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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編
暗黒の間と不屈 2
しおりを挟む「さあ、早く脱いで。それとも……周囲の兵士に剥いで貰いましょうか?」
わざと兵士達のど真ん中に俺を立たせて、そんな事を言う。
だけど、こんな事をするギアルギンの意図が解らなくて、俺は問い返した。
「し、身体テストってなんだよ! それに、なんでこんな所で……っ」
更衣室で素っ裸になるならまだしも、こんな道端みたいな場所で見ず知らずの奴に囲まれて服を脱ぐなんてどう考えてもおかしい。今から風呂に入る訳でもなし、ましてや医者に診せる訳でもないってのに、なんでこんな場所で。
いくら大人しくしていろと言っても、これは流石に許容できない。
大体、兵士達だって、俺のいらんとこだけ出っ張った体なんぞ見たくないだろう。
メス男子が好きな兵士がこの中に居るとしても、職務中にこんな光景を見せられても困るだろうし、そもそも好みじゃない俺のような馬の骨の裸を見ても喜べないだろう。俺が恥ずかしいだけじゃないか申し訳ない。
捕らわれていようが、この程度の反抗なら許されるはず……と思って食って掛かると、ギアルギンは怒るどころか俺の拒否に心底楽しそう笑い、偉そうに腕を組んだ。
「生憎と、君に使わせるような脱衣所は用意していないんですよ。首輪を付けた奴れ……いえ、危険な存在を、誰もが無防備になる所には連れて行けませんからねえ。……さ、時間が有りません。この場で自分で脱いでください」
「くっ……」
「肌を曝すのに抵抗がありますか? なら、兵士達に隠して貰いながら脱げばいい。もっとも……その場合、間近で観察される事になってしまいますがね」
言わなくても良い事を更に畳み掛けてくる相手に、思わず足が震える。
そんな事を言われると、今まさにじっと見つめられているから、余計にこの状況が非常識なように思えて来て、尻込みしてしまう。
だけど、俺だって馬鹿じゃない。
今言われた事も、明らかに多すぎる兵士をこんな部屋の中に連れて来てそこに俺を放り込んだことも、全部俺の心をへし折るための工作だと理解している。
そう、これは俺を大人しくさせるための作戦なのだ。……たぶん。
相手だって、俺がただ黙って捕まっているとは思わないはず。今までの行動から俺が逃げ出そうとすることぐらい予想出来ているだろう。
だから、俺の心をくじいて少しでも扱い易くしようとしているに違いない。
そうじゃなきゃ、レッドが俺を庇わずにただ突っ立ってるなんて有り得ない。さっきまであんなにギアルギンに食って掛かってたのに、先程以上に酷いこの状況で、レッドが俺を凄い顔で凝視しながら立ってるはずがないんだからな。
まあ、でも、眉間にめっちゃ皺が寄ってるから完全合意って訳でもなさそうだが。
なんにせよ、これは俺を屈服させる罠なのだ。
……確かに、ただの部屋でしかも誰かも知らない集団の前で、脱がされるというのは、精神的にきつい。自分がみじめな人間になったような気がするし、兵士達に何をしているんだろうと侮蔑の目で見られると思えば、プライドがズタズタに引き裂かれるようで泣けてくる。
だけど…………そう思うのは、結局俺の中の”考え”でしかない。
考え方を変えるべきだ。確かに、全裸になるのは恥ずかしい。だけど、相手の思い通りになってしまえば、俺は本当に終わりだ。
こんな所で折れる訳にはいかない。
それに、今の状況は俺が引き起こした事ではないじゃないか。
俺は命令されているだけで、自発的に脱いで見せびらかしたい訳じゃない。兵士達だって、嫌々ここに連れて来られただけで、本当に侮蔑の目で見てくる訳じゃないだろう。それに……レッドの、俺に対する執着は……疑いようがない、事だし。
それなら、まごまごしているなんて馬鹿らしいじゃないか。
ここは仕組まれた場所だ。全てがギアルギンの都合に良いように動いている。
だったら……ここで恥ずかしがるような事なんて、何もない。
「……っ」
俺は深く息を吸うと、四方八方から向けられる視線から逃れるように顔を伏せて、一気に服を脱いだ。もちろん、下着もその場に脱ぎ捨てて。
は、恥ずかしい事なんてない。兵士達は集められただけだ。そもそも男である俺が裸になったって、恥ずかしい事なんて何もないじゃないか。だ、大丈夫。
変な風に見る奴なんていない。大丈夫、大丈夫だ俺。
「……ほう? すぐに泣き出すかと思ったら、やはり胆力は有るんですね」
「ば、ばかにすんな……裸見られたくらいで男が泣くかよ……!」
「君のような少年なら、普通は泣き出すんですけどね。どうやら少々見くびっていたらしい。その顔でオスのような気性だとは思いもしませんでしたよ」
えーえー俺はメスらしいですからね。違うってのこんちくしょう。
ケツを何度も掘られようが、俺の女性への愛とスケベ心は不滅だっての。
つーか、立派な日本男児の俺が、“やらしい事”をされる以外で裸を見せるのを躊躇ってたまるかよ! 裸見せるだけの事を恥ずかしがってたらフンドシ半裸に法被で御輿なんて担げるかっつーの! 日本なめんな! いや誰もなめてないけど!
「お、お前のくだらない企みなんて御見通しなんだよ……! こんな事された程度で俺は絶対折れないからな……!」
どうだ、企みにすんなり乗らなくて悔しいだろう。
ギアルギンにニヤリと笑ってみせる俺に、相手は一瞬イラッとしたかのように微かに歯を見せて口を歪めたが、すぐに笑みを浮かべ直し余裕そうに腕を組んだ。
「股間を両手で押さえて隠してるのに、威勢だけは立派だな。まあいい。どうせお前は逃げられないし、従うしかないんだからな」
素が出てる。やっぱりそれなりには悔しかったのだろうか。
……つーか、この程度で恥ずかしがって泣き出す普通の「メスの男」って一体。
もしかして、メンタル的には女の子なのかな……いや、そうではないはず。なんかよく解らないが、まあとにかく俺が規格外で良かったって事だな。
でも、流石に兵士達にジロジロ見られてるこの状況はそろそろ辛い。
たぶん命令で凝視せざるを得ないんだろうけど、興味のない男の裸を見せられ目を離すなと言われた兵士達も辛かろう。俺も剥き出しのケツとか手で隠している股間を集中的に見られるのはそろそろ辛い。
こ、ここは、危険だが促すしかないか……。
「それで? 俺を裸にして何をさせようってんだよ」
「ああ、何も辱める為だけにそうさせた訳じゃないですよ。これを着なさい」
そう言って放り投げられたのは、縦長で真ん中に穴が開いた布。
布の両端にはいくつかの紐がぶらさがっている。
いやまて、これ漫画とかで見た事があるぞ。確か穴に頭を通して、この両端のヒモを結ぶ服……奴隷とか実験台とかが良く着ている服では……。
……まあでも仕方ないか。
俺も早く股間を隠したかったので、素直に着て紐を結う。布の長さはギリギリで、股間を隠せる程度の短さだったが……ま、まあ、しゃがんだり体を曲げたりしなければ、股間もケツも見えないだろう。
「では行きますよ」
ギアルギンはそう言って、俺の横をすり抜け奥の扉を開ける。
ぞろぞろと数人の兵士達を連れて扉を潜ると、中は左右に長く続く通路になっていて、突き当りで奥の方へと折り曲がっていた。
俺達は右の方へと何の変哲もない通路を歩き、突き当りを曲がる。すると、通路は更に奥へと真っ直ぐ続いており、扉が有ったり別の通路が繋がっていたりして奥の方のエリアは人が出入りしているのも見えた。
こういう場所だと、なんか人がいるってだけでちょっと安心してしまうな……。
「こちらです」
またもや「とりあえずの丁寧語」に戻ってしまったギアルギンにイラッとしつつ、俺は兵士達に囲まれ強制的に奥へ奥へと移動させられる。
すると――――歩くうちに、なにやらまたおかしな音が聞こえてきた。
巨大な機械が動く、形容しがたい低い音。
通路の奥にはまた何らかの機械があるのだろうか。何だか言い知れない不安を覚えながら、遂に奥へと辿り着くと――――その場に存在している物に、俺は思わず言葉を失ってしまった。
だって、そこにあったものは。
「こ、れ…………」
不可思議な機械が部屋中に取り付けられた、広く天井も高い空間。その空間の中央には、円筒形の謎のガラス瓶を掲げた台形の機械がどんと鎮座している。
その周囲を、白衣を着た研究者たちが忙しなく動いていて――――
「これ、まさか…………」
驚く俺の横で、ギアルギンが嗤う。
「ああ、君は見た事が有りましたね。これは――それと同じ物です」
俺の考えた事全てを理解しているような、嘲笑うような声。
だけど俺は、その声に怒る事も出来ないくらいに、冷静さを失っていた。
だって、これは。この機械は、他にはないもののはずなのに。
オーデルにだけ存在する機械のはずなのに……――――
どうして、この国に“大地の気をエネルギーに変換する機械”があるんだ。
→
※すみませぬ…また遅れた…たるんでますね……_| ̄|○
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