々と気が大きくなってくる。
今は少しでも気丈で居たくてそう言ってしまった俺だったが……ギアルギンは俺の態度にニヤリと笑うと……嬉しそうに、呟いた。
「さすが、黒曜の使者の力だ」
「…………え?」
なん、だって?
訊き返した俺に、ギアルギンはあの見下したような笑みを浮かべたまま続けた。
「おや? 気付いてなかったんですか? いやあ、本当に貴方は幼いんですねえ」
「なんっ……」
「おかしいと思わないなんて、流石は伝説の災厄だ」
文句を返そうとしたところに、割って入られる。
その言葉は俺の思考を止めるのに十分で。
思わず絶句した俺に――――ギアルギンは、勝ち誇ったような声をぶつけた。
「毎日貴方を暴行していたのに、昨日今日で傷が全部治るわけ無いでしょう。
貴方……本当に、何も知らない“無知な災厄”なんですねえ」
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